リスペクトする荻田さんの演出でコメディーを演じるのが楽しみ
2026年1月8日(木)~1月18日(日)東京・東京芸術劇場 シアターウエストにて、楽劇『フィガロ』が上演される。オペラの人気演目であるモーツアルトの「フィガロの結婚」をもとに、荻田浩一による上演台本・演出で、モーツアルトの音楽を散りばめ現代風なアレンジを施した音楽劇として上演する。
このたび主演のフィガロを演じる矢田悠祐にインタビューを行った。演出を務める荻田の作品に数多く出演している矢田が、さまざまなエピソードと公演への意気込みについて語ってくれた。

――矢田さんは、演出の荻田さんといろいろな作品で関わっていますね
そうですね。最初にご一緒したのがミュージカル『王家の紋章』でした。その後ミュージカル『アルジャーノンに花束を』でお世話になりました。『王家の紋章』では荻田さんから細かいことを言われた記憶はありませんが、『アルジャーノンに花束を』で、しこたま言われましたね(笑)。
当時の僕は26歳で若かったこともありますし、これまで全然できていなかったんだなと思い知りました。でもこれがすごくよい経験になっています。
――荻田さんとの印象に残るエピソードはありますか?
いっぱいありすぎて…。『アルジャーノンに花束を』のときは、荻田さんから1日100個ぐらいずついろいろ言われました。今でも僕は、荻田さんがおっしゃったメソッドで芝居を作っていますから。
荻田さんは、可能なかぎり本読みの時間を長く取る方なんです。本読みでは、見開きを進むのに何時間かかる?というくらい止められます。「全然違うね。止めまーす」という感じで。「表に現すと書いて『表現』なので、心で思っているだけではテレパシーがないかぎり誰にも伝わらないから」と言われたりしました。どう表現していくのか…をいろいろ詰め込んでいただきました。
――荻田さんがおっしゃることは、具体的でわかりやすいんでしょうか?
僕はめちゃくちゃわかりやすいと思いました。なにかのシーンで「凪いだ水面を想像してせりふを言ったら、行為もそうなるから」と言われたんです。荻田さん自身が演じてくださったこともあって、それを真似してできるようになったという感じでした。
役の作り方は人それぞれだと思いますけど、荻田さんはどういう風に表現するかとなった時、表現の方法の引き出しをいろいろくださった方です。でもこれって、演出家の仕事ではないような気がするんです。今思えば、荻田さんはワークショップのようなことまでやってくださったんだ…と。本来であれば5、6年かけて学ぶことを『アルジャーノンに花束を』の稽古期間で教えていただいた感じでした。
――『王家の紋章』と『アルジャーノンに花束を』では、荻田さんの印象が全く違ったということですね
そうですね。出演者の数でいうと同じくらいの規模の舞台でしたが、『アルジャーノンに花束を』では、僕の出番が圧倒的に多かったことも影響していると思います。例えるなら、格闘ゲームのコマンドをやるみたいに教えられて「この表現をやりたい」と連続してやったらその役になっていた…みたいなイメージです。自分ひとりでは絶対にできなかったと思うので、荻田さんってすごいなと思いました。

――今作で荻田さんとご一緒する上で楽しみなことは何ですか?
荻田さんに対して、ポップな作品の演出をされる印象がないんですよ。「人間とは?」みたいな重厚な芝居が多いですし、僕自身、そういうものを求められていましたから。
ミュージカル『BARNUM/バーナム』は、どちらかというとポップなイメージの作品でしたが、クラシカルなミュージカルだったので、今作とはちょっと毛色が違います。ですので今回どういう風に作品を作るんだろうと思いますし、あまり想像がつかないです。そこがある意味楽しみなところです。
――ところで、荻田さんって怖いですか?
全然怖くないです。普段はメチャクチャ優しい方で、僕からしたら一番といっていいほどリスペクトして頭が上がらない師匠のような方です(笑)。ただ、全然できない頃から知られちゃっている方ですから、今回主演をやらせていただきますし、こういう役も久しぶりなのでどうしようかな…と。
荻田さんは、ほとんど全部頭に設計図ができた状態で演出をつけられます。まるでチェスピースを置いていくように進めていくので、ある程度どんな雰囲気の作品にするのか決まったところからスタートするのだと思います。
――今回矢田さんが演じられるフィガロはどんな人だと思いますか?
ちょっと抜けてる人なのかな…という印象ですね。僕はこれまで冷たい人や悪役とか、割と完璧な人物を演じることが多かったんです。フィガロのようにドジで人間味のある役を演じるのが久しぶりなので楽しみです。
(山本)一慶と絡む場面が多いのもいいですね。彼とは何でも話せるのですごく助かると思います。一慶は荻田さんの演出は初めてなので、荻田さんが言わんとしているニュアンスを彼に伝えることができる点も良いのかな…。
――矢田さんは共演者の方にアドバイスをされるほうなんですか?
2.5次元の舞台では、僕も年齢が上のほうになってきていますけど、相談されるまでは口出しをしないタイプです。でも相談されたら、かつてこういう風に言われたことがあったな…というのを思い出してアドバイスすることがあります。そういう時は荻田さんの存在がこの辺に(頭を指して)あることが多いです。
――矢田さんが今作で楽しみなこととちょっと苦労しそうだな…と思っていることを教えてください
今回音楽監督・編曲・歌唱指導でお世話になる福井小百合さんは、『ハムレット』の時も曲を書き下ろしていただきました。『ハムレット』の曲がすごく好きだったので、今回も楽しみです。もともと役者をされて歌も歌っていた方なので、福井さんの歌唱指導が僕にすごく合っているんです。久しぶりにご一緒するのが楽しみです。
苦労しそうな部分は、これまで荻田さんとご一緒した作品とは違う色の役を演じるので、そのあたりかな…。でも気心が知れている一慶がいるから大丈夫!って思っています。彼と助け合って役作りをしていきます。

――先ほど悪役や冷たい人の役が多いとおっしゃっていましたが、ご自身としてはどちらがやりやすいですか?
ヴィラン(悪役)を演じるほうが楽しいです。「なんでそうなるの?」って感じる、自分とかけ離れた人間を演じるほうが面白いですから。刑事ドラマも犯人役の方が面白いっていいますし、人間のねじ曲がった部分はドラマになりやすいと思うんです。
ただ僕は、どんな役でも楽しみな部分を見出すことができますね。今回演じるフィガロも「なんでこうなるんやろ??」と思うので、そういう意味では面白い役かもしれません。
――役を演じているときは、プライベートに影響したりしますか?また稽古期間中や公演中はどのように気分転換をされていますか?
役とプライベートは切り分けた方がいいと思っていますが、作品によっては影響されることがあります。でも僕はあまりプライベートに役を持ち込まないタイプだと思いますね。
気分転換はゲームです。ゲームをやっている役者友だちが多いので、ボイスチャットで話しながらゲームをしています。しゃべりながら何も考えずにゲームをするのが一番気分転換になります。
――最後にファンの皆さまにメッセージをお願いします
一番リスペクトしていると言っても過言ではない荻田さんの作品に久しぶりに出演します。また僕の中に新しい引き出しを作ってくださるのではないかと思っています。僕もあまり見たことがない荻田さんの作品の世界観が見られそうなので、楽しみです。
一慶とは、朗読劇ではない舞台で共演するのが久しぶりです。2人ともずいぶん大人になりましたし、一慶は演出も手掛けていますから、彼のお芝居を間近で見るのが楽しみです。
そして楽劇なので音楽がたくさん絡んできます。どういう曲を歌えるのかな…というのも楽しみです。皆さんもぜひ楽しみにしていてください!

取材・文/咲田真菜
撮影/間野真由美
スタイリング/MASAYA
ヘアメイク/JOUER INTERNATIONAL
