ミュージカル「白爪草」製作発表レポート

上段左から)脚本・歌詞原案 福田響志、音楽・歌詞 ヒグチアイ、演出 元吉庸泰
下段左から)白椿蒼役 屋比久知奈、白椿紅役 唯月ふうか

屋比久知奈と唯月ふうかがダブル主演する新作ミュージカル『白爪草』の製作発表が神奈川・川崎のSUPERNOVA KAWASAKIにて行われた。会場には、メディアのほか抽選で選ばれた一般オーディエンスも集まり、劇中の楽曲などが初披露された。

本作は、2020年に世界で初めて全キャストVTuberで演じられた同名映画をミュージカル化したもの。花屋の裏の作業部屋で展開していくワンシチュエーションサスペンスで、生花店で働く妹のもとに、6年ぶりに再会する双子の姉が訪ねてきたことから、2人は避けようのない過去と向き合っていく。登場人物は2人だけで、心理劇とスリラー、音楽が融合する、新感覚ミュージカルとなる。

製作発表には、キャスト2人のほか脚本・歌詞原案の福田響志、演出の元吉庸泰、音楽のヒグチアイが登壇。ホリプロ代表取締役社長・菅井敦も主催として挨拶した。

イベント冒頭では、劇中の3曲が早速披露された。

花屋で働く白椿蒼(屋比久知奈)は、6年ぶりに再会した双子の姉・紅(唯月ふうか)を花屋に迎え入れていた。花屋で働くようになったきっかけをはじけるような笑顔で語る蒼。そんな妹の言葉に、微笑みながら耳を傾ける紅だが、時折表情が曇る――。1曲目「ホトトギス」は、屋比久のソロ曲。蒼が花屋で働ける喜びを笑顔で姉に語る内容で、屋比久はまぶしいほどの笑顔で幸せそうな歌声を響かせた。

そんな幸せそうな蒼とは対照的に、紅は苦しい生活を強いられていた。母親を殺した罪の前科がある紅は、仕事も長続きせず、社会から疎外されていると嘆く。2曲目「雑草」は、唯月のソロで、花屋で大切にされるような花ではなく、気にも留められない雑草のように扱われてきた苦痛を、凄味を含んだ歌声で届けた。

そして2人は、母親の死をめぐるお互いの想い、明かすことの無かった心情を吐露。3曲目「プリザーブドフラワー」は、枯れることなく咲き続ける花と、母への想いを重ね合わせた楽曲。2人の歌声が重なり、物語の核心へと向かう予感を匂わせるようなハーモニーが繰り出された。

楽曲披露を終えた屋比久は「お話をいただいた時はどんなミュージカルになるのかわからなかったんですが、初めて楽曲を聴いたときに、どういう作品になるのかが色鮮やかに立ち上がってくるような感覚になれた。きっといいミュージカルになると思えたし、しっかりと歌いこんで、役に落とし込めるように頑張りたいです」と、楽曲が作品の指針となっているとコメント。

唯月は「本当に作品を表すような楽曲ばかりです。いただいたデモ音源はヒグチアイさんが歌っていたのですが、そのまま流してほしいくらい素敵で。この世界観を壊さないように、私たちがしっかりと楽曲を表現していきたいと思います。ぜひ楽しみにしていただきたいです」と、曲の持つパワーと世界観を大切に歌っていきたいと話した。

今回、ミュージカルの楽曲を手掛けるのは初めてとなるヒグチは「曲数が多くて、こんなにたくさん作れない!って思いました(笑)。普段の楽曲制作は5秒くらいの一瞬の想いを膨らませて1曲にしていくようなところがあるのですが、ミュージカルはもっと長い時間経過を曲に落とし込んでいくようなところがあって、そこは今までと違っていて、作っていて楽しかったです」と、楽しみながら制作に臨めたと明かした。

その楽曲の仕上がりに、福田は「初めてって、ウソでしょ?と思うくらい、ヒグチさんらしさがありながら、ミュージカルのセオリーもしっかり踏んでいる楽曲」と太鼓判を押した。

当初、「なぜミュージカルっていきなり歌うのか」という根源的なところから疑問を抱いていたヒグチ。”ミュージカルオタク”を自称する福田と元吉の2人から、初顔合わせで3時間、ミュージカルとは何かを熱く語られたそうで、ヒグチは「ミュージカルの根幹をゆるがすような話を聞いてもらったんですが、丁寧に答えていただけて楽しく作ることができた」と明かした。

また今作は客席が四方から囲んでいるセンターステージの形での上演となる。演出の元吉は「この作品は、映像、音響、スリラー要素など、本当にレベルの高い傑作だと思っています。2人の人間が生身で演じることの意味を考えて、多面的に見せることを考えた上で、センターステージにした。没入するような、イマーシブな空間になるはず」とその狙いを語った。

女性2人のミュージカルという形式も非常に珍しいが「男性2人では『スリル・ミー』という作品がありますが、今後、『白爪草』もそんな若手の登竜門となるような、長く愛される作品に育てていきたい」と菅井社長は話し、今後への意欲なども語られた。

イベントの最後には、サプライズでもう1曲だけ楽曲が披露された。物語全体のモチーフとなる「花歌」は、双子が合わせ鏡のように、運命的な存在として互いを響かせ合うようなナンバー。2人だけとは思えないほどの重厚なハーモニーが印象的で、傑作を確信させるような歌声を会場に響き渡らせた。

ミュージカル『白爪草』は2026年1月8日(木)~22日(木)まで、神奈川・川崎のSUPERNOVA KAWASAKIにて上演される。

各人のコメント概要は下記の通り。

■菅井敦(ホリプロ代表取締役社長)

本作の基となる映画は、コロナ禍の2020年にドラマプロデュース部のプロデューサーが全キャストVTuberで映画を作ると画期的な企画を立ち上げて制作されました。それを見て、ファクトリー部のプロデューサーが、ぜひミュージカルに、と手を挙げてくれて成立したオリジナル作品です。新進気鋭の才能あるクリエイターが集結して、通常とはまったく違う、新しいミュージカルが誕生することに、私も今からワクワクしております。キャスト2人のミュージカルでは『スリル・ミー』がありますが、本作も『スリル・ミー』のように若手俳優の登竜門のような作品に、長く愛される作品に育てていきたいと思っています。ぜひよろしくお願いいたします。

■屋比久知奈(主演・白椿蒼 役)

女性2人のミュージカルは珍しいので、出演することになってすごく嬉しかったです。映画を拝見させていただいたのですが、私がこれまでに挑戦したことがないような役。作品の空気感もこれまで経験したことないような作品なので、ドキドキとワクワクと緊張とが入り混じっています。そして、相手役がふうかということもあって、全力で楽しみたいと思います。

どんなミュージカルになるのか最初はわからなかったんですが、初めて楽曲を聴いたときに、ベースを作ってくださったような感覚になりました。立ち上がってくるものが色鮮やかに見えた気がしたんです。しっかりと歌い込んで、役として落とし込めるように、作品の中で頑張っていきたいです。

■唯月ふうか(主演・白椿紅 役)

私自身も今までに経験したことない役柄で、今はいろいろと模索している最中です。稽古場では「自由にやっていいよ」と言ってくださっているので、いろんなことを試しながら紅ちゃんを演じています。紅ちゃんは”母親を殺した悪い子”というイメージですが、知れば知るほど愛おしいと思える部分が出てくるんです。観に来てくださったみなさんに、紅のことも、蒼のことも、愛していただけるようになればいいなと思っています。

楽曲はデモ音源のヒグチさんの歌声が本当に素晴らしくて、そのまま流してほしいくらい。世界観に引き込まれてしまう楽曲がたくさんあって、ずっと聴いていたいと思えるものばかりなので、ぜひ楽しみにしていただきたいです。この世界観を壊さないように、私たちがしっかりと表現していきたいです。

■ヒグチアイ(音楽・歌詞)

まずは曲数がすごく多くて、そんなには書けないよ、すごく駄々をこねました(笑)。そもそもポップスは自分の感情のうち、5秒くらいのものを5分に伸ばして曲にするような、この瞬間の感情だけを曲にすることが多いんです。でも、ミュージカルは、時間を経過させていかなきゃいけない、と説明していただき、曲にいろいろな意味がこめられているということを教えていただきました。『これってなんでいきなり歌うんですかね?』というような、ミュージカルの根幹をゆるがすような話も聞いたんですが、丁寧に答えていただき、楽しく作らせていただきました。

■福田響志(脚本・歌詞原案)

怖いのが苦手なので、映画は薄目で見るくらい怖かったんですが(笑)、原作の脚本が本当に素晴らしくて、そのまま2人芝居にするのも面白いんじゃないかと思ったほどでした。今回、ミュージカルでやらせていただくにあたって、歌をどこに、どんなシチュエーションで組み込んでいくのか、誰がどういう心情で歌うのかを考えていくことから始めました。そしたら曲が多くなってしまって…(笑)。でも、ヒグチさんが素晴らしい楽曲をたくさん作ってくださいました。今回は客席も非常に近いので、より体感していただけるミュージカルになるのではないかと思っています。

■元吉庸泰(演出)

本作は、映像、音響、スリラーの見せ方など非常に高いレベルで組み込まれている傑作だと私は思っています。それを生身の人間が演じる意味を考え、彼女たちがどういう選択をしたのかを多面的に見せるという意味で、四面を客席にしてしまおうと考えました。劇場にも非常にご協力いただいて実現しています。没入するようなイマーシブな体験ができるミュージカルを目指してやっていきたいと思います。

取材・文/宮崎新之
撮影/宮川舞子 提供/ホリプロ