M&Oplaysプロデュース『危険なワルツ』|岩松了&坂東龍汰 インタビュー

『峠の我が家』『カモメよ、そこから銀座は見えるか?』『私を探さないで』など、毎年、良質な演劇作品を世に送り続ける岩松了×M&Oplaysプロデュースの新作が、2026年3月6日(金)より開幕する。タイトルは『危険なワルツ』。

若い頃はアウトローな生き方で人生を謳歌した中年夫婦・龍臣(岩松了)と吟子(松雪泰子)。人生の白秋を迎えてなお妻は美しく色気に溢れていたが、夫はすっかり情熱を削がれ、輝きを失っていた

そんな夫に退屈を感じていた妻の前に、若い男・一寿(坂東龍汰)が現れる。妻は若い男の魅力に溺れ、三者はただならぬ関係へと陥っていく。はたしてこの三角関係が行き着く先はどこか。自ら夫役も演じる作・演出の岩松了と、2度目の岩松作品登板となる坂東龍汰に話を聞いた。

坂東は、悪いことしてるのにカッコいい男が似合う

――坂東さんは、2018年に『三人姉妹はホントにモスクワに行きたがっているのか?』という岩松さんのプロデュース公演に出演されていました。まずは当時の思い出から振り返っていただけますか?

坂東 まだ僕が今の事務所に入って数ヶ月というタイミングで、お芝居のことなんて右も左もわからない頃。正直に言うと、岩松さんのこともあまりよく知らない中、急遽参加させてもらったんですね。そのときは「ジャガイモ野郎」っていろんな人に呼ばれていたんですけど(笑)。

岩松 坂東が北海道出身で、北海道がジャガイモの産地だからね(笑)。

坂東 当時、いちばん痛感したのが、ただ人間としてそこに立つことが、いかに大事かということでした。演じる役が人間に見えなければ、シーンが成立しないということを直球で教えていただいて。あのときはみんな悩んでいました、「人間っぽく見えない」って。

岩松 演劇には、まだ経験も浅い、お客さんからすれば何者かもわからないような役者がウロウロしている面白さがあると思っていて。だから僕はプロデュース公演ではそういう若い役者を多く入れるんですけど、坂東もその中の一人でした。

坂東 今でもあのときに言われた言葉は脳裏にこびりついています。「人間はいろんな感情でできているんだ、一つじゃない」とか。

岩松 僕が覚えているのが、最近の若い人って前髪を伸ばして眉まで隠すじゃないですか。坂東もそういう髪型をしていて。「なんだその髪型は」って言ったら、さらっと「流行りですね」と(笑)。

坂東 言ったかも〜(笑)。

岩松 それが坂東のすべてです(笑)。さも自分に何の責任もないような顔で言うものですからおかしくて。

――たぶんちゃんと表情が見えるように上げなさいという意味だと思うのですが(笑)

坂東 そうですそうです。なので、本番までに切りました。全デコ出しで本番をやったのを覚えています。

――岩松さんは、そのときから坂東さんに才能の兆しのようなものは感じていましたか?

岩松 どうなんでしょう。でも僕が何を言っても平気な印象はありました。人によっては落ち込むんですけど、坂東はどこ吹く風って感じだったから、そこは印象に残っていますね。まあ、ちょっとは売れるかなとは思ってましたけど、まさかここまでとは(笑)。

――8年ぶりの岩松作品への出演が決まった心境はいかがですか?

坂東 岩松さんの舞台に出たいと渇望している同世代の俳優がたくさんいる中、こうしてお声がけいただいたことがめちゃくちゃうれしくて。同時に背筋が伸びる思いがしました。決めるまで、マネージャーさんと何日か話し合ったのを覚えています。即答したかったんですけど、僕がウジウジ言うものですから、最後はチーフのマネージャーさんが「何言ってるねん。やるぞ」と背中を引っ叩いてくれました(笑)。

岩松 今回、坂東には平気で悪いことができるというか、そういうのがカッコいい男を演じてもらおうかなと考えています。イメージですけど、悪いことした後に雨に濡れて出てくる、みたいな。なんかカッコいいじゃないですか、そういうのって。しかも似合いそうだし。昔の二枚目みたいな。

坂東 ヤバいな〜(笑)。『三人姉妹は〜』のときは、そういう役を(高橋)里恩がやってたんです。里恩が客席の方をゆっくり振り返るっていう演出を岩松さんがつけてて、僕はそれ見てめちゃくちゃ嫉妬していました。「うわ〜。俺も見得切りて〜!」って(笑)。

――じゃあ、今回は悪くてカッコいい坂東さんが見られるということですね。キービジュアルの松雪泰子さんとのツーショットも決まっていますし

坂東 僕、そのとき、めちゃくちゃ緊張していたんですよ。松雪さんとご一緒するのも初めてですし。そしたら、すごい気さくに松雪さんから話しかけてくださって。舞い上がりすぎて、なんの話をしたか忘れちゃいましたけど(笑)。とにかく、すごい素敵な方だなってひたすら脳汁が出ていました(笑)。

――じゃあ、こんなふうにカッコよく肩に腕を乗せていますけど本当は

坂東 めちゃくちゃ緊張しています。どれだけ手の力をかけないか。かけなさすぎても気持ち悪いから、ちょうどいい具合を探って、ずっとブルブルブルブルしてました(笑)。

怒るという感情を初めて知ったのが嫉妬だった

――ここからはお二人に嫉妬についてお話しいただきたいと思います。この作品も男の嫉妬というものが出てきそうですが、お二人は男の嫉妬についてどんな考えをお持ちですか?

岩松 たぶんその答えは台本を書きはじめるとわかるような気がします。いつもそうなんです。『シダの群れ』を書いたときも、ヤクザってなんだろうと思いながら書きはじめて。書いているうちに、なるほど、ヤクザって身の危険に非常に敏感な人たちなんだということがわかってくる。肩がぶつかったときに「馬鹿野郎!」って彼らがキレるのも、身の危険に敏感だからなんです。そういうことがわかってくるから書くのって楽しくて。きっと今回もそうなるんじゃないかなと。でも、どうなんですかね。年をとると意外と嫉妬がなくなってくることってないですか。

――自分は中年なので、おっしゃっていることはわかります

岩松 ですよね。たとえば好きな女を奪われても、いやいや幸せになってくださいみたいな立場になってくるんじゃないかなって。そう考えると、純然たる嫉妬ってなんなのという話になってくるんですけど。

坂東 嫉妬って言っても、いろいろありますしね。

岩松 恋愛的なものもあれば、同じ男に向けた仕事としての嫉妬もあるね。

坂東 よくインタビューで「同世代の俳優さんに嫉妬しますか」って質問されるたびに、僕は「嫉妬しないです」と答えていたんですね。でも、この間、あるテレビの番組の方が、僕がよくお世話になっているスタイリストさんに「坂東さんって嫉妬とかするんですか」って聞いたら、「バリバリ嫉妬してますよ」って言ってたんですよ。それを聞いて、マジかと思って。自分ではしてないつもりでも、「めちゃくちゃ顔に出ている」と。

岩松 わかるんだ。

坂東 それがちょうどグローバルOTTアワードという釜山で行われた授賞式のときだったんです。僕は助演男優賞でノミネートされてて、かすりもせず、そのまま帰ったんですけど(笑)。壇上でスピーチをしている方々を見ている僕の顔から、悔しさが漏れてたんでしょうね。心ではただただ「みなさん、すごいな」と思っているつもりでも。心と顔で乖離ができているんだろうなって。

――年をとると嫉妬心がなくなるという話がありましたが、仕事に関してはそうですが、意外と恋愛に関しては、ああ、自分は独占欲の強い人間だったんだと思い知らされることがあったりします

岩松 年をとった男の嫉妬心というのも捨てがたいものがありますよね。谷崎潤一郎とかそんな感じがするじゃないですか(笑)。彼の『鍵』なんてね、初老の夫が嫉妬によって性的興奮を得ようとする話だし。もう体もすっかり弱ってるのに、奥さんに何を食べたいかと聞かれて、精力をつけようと「ビフテキ」と答える。ああいうところなんかは、嫉妬心と連動しているような気がするんですよね。はたして年をとった男の嫉妬心とはどういう形で表れるのか。もはやそれは嫉妬という言葉では括れない何かかもしれない。そういうところが見えてくると面白いような気がします。

坂東 女性が絡む男の嫉妬って、いちばん自分がみじめになるんですよね。だから、人に相談もできない。友情絡みの嫉妬だと、僕、真正面から言えるんですよ、「嫌だった」って。でも好きな人をとられたときの嫉妬なんて誰にも言えない。自分で抱え込むしかないじゃないですか。

――なんでそう思っちゃうんでしょうね

坂東 同じ男として負けた敗北感があるからでしょうね。

岩松 今聞きながら思い浮かんだんですけど、ウィリアム・フォークナーの『嫉妬』という短編がありまして。それも若い妻を持つ中年男性の嫉妬の話で。嫉妬の原因となった若い男が最後は引っ越して夫婦の前から去っていくんですけど、それで解決はせず、夫は結局若い男を殺すんです。あれはなんでなんだろうと思っていたんだけど、もしかしたら年齢的なことも関係していたのかもしれない。夫がもっと若ければ水に流せたことが、年をとっているからこそ許せなかったのかもしれないなと。

坂東 だからやっぱりプライドですよね、嫉妬って。

岩松 ダンディズムというのかな。男としての矜持が嫉妬に狂わせるのかもしれない。

――というところで言うと、お二人は最近嫉妬したことはありますか?

岩松 いやあ、ないですね。思いつかない。

坂東 そう考えると、僕はまだまだありますね。でもここでは言えない。言うと、僕のプライドが傷つくから(笑)。僕、怒りの感情を初めて知ったのが嫉妬だったんですよ。5〜6年前かな。すごい仲の良いメンバーがいて、でもそのメンバーが僕の知らないところで集まってるのを知ってしまって、もう嫉妬まみれでした(笑)。

インタビュー・文/横川良明
撮影/渡部孝弘