劇団ミュ Op.5 Musical『Liebe シューマンの愛したひと』|青野紗穂×伊勢大貴×希水しお×榊原徹士 座談会

劇作家・岡本貴也氏が主宰する劇団ミュの第5回公演となる、Op.5 Musical『Liebe シューマンの愛したひと』が、2026年1月22日(木)より、恵比寿・エコー劇場で上演される。小劇場公演はすべて、マイクなし、スピーカーなし、生声・生音での公演にこだわり、オリジナルミュージカルを創作し注目を集めている劇団ミュ。今作は、2024年1月の旗揚げ公演の待望の再演。19世紀のドイツを舞台に、天才ピアニストのクララとその夫ロベルト・シューマンの史実をもとに織りなす、深く美しい、究極の愛のミュージカルは、Wチームでの公演も話題。《♭チーム》クララ役の青野紗穂さん&ロベルト・シューマン役の伊勢大貴さん、《#チーム》クララ役の希水しおさん&ロベルト・シューマン役の榊原徹士さん。メインキャストの4人に、今作の魅力や役作り、ヘッドセットマイクを使わない生声での歌唱などについて、語ってもらった。

青野紗穂(クララ 役)

――まずは、今作に出演が決まったことについての心境をお聞かせください

青野 オファーをいただいたときは、クララという役が、果たして私に合うのかなと思いました。でも、初演の映像を見せていただいたり、脚本を読ませていただいて、ぜひチャレンジしてみたいと思いました。

希水 劇団ミュの作品は、『チュラク-墜落-』と『Jeanne d’Arc-ジャンヌダルク-』を観せていただいていて。特に『チュラク-墜落-』がすごく好きで、生声の歌に圧倒されました。今回のお話をいただいて、岡本さんから作品についてや劇団ミュに賭ける思いを伺って、「頑張りたい!是非やらせてください!」という思いになりました。

伊勢 岡本さんとご一緒するのは3作目なんですけど。2024年12月に『朗読活劇 信長を殺した男2024』の楽屋で、ダイレクトオファーされました(笑)。マイクなしの生声歌唱のミュージカルと聞いて、すごいチャレンジをするんだなと思って。話を聞いた瞬間から、自分でやってみたいことも、全部ぶつけられたらいいなと思いました。

榊原 僕は2024年10月に『チュラク-墜落-』に出演したのが岡本さんとの初仕事で、今作にも声をかけていただきました。イセダイ(伊勢大貴)とは今年初めて共演して仲良くなったこともあったし、そもそも背格好も違うから同じ役だったら面白いなと。

――脚本を読まれた感想を教えていただけますか?

青野 脚本を読んで、これは面白いと思ったのと同時に、クララの人生を演じきるのは、すごく大変だなと思いました。クララはたくさんの人からもらう役で、もらいながら苦しんでいく。ひどい仕打ちをうけたとしても、優しい言葉を受けたとしても、たぶんクララは傷ついてしまう。それを演じるには、本当に頑張って精密に作っていかないと、一瞬で崩れてしまうというか。逆に、そこが出来上がってしまえば無敵というか。もう、どの角度から観ても面白いと思ってもらえるような作品なんだろうなと思いました。特に心に響いたのは、クララの台詞ですごく出てくる「大丈夫よ」。それは夫のロベルトや子供たちに言うのですが、誰かに言っているようで自分にも言っているみたいなことが多くて。人に言いながら自分にも言い聞かせているみたいな。それがすごくクララらしいというか。人間らしいなと。リアリティがあるといいますか、私はすごく好きです。

希水 脚本をいただいて、読み始めたら止まらなくて、“どうなるんだろう”って前のめりになりながら、一気に最後まで読んでしまいました。クララの人生が最初から最後まで描かれているのですが、私は一人の人生を演じるのは初めてなので、その年その年齢で感じた思いが途切れないように、実際に演じるときも、組み立てていかないとなと思いました。特に印象に残ったのは、シューマンが精神を病んで薬漬けになってしまって、オーケストラも去ってしまって、絶望の淵に立ったクララが歌う楽曲。メロディラインも全部好きで。どんな絶望の中にいても、大切な人を支えるんだという強い思いを歌うクララをすごいなと思うと同時に、どうしてそこまでシューマンという人に100%で向き合うようになったのかを、ちゃんと実感しながら観客に届けたいと思いました。

伊勢 僕は、「彼女のお墓には行ったの?じゃあ見てきなさい。彼女が誰を愛していたのか。…」という、クララの親友レーザーの台詞が、一番ドキッとさせられたんですよね。海外の墓石には、亡くなった人が大切にしていたものとか、パーソナルな部分を刻む文化があって。じゃあ、クララは何を墓石に掘ったんだろうっていうところを、お客様に考えてもらえるような2時間になればいいなと思いました。

榊原 僕は、まず自分が何曲歌うのかってことを確認しました(笑)。

一同 (笑)。

榊原 自分はそんなに歌に自信があるわけじゃないので、去年もやっていますけど生声ですし、不安なんですよ。脚本で印象的だったのは、19世紀の時代背景もあるのでその当時の様子と現代の言葉使いの言い方を、本に落とし込めてくれているのが、すごくキャッチーになるなというところですね。例えば「#(シャープ)」をハッシュタグって言ったり(笑)して、面白いなと。

伊勢大貴(ロベルト・シューマン 役)

――2024年の初演の映像をご覧になって、特に印象に残ったことをお聞かせください

伊勢 まず、生で観たかったなと思いました。やっぱり、自分でマイクを通さないで声帯が震えて、それが空気に伝わってってだけのもので、どれだけ自分の心がざわざわするんだろう。というところは気になりましたし。演劇でマイクを使わずに音が乗って、言い方がちょっと失礼ですけど、マイクにじゃまされない、変に増幅させられないのは、贅沢だと思う。

希水 普段わりと大きな劇場でグランドミュージカルを観ることが多いので、距離も近くて、本当に一緒に舞台上の人の人生を同じ空間で体験するような感覚があって。マイクが無くて生声なので、ひそひそ話している声だったりとか、感情が変わって声が大きくなったり、本当に生のそこにいる人間だからこそ出るリアリティそのまんまなんです。普通の観劇とは違う、すごく新しい感覚で圧倒されました。

青野 集中しちゃいました。やっぱりマイクに乗るよりもすごく繊細に聞こえるので、それこそ、聞き取りづらい部分というのも、出てくるんですよ。そうすると、どうしても耳をそばだてて聞こうとするじゃないですか。そのときの衣服がすれる音だったり、足音の重さだったり、息づかいまで聞こえてくる気がしたんです。映像で観ていても。それもまた演出になるし、物語になって、その人の時間の一部になるっていうのが、いいなと思って。観たいし、すぐにやりたいとも思いました。

榊原 僕は、影響されたくないというのがあって、ほんまは初演の映像は観たくなかったんですよ。でも、実際に観てみると、自分が演じるとか関係なく観ている自分がいて。純粋に面白かったというのが、第一印象でした。

――劇団ミュOp.2ミュージカル『チュラク-墜落-』で、実際に生声での歌唱を経験されている榊原さん。その経験は特別なものでしたか?

榊原 やっぱり挑戦なんですよ、どう考えたって。生声で歌うのはすごくしんどいし、岡本さんからは、ピッチがねってずっと言われていました(笑)。でも、例えばアーティストの人がライブで音源通りに歌わないで、ライブ仕様の歌い方をする場合もあるし。本番はもう、おもいっきりやるしかないよ(笑)。

伊勢 おもいきりね(笑)。

青野 でも、ものすごいチャレンジですよね。

希水 私は普段けっこうライブをする機会が多いのですが、まったく今までとは違うやり方の声の出し方になるのかなと、予想しています。

青野 そうですよね。

伊勢 ある意味、稽古と同じような環境で歌うことになると思っていて。稽古場ではヘッドセットマイクをつけているわけじゃないので。稽古場ピアノがあって、そのまま歌うようなイメージをしていけば、大きく違わないのかなと。ただ、お客様の耳がマイクを使わない歌や台詞に慣れないと違和感や物足りなさを感じてしまうのかもしれないという怖さはあります。少しでも早くその環境に慣れて楽しんでいただけるようにすることが大事ですよね。

――再演では、ピアノとバイオリンの生演奏で、生声の歌唱を披露されます。今作の楽曲の魅力はどういうところだと思われますか?

青野 もちろん楽曲が素晴らしいというのもあるんですけど。生声で歌うことによって、ダイレクトに0,1秒くらいの差ではあるんですけど、そのときの感情が伝わるっていうのは、やはり素晴らしいことですよね。コンマ1秒でもダイレクトに伝わるっていうことは、舞台中その人と一緒に歩んでいける。だから、そこの魅力はすごくあるんだろうなと。あとは、息づかいとかが、ダイレクトに聞こえるってことは、その人の感情とか、自分もこう同じ息づかいになるというのが、たぶんあると思うので、そういうのもいいですよねぇ?

希水、伊勢、榊原 いいですよね~。

希水しお(クララ 役)

――演じるクララ、ロベルト・シューマンを、それぞれどのような人物だととらえていますか?また、演じる上で大切にしたいと思われていることは?

希水 クララは、自分の身の回りの環境や出会った人に振り回されながら人生が進んでいくと思うんです。けれど、自分が選択してもしていなくても、影響されたものも、すべてこれが正解なんだと言い聞かせる中で、本当に正解にしていくような人だと思います。なかなか、ここまで強い意思を持っている人っていないと思うんですけど。なんでこうなってしまったんだろうと思うことも、無理やりにでも正解と思って歩める強さはすごいなと思います。その思考回路だったり自分の軸というものがあって、シンプルにカッコいいなと思いました。あとは、もうシューマンへの愛の強さ。出会ったときから感じたものを信じ続けられる強さは依存に近いものかもしれないですけど、それも彼女にとっては生きる正解なんですよね。自分がもっていないものをたくさん持っている人なので、一緒に作品を作る皆さんから、少しでも多くのものを受け取れるように、アンテナを張ってお芝居できるように、頑張りたいと思います。

青野 クララって、すごくギバーなんですよ。与える人。だから、愛も優しさも与えるし、自分の時間も人生もお金も惜しまず、その人だと思ったら与えてしまうんですよね。シューマンは超テイカー(自分の利益を優先する人)だから、たぶん惹かれ合っているのかもしれないですけど。行き過ぎてしまったら、押しつけがましい女になって、共感できなくなると思うし、逆に引き過ぎても何をしたい女なんだろうみたいになってしまうし。そのいいバランス感覚のクララって難しいなと思いながら。でも、だから面白い役なので、稽古で探っていきたいと思います。

伊勢 シューマンは天才ではなくて、けっこう挫折している人。ピアノの才能がないから、作曲家になっていった。ピアノの壁を突破しようとして、変な特訓をして指を伸ばしてしまうとか。僕もそういう傾向にあるから(笑)、何か苦手を克服しようとして、遠回りしたことがあるのですごく共感できます。でも、音楽は彼の本当に好きなことだとちゃんと行き着いてくれているから、よかったと思う。ただ、交響楽団との確執があったり、すごく孤独を抱えているなと。その孤独感は絶対に大事にしていきたいです。

榊原 クララもロベルトも、それぞれ才能があるんですけど。シューマンは才能のランクがクララのほうが高いなと思ったんでしょうね。クララがSランクだったとしたら、シューマンはBランクで。Sには勝てないな~みたいな感覚になったんじゃないかなと。でも、俺は自分の才能を信じたい。だから、どんどん内にこもっていく。で、いつかAランクを抜いてSランクに行きたいみたいな感覚。そういうところ、男はわりとあるあるというか。愛してくださっていることに、感謝することが下手くそ。演じる人間としてはどこまでクズでおるかってことだと思うんですけど(笑)。

伊勢 うん、ほんとクズ(笑)。

榊原徹士(ロベルト・シューマン 役)

――最後に、公演を楽しみにされている方へ、意気込みとメッセージをお願いいたします

榊原 今回の生演奏はピアノにバイオリンが加わるので、すごく楽しみだなと思っています。皆様にお届けできるものになったときは、とんでもなく面白いエグい空間になると思いますので、楽しみにしていただけたらと思います。

伊勢 僕たちの作るもので、お客様の愛のカタチが分かればいいなと思います。僕たちが『Liebe シューマンの愛したひと』という演目の中で見つけていく、愛情だったり生きることを見て、いま手にしたい愛情だったり、すでに持っている愛のカタチがあったとして、それがどれだけの輪郭なのかが、もっとよりはっきりするような時間になって欲しいなと思っています。それを探しに来てください。

青野 まだ、本当に未知数なんです。これからどういう人たちと出会って、どういうものに仕上がっていくのか、私も楽しみです。愛したことがある人も、愛したことがない人も、自分の人生において、ちょっと素敵な経験になると思うので、是非とも劇場に足をお運びいただければと思います。

希水 たぶん、今まで観てきた作品では感じられなかった体験ができると思うので、その新しい体験の目撃者になってほしいなと思っております。新しい発見や、いろいろな見方ができる作品だと思うので、一度だけでなく何度も観て、探していただけたら嬉しいです。生声の歌声に圧倒されに、ぜひ観にいらしてください。

取材・文/井ノ口裕子