舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』|小野賢章 インタビュー

撮影/SHUN ITABA

2022年からロングランを続けてきた『ハリー・ポッターと呪いの子』の東京公演が、いよいよ今年の年末で千穐楽を迎えることになった。そのフィナーレを飾るべくこれまでのハリー役が集結するなど、ラストイヤーとなっても引き続き話題が尽きないこの人気公演に、新たなハリーとして小野賢章が初登場することにも注目が集まっている。そもそも小野は2001年の『ハリー・ポッターと賢者の石』から2011年の最終作『ハリー・ポッターと死の秘宝PART2』までの映画版全8作品にわたってハリー役の吹き替え声優を務めていたこともあり、まさにファン垂涎のキャスティング、満を持しての参加と言える。本格的な稽古はまだ開始前の段階ではあるが、小野にハリー・ポッターシリーズへの思い入れから、舞台版への意気込みなどを語ってもらった。

――まずはやはり、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』への出演のお話が来た時のお気持ちから聞かせてください

実を言うと、出演のお話自体は何度かいただいていたのですが、父親としてのハリーという意味では実年齢がまだ合っていないだろうと思い、お断りしました。いくら小さい時からハリーを演じてきたとはいえ、子供のいる親としてのハリーを表現するにはまだ若過ぎると思ってしまったんですよね。だけどその後、長い間ずっと上演されていたこの舞台も今年がとうとうラストイヤーとなり、僕としてもこれまでさまざまなハリー・ポッターのコンテンツに関わらせていただいてきましたが、ハリー・ポッターに関われるのもいよいよこれがラストチャンスに近い機会になるのではないかという想いもありまして。もしチャンスがあるのなら、ここは頑張って挑戦してみたいなという気持ちになったんです。

――それで、ご自分から「やりたい」と?

はい、そういうことです。

――初めて、舞台版をご覧になった時はどう思われたんですか?

とにかく、すごく感動したのを覚えています。僕は藤原竜也さんの回を拝見したのですが最初は「うわっ、藤原竜也さんだ!」と思っていたはずが、途中からは本当にハリーにしか見えなくなって。そのくらい物語が格段に面白くて、本気で夢中になって観ました。目の前の舞台の上に魔法があるような感覚が味わえて、「人が消えた!」とか、魔法のひとつひとつに驚いたり感動したり。年も重ねてきているので、もはや子供目線でというよりはどちらかというと親目線の見方になるほうが増えてきていますが、この舞台はまさにハリーとその子供の、親子の話であり、さらにはそれまでの血の繋がりを感じさせるような話でもあるので、大人の目線からも感じ入るところがたくさんある作品になっていると思いました。

――今回また演じるにあたっては、改めてご自分としては舞台版のハリーをどう演じたいと思われていますか?

僕が出る意味ということではやはり、ハリー・ポッターの映画シリーズを吹き替え版でご覧になっていた方が「あっ、この言い方!」とか「この声、聞いたことある!」と思っていただけるところがやはり強みなのかもしれないなと思っています。だけど最後の『死の秘宝』から、15年が経っていますからね。15年もあると、人間の細胞は何度入れ替わっただろうというくらいに変わってしまっていると思うんですけど(笑)。だから当時をそのまま再現するのではなく、そもそもハリー自体も年を重ねているわけですからそうする必要もないのですが、それでもどこかの節々で昔のハリーのニュアンスが出せたらいいなという気はしています。まだ、どういう風に演じられるかはやってみないとわかりませんが、今はゼロから作っていくような気持ちでやってみたいと思っています。

――ハリーの声を吹き替えされていた当時、特に何か意識していたことはありましたか?

いや、あの当時はまったく何も意識していなかったです。

――では、ご自身のまま?

そうでしたね、一作目の時は小学6年生でしたから。ある意味、習い事の延長に近い感覚だったと思います。それが本気でお芝居のことを考えるというか、意識するようになったのは高校を卒業したあたり、タイミングで言うと『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』の頃ですかね。

――ハリーの声をやっているということで、周りから何か言われたりしたことも?

いろいろ、言われましたよ。知らない中学の、一度も話したことがないような先輩から「ちょっと、やってみろよ」と言われたり。

――そういう時は、どうされました?

「何でやらなきゃいけないんですか?」と言って、結局やらなかったです(笑)。だけどハリーもわりとそういうところ、あったりしますよね。

――そういったところに共通点を感じつつ、ハリーと一緒に成長していくとなると、ご自身の中でハリーはどういう存在になっていましたか?

そうですねえ。ちょっと、ありがたいなと思ったのは声変わり前の声が残っているというのはすごく貴重でもあるので。

――つまり、シリーズの途中で声変わりを迎えていたんですか

そうです。だからある意味、声の成長記録みたいなことにもなっていまして。

――ハリー役のダニエル・ラドクリフさんも、途中で声変わりをしていた?

そうなんです。2、3作品くらいで、だったかな。でもダニエルくんのほうが、声が低くなるのが少し早かったんですよ。だから確かその頃、アフレコが始まる前に声変わりが始まっているかどうかのチェックがあって。もし高いままだったら声が合わないから変わるかも?という感じだったので、その時はもうできる限り声を低くしてしゃべっていました(笑)。

――舞台版を演じる上で、ご自身で楽しみだなと思っていることは?

客席から観ている時に魔法がどういう仕掛けになっているのかまったくわからなかったので、その種明かしというか、稽古中にきっと「あ、こういう風にやってたんだ」と知ることができそうですから、それがまず楽しみです(笑)。あと、ポリジュース薬で子供たちがハリーたちに変身して忍び込むシーンを観た時に、本当に当時のハリーたちが冒険したり、いたずらしたり、忍び込んだりしているように感じて。なんだかちょっと、当時がフラッシュバックしてくるような気分になったので、その場面を演じることも個人的にはすごく楽しみに思っています。

――舞台版をご覧になった時、父親になったハリーが、思春期の息子であるアルバスとギクシャクした関係になっていて、その点はスッと腑に落ちましたか?

いや、全然落ちなかったです(笑)。僕が演じていたハリーの最後は子供を駅のホームで見送るところまで、だったので。僕の中でのハリー・ポッターはあの場面で終わっていて、それ以降どうなっただろうということは全然考えていなかったんですね。ですから舞台を観た時はすごく新鮮ではあったんですが。でも観終わって、よくよく考えて整理していくと、もともとハリーには両親がいなかったので親の愛情だったり、親にどう自分が接したかという記憶もなくて、だからその点ではきっと子供との接し方がわからないんだろうとか、ハリーはハリーで苦労しているんだろうな、みたいなことは感じていました。ハリー・ポッターは主人公だということもあるから、自然といい人みたいなイメージを勝手に持ってしまうところもありますが、ハリーも、ハリーのお父さんも、実はそんなにいいヤツではないんですよね(笑)。でもそこがまた人間味があって、面白いところだと思います。すごく自分勝手なところがあったり、それこそ子供の気持ちがわからなかったり、子供に対して対等に言い合ったりもするし。

――意外と、子供っぽいんですよね

そうそう(笑)。そういう、人間としてダメなところもある。声を吹き替えていた当時から自分がそこまで意識してハリーを演じていたかというと決してそうではなかったので、その点でも今回の舞台版で突き詰めていけたら、また僕の中でハリーという人物の印象が変わるかもしれないなと思っています。

――たとえば舞台版の中で気に入っている場面とか、気になる魔法の演出などがあれば教えてください

あまりにも盛りだくさん過ぎて、具体的にはあげにくいですが(笑)。でもやはり、点と点が線に繋がるような瞬間はものすごく面白かったですね。「そうか、そこが繋がってたんだ」とか、「あ、ここが実は大事なシーンだったんだ」とか。映画の時からもちろんありましたけど、舞台版でもハリー・ポッター全体の構成の作り方を踏襲されているところもあるので、そこは感じ入るものがありました。あとは、要所要所でインパクトのあることがいろいろと起きますが……たとえばデス・イーターとかもすごかったですよね。

――映画のままだ!と驚きました(笑)

舞台ではあるんだけど、ちょっとアトラクションに乗っているような感覚にもなれるので、これは本当にエンターテインメント作品なんだなと感じました。

――また、開幕からカバーとして参加されてきた上野聖太さんが、今年からハリーの本役として登場されるにあたっての公式コメントで「以前ご一緒していた小野さんと共にこのタイミングで同じ役ができるとは!」と語られていたのも印象的でした

事務所が一緒だったんですが、しばらくお会いできていなかったので僕も今回ハリーとしてご一緒できるのがとても楽しみです。4年以上ずっと上演されている舞台で既にチームワークが取れている中に、ゼロからの新参者として自分は入っていくわけなので正直少し不安だったんです。でも上野さんがいてくださるなら、その点では大変に心強くて。きっといろいろな話を聞けるし、たくさん教えてもらえると思うので本当に助かります。もう、めっちゃ甘えちゃおうかな!って思っています(笑)。

――小野さんは声のお仕事をされながら、舞台のお仕事もいろいろされています。舞台ならではの面白さ、楽しさはどんなところに感じられていますか?

やはり舞台では、毎回同じ作品を演じてはいるんだけど、その時その時で感じ方が違って来たり、気持ちの流れや持って行き方が変わって来たりする、そういうちょっとした変化が生まれるところに面白さを感じています。稽古を重ね、練習をして徐々に自分ができるようになっていって、役がどんどん馴染んでいく感じ、そしてさまざまなアプローチを試せることが、舞台の楽しいところというか。もちろん、声優をやっている中でもいろいろとアプローチは試せるんですが、どうしてもその回数は限られてきますからね。それに本番は瞬発力でやっているので、大体はほぼ一発で録っていて。まあ、もし噛んじゃったら録り直してってこともありますけど(笑)。そうやって、一瞬で感じたものをバン!と出すみたいなところが声の仕事の難しくて面白いところなんです。それとはまた違って、舞台の場合は周りの人たちとみんなで何回も稽古して作り上げていく、そのプロセスをぜひ今回も思い切り楽しみたいなと思っています。

――そうやって出来上がったものを、本番で何度も演じるというのも違うし、その日その日でまた少しずつ変わってもいくし

そうなんですよね。しかも今回は、共演するキャストさんも変わるので、その違う組み合わせの妙みたいな部分もすごく楽しみなんです。とはいえ、まだ今の時点では不安ばかりなんですけどね。だって台本をいただいた時、あまりの分厚さにいったん閉じちゃいましたから(笑)。しかも今回は稽古場で台本を持ちながら稽古をするという時間がほとんどなさそうで、あらかじめしっかり覚えてきてくださいと言われているところも、ちょっとプレッシャーで……。もしかしたら一番苦しいのが今これから、本格的に稽古が始まるまでのセリフを覚える期間なのかもしれないです。

――まずは、一人の戦いがこれから始まるんですね

そうです。本稽古が始まれば、また何か新たなポイントを見つけられるとは思うんですが。それまで、まずはひたすらがんばるしかない、と思っています!

取材・文/田中里津子
撮影/SHUN ITABA