「女郎蜘蛛」│稽古場レポート&仲 万美×中屋敷法仁 インタビュー

2026.02.14

俳優・仲 万美×劇団「柿喰う客」中屋敷法仁、初タッグを組んだ2人が描くのは、完全新作オリジナル舞台「女郎蜘蛛」。オールフィメールで描かれる本作に登場するのは、8人の毒婦と呼ばれる女たちだ。出演にはプロデュースも担う仲を筆頭に、蘭舞ゆう、太田夢莉、安川摩吏紗、西葉瑞希、なかねかな、岩佐美咲、永田紗茅、一篠思瑠、平井沙弥が名を連ねる。

妖しく美しい魅惑的な存在ゆえに、時代を超えて様々な形で物語として消費されてきた毒婦たち。異なる時代を生きた8人の女たちが、ひとつの舞台の上に集結して紡ぐ物語は、いったいどんな世界を見せてくれるのだろうか。開幕まで3週間を切り、次第に全体像が浮かび上がりつつある稽古場を取材した。また、仲と中屋敷にも本作への思いを語ってもらった。

稽古場レポート

稽古が始まる前の稽古場は、オールフィメール作品とあって女子校のよう。キャスト同士が和やかに談笑しながら、前日分の稽古内容をお互いに確認しあう姿が見られた。どこからともなく、劇中歌のハミングが聞こえてくると、次々とキャストたちが参加していく。最終的には音源をスマホで流しながら、自然と輪が出来上がり、その歌声が稽古場に響く。どうやらハーモニーに関して練習中の楽曲があるらしく、その自主稽古が始まったようだった。

気づけば演出の中屋敷も一歩下がったところからその様子をニコニコと眺めており、その出来栄えに手応えを感じている様子だ。全10人という小規模なキャスト編成だからこそ生まれる、濃密な人間関係。その一体感が、この時点ですでに稽古場を満たしていた。

この日は止め通し稽古(全体を通しながら、気になることがあれば都度止めて確認していく稽古)が行われ、冒頭のシーンから順を追って確認していく。さきほどまでのにこやかな笑顔から一転、立ち位置についたキャスト陣の表情には、毒婦と呼ばれる女たちの人生を背負う重さと妖艶さとが浮かび上がった。

小説や映画、歌舞伎、演歌……。彼女たちを絡め取るのは、様々な形で現代まで語り継がれている毒婦像――世間がフィクションとして描いてきた生き様なのか、それとも彼女たち自身の魂そのものなのか。そして、なぜ違う時代を生きた彼女たちが一堂に会しているのか。8人による序盤の語りと楽曲は、おおいに想像力を駆り立ててくれた。

続く数シーンでは、8人の毒婦たちそれぞれの個性が立ち上がってくる。蘭舞ゆう演じる雷お新、安川摩吏紗演じる白子屋お熊、西葉瑞希演じる夜桜お七、永田紗茅演じる蝮のお政、この4人が織りなす掛け合いは軽妙で、思わず引き込まれる。そこに、なかねかな演じる大坂屋花鳥と岩佐美咲演じる夜嵐お絹が加わり、稀代の悪女たちの賑やかなシーンへ。かと思えば、仲 万美演じる高橋お伝と太田夢莉演じる花井お梅の掛け合いでは、得も言われぬ不気味さが稽古場に広がる。

8人それぞれの個性が早くも鮮明に立ち上がり、ここまでの稽古が充実したものであったことが窺える。序盤で浮かび上がった彼女たちの人となりと、そして彼女たちが裁かれた罪。その二つが物語の中でどう絡み合い、どんな結末へと向かうのか。想像するだけで胸が高鳴った。

いくつかシーンが進むと、中屋敷が細かなタイミングの修正や、円形ステージを意識した動線をチェック。中屋敷は「ここの登場はかっこいい音を入れようかな」と演出案をひらめくと、音響スタッフとさっと打ち合わせをして効果音をはめていく。

セリフに関しても、中屋敷の柔軟さが光る。キャストが言う順番を間違えたセリフを聞き、「そっちの方がよさそうなので、変更しちゃいましょう」と即座に修正したり、掛け合いを入れ替えてセリフのラリーのテンポ感を上げたり。演出卓から立ち上がり、笑い声をあげながら稽古を見守る中屋敷の楽しげな姿勢が、カンパニー全体に温かな雰囲気を生み出していく。役者陣の芝居からも、毒婦を演じることを心から楽しんでいることが伝わってくる。演出家とキャストの相乗効果で、作品の輪郭が次第に鮮やかになりつつあるようだった。

オールフィメールで描かれる舞台、「女郎蜘蛛」。異なる時代を生きた8人の毒婦たちの糸は、地獄という舞台でどう絡まるのか。それとも解けていくのか。中屋敷演出と10人のキャストが織りなす、妖しく、美しく、そして力強い世界。その全貌を劇場で目撃する日が、今から待ち遠しい。

仲 万美×中屋敷法仁 インタビュー

【プロデューサー兼主演:仲 万美】

――稽古の手応えについて
4年ぶりのプロデュース舞台、しかも今回は中屋敷法仁さんとの初タッグです。稽古が進む中で、当初のイメージと変わってきた部分や、「これは予想以上だ」と感じている点があれば教えてください


 すべてが予想以上です。全員で歌った迫力は想像を遥かに超えていました。歌声にスタッフが涙ぐむ方もいました。ダンスも、レベルの高い振付に挑戦しているのに、全員が食らいついてきてくれてます。お芝居も、中屋敷さんの演出により、本読みの時とは比べものにならない奥行きが生まれています。

――高橋お伝という役について
仲さんが演じる高橋お伝は、8人の毒婦の中でも特異な存在として描かれています。「明治一の毒婦」と呼ばれた彼女と向き合う中で、どのような感情や発見がありましたか?

 高橋お伝と向き合う中で、強く湧いてきたのは、怖さでした。彼女が恐ろしい存在だからではなく、彼女の本心が、どこにも残っていないからです。「明治一の毒婦」として独り歩きしていて、その奥にある感情や息遣いは、すべて失われている。その空白に立たされる感覚が、とても重く感じました。

――観客へのメッセージ
歌あり、ダンスあり、オールフィメールキャストで贈る本作。稽古場の空気感や、共演者の皆さんとの創作の様子も含めて、観劇を楽しみにしている方々へメッセージをお願いします

 この作品は「楽しかった」で終わる舞台ではないかもしれません。美しいものだけでなく、目を背けたくなる感情にも出会うかもしれません。その違和感ごと持ち帰ってもらえたら、この作品は完成するのだと思っています。
ようこそ、女郎蜘蛛の、内側へ。

【脚本・演出:中屋敷法仁】

――「毒婦」という題材への着眼点
明治期に流行した「毒婦もの」というジャンルを、地獄を舞台にした群像劇として再構成されました。8人の毒婦を同時代に集結させるというアイデアはどのように生まれたのでしょうか。また、彼女たちの「語り」を軸にした構成の狙いを教えてください

中屋敷 実在の女性犯罪者を扱った「毒婦もの」と呼ばれるジャンルは明治期に確立しました。当時の社会が女性の欲望や自由をどう物語として消費してきたかを映す存在です。私は、彼女たちが「語られた存在」であって、「語る存在」ではなかったことに強い違和感を持ちました。「彼女たち自身に語らせたい」という発想が、この作品の出発点です。8人の毒婦を令和に集め、一人では見えない社会の構造や抑圧の輪郭を多角的に浮かび上がらせることが狙いです。個々の人生が響き合い、「毒婦」というラベルの向こうにある多様な人間像を立ち上げます。史実と虚構のあいだで、彼女たちは自分の声を取り戻し、観客に問いかけます。「これは誰の為の物語なのか」「真実とは何か」劇場で体感してほしいです。

――稽古場で見えてきたもの
稽古が進む中で、脚本を書いた段階では見えていなかった発見や、俳優陣との創作を通じて変化・深化した部分があればお聞かせください

中屋敷 脚本の段階ではやや象徴的だった毒婦たちは、稽古を通して、驚くほど存在感を放っています。俳優一人ひとりのパフォーマーとしてのポテンシャルが役の背景を彩っています。演技はもちろん、歌やダンスといった表現を通して、言葉にできなかった感情が溢れ出る瞬間が生まれています。8人の物語が蜘蛛の糸のように絡み合い、より濃厚なドラマが生まれています。

――作品に込めた願い
この作品を通じて、観客にどのような体験を届けたいとお考えですか?

中屋敷 お届けしたいのは「美しい悪夢」。華やかで、残酷で、そして心に深く刺さる時間をダイレクトに受け取ってほしいと思っています。彼女たちは怪物ではなく、エンターテイメントの中で消費され、本来の姿を奪われてきた人間です。その声を劇場で聴くことで、私たち自身が他者に向けるまなざしを問い返す体験になるはず。爽快感の中に、世間の荒波を生きてきた女性たちの強さを感じていただけたらと思います。

稽古場写真

取材・文・撮影/双海しお