新国立劇場の演劇『ガールズ&ボーイズ』|真飛聖&増岡裕子 インタビュー

ミュージカル『マチルダ』でオリヴィエ賞やトニー賞の最優秀ミュージカル賞などを受賞している、気鋭のイギリス人劇作家デニス・ケリーが、2018年に書いた注目の一人芝居『ガールズ&ボーイズ』。ある女性の人生を追いながら、愛、結婚、仕事、出会い、そして喪失が描かれ、現代に潜むさまざまな歪みが浮き彫りになっていくこの衝撃作が、待望の日本初演を果たす。演出を手がけるのは先日、第33回読売演劇大賞の最優秀演出家賞を受賞したばかりの稲葉賀恵。そして主人公の女性役には、これが3年ぶりの舞台出演となる真飛聖と、公募オーディションを経てこの役を勝ち取った文学座所属の増岡裕子が、ダブルキャストで挑むことになった。
まだ本格的な稽古が始まる前とはいえ、早くもすっかり意気投合している様子の真飛と増岡に、作品への想いやお互いの印象など、大いに語ってもらった。

――まずは脚本を読まれた時、それぞれどんな想いがあったかをお聞かせください

真飛 一言で「楽しい」とか「面白い」とは言えない作品だなと思いました。「どういう話?」と聞かれても、単に「面白いよ!」とは答えられない。ただ「すごかった……」というのが第一印象です。「コメディ?シリアス?」と聞かれたら「うーん、どっちも」みたいに曖昧なんだけど、展開はまるでジェットコースターのようで、きっとお客様はその高低差に合わせて「なんかわかる……」と共感したり、「マジで、そんなことがあったの!?」と腹を立てたり、「大丈夫、大丈夫!」と円陣を組みたくなるような……読めば読むほどお客様との距離感が近く感じられてきて、物語を観るというより、みんなで主人公のお話を聞きながら、同じ場所で一緒に時間を過ごしていくような作品だと感じました。

――この主人公を、ご自身が演じることもイメージしながら読まれたんですか

真飛 私、ふだんは客観的にフラットに読むタイプなんですが、今回は最初に読んだ時から自分が物語の中にいた気がして。それで直感的に「これは私がやるものだ、やっていくものだ、挑戦していくものだ」と思ったんです。「やらせてもらう」ではなく「立ち向かうものだ」と感じました。

増岡 私が最初に読んだのは、オーディションのときです。最初は戯曲の冒頭部分だけしか渡されず、冒頭だけだとすごく楽しい話に思えていたんですが、最終選考の前に全文を渡されて読んだらものすごい衝撃を受けて。奈落の底に突き落とされた、みたいな状態でした(笑)。ただ、決して難しい話ではなくスイスイ読めましたし、私自身はこの主人公の<わたし>という人に共感する部分が多くて。「わかる~!」と思いながら読み進めたら、あれっ、いつの間にか巻き込まれちゃった、そして見てはいけない地点に立ってしまった!みたいな。そういう怖さも含んだ、すごい戯曲だなと思いました。

――共感されたのは、具体的にはどういうところでしたか

増岡 この作品の主人公は子供を産んで、子育てや仕事のキャリアについて語るんですが、今まさに私にも4歳の娘がいて。しばらく舞台をお休みしていた時期を経て徐々に仕事を再開しているところなんですが、子どもが生まれると夫婦の関係性も変わってきて、たとえば浮上するのが「育児はどっちがやるの問題」とか(笑)。「私が女だからこれをやれって言ってるの?」「でもパパなんだから、あなたもやったらいいじゃない」ってことは日常茶飯事なので、主人公と自分の生活が重なって、「うわぁー……」と思って。

真飛 じゃ、経験からも声を大にして言えるんですね(笑)。

増岡 もう、めちゃくちゃ言えます(笑)。でも、この戯曲を女性が書いていたら女性だけの声になってしまうけれど、作家のデニス・ケリーさんは男性なので、そこが救いだなとも思いました。

真飛 確かに、そこも面白いですよね。

――お二人とも、初めて一人芝居に挑むということになるわけですね

真飛 一人芝居と思うと、演じる側も観る側もちょっと身構えてしまう気がするので、そこで私たち、見出しました。客席を巻き込んでいくので“一人”ではなくて“みんな芝居”、なんです(笑)。劇場がカウンセリングの場所で、お客様も同じように育児や仕事や聞いてほしい悩みを抱えた状態でここに来ていて、たまたま<わたし>の番が来たからしゃべっているというか。客席に問いかけるセリフも、いっぱいありますしね。だからみなさんも普通に頷きながら聞ける距離感で観られると思うんです。ぜひ同じ土俵で、「いやあ、わかるわ~」と悩みを聴いていている感覚でいてもらえたらと思っています。そして<わたし>がしゃべる内容に合わせて、主人公以外の登場人物のことも自由に想像していただけたら。「こういう子供だろうな」「きっと、こういう服を着ているんだろうな」と面白がって想像して、ぜひ巻き込まれていってください。座っているだけじゃなく、心をいっぱい動かしながら同じ空間に居ていただけたらなと思っています。

――セリフも、結構な分量かと思われます

増岡 分量、ありますねえ。

真飛 結構じゃないですよ。相当ですよ(笑)。

増岡 真飛さんの“みんな芝居”だという言葉に今、すごく励まされている気持ちになっています。お客様は味方なんだ、と。

真飛 そう、味方ですよ!

増岡 それを心に刻みつつ、この勢いで稽古に突入したいと思っています!

――ダブルキャストについては、どのように捉えられていますか

真飛 私はミュージカルでダブルキャストだった経験はあるんですけど、今回の場合はまた違う面白い経験ができそうですよね。過去を語るにしろ、未来を想像するにしろ、同じセリフでも絶対に伝え方が変わってくると思うんですよ。お客様の想像力によっても、おそらく全然違った色合いになるでしょうし。ダブルキャストって、ある意味でプレッシャーもありますが、今回は一人だから余計にお互いが“最大の味方”だと思うんです。私たちにしか味わえない、感じられない、むしろ演出の稲葉さんにさえわからないこともあるかもしれない。だから、本当に同志だと思う。稽古では、わからないことはガンガン聞いていきたいし「この解釈どう思う?」とか「こうしたほうが面白いかな?」とか、たくさん話し合いながらお客様にどうやったら最も面白がっていただけるかを一緒に模索していきたい。だから最大の味方ができて、私は今、すごく心強いです。

増岡 私も最初、ダブルキャストとなると自分はどう感じるだろうと思っていましたが、だけどもう、全然違うものになるのは目に見えていると思ったので(笑)。私自身も、真飛さんバージョンがどういう風になるかがものすごく楽しみです。稽古ではこれからどうなっていくのか、まだわかりませんが、それこそわからない部分が出てきたら聞きたいですし、相談に乗ってほしいなと思っています。戦友のような関係になれるんじゃないかな、と。

真飛 たぶん、千秋楽を迎えた時には抱き合って泣くと思います。その景色が早く見たいですよね。

増岡 はい、本当に!(笑)

――演出の稲葉さんとは、どんなお話をされていますか

増岡 オーディションの時には、やはりどうしても悲しいシーンでは悲しい気持ちで涙が流れてしまう場面がありました。ですが、そうじゃない表現を求められたんですね。「この女性はもっと強くて、そこから脱却しようとしている。だから悲しくてもストレートな悲しみの表現にはならないと思う」というお話をされていて、物語の解釈の仕方が自分とは全然違ったのですごく面白いなと思いました。その時はまだ少ししかお話できなかったので、今後の稽古でその点をどういう風に語っていただけるかがすごく楽しみです。

真飛 私は稲葉さんとは、まだ多くは話せていませんが、この間お話したときには、私が一人芝居を怖がっていると察知されたのか、身構えずにいられる空間を作ろうとしてくださっているのかも、と優しいお気遣いを感じました。

――まだお二人が出会ってから時間があまり経っていないとは思いますが、お互いの印象とかも聞いてみたいのですが

増岡 実は私、15年前の真飛さんの退団公演を観ているんです。しかもそれが、初めての宝塚観劇で。

――それはすごいですね、運命だったかのように

増岡 「こんなにカッコイイ人が、この世にいるんだ!」とえらく感動してしまい、クリアファイルも買いました(笑)。まさかその15年後にこんなご縁があるとは夢にも思いませんでした。本当に光栄です。

真飛 その話を聞いた時、大爆笑でしたよ。でも、そう考えると本当にめぐり合うべくして出会えたのだと思いますね。ビジュアル撮影の日に初めてお会いしたんですけど、その瞬間に「大丈夫だ」と思ったんです。まっすぐ嘘がない感じで、この人となら一緒に戦える、いや戦うというか、共に乗り越えられるという確信が持てました。これも直感です。
しかも私は、「真飛聖」という名前で活動していますが、本名が「裕子」で、漢字まで一緒。

増岡 あと、天秤座というのも同じなんです。

真飛 だから近い存在なんです、もはやほぼ一緒です(笑)。

――今、お互いに聞きたいことがあったら、せっかくの機会なので聞いてみていただけたらと思ったのですが

真飛 台本をどこまで覚えてきているかが気になっていたので、さっきちょっと聞いてたところなんです。お互い、探り合いですよ。

増岡 探り合いました(笑)。

真飛 よくテストとかで「私、全然勉強してない~」とか言いながら100点取る人、いるじゃないですか。そういうタイプだったりして?

増岡 違いますよ、真実をお伝えしました(笑)。だけど昨日あそこまで覚えたからと、試しにセリフを言ってみようと思ったら全然出てこなくて。

真飛 でもね、聞いてください。これ言い訳じゃないけど、そのために稽古期間というものがあるんですよ。今、既に完璧に覚えられていたら稽古に1ヶ月も時間かけなくてよくなっちゃう。だけど、今回のセリフは覚え出したら覚えやすいほうだと思います。入りにくいセリフって、どんなにやっても入りにくくないですか?

増岡 ありますね、そういう入りにくいセリフ。

真飛 うまく言えないんですけど「うわ、これ“てにをは”が全然入ってこないわ」とか。でもこの戯曲にはそういうセリフはなかったので、ちゃんと向き合えば入るはず!

増岡 そうですよ、1ヶ月あれば大丈夫なはず(笑)!だけど家で一人で悶々としている時よりも、こうして真飛さんと一緒に話しているほうがすごく楽です。

真飛 あら!私も、まっすーの連絡先が知りたくて仕方がなかったの。「今、どんな感じ?」って聞きたいから、あとで連絡先を交換してください!

増岡 ぜひ、よろしくお願いします(笑)。

――セリフを覚える時って、いつもどういう状況で覚えていますか?

増岡 こんなに大量のセリフをしゃべったことがほとんどないので、どうしようかと。あれ、私、セリフってどうやって覚えてたんだろうって……。そこで、チャットGTPに聞いてみました。「セリフを覚える時、どうしたらいい?」って。

真飛 アハハハ!なんて言ってくれました?

増岡 動きながらやったほうがいいって。

真飛 マジで?じゃ、家事とか育児、それこそ送り迎えとかの時に覚えればいいのか。

増岡 そのほうがいいと、うちのチャッピーは言ってました。

真飛 私はいつも、テレビを見ながら覚えるんです。

増岡 ええっ?

――テレビを見ながらって、どういうことですか?

真飛 リアルタイムでテレビを見たいんです。バラエティとかドラマとか。でもドラマだと話に気が行ってしまうから、なるべくバラエティ番組にしているんですけど。これ、宝塚時代からなんですよ。

増岡 へえ!

真飛 宝塚って生のオーケストラだし、お客さんも大勢いらしていて、常に何かしらの音があって。シーンとしているまるっきりの無音はないじゃないですか。そんな中でセリフを言うわけなので、別の音がある環境のほうが覚えやすいんです。誰に言ってもそれは真似できないって言われますが、私はずっとそのやり方なんですよ。だからテレビの芸人さんの声にハッハー!って笑いながら、セリフを覚えていっていて。

増岡 聖徳太子みたいですね(笑)。

真飛 だけど今回は、別にオーケストラがいるわけでもないから、どうなんだろうとは思っていますけど。今のところは台本を読む時はテレビをつけていますし、なんなら横にもう一冊、別の台本も置いて、時々チェンジしながら覚えています。自分の中では、そのほうが効率がいいみたい。

――きっと、同時進行ができる脳なんですね

増岡 すごーい……。私も、試しにちょっとだけやってみようかな。すぐ脱落するだろうけど(笑)。

真飛 これまでやってみようという人、全然いなかったから。私、特殊なのかもしれない。


――でももしかしたら運命の二人なので、体質も似ていたりして。


増岡 やってみたら、めっちゃ入りますぅ!ってことになるかも?

真飛 なくは、ないかもしれませんね。

増岡 じゃあ、ちょっと試してみますね。スルスル入ったら、すぐ連絡します(笑)。こういう話ができるのも、本当に心強いです。

――稽古本番に向けて今、一番楽しみに思っていることは

真飛 私は、まだわからないことが多過ぎるんですよね。一人芝居ということもですけど、この人物をどうやって演じるかの正解はまだないから。そこは稲葉さんと稽古してみないことには、見えないですし。それと、お芝居の稽古に通うのも3年ぶりだから、そういうルーティーンも楽しめたらいいなと思っています。まあ、楽しむしかないんですけどね!「ああ、今、私、演劇をやってる!」とか「久々にこれ、こういう感じだった!」って気分を、早く味わいたいなと思っています。まっすーは、どうですか?

増岡 私は、オーディションでちょこっと稲葉さんとやりとりさせてもらった時に「そうか、そういう考え方があるんだ!」と、自分が考えていたものをガラッと崩されたことがものすごく刺激的で楽しかったので。きっと、稽古でああいうことがいっぱい起きるんだろうなと、とてもワクワクしています。そのあとの本番については、私にはまったくの未知の領域ですので。

真飛 そうですよね、それは私も一緒です。だけど、お客様も絶対に味方になってくれると信じています!

増岡 その点も、ぜひ楽しんで味わいたいと思っています!

インタビュー・文/田中里津子