ナイロン100℃ 45th SESSION 『百年の秘密』 ケラリーノ・サンドロヴィッチ インタビュー<後編>

初日から千秋楽までやり遂げることは奇蹟的だと思うようになってきた

――そして今後もやはり、これまで通りにナンセンスなものをやったり、物語性のある作品をやったりという流れで劇団活動は続けていくおつもりですか。

KERA「いや、5年後10年後に自分がどんな興味に傾いてるのか、まったくわからないですから。先のことはまるでわからないですね。」

 

――続けられる限りは、という感じですか?

KERA「楽しめてる限りは、ですね。楽しいからこそやり続けてきたので。とはいえ、解散する理由はないですね、今のところ。でも、別に劇団最後の公演が解散公演である必要もないんじゃないかとは思うんですよ。」

 

――わざわざ銘打って、ということはしたくない。

KERA「たとえばだんだん劇団公演の間隔が開いていって、2年に1本、3年に1本、やがて5年に1本になったとしたら、もうその次はあるかどうかわからない年齢ですからね(笑)。僕の中にある劇団公演のためのアイデアのストックが、昔は5本先くらいまではあたりまえのように頭の中にあったんですけど、今はホントにないんです。次の新作がどんなものになるのか、まったく不明のまま稽古初日に至ることも珍しくない。本当にギリギリなんですよね。もはや若い頃みたいに「集団としてどうなりたい」とかいう目標もないしね。ただただ必死に繰り出して、1本、1本をどれだけ満足のいくものにできるかっていうことがすべてなんです。その公演のことで精一杯。次のことなんか考えない。そんな状態ではありますが、昔よりずっと達成感や充実感は強いんです。集団としての創作のありがたみ、ナイロン100℃が自分にとって唯一無二の存在だと感じられるようになった。ありがたみがわかった分、この後もちゃんと継続していけるように助け合いも必要だなと思っています。皆、もう若くはありませんから。」

 

――劇団員なら、お互いのことも充分わかりあっているでしょうしね。

KERA「うん、誰かが調子悪い時には誰かがフォローして。」

 

――長く走り続けるためには必要なこと。

KERA「そうですね。でも昔も、僕だけなんだよね。そんな何年も先の公演について計画を練ったりビジョンを構築したり、劇団の未来を考えてたのって(笑)。だからようやく僕が他のみんなの状態に合ってきたくらいの感覚ですよ。毎公演、中止になるような大きなトラブルはこれまでありませんでしたけど、お互いに気づかないような細かい部分ではみんな、精神的にも身体的にも、いろいろあったに違いないんですよね、その時々で。あたりまえと言えばあたりまえですけど。そんな中、次は45回目ですが、それに加えてSide SESSION、スペシャルとかも入れれば20本くらいあると思うんですけど、ここまで長く続けてこられたんですからね。昔は稽古をして初日を迎えて千秋楽までやることが当然のように思えていましたけど、年々、1本の芝居を最後まで無事にやり遂げるというのは奇跡的なことなんだなと思うようになってきました。最近は千秋楽を迎えるたびに、もしかしたら乗り越えられない可能性が非常に高かったんじゃないかって、毎回思うんです。」

 

――でも、毎回ナイロン100℃は問題なくというか、必ず初日を開けてきたことは本当に素晴らしいことだと思います。

KERA「なにしろ台本がいつもギリギリですからね。これはもう僕の中だけの問題なんでしょうが、ただ幕を開けるだけならば、ある意味妥協に妥協を重ねれば物理的には余裕で開けられるんですよね。でもね、一度でもそれをやっちゃうと、相当な自己嫌悪に陥ると思うんですよ。おそらくもう辞めたくなっちゃったりもすると思う。だから、毎度毎度死ぬんじゃないかっていうぐらい追い詰められながら、これまで一切の妥協をしないでやってこれたことは、我ながらすごいなと思います。」

 

――ただ幕を開けているだけじゃなく、それがすごいレベルのところまでちゃんとできていることが大事で。

KERA「自分の中のレベル、ですけどね。自分の及第点というのは、年々高くなってきていると思うんです。最初はこの程度で満足できてたっていう、旗揚げの頃の満足レベルだったら、今ではとても許せない。まあ、逆に、若い頃の自分が見たら今やっているものはつまらなく思えたかもしれないですけど。面白いと思う感覚って相対的なものだし、時間と共に変化しますからね。数値で測れるものでもないですしね。」

 

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“本当にどうしても”再演したかった最後の1本が『百年の秘密』

 

――そして45回目の劇団公演である『百年の秘密』の再演についても、伺っておきたいのですが。今回、25周年記念でこの作品をやりたいと思った理由は。

KERA「25周年のタイミングでなくても別に良かったんですけど、とにかくこの作品はどうしても再演したいと思っていたんです。」

 

――それが、たまたまこのタイミングに重なったと?

KERA「そうですね。「本当にどうしても再演したい」という作品は劇団ではこれが最後の1本かもしれない。これまでも『消失』とか『わが闇』とか『ナイスエイジ』とか『カラフルメリィでオハヨ』とか、いくつかの作品を再演してきましたが、今のところ最後の1本です。今のところ、ですけど。」

 

――これまでの作品群の中で?

KERA「そうですね。」

 

――その理由としては。

KERA「なんですかねえ。ま、好きな作品なんですよ。自己評価が高い。」

 

――お客さんの評価も。

KERA「高かったですね。再演を望む声も大きかった。ただ、まだ初演から6年しか経っていないので、そうすると意外と初演を観ている人が来てくれない、なんて可能性も、経験則からしてあるんですよね。」

 

――そういうものですか。

KERA「『ノーアート・ノーライフ』とか『わが闇』とかが、比較的そうでした。でも、そんなこと関係なく、ともかくもう一度やりたかった。なんでと聞かれても明確な理由はないんです。お客さんに歓迎されているからという理由も、実はそれほど大きくはないんですよ。きっとこの作品が全然ウケていなかったとしても、自分としてはもう一度やりたかったと思う。ただ、僕は犬山イヌコと峯村リエ、このふたりが絡むシーンが大好きなんです。そして、このあとやる新作(『睾丸』(仮題))は三宅(弘城)とみのすけを中心にしようとしていて。つまり劇団の創成期を支えてくれた俳優たちをちゃんと立たせた決定版みたいな、それぞれにとっての代表作をここでもう1本増やしてあげたいっていう気持ちもありました。まあ、これはあらゆる作品に言えることですけど、初演はとにかくいっぱいいっぱいだったので、もう少し落ち着いて冷静に丁寧に作ったらどうなるのかなという気持ちもあります。」

 

――基本的には、初演と大きく変わらずに再演する予定ですか?

KERA「若手のキャストが何人か初演と入れ替わるので、それで少し変わるところもあると思いますけど、基本は変わりません。一応このあと、じっくりDVDと台本とにらめっこして、どこか変えるべき点があるかどうかを吟味しようと思ってはいますけど。今まで再演したものも、初演とあまり変えていないんですよ。そういう作業をしても、変えないほうがよかったって結論になることが多いので。」

 

――つまりそれは、やはり初演の時にちゃんと完成しているから。

KERA「ええ。でも本当にいつもギリギリでできあがっているので、もう少し時間があればもっと良くなるはずって思うんですけど。勘違いかもしれませんが(笑)。」

 

――では最後に、KERAさんからお客様へ、『百年の秘密』へのお誘いメッセージをいただけますか。

KERA「ふたりの女性の何十年にもわたる関係の物語です。同時にふたりの周囲の人々を巡る紆余曲折の群像劇でもある。見応えという意味では劇団史上最高かもしれません。そして、お客さんたちひとりひとりが歩んだ人生とも、どこかでつながるものが必ずある作品だと思います。自分で言うのもなんですが、作家としてはここまでの作品は人生に何本も書けるものではないと思う。そしてもう、このメンバーでの次の再演はおそらくないでしょう。ですから未見の方はもちろん、DVDでしか観ていない方もぜひ生で、劇場で体験していただきたいなと思います。」

 

インタビュー・文/田中里津子

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