写真左より)菅井夏帆、永嶋柊吾、安西慎太郎
ヒラタオフィス+TAACの第5弾公演が、2026年6月5日(金)から東京・小劇場楽園で上演される。今回「まだ眠れない部屋で」で描かれるのは、とある失踪事件の「その後」。作・演出のタカイアキフミ、キャストである永嶋柊吾、安西慎太郎、菅井夏帆にインタビューを行った。
身近な人が行方不明になった人々の「その後」の物語
――まずはタカイさんに、今回のテーマや物語の構想をお聞きしたいです
タカイ 今までも「出来事のその後」に目を向けて物語を作ってきました。今回は「探す」「待つ」という行為に着目し、家族が行方不明になった人たちを書いています。生きていると、何かが見つかる・やってくる瞬間って僅かで、探している・待っている時間の方が長いなと。見つかった瞬間がフォーカスされることも多いですが、人間がもがいている時間を営みとして描けたらと思ってテーマを選びました。
――書きながら手応えを感じているとのことですが、今回の脚本で大切にしていること、意識していることなどはいかがでしょう
タカイ 以前は「普通の人はこんなことしないだろう」と考えてブレーキをかけていたところがあるんです。でも、この一年ほどは「普通の人はしないかもしれないけど、どんな状況ならしてしまうのか」を考えるようになりました。演劇はフィクションだからこそ、普段は人間がしないこと・できないことを書けるんだと思って。お客さんが見た時に、深層心理や欲求に留めているものを、フィクションが代弁できたらとも思っています。中々現実ではできないことを、フィクションを通していかに見せられるかは最近意識しているところですね。それが物語の面白さにつながると思いますし、あまり見たことのないものを作り出せるのかなと。斬新なものを作ることが第一目的ではありませんが、人間の根っこにあるものを踏まえつつ、自分の中にある世の中への視線を言葉にすることを考えています。
――舞台美術のイメージやチラシもおしゃれですが、ビジュアルにおけるこだわりは
タカイ ここ何作かは「場所」に重きを置いています。今回は誰かがいなくなった部屋というか、家がテーマ。実家に帰った時に独特の安心感や香りがあるように、誰かがいなくなった後の不在を感じる空間をお客さんと共有したいと思っています。場所の匂いや風景を乗せられる舞台美術を考えていますし、ビジュアルはそれを踏まえていかに匂いなどを抽象化して乗せられるかを探りました。「まだ眠れない部屋で」というタイトルに重ねて、ずっと電気が灯り続けているイメージです。
作品が出来上がっていく過程を丁寧に楽しみたい
――菅井さんは初舞台ということで、意気込みや舞台の稽古に飛び込んだ感想を教えてください
菅井 初舞台を錚々たるお二人とできるのが幸せですし心強いです。正直なところ今は毎日必死ですが、その必死さも含めて、今の自分にしかできないことがある気がします。まずはいただいたものを一つひとつ吸収し、咀嚼して表現できたらいいなと思っています。背伸びしすぎず、今自分ができる目一杯、小木という役を愛せたら。本当に頑張ります!
――安西さんは久しぶりにタカイさんと作品作りをされますが、楽しみなことはありますか?
安西 前回からの時間が作品に絶対出ると思います。タカイさんも僕も成長していると思うので、一緒に作りながら、お互いが生きてきた時間が見えるといいなと思っています。
――いくつものTAAC作品に出演されている永嶋さんから見た今作の面白さはいかがでしょう
永嶋 再演もあったし、元々戯曲がある作品もあったので、だんだんと作品が上がっていくのは久しぶりでワクワクしています。タカイくんの筆が遅いと言いたいわけじゃなくて、初めて台本を読むワクワクが日々あるのは楽しいなと。あと、今回の企画を見た時に、また一つ重心が低い作品になりそうだと感じました。落ち着いたっていうとちょっと違うけど、熟してきた感じがします。
――現時点で、ご自身が演じる役の印象、演じる時に大切にしたいことを教えてください
永嶋 難しいですね。稽古してみんなで話しながら作っていくしかないので。構想メモを読んだ時は、面白そうだと思いました。この話がどうなっていくか興味があるし、翻弄されたいです。役の印象も、どうしていくか考えている状況。でも、すごく平たく言うと以前出演した「さえなければ」の役とそんなに遠くない、諦念がある役かなと。行方不明の妹を探し続けている人なので、時間の蓄積みたいなものを自分の中にどれだけ持てるかは課題だと思います。
安西 本を読みながら、これは面白そうだと思いました。柊吾も言うように、物語がここからどうなっていくかみたいな面白さもあるので、極力おもんない芝居をしたいという思いがあります。
永嶋 言ってること、俺はすごくわかるけど、伝わらないと思う(笑)。
タカイ 「おもんない芝居」をもう少し説明しないと誤解を生みそう(笑)。
安西 言葉や物語に力があると思うので、芝居は本当に削ぎ落とした方がいいと思います。役としては、台本を読んだ印象はあるけど、「こういう人間だから」と決め付けないように。人間、環境や状態で人格が変わると思うので。関わる人たちそれぞれのイメージはしっかり持ちつつ、それ以外は決め付けずにやっていきたいです。
菅井 私が演じる小木は、9年止まっていた空間に外から入ってきて、客観視できる唯一の人物。それぞれが自分の思う正しさを持っているからこそ、会話が噛み合わなかったり、でもそこに人間味を感じたり。私もまだ模索中なので、決め付け過ぎずにやりたいです。稽古中に、意外と幼いところがあるとか、逆に鋭い部分もあるとか、色々な表情が見えてきているので、その都度、ちゃんと反応できるようになるのが理想です。

カンパニーのコミュニケーションを大切にできたら
――お稽古が始まって数日とのことですが、現時点でのカンパニーの印象、タカイさんから見た三人はいかがでしょう?
タカイ 永嶋さん・安西さんとは旧知の中なので、想像通りの安心感があります。だからこそ柊吾くんとは新しいものを生み出さないとという思いもありますね。安西さんは1回目にご一緒した時よりも僕を信頼してくれる感じがしますし、僕も安西さんのことを少しはわかったつもりでいるので、2回目にふさわしいものをお見せしたいなと。今までご一緒した中でもかなり信頼しているお二人に、初舞台の菅井さんをお招きできたのは、彼女にとっても良かったと思います。稽古をしている中で、白いキャンパスみたいな人ってこんなに吸収するんだという驚きもあります。すごく面白い組み合わせなので、このキャストならではのものが生まれたらいいなと思っています。
永嶋 慎太郎が初舞台の時に一緒にやって、そこからもう14年なので、シンプルに共演が楽しみです。その時の舞台がどんな感じだったか、僕はもう思い出せないんです。二度とない時間というのはいいなと思いながら稽古しています。コミュニケーションの中で、三人でどんどん高いところに行けたらと思っています。
安西 昨年柊吾と会った時、今この人とやらないとダメだと感じました。本読み当日に脚本をもらって、何もわからないまま読んだ時に、「この人がいたら大丈夫だな」という感覚があって。今回の座組でキングとしてあり続けてほしいなと思います。菅井ちゃんはすごくガッツがあって、人間としての根性は僕らよりあるんじゃないかと。僕や柊吾やタカイさんみたいに捻くれていないから、すごく吸収して、どんどん伸びていくんじゃないかと思います。タカイくんの脚本は、前回ご一緒した時よりも言葉がスッと入ってくる印象を受けました。
菅井 今もまだ緊張していますが、みなさんが癒しの空気を作ってくださっているので居心地がいいです。のびのびできたらいいなと思っています。タカイさんの脚本は、私はまだ一度読んだだけじゃ理解できなくて……。
永嶋 大丈夫、みんなそうです(笑)。
菅井 色々教えていただく中で、パズルのピースがハマるように理解できる瞬間があると思います。そうするとお話の鮮やかさがもっとわかると思うので楽しみです。柊吾さんは、目立つことはしないのに引き込まれる。言葉もスッと入ってきます。伝えようとしなくても伝わる何かがあるのは勉強になりますし、お二人の演技を間近でこんなに長い時間見る機会は中々ないと思うので、たくさん学びたいです。
――菅井さんが稽古の中で特に学びたいスキルなどはありますか?
菅井 色々なところに手を出して中途半端にはならないようにしたいと思っています。毎回たくさんの発見がありますが、それを吸収して自分のものにするのは簡単じゃないと思うので。とにかく、その場で来たものを素直に受け取りたいです。
――永嶋さん、安西さんがお稽古で楽しみにしていることはありますか?
安西 今回は役者三人ということで、それぞれの演技体があると思います。自分とは異なる演技を見て一緒に稽古すること自体に価値があると思っているので、それが一番の楽しみですね。
永嶋 さっき慎太郎が「おもんない芝居」という話をしたのは、奇をてらったり作為的に作ったりしないということだと思いますが、三人ともそういられたらいいなと。嘘をつかずに三人でいられれば、きっとすごく面白いものになると思います。
今回だけの作品を、お客様とも共有できたら
――タカイさんから、これまでのお稽古を経て、いかがでしょう
タカイ まだ台本を書き終えていない(現在はすでに完本済み)ので、自分自身安心はできませんが、焦り過ぎず、クオリティを担保したまま完走したいと思っています。今まで書いてきた中で誇れるものにしたいですし、仮にこれで演劇活動を終えても後悔しない作品にしたいです。三人のことはとても信頼しているので、面白い本を書いた上で、僕ら四人と信頼できるスタッフのみなさんでどこまでできるかですね。
――菅井さんのファンの方など、舞台を初めて見る方もいらっしゃると思います。その方々に向けて、どんなものを受け取って欲しいか、どういった心持ちで見にきてほしいか教えてください
タカイ 僕の芝居は、西洋医学というよりは東洋医学の漢方のようなものだと思っています。人生を瞬間的に元気にすることはあまりないかもしれないけど、体の芯がぽかっと温かくなるような、人生のお守りになったらいいなと。そんなに難しい芝居ではないので、ただただ見て、感じてもらうものが全てだと思います。
――最後に、楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。
菅井 私も舞台をたくさん見てきたわけではなく、映画などよりも少しハードルが高い気はします。でも、同じ空間に集まった人たちと、見るもの、聞くものだけじゃなく匂いや空気感を味わい、心を動かして、それを共有できるのは舞台だけの魅力だと思います。しかも、今回共演するお二人は演技が本当にすごいので。お客さんとの距離も近くて、だからこそ感じられるものもあると思います。少しでも気になったら、気軽に足を運んでいただきたいです。
安西 菅井ちゃんの「初舞台」は今回しかない。一期一会なので、この作品を見つけた方はぜひ観に来てほしいです。劇場は下北沢の「楽園」。飲み屋もたくさんあって、観劇の後も楽しめます。あと、さっきタカイさんが東洋医学の話をしているのを「なるほど」と思いながら聞いていたんですが、「難しい風」なんです、いい意味で。
タカイ・永嶋 (笑)。
永嶋 「いい意味で」ってつけたら何言ってもいいわけじゃないよ(笑)。
安西 描かれていることは難しくない。タカイ作品の空気は、ぜひたくさんの方に味わってほしいと思っています。
永嶋 劇場でお芝居をみるというのは唯一無二だと思います。その中で、この三人でやるに当たって、「芝居というより人生を見たな」と思って帰ってほしい。一生懸命やるので、ぜひ来てください。
タカイ ある程度の重さがある作品になるかもしれませんが、渡されたものを嫌な感じで持って帰ることにはならないと思います。重みをしっかり感じられるからこそ、帰り道が充実するような。フィクションだけど、みなさんの人生に寄り添えるようなものをお届けしたいと思います。僕らも楽しんで作り上げるので、豊かで楽しい時間を一緒に体験し、共犯関係になれると嬉しいです。
取材・文/吉田沙奈
