6月から8月まで東京・帝国劇場にて上演されるミュージカル『エリザベート』。
ウィーンで1992年に初演された本作は、自由を愛し、類なき美貌を誇ったハプスブルク帝国の最後の皇后エリザベートと、彼女を愛した黄泉の帝王トート=“死”の運命を描いた大ヒットミュージカル。
日本でも人気の高いミュージカル『モーツァルト!』や『レディ・ベス』を手掛けたミヒャエル・クンツェによる脚本・歌詞とシルヴェスター・リーヴァイによる音楽・編曲の作品で、日本では1996年に小池修一郎の潤色・演出によって宝塚歌劇団で初演され、その4年後の2000年に同じく小池の手により東宝版が初演された。
東宝版としては約3年ぶりとなる本作は、エリザベート役は2015年、2016年に続く3シーズン目となる花總まりと、宝塚歌劇団退団後の初舞台・初主演となる愛希れいか、トート役は花總同様3シーズン目となる井上芳雄と、2012年・2015年・2016年には皇太子ルドルフ役で出演してきた古川雄大が、それぞれWキャストで出演する。花總、愛希、井上、古川が揃い、合同取材会が開かれた。
――いよいよ2019年版の始動ということで、今のお気持ちや意気込みをお聞かせください。
花總「自分の中ではまだ先のような気がしていたのですが、今日こうして合同取材会をすることになって、いよいよ近づいてきたんだなというドキドキ感と、新たなメンバーで『エリザベート』をつくることができることにすごくワクワクしています」
井上「初舞台がこの作品のルドルフ役なので、僕にとっては故郷のようなホームのような作品です。新たなメンバーを迎え、新しい気持ちで、新しい『エリザベート』をつくっていけたらと思っています。昨今ミュージカルブームと言われて久しいですが、そんな日本のミュージカル界で、この『エリザベート』は独自の進化を遂げている大切な演目です。もちろん今までのファンの方には楽しんでいただきたいですが、“ミュージカルを好きになったけれども、まだ『エリザベート』は観たことがない”という方もたくさんいらっしゃると思うので、初めてご覧になる方々には、これが俺たちの『エリザベート』なんだ!というものをしっかりお見せしないといけないと思っています。『レ・ミゼラブル』には負けていられないなと(笑)。競う必要はないのですが、同じくらい日本を代表する演目になっていると思うので、しっかりとその矜持を持ってやりたいと思っています」
愛希「今は緊張の気持ちが大きいのですが、新しいことに挑戦できるという楽しみな気持ちと緊張が入り混じっております!」
古川「僕は2012年にルドルフ役を演らせていただいた時から、このトートという役に憧れていました。死ぬまでにできたらいいなと思っていたので、まさかこんなに早くチャンスをいただけるとは思っていなくて正直びっくりしております。できる限りのことをやって、今までにないトートを演じられたらと思います。また、芳雄さんがおっしゃったように日本を代表するミュージカルだと僕も思っていますし、自分自身の大好きな作品でもあります。今は、喜びだけでなく緊張やプレッシャーに襲われていますが、芳雄さんとWキャストでやらせていただくということで、勉強させていただきながら、楽しみながら、本番に向かっていけたらと思います」
――続投の花總さんと井上さんは今回、なにか新たなプランはありますか?
花總「それは秘密です(笑)。自分の中ではああしたいな、こういう風に持っていきたいなというものはありますが、だんだんそれが稽古中に変化していくかもしれないし、本番が始まっても初日から千秋楽にかけて変化していくかもしれないので。自分だけの楽しみと目標として、今は秘密とさせていただけたらと思います」
井上「僕もちょっとまだハッキリ言えないのですが、いつも思うのはトートという役は『死』という概念なので、哲学的なところも必要な役だということです。それは簡単に答えが出るようなものではないのですが、『死』を描くということは『どう生きたか』を描くということだと思うので、登場人物たちが生き生きと、苦しんだり楽しんだりしながら生きていく様子が、お客様に伝わるような死神であったらいいなって。そのテーマに関しては、今年も考え続けていたいなと思っています」
――愛希さんと古川さんは新キャストとはいえ『エリザベート』には縁が深いですが、今回オファーを受けられた時のお気持ちをお聞かせください。
愛希「この作品の大ファンでしたのですごく嬉しかったのと、宝塚歌劇団に在団させていただいていた時にエリザベート役をさせていただいているので、『もう一度挑戦できるんだ』という気持ちがありました。すごく愛されている作品ですので、責任があるな、がんばらなきゃなと思いました」
古川「前回、ルドルフ役で出演したとき、僕は千秋楽のカーテンコールで『ルドルフを卒業します』という宣言をしたんです。なのでしばらく『エリザベート』はやれないのかなと思っていたのですが、今回、トート役でというお話をいただけて、正直すごくびっくりしました。プレッシャーや不安のほうが大きいです」
――Wキャストでエリザベートを演じる花總さんと愛希さんが、お互いに抱いている印象を教えてください。
花總 「『マリー・アントワネット』を観に来てくださった時にご挨拶をしたのですが、その時、愛希さんは宝塚を退団された直後で、ほやほやの湯気が立ってる感じで(笑)。私にはもうない感じがしたんですけど…」
井上「あったらこわいですよ!(※花總の退団は2006年)」
花總「(笑)。それくらいのフレッシュさを感じました。今の今まで燃えていました!という感じの湯気で、懐かしいなという感じがしました」
愛希「お会いした時には本当に緊張していたので…。私は宝塚時代の花總さんの舞台をずっと拝見していたので、舞台上の“お姫さま”というイメージがどうしても強かった。でもお会いしたときに、すごく気さくに話しかけてくださって。明るくて笑顔が素敵な方という印象です」
花總「お姫さまではありませんでした(笑)」
愛希「ちがいます!お姫さまなんですけど、雲の上の存在だと思っていたので!」
花總「そのとき、和気あいあいとできたからね」
愛希「はい。うれしかったです!」
――冒頭でも井上さんからミュージカルブームというお話がありましたが、初めてミュージカルを観る方に『エリザベート』の魅力を伝えるとしたら、どんなところですか?
井上「魅力があり過ぎて『これです!』とズバッと言うのが難しいし、聞かれる度に違うことを答えると思うのですが、今思うのは『別世界』です。僕たちが普段生きている日常とは、国も違いますし、時代も違いますし、エリザベートという人は今の時代の僕たちから見ても魅力的でエネルギッシュで、そこにトートという『死』の世界観…実際には見えないものが加わって、ここにしかない世界ができあがっている。これがやっぱりすごい魅力なんだと思います。ちょっと違うところに身を置き、それによってリフレッシュして元の生活に戻っていく。そういうことが、すごく素敵にできる作品なんじゃないかと思います」
花總「この作品は本当によくできていて曲も大変素晴らしいのですが、決して幸せなお話ではなくて。ハプスブルグ家はなんとも言えない最期を迎えていくわけですが、エリザベート、フランツ、ルドルフ、ゾフィーという実際に生きられた方々の人間模様も決して幸せなものではないんですね。だけどそれを観た私たちはすごくいろんなことに共感し、考えさせられ、逆に希望を持てたりする。そういうものが『エリザベート』という作品には詰め込まれていると思います。たった3時間ですが、その何百倍も何千倍も感じることのある、素晴らしい作品だと思います」
愛希「花總さんのおっしゃったように、決して幸せなお話ではないですし、初めてならハッピーミュージカルの方が観やすいかな?と思う方も多いかと思いますが、この作品を観終わると、生きる勇気や明日からも生きようと思えるエネルギーをもらえると思います。是非初めての方にも観ていただきたいです」
古川「『美しさ』です。小池先生演出の世界観も美しいですし、トートというファンタジーな要素によってこの物語はより美しくなりますし、曲もダークな中に美しい旋律があります。そういう美しさは、『エリザベート』にしかない部分なのかなと思うので、そこが魅力だと思います」
――最後に一言ずつメッセージをお願いします。
古川「今回トート役でやらせて頂きます。限られた時間ですけれども、できる限りのことをして、今までにない新しいものを目指してがんばっていきたいと思います。よろしくお願い致します」
井上「またやれることがとても嬉しいです。それと今こうしてフランクに話させて頂いていますが、花總さんは日本で初めてエリザベート役を演じた方。そういう方とまた一緒にやらせてもらえることをありがたいと思っています。今回は愛希さんという、きっとまた全然違う新しいエリザベートを迎えますので、トートとしてはふたりを支えて……最後に命を奪いますけれども(笑)。しっかり支えつつ、奪いつつ。大きなカンパニーで長い公演ですので、作品のテーマとは裏腹に、最後までできる限り元気にやっていきたいなと思います」
愛希「この作品が大好きで、出演できることを幸せに思います。素晴らしいキャストの皆様と、そして花總さんとWキャストでやらせて頂けることを光栄に思うので、いっぱい学び、全力で取り組みたいです。どうぞよろしくお願いします」
花總「またこうして『エリザベート』という作品に、エリザベート役で出させていただくというのは、本当にありがたいことなんだなとつくづく実感いたしました。1回1回を大切に、心残りのないように、素晴らしいキャストの方々と一緒に2019年版の『エリザベート』を一生懸命つくってまいりたいと思います。どうぞ皆様、最後までよろしくお願いいたします」
インタビュー・文/中川實穂