【連載】『FUN HOME』大好きローチケ演劇部員が送る、FUN HOMEの楽曲解説企画第6弾!

『Telephone wire』

『Telephone wire』は、この作品の中でも大きなポイントとなる曲です。この曲から、これまで自分の記憶をたどって客観視してきた大アリソンが、ついにその記憶の中に入り込み、真実を見つめ直していくのです。

このシーンはレズビアンをカミングアウトしてから、初めての中アリソンの帰省を描いています。恋人のジョーンと共に帰省した中アリソン。父と交わされる不自然に明るく仲の良いやり取りから、お互いの戸惑いがうかがえます。
そんな中、父は中アリソンをドライブへ誘います。そして、2音の心地よいリズムから、ドライブを通して父と娘の本当の関係性を描く曲、『Telephone wire』が始まっていきます。

 

これまで外から自分を眺め、時にはツッコミを入れ、冷静さを保っていた大アリソン。ここで彼女は初めて実際に父と向き合い、記憶を体験していくこととなります。観客と同じ目線で物語を見ていた大アリソンが、物語の中に入り込んでいく。それにつられて観客も、より物語の中に引き込まれていき、これから始まる繊細でワレモノのような二人の関係性をより身近に感じることが出来るのです。

この曲のタイトルにもなっている、アリソンが大学に入って一人暮らしをしてから、父とアリソンをつないでいた黒い電話線。この電話線はアリソンと父の細く長い関係性をよく表しています。

ぎこちなさが満ちた車内。心ここにあらずといった様子で、父は昔の思い出を語り始めます。

「何か、何か彼に言わなくては!」

そんな父を見て、アリソンは漠然とした焦りと、父の脆さへの恐れを抱きます。ただ、ただ、父の目の奥にたたずむ恐怖を取り除きたい。その一心で、なんとかコミュニケーションを取ろうとしますが、父の心はまるでどこかに行ってしまったかのように、心を通わせることが出来ません。

父の弱さが、恐れが初めて娘の前に現れ、それに対し必死に抵抗するアリソン。娘だからこそストレートな言葉は何も言えないけれど、何とかして父を救いたいと願います。戸惑いながらも、言葉に詰まりながらも、不器用に、そして一生懸命に父への愛を表現していくのです。

※子供時代のアリソン=小アリソン、大学時代のアリソン=中アリソン、大人のアリソン=大アリソン

 

文/ローチケ演劇部員(有)

 

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