『Telephone wire』は、この作品の中でも大きなポイントとなる曲です。この曲から、これまで自分の記憶をたどって客観視してきた大アリソンが、ついにその記憶の中に入り込み、真実を見つめ直していくのです。
このシーンはレズビアンをカミングアウトしてから、初めての中アリソンの帰省を描いています。恋人のジョーンと共に帰省した中アリソン。父と交わされる不自然に明るく仲の良いやり取りから、お互いの戸惑いがうかがえます。
そんな中、父は中アリソンをドライブへ誘います。そして、2音の心地よいリズムから、ドライブを通して父と娘の本当の関係性を描く曲、『Telephone wire』が始まっていきます。
この曲のタイトルにもなっている、アリソンが大学に入って一人暮らしをしてから、父とアリソンをつないでいた黒い電話線。この電話線はアリソンと父の細く長い関係性をよく表しています。
ぎこちなさが満ちた車内。心ここにあらずといった様子で、父は昔の思い出を語り始めます。
「何か、何か彼に言わなくては!」
そんな父を見て、アリソンは漠然とした焦りと、父の脆さへの恐れを抱きます。ただ、ただ、父の目の奥にたたずむ恐怖を取り除きたい。その一心で、なんとかコミュニケーションを取ろうとしますが、父の心はまるでどこかに行ってしまったかのように、心を通わせることが出来ません。
父の弱さが、恐れが初めて娘の前に現れ、それに対し必死に抵抗するアリソン。娘だからこそストレートな言葉は何も言えないけれど、何とかして父を救いたいと願います。戸惑いながらも、言葉に詰まりながらも、不器用に、そして一生懸命に父への愛を表現していくのです。
※子供時代のアリソン=小アリソン、大学時代のアリソン=中アリソン、大人のアリソン=大アリソン
文/ローチケ演劇部員(有)