令和元年となる2019年夏、ブロードウェイミュージカル『ピピン』日本語版が上演される。1972年のブロードウェイ初演時から色あせない楽曲の数々や、新演出で更にブラッシュアップされたアクロバット演出などが満載のエンターテイメント作品だ。物語の主人公であり、<特別な何か>(=Extraordinary)を求めて自分探しの旅に出る若き王子・ピピンを演じるのは、舞台・映像とマルチに活躍する俳優・城田優。ニューヨークで観劇して圧倒されたというミュージカル『ピピン』の魅力、そして日本版への意気込みを聞いた。
――今回のお話を頂いた時、出演するという決断は早かったのですか?
城田「『ピピン』は以前ブロードウェイで観ていて、もちろん「あのピピンをやれるのか!」という気持ちはありましたが、即決ではなかったですね。「待て待て、一回落ち着こう」と(笑)。今回に限らず、即決ってことは僕のスタンス的にあまりありません。特にミュージカルへの出演は1年に1本、多くても2本と自分の中で決めているので、作品選びは毎回慎重にならざるを得ないです。と言うのも、僕は1年に何本もミュージカル出演できるような度量の俳優じゃないと思っていて。ミュージカルに愛があるからこそ、映像のお仕事や前後の役とのバランスなど、考えうる可能性を熟考して作品選びをするというのが僕のスタイルです」
――そんな城田さんが熟考の末に出演を決めた、本作の魅力は?
城田「まずなんと言っても、シルク・ド・ソレイユのようなダイナミックなアクロバット演出だったり、“ボブ・フォッシースタイル”と呼ばれる独特なダンスだったりと、視覚的に「Wow!」と魅了される要素が多いんです。ワークショップで少し踊ってみましたが、これがすごく難しい!手首足首をくにゃくにゃ動かす振りとか、最初は何が正解かもよく分からないまま踊っていました。でも観客として観たときには、その動きがちゃんとスタイルとして確立されているんです。
今回、僕がブロードウェイで観て感動した『ピピン』のプロダクションがそのまま来日するというのも魅力的なお話だと思いました。おもちゃ箱と中に入ったおもちゃはブロードウェイのまんまだけど、それを操る人間だけが変わる、みたいなとてもレアなケース。向こうの演出家、ダイアン(・パウルス)さんの演出を受けられるのもまたと来ない機会ですし、純粋にチャレンジしたいと思いましたね」
――ストーリーに共感する部分はありますか?
城田「“自分探し”の物語だから、誰もが自分に当てはめてみることが出来る作品だと思います。僕個人も、幼少期には日本とスペイン2つの国を行ったり来たりで、時には差別的な言葉を浴びさせられることもあったから、“僕は一体どこに行ったらいいの…?”という迷いは人より強く感じてきた方だと思うんです。アイデンティティ・クライシスって言うんでしたっけ。それこそピピンみたいに(笑)。
だから本作冒頭でピピンが自分の居場所を模索しながら歌う『Corner of the Sky』は非常に僕の経験ともマッチするし、そこから答えを探していく過程は誰にでも起こりうる“人生の岐路”みたいなものだと思うので、お客様にしっかりと作品のメッセージを伝えられるんじゃないかと思っています」
――『Corner of the Sky』では日本語訳詞も担当されているとか?
城田「今回みたいに翻訳もので自分がたった一曲だけ訳詞するというのも、常識から言ったら「違う」かもしれないんですけど、紆余曲折ありまして…(笑)。結果的に『Corner of the Sky』に関して、歌詞を考案させて頂くことになりました。
英語詞のこの曲は、自分のアルバムやコンサートなど色々な場面で歌わせて頂いているのですが、やっぱりオリジナルの英語の響きやリズム、ライムする(韻を踏む)感じが気持ちいいし、歌詞も英語ならではの比喩表現が素敵でとても好きな曲なんです。その原曲の良さを生かしつつも、日本人が初めて聴いたときにスッと入ってくるメッセージにしたい、それに響きも韻も大切にしたい…その限界のところを攻めるというのが、訳詞する上で大事にしたポイントですね」
――本作の音楽的な魅力は?
城田「50年ほど前に作られた音楽ではありますけど、どの楽曲もそう感じさせない“今っぽさ”を持っていて、センスあるなと思います。クラシカルとも言えないけど、王道の楽曲もあるし、キャラクターによっても歌の温度感や質感、世界観が変わっていくんです。例えばリーディング・プレイヤーの曲はちょっと不気味で、(聞いている側も)自然と感情が伴う気がする。シーンごとに景色を想像させる音楽性は素晴らしいと思います」
――オリジナルの良いところを残しつつ、自分のオリジナリティを出していきたいところは?
城田「お芝居に関して言えば、オリジナルから研究して何かを盗むという意識は一切ないです。むしろ自分が感じたままの芝居をして、それが演出家にどう捉えられるかを試してみたい。もちろんオリジナルの物語の良さを壊さないという前提はあるけど、新しい概念で、僕という役者が生み出すキャラクター・ピピンを作らなきゃいけないと思っています」
――今回ピピンを演じることは、ご自身にとってどんな挑戦になりますか?
城田「舞台上への登場と同時に、ビックナンバー『Corner of the Sky』を歌い出すそのメンタル…これが挑戦ですかね(笑)。緊張度MAXの状態で、とてつもなく穏やかかつ力強い歌を歌わなければならないんです。楽曲最後の音は“hiC(ハイツェー)”という女性キーの音をロングトーンで出すので、もちろん技術も必要で。そういう、すごく細かい部分も頑張らなきゃなと思っています」
――登場する前、そんなに緊張されているんですね。
城田「どの作品でも僕は常に緊張するタイプなんですよ。ピピンは今まで演じたどの役よりも、自分の緊張をコントロールしないと演じられない役。これが出来るか否かで、今後の俳優としての取り組み方が変わってくるなというくらい、僕の中では本当に大きなチャレンジになると思っています。だから実は、ピピンを演じるのが恐いと感じる部分もあるんですよね。毎日続くプレッシャーに打ち勝てるかどうかが、僕にとっての今回の挑戦ですね」
――舞台に立つ前、ルーティンでやっていることは何かありますか?
城田「昔は、ある決まった曲を聴いてからじゃないと出来る気がしなかったのですが、ある日ミュージックプレイヤーが壊れてパニックに陥ったのをきっかけに、願掛け的なことは全部やめました(笑)。いま本番前にやっていることと言えば、目を閉じて深呼吸をすることと、誰かに背中を思いっきり叩いてもらうことくらい。共演者やスタッフさんに、毎公演「お願いします!」って(笑)」
――叩くのは誰でもいい、というのが良いですね(笑)
城田「“誰か”を決めちゃうと、その人がいなかったときに「ヤバイ、あの人がいない!どうしよう!」ってなりますからね(笑)。誰でもいいって言ったら失礼ですけど、そのチームの方であればチームの力になるので。これだけはここ数年ずっと続けています」
――そんな緊張を乗り越えて城田さんがこの作品に挑む姿、ほんとうに楽しみです。本日はありがとうございました!
取材・文/ローソンチケット