読売テレビプロデュース『わたしの星』作・演出:柴 幸男 インタビュー

読売テレビプロデュースによる舞台「わたしの星」が、8月15日(水)~23日(金)、読売テレビ 新社屋 10hall で上演される。「わたしの星」は、劇作家・演出家の柴幸男が、岸田國士戯曲賞受賞作「わが星」の世界観をもとにした作品。火星移住が進み、過疎化した地球を舞台に、文化祭の準備に明け暮れる高校生たちの一日が描かれている。同作は柴が、2014年、2017年に東京の高校生、2018年に台湾の高校生と共に創作し高い評価を得た。今回は、場所を大阪に移し、オーディションで選ばれた高校生のキャスト&スタッフとともに新たな物語が紡がれる。柴に、高校生との舞台作りについて話を聞いた。


――まず初めに、柴さんと演劇との出会いを教えてください。

「僕はもともとはお笑い芸人になりたかったんです(笑)。でも才能がなくて諦めて、次に何をやろうかなと思ったときに、テレビで三谷幸喜さんのドラマを見て、すごく面白いものを書かれる方がいるのだなと思って。それが中学3年生のときです。それで、脚本家がいいなと思い、演劇部がある高校を探して受験し、そこに入って台本を書き始めました」


――ご自身が高校演劇から始まったことや、高校で柴さんの作品が上演されていることもあり、高校生と芝居を作ることに興味を持たれたそうですね。

「そうですね。5年前に『わたしの星』というタイトルでキャストの高校生をオーディションで選んで作り、東京の三鷹にある劇場と組んだのが最初です」


――大阪は演劇自体がマイナーなので、高校生がプロの方と組んで何かを作る企画はめったにないのですが、いかがですか。

「オーディションでは演劇経験は問わないので、興味があって初めて演劇をする人、興味はあったけどバンド活動しかやっていない人など、面白い人たちに残ってもらいました。だから、どうしてセリフをある程度大きい声で言わなければいけないかから説明するんですよ(笑)。『ボソボソ言ったら、手前の3、4人の人にしか伝わらないよ。今、ここで、あなたが言ったセリフで相手の一言があって、そこから話がつながっていくんですよ』というところから始めるのは、ある種、新鮮ですよね。なぜ、セリフを伝えないといけないか、どういう風に見せたら面白いかなどを、全部ちゃんと理由も含めて説明していくという作業は、自分が何を考えながら演劇をやっているのか気付かされることでもあるんです」


――今回、どういうところを見てキャストを選ばれたのですか。

「キャスト12人で作るということは決定していたので、最低限のチームプレイができる人。最低条件は、一緒に仕事ができる、相手や僕を信頼して何かを作っていく姿勢や態度がある人ですね。そこからさらに、その人にしかない個性、魅力を持っている人。今回12人の中で、12色の絵具があったほうが色んな絵が描けるので、個性が重なり合っていない人たちに残ってもらいました。あとは、最低限台本が読めて、演技ができれば。ある程度できれば、稽古していく中で上手になっていくので、そういうところを見て選びました」


――大阪の高校生はあっけらかんとしているそうですね。ええかっこしいじゃないということでしょうか(笑)。

「そうですね。僕が関西出身じゃないから感じるのかも知れませんが、関西の人はズバズバものを言う(笑)。身内同士でも思ったことを何でも言い合っていますし、演技自体も人からどう見られるかというのがねじれていない」


――きれいに見せようとしないということでしょうか?

「いや、むしろ分かりやすく、きれいな人は『私はきれいなんです』と立ってくれるんです(笑)。ねじれていないで、ちゃんとストレートに言ったりやったりしてくれる。すごく作りやすいですね」


――関西なので、「面白いこと言って笑わしたろ」というノリもあるのですか。

「あります。東京の子たちは、そこがちょっと一周回っていたりする。それをそのままやるのはちょっと、と王道は避けて何かしようとする傾向があったんですけど、大阪の子は王道で何か見せたい。面白く、かわいく見せたいという子が多くて、分かりやすいですね(笑)」


――ベタなギャグなどが多いですから、大阪人は王道が好きなのでしょうね。

「そうなんでしょうね(笑)」――もともと柴さんの戯曲「わたしの星」がありますが、今回は、それをどういう風に変えていくのでしょうか。

「今回は、福井からオーディションを受けに来て、合格した女の子がいるんですけど、彼女だけ地元で地震があって引っ越してきたという設定にして、皆が関西弁の中で一人、福井弁をしゃべります。また、マイケル・ジャクソンや、あの年代のファンクやジャズ、ブラックミュージックが好きな男の子のキャストが一人いるんです。高校生で渋い趣味ですよね(笑)。彼はダンススクールに通ってボイストレーニングも受けている。舞台では未来の高校生が登場しますので、彼はマイケル・ジャクソンに憧れているけど、誰にも理解してもらえず、変人扱にされているというキャラクターにしました」


――ほかもそれぞれに話を聞いて、個人のエピソードを取り入れたキャラクターにしているのですか。

「そうですね。ゴールデンウィーク中に集中稽古をして、そこで聞いた話やリアクションを見て台本を書きました。例えば、オーディションの時に、皆に好きなものを一分間言ってもらうことをしたんですが、皆、音楽やアニメ、スマホなどと言うのに、トマトを自分で育てて食べたという話を延々とするトマト好きな子がいたんです。その子のキャラクターはそのままトマトを育てている子です(笑)」


――面白いですね。

「恋に悩んでいる人、家族関係に悩んでいる人、友情に悩んでいる人などは、もともとの台本の中にキャラクターとしてあったので、誰にその役を担ってもらうかを、ゴールデンウィークの稽古を見て割り振りました」


――セリフはどうなるのでしょう。

「台本は一回、僕が書いたものを福井弁や関西弁、それぞれが言いやすいように変えてもらっています。言いにくいセリフの場合は、言い方を変えてもらったり、言う人を変えたり、無理に直すより、皆がやりやすいように作り変えています


――柴さんは愛知ご出身で、関西弁のセリフには苦労されましたか。

「ゴールデンウィークの後に、関西弁で台本を書き始めたら、自分でも気持ち悪かったので(笑)、あえて、標準語で書いて、後でキャストに直してもらいました。僕には分からないんですけど、京都、滋賀、大阪は言葉が違うと言われちゃうので(笑)、それぞれが言いやすいように変えてもらいました」


――ラップのシーンもあります。

「ラップは、ウォーミングアップ兼、その人の個性を知る手段だと思って。最初に自己紹介のラップを皆に宿題で作ってきてもらったんです。そこから台本にある言葉をラップにしてもらい、劇中に取り込んでいます」


――今の高校生はすぐラップを作れるのですか!世代を感じますね(笑)。

「できます、できます。やっぱり、世代じゃないですか。皆、生まれたときからラップは聞きなじんでいる音楽ですから。楽器演奏も今回はやってもらうんですが、歌やダンスみたいに、気軽な気持ちで皆、やってくれる。抵抗感がないんです」


――ラップやダンスなどがもっと身近にあって、人前で見せることに躊躇しない。

「そんな気がしますね。僕は2000年代からラップが好きで、ラップを劇に取り入れているんですけど、世代が上の俳優さんたちは、伝えても、なかなかうまくできなくて、ラップをするためのワークショップをしたんです。でも、若い人には説明する必要がない。遊びでやっている感覚が大きいですね」


――演技の指導のときは、何を一番大切に教えていらっしゃるのですか。

「嘘をできるだけ少なくすることが大事だと言っていますね。どうしても、経験がない人は、全部作ってきて、いかに完璧な嘘を見せるかと考えてしまうのですが、それで舞台に上がると嘘臭い、作りものになってしまう。セリフや動く場所も決まっているけれど、その中で、本当に驚いたり、楽しい場面は、自分たちが本当に楽しめるように工夫をしたりして、できるだけ本当のことを見せていくように考え方を変えてもらう。そこは最初から言っていますね」


――皆さん、セリフを言う時に、芝居がかった口調にはならないのですか。

「面白いのは演技経験がなくて、最初から自分の素のまんま、舞台にポンと出ちゃう人が、12人の中にいるんです。そんな子は皆がガチガチに台本を気にしているのに、自由に動き回り、その子に引っ張られて、皆、反応したり、影響を与え合って、自分の演技スタイルをそれぞれが見つけています」


――12人いれば、12通りあるのですね。

「12人いれば、あんなことしていいんだ、こんな風にしたら面白い、逆に何もしていないのに、すごく集中して見せられるなど、お互いが影響を受け合っていますね。演技の経験を積みはじめたばっかりで、すごく楽しいでしょうし、僕も高校生たちが演技がうまくなり、自由になっていくさまを見るのはすごく楽しいです」


――高校時代の3年間は、多感で特別な時期という気がします。

「人間という生き物として、肉体的にはピークかピークを迎えている時期だと思うんです。精神的には大人になりきれないけれど、自我や他人のことを考えられるようになれる。肉体的にも精神的にも、ここまではもう戻れない。特別な時間だと感じますね。まだ精神的に幼い子もいれば、早く自立している子もいる。全員一律で同じ感覚ではなく、すごくバラバラ。この時期を超えると、皆、方々に飛び散って、もう二度と出会わない。バラバラに行く人たちが偶然にも高校生という枠組みで舞台上にいる。すごく不思議な時期ですよね」


――ところで、柴さんの戯曲「わが星」は、命が流転していくさまや死生観が表れた素晴らしい戯曲です。何か仏教や哲学的なものを感じたのですが。

「アメリカの劇作家ソートン・ワイルダーの『わが町』という作品に影響を受けていまして、それは死生観が色濃く描かれていますが、キリスト教的観念ですよね。僕は仏教を題材に劇を作ったこともありますが、日本人はもともと無常観を持っていると思うんですよね。『わが星』は、死後、どういう風になるかということを考えながら作った作品です。星が死ぬということはどういうことか。それは何億年というあまりにも長い時間で、人間の一生なんてあまりにも一瞬です。その比べようもなく遠いものや、短いものを織り交ぜて、人間は自分の寿命以上のものは見られないけれど、もし、見られたらどうなるのだろうということを考えて作りました。命の初めや終わりを感覚として伝えられるような戯曲にしたつもりです」――「わたしの星」は「わが星」がベースになっています。今回も死生観が感じられる作品になっているのですか。

「過疎化した地球から火星に転校していく高校生を描いています。生まれてから死ぬまでという長大な時間よりも、高校時代の特別な時間、先ほど言われた、高校の特別な時間は振り返ってみて何だったのか、そういうことを考えられるような時間感覚の劇にしたいと思っています」


――このサイトの読者は30代や40代が多く、皆、高校時代は遠い昔なので(笑)、懐かしく感じられると思います。

「高校生とやっていていつも思うんですけれど、彼・彼女らは未来そのもので、まぶしく見える(笑)。高校生の可能性や未来は武器です。僕も30代後半に差し掛かり、新しいことを3年間やってみたら何でもできるような気がするんですが、やれないですよね?それは、ある種、思い込んでいるだけで、僕らも想像力を使って、肉体的には老いているかもしれませんが、高校生の感覚をもう一度、取り戻して、新しいことができるはずだと思っています。そんなことをお客さんにも考えてもらえれば。高校生が初めて芝居を経験してひと夏で舞台ができたように、大人も何かを始めてみたらと思います」


――また、観客がそれぞれの高校時代にタイムスリップできそうですね。

「キャラクターが12人いるので、きっと自分はこういうヤツに似てたな、友達にこういう子がいたなと思ってもらえるように、頑張って作っています。自分の高校時代のことを考えつつ、見ていただくのがいいかなと思いますし、2019年の今の大人たちへのメッセージも入れたいです」


――高校生と一緒に舞台作りをして、日本の演劇界に可能性を感じましたか。

「僕はプロの役者を育てたいわけではなく、今後、演劇を経験した若者が、ちらばって色んなところで仕事をしたり、誰かと関係を作ってくれることで、何かいいことが起こるんではないかという予感はしています。ラップやダンスみたいに、演劇もパッとできるよねという感覚になってほしいなと思いますね。社会や演劇界がそこで少しは良くなるのではないかという希望を込めて、今回は演劇スタッフも含め約20人の高校生を入れて育てています。今後、高校生たちがどんな場所で今回得たものを発揮してくれるのか、非常に楽しみですね」


――今のところ、皆さん、どんな感覚を味わっているのでしょう。

「楽しさと難しさを両方味わっていると思います。今回は、僕が作・演出ですが、これを経験した高校生は、演劇を知らない人に教えられる立場になれる。そのぐらいの経験は積んでいると思いますので、ぜひ、有効活用してほしいです(笑)」


――柴さんにとって、演劇とは今、どういうものですか。

「不思議ですね…。仕事なんですけど、考えるための手段と感じます。僕が普段、悩んでいることや迷っていることを、演劇を使って、ずっと考え続けている。そういう感覚はすごくありますね。ものすごく大金をもらったら、演劇をやらないかも知れないですけど(笑)、何かものを考えるときに、こういうことをテーマに演劇を作ってみたいと、お金では得られない価値をすごく感じています。それを、他人としなきゃいけないのは、面倒くさいんですが、面白いですね。演劇がなかったら、僕は人とできるだけ関係を持たないように生きてきたと思うので(笑)、僕が社会生活を送ることができるありがたい方法の一つですね」


――15日から始まる舞台が楽しみです。

「今年も暑い夏ですが、舞台上は、高校生たちが熱を入れて演劇をしています。二度と再現できないメンバーと作品になっていますので、ぜひ、見に来ていただきたいです。お客さんが舞台を挟む作りになっていますので、一人一人との距離が近い。色んな方向から舞台を見ていただけるので、よろしければ、何回でも見て、何かを感じてもらいたいです」

 

取材・文/米満ゆうこ