『魔界転生』取材会 浅野ゆう子 インタビュー

山田風太郎の人気小説を原作に、多彩なキャストで映画や舞台化されてきた『魔界転生』。今回は、堤幸彦が演出、マキノノゾミが脚本でタッグを組み、大スペクタクル時代劇となって舞台にお目見えする。このコンビでの作品は、2016年に映画公開と舞台再演を同時期に行った『真田十勇士』が記憶に新しい。『魔界転生』は、死者再生の術によって、天草四郎をはじめ、宮本武蔵、淀殿ら歴史上の有名人物が〝魔界衆〟となりこの世に蘇る。幕府への復讐などさまざまな思惑を持った魔界衆と戦うのは、剣豪の柳生十兵衛を中心とする〝柳生衆〟だ。十兵衛を上川隆也、四郎を溝端淳平、十兵衛の父・宗矩を松平健、そして、淀殿を浅野ゆう子が演じるという豪華キャストにも注目が集まる。浅野が来阪し、作品への思いを語った。


――まず、役柄について聞かせてください。

浅野「今回は、原作にも深作欣二監督の映画にも登場しない淀殿を演じます。私は舞台版『真田十勇士』の2016年の再演で淀殿を演じました。『魔界転生』では、『真田十勇士』から役がつながっておりますので、淀殿の人物像は、この『真田十勇士』をご覧になった方には分かっていただけるかと思います。真田幸村への思い、息子の豊臣秀頼への思いは、前作からつながったまま怨念として描かれています。私としては、壮大な大河ドラマを演じさせてもらっているような気分ですね。淀殿が亡くなってから甦り、長いスパンのキャラクターとして描かれているので、とてもうれしいです。生きている人物ではありませんが、パワーアップし、妖怪妖怪したおどろおどろしい人物として再登場します(笑)。ちょっとデフォルメして楽しく演じられたらいいなと思いますね」


――心持ちは前回とは違いますか。

浅野「そうですね。『真田十勇士』では淀殿の息子の秀頼役と根津甚八の二役だった村井良大君が今回は根津甚八役だけでの登場となります。キャラクターとしては『真田十勇士』とつながっていますが、親子役ではないので、新たな作品として考えたほうがいいのかもしれませんね。ただ、マキノ先生は、『今回、淀殿は成仏する』とおっしゃっていました(笑)」


――前回からつながっているとおっしゃいましたが、今回、淀殿は魔物です。そういった部分では、やはり違いますか。

浅野「人ではありませんが、堤監督曰く『マキノ先生は当て書きしているね』と。私は魔物的なんでしょうか(笑)。本当にこれ、私でいいんでしょうか? 私、こんなにおいしい役をいただいていいんでしょうか?と思うぐらい、面白く、色んな顔と色んな芝居が要求される役です。役者冥利につきます。ありがたいですね。演じるのがすごく楽しみです」


――結構、グロテスクなシーンもあるようですね。浅野さんがああいうことをされるのかなと、ちょっと驚いたのですが(笑)。

浅野「やります(笑)。常々、堤監督の映画に出していただくときは、テレビドラマの『SPEC』シリーズでもそうですが、人ではない魔物的な役が多いので、今回も魔物要素をふんだんに演出してもらえると思います」


――魔物を演じるにあたって、いつもどう準備されているのですか。

浅野「アハハ(笑)。準備って(笑)。コメディではないので、シリアスに考えないといけないんですが。怨念があるがために、甦ってしまったという気持ちをきっちりと根底に持って演じられればと思っています。まだお稽古が始まっていないので、はっきりとは言えないのですが、衣裳やメイクもすごい感じになるそうです。ビジュアルからお客さまに役に入っていただける形で、分かりやすく作りたいと思っています」


――堤さん、マキノさんと組む魅力は何ですか。

浅野「堤監督は、世代が非常に近くて、よく昔の話をします。堤監督は、昔、歌番組をなさっていて、私も一応、歌手でしたので(笑)、昔の歌番組の話ですごく盛り上がるんですよ。芝居でも、その世代でないと分からないギャグをふんだんに入れてくるんです(笑)。例えば、ゴルフのスイングをしてローラー・ボーとか言ったりするんですよね。お若い方にはわかりませんよね (笑)。そのようなギャグがたくさん入ってきますが、映像を見ると、なるほどねと納得するような使い方なんです。私の想像を絶するようなアイデアなんですが、堤監督はきっちりと組み立てて演出されている。マキノ先生は、『真田十勇士』で初めてご一緒させていただいて、『魔界転生』は、私のキャラクターを分かった上で描いてくださっていると感じました。マキノ先生の愛をいただいているなと。今回は、『真田十勇士』よりもパワーアップした淀殿であり、そこに私が負けないように演じなければと思っています。堤監督とマキノ先生の愛を強く感じますね」


――キャラクターのどこが浅野さんと似ているのでしょうか。

浅野「『真田十勇士』のときも、すごく素敵な淀殿を描いていらっしゃったんですが、どうしても私は堤監督寄りになって、お客さまに笑っていただきたいという思いが前面に出てしまって(笑)。マキノ先生は、そこをよく見てくださっていて、『今度やるときは、こういう風にしたいね』と。そこが今回反映されていると思います。淀殿の登場のシーンは皆さんがアッと驚くような、とても華やかな登場の仕方なんですが、私ならやれるだろうと思って書いてくださったのかなと感じます。妖怪なので、ある人を取り殺すというシーンがあるのですが、その殺し方も普通ではない。お客さまに笑っていただき、妖怪として暴れて、息子を思う切ない母親も演じさせていただきます。色んな色をたくさん要求されている。今回、私は一番幸せな役をいただいているのかも知れません」


――淀殿は、今まで色んな女優さんが演じてきて、お転婆で気が強いというイメージが一般的だと思います。今回は、それにプラスして怖い面も感じました。当て書きだと聞いて、浅野さんは「私、こんなに気が強くて怖いのかしら」と思われませんでしたか。

浅野「アハハ、それはないです(笑)。マキノ先生が『真田十勇士』の私をきっちり見てくださったんだなと感じました。淀殿はかわいい方。かわいいからあんなに秀吉に愛されたと思うんです。そのかわいい部分は私には欠落していると思うんですけど(笑)、このたびは、魔界衆の一人ですから、かわいい面もあざとくデフォルメして演じても許してもらえるかなと思います。一般的な淀殿ではなく、魔界の淀殿だと思い、私寄りにしてしまおうかと思っています。お稽古に入るのが楽しみですね。一旦、演じて、監督に見てもらって、削いで肉付けしてもらいたいですね」


――かなりチャーミングな淀殿になりそうですね。

浅野「私ですよ。無理です(一同笑)」


――堤さん、マキノさんコンビの『真田十勇士』『魔界転生』は、スペクタクル時代劇と呼ばれています。そこはどうお考えですか。

浅野「映像の堤監督が演出されるからこその堤ワールドですね。映像を駆使し、また映像でもすごいなと思う、リアルな殺陣を舞台に持ってくる。おいしいところ満載の舞台だと思います。舞台は舞台にしかできないことがあるんですが、プラスアルファの映像の力もありますので、本当にお得だなと思います。もう、キャストの皆さんは殺陣のお稽古に入られていて、すごいという噂ですよ。松平健さんだけは、制作発表のときに『そんなにすごいの?』と私にコソッと聞かれ、『若い方達は、すごいんじゃないですか?』と答えたら、『本当に?』と年齢のことを考えて心配していらっしゃいました(笑)。松平さんはとても素敵な先輩ですし、姿も立ち回りも美しい方です。その殺陣を連日、間近で拝見できるのはとても楽しみですね。私もお客さまの中に混じって松平さんの美しい殺陣を見せていただくという気分です」


――『魔界転生』は深作欣二監督の映画のイメージが強い人が多いかと思います。その観客に、舞台版はここが違うと言うなら、どこでしょうか。

浅野「映画も素晴らしかったですよね。今回は、細川ガラシャというキャラクターが見せた、色っぽい、セクシーなシーンは皆無なんです。でも、天草四郎の姉を演じる高岡早紀さんが色っぽい方ですので、そこは大丈夫かなと思います(笑)。
映像は平面ですが、舞台は、手が届きそうなほどの立体感がありますよね。お客さまと同じ空間の中で、同じ時間の流れや空気の流れを感じて演じている。その臨場感は何物にも代えがたいですね。それに加えてこの度は、プロジェクションマッピングもふんだんに使うということで、映画とはまた違う世界感になると思います。殺陣も含め迫力は、映像よりも舞台のほうが絶対にあると『真田十勇士』の時に肌で感じました。また、映像はOKテイクだけを見ていただきますが、舞台は全部じゃないですか。私は悪い癖で、切られた人がどうやって舞台からはけていくのかつい見てしまうんですけど(笑)、そういう楽しみ方もありますよね。今回はさらにパワーアップして、舞台ならではのすごさを感じてもらえると思います」


――ところで、大阪といえば、淀君の墓が太融寺にあるのですが、お墓参りはされましたか?

浅野「まだなんです。でも『真田十勇士』のときも行っていないので、大変、失礼なことをしたと思っています(笑)。行ったほうがいいですよね?以前、上川隆也さんと大河ドラマ『功名が辻』でご一緒したときに、寧々様の役だったんです。そのときは、放送も撮影も終わってから、寧々様のお墓がある高台寺にお参りに行ったら、高台寺の方に『終わってから来る人は珍しいですね』と言われたんですよ(一同笑)。今回は、先に行かなきゃいけませんよね。もし、太融寺に行ったら、淀殿には『私が書いたわけではありませんので、お許しください(笑)。でも、出来る限り、素敵な淀殿を演じたいです』とご報告したいですね」

 

取材・文/米満ゆうこ