舞台『相対的浮世絵』青木豪・山本亮太(宇宙Six/ジャニーズJr.)・伊礼彼方 インタビュー

2004年に土田英生の作・演出で上演され、2010年にはG2演出で再び上演された傑作コメディ『相対的浮世絵』。同作が、バラエティに富んだ作品を手掛ける気鋭演出家・青木豪の新演出で新たに上演。キャストは今作が単独主演2作目となる山本亮太(宇宙Six/ジャニーズJr.)のほか、伊礼彼方、石田明(NON STYLE)、玉置玲央、山西惇という布陣だ。世代やキャリアなどもバラエティに富んだ5人がどんな化学反応を見せるのか楽しみな同作について、演出の青木、山本、伊礼に語ってもらった。


山本
「再演されるほどみなさんに愛された作品ということなので、演じる側として、もちろんプレッシャーはあります。僕は少人数の舞台に立つのが初めてなので、どういう感じになるのか、正直予想がつかない部分もあります。これまで出させていただいた大人数の舞台では役者の人数が多いぶん、ほかのキャストに頼ることもできましたが、今回はそういう意味ではある意味、逃げ場がないですから」

伊礼「逃がさないよ(笑)。僕は(青木)豪さんが手がけられる作品で、しかも5人芝居だと聞いて、ぜひやりたいと思いました。4人はそれぞれ実力のある方々なので、みなさんにも頼りながら作り上げていきたいですね。作品自体は再演ですが僕らにとっては初演なので、新しいものとして」

青木「僕らにとっては初めてだからというのは本当にそのとおりで、まず、この5人のキャストが楽しくできるというのが大切かなと」

 

岬智朗(伊礼)と高校時代の同級生・関守(石田)は人生の曲がり角を迎え、それぞれある問題を抱えていた。そこに現れたのが、15年前に事故で死んだはずの同級生・遠山大介(玉置)と岬の弟・達朗。思わぬ再会に戸惑いつつも、2人は遠山と達朗の‟ある力”を頼りにするようになる。そこに遠山の友人だという初老の男・野村淳(山西)も加わるのだが、5人の会話は、いつしかあの事故の日の記憶をたどり始め……。5人の会話で密に構成されていく同作。台本を読んでの率直な見解を聞いてみた。


青木
「もともと映像や音楽は控えめで会話中心の作品なので、それは役者の芝居でしか成立できないものなんですね。小手先の技では通用しないので、アンサンブルをちゃんと作らなければいけないなと。あとは脚本を改めて読んでみて、劇団(土田が代表を務める劇団MONO)に書かれた作品という側面が強いと感じました。土田さんが劇団の役者さんやその場の空気をすごく愛して書かれたものなので、自分もかつて劇団をやっていたからこそ、その部分をしっかり受け止めながら、この5人の作品として組み立てていかなければという風に思っています」

伊礼「豪さんがおっしゃったように、小手先の技では通用しないという部分がこの作品ではとても大きいんじゃないかと思います。台本を読んでいて気になったんですが、一人称が“わち”だったりする、あれはどこ弁なんですか?」

青木「あの作品のために独自に作られた“MONO弁(架空の方言)”なんだって。でもイントネーションとか、正解がない自由さも魅力なんじゃないかな。MONO弁でわりとくだらないやり取りを繰り返すシーンもありますが、そういうところに土田さんの愛情が宿っていると思うので、そこをしっかり作りたい。男同士って、はたから見たら「何やってんの!?」みたいな、意味わかんないことに熱中したりするんですけど(笑)、この作品でもそういうシーンが印象に残るので、けっこう大事なところなんじゃないかと」

山本「あの不思議な方言のやり取りだったり、この5人で制服で登場するシーンだとか、印象的なポイントがたくさんあって、最初から最後までいろんな形の笑いが散りばめられた作品だなと思っています。僕自身もコメディをすごくやりたくて、前回の作品(単独初主演作の『HEY!ポール!』)もやらせていただけたので、今回も楽しみです」

伊礼「僕的には長いこと着ていない学生服を着られるというのもポイントです。この年齢になると、制服に憧れが出てくるんですよね。お客さんにとってもすごくレアな姿なんじゃないかと思いますし、むしろそこが一番の見どころなんじゃないでしょうか(笑)」

山本「達朗は死んだはずの存在なので、そういう役を演じる機会もなかなかないと思うんです。なので、自分がどうこの役を演じるのか?というワクワク感もあります」

伊礼「そこが智朗を演じる僕にとっても難しいところですね。死んだはずの自分の弟と友人が突然現れた時って、もちろん困惑はするでしょうけど、どういう感情で向き合うんだろう?と」

 

キャスト2人はこの日が初対面ということで、お互いの印象についても尋ねてみた。


山本
「顔立ちのくっきりしたイケメンな“お兄ちゃん”でうれしいです」

伊礼「山本さんの印象は一言でいうと好青年ですね。ジャニーズの方と何回か共演させていただいていますが、みんな礼儀正しくて、何より“心が明るい”んですよ。共演するたびに素晴らしいなと思うので、僕も10代のときに入っておけばよかったと(笑)」

山本「伊礼さんは青木さんの演出を(『音楽劇 星の王子様』で)受けられたことがあるということで聞きたいんですが、稽古場での青木さんは怖いですか?」

伊礼「怖いですよ(笑)。同じシーンで何度もから回ってうまくできなかったことがあって、そういうときには表情がぱっと変わるんです。普段すごくやさしいから、逆にわかりやすい」

 

そんな会話を苦笑いしながら聞いていた青木は、2人の見せ方をどのように考えているのだろうか?


青木
「山本さんはこの作品ではじめましてなんですが、“弟感”があるキャラクターだなと感じました。彼が演じる達朗については“死んでしまったはずなのに、なぜ今出て来たんだろう?”という部分が、芝居の中でしっかり見せられたらいいなと。伊礼さんは普段はかっこいい役を演じることが多いけれど、この智朗はけっこう情けない役なんですよ。ミュージカルなどではどうしても佇まいからかっこよくいなきゃいけなかったりしますが、この作品ではかっこいい人なんだけど、ちょっと情けないぞ?みたいな部分がうまく出せたらと思っています」


青木は今年6月上演の『黒白珠』、7月上演の椿組『芙蓉咲く路地のサーガ』に続き、兄弟が物語の軸となる作品を手掛けるわけだが、そこから実際の兄弟ネタへと話が広がり……?


青木
「『黒白珠』には兄弟を軸に描いた『エデンの東』というモチーフがあって、今回も土田さんの作品が偶然にもそうだった、ということなんですが。僕自身は男兄弟がいないんで、だからこそ、シンプルに憧れる部分はあるかもしれないですね。兄や弟がいたらいいなと思っていましたし」

山本「僕には兄がいて仲もいいんですけど、歳が近いので、もっと頼りがいのあるお兄ちゃんが欲しいと常々思っていました。なので、今回の弟役は念願でした」

伊礼「僕には弟がいるんですが、7歳離れているので一緒に遊ぶというより面倒を見るという感じでしたね。なので、達朗くんと智朗の、年齢が近くて「兄貴!」と慕ってくれるような、そういう関係に憧れがあります。台本を読んでいると2人の仲のよさも伝わってくるんですが、それだけに2人の関係性は、豪さん、山本さんとしっかり考えて作っていかないといけないなと思うんです。それによって、再会のときのびっくり感もきっと変わってきますから」

 

山本は本作が単独主演2作目。近年はジャニーズ外部の舞台でも活躍しており、役者としても変化の局面を迎えているという。


山本
「事務所に入ってから18年、たくさんの舞台に出させていただきました。ここ1~2年は外部の舞台に立たせてもらう機会も多くて、お芝居に命をかけている方々の背中を見ているうちに、自分の中の芝居に対する熱量や向き合い方も大きく変わってきました。以前は演技を通して山本亮太を見せればいいと思っていたけれど、演出家さんにもいろんな方、いろんなカラーがあるので、それぞれの演出家さんの理想にきっちり応えたいと思っています。コミュニケーションがうまくいけば舞台もうまくいくと信じているので、他のキャストの意見も大事にして、みんなで作品を作っていきたいです」

 

青木と5人のキャストががっぷり四つに組んで作り上げる同作。最後に、意気込みのほどを聞いてみた。


伊礼
「僕は本多劇場に立たせていただくのが初めてで、下北の劇場に出るのも初めてなんです。普段は“銀座の男”ですが(笑)、この期間は下北に染まりたいですね。あと、久しぶりの歌わない伊礼彼方を見ていただける機会でもあるので、そのレアな感じも含めて楽しみにしていただきたいです」

山本「32公演もあるので、1回1回を大事に演じていきたいです。どうせステージに立つなら爪痕を残したいというのはもちろんですが、“この5人でよかった”と思ってもらえるようなものを作り上げていきたい。他のキャストのみなさんにもいろいろ教えていただきたいですし、そのためには自分もしっかりしないと!と武者震いしています」

青木「演出家は幕が上がって役者たちが動き出したらいらなくなるものなので、そこまでが僕の仕事。なのでいつも初日は、子供の卒業式を見ているような気分なんですよ。稽古でいろいろもまれて、別人みたいに変身できてよかったな!と。今回もそんな気分で卒業式の日を迎えられたらいいなと思います」

 

取材・文/古知屋ジュン

 

◎プロフィール

山本亮太
■ヤマモト リョウタ 1989年、千葉県出身。ジャニーズJr.のユニット、宇宙Sixのメンバーとして活躍中。主な舞台の出演作としては『滝沢歌舞伎』(2010~2012年、2015年)、『PLAYZONE』(2010~2015年)、『Endless SHOCK』(2013、2014年)、『DREAM BOYS』(2015年)、30-DELUX『スクアッド』(2018年)、『のべつまくなし』(2019年4~5月)、『桃山ビート・トライブ』(2017年、2019年)、『HEY!ポール!』(2019年7月 ※初単独主演作)などがある。

 

伊礼彼方
■イレイ カナタ 1982 年、神奈川県出身(アルゼンチン生まれ)。ミュージカル、ストレートプレイや朗読劇など舞台作品を中心に活躍。その他にもナレーションなど、活躍の場を広げている。9月17日までミュージカル『レ・ミゼラブル』に出演、12月18日には伊礼彼方ソロライブ@COTTON CLUBを開催予定。2020年5~6月には『ミス・サイゴン』にエンジニア役として出演が決定している。

 

青木豪
■アオキ ゴウ 1967年、神奈川出身。1997年に『アフタースクール』で劇団グリングを立ち上げ。市井の人々の巧みな会話劇で話題を呼ぶ。2014年の解散後はプロデュース公演や他劇団へバラエティに富んだ作品を提供している。2017年には極付印度伝『マハーバーラタ戦記』で歌舞伎に新作を提供し、2018年春には劇団四季『恋におちたシェークスピア』の演出を担当。主な舞台作品に、音楽劇『マニアック』(2019年、脚本・作詞・演出)、『MOJO』(2017年、上演台本・演出)、『エジソン最後の発明』(2017年、脚本・演出)、『花より男子 The musical』(2016年、脚本・作詞)、『The River』(2015年、演出)、『ブルームーン』(2015年、脚本)、『音楽劇 星の王子さま』(2015~2016年、脚本・作詞・演出)、『鉈切り丸』(2013年、脚本)などがある。