舞台『相対的浮世絵』石田明、玉置玲央、青木豪、土田英生 インタビュー

左から 土田英生、玉置玲央、石田明、青木豪


2004年に、土田が主宰する劇団であるMONOの作品として上演され、2010年にG2演出で再び上演された傑作コメディ『相対的浮世絵』が、9年の時を経てこの度新たに上演される。『ローチケ演劇宣言!』では主演の山本亮太(宇宙Six/ジャニーズJr.)、伊礼彼方、演出の青木豪の鼎談(https://engekisengen.com/genre/play/17133/)に続き、キャストの石田明(NON STYLE)、玉置玲央、青木、同作の生みの親であり初演時にキャストとしても出演した土田英生(MONO主宰)も参戦しての座談会を実施。一人称=“わち”など、MONO作品から生み出された架空の方言“MONO弁”で綴られる、5人のキャストだけの密な会話劇の魅力について語ってもらった。

人生の曲がり角を迎え、それぞれややこしい問題を抱えている岬智朗(伊礼)と高校時代の同級生・関守(石田)のもとに、20年前に事故で死んでしまったはずの同級生・遠山大介(玉置)と、岬の弟・達朗(山本)が現れる。戸惑いながらも再び関わりを持つことになる兄弟と同級生たちだったが、そこに遠山の友人だという謎の初老の男・野村淳(山西惇)が加わったことで、それぞれの“あの日”の秘密が明らかに……?


――開演が近づいてきましたが(取材は10月上旬)、稽古場の様子はいかがですか?

青木「いい感じだと思いますよ。もう、一回荒通しをやって全体の流れも見ています」


――前回の取材時に話題になっていたMONO弁には、キャストのみなさんはもう慣れたんでしょうか?

青木「最終的に「山西さんのMONO弁に合わせよう」という話になりました」

土田「ああ、“山西弁”になったんですね?」

玉置「なんかね、山西さんのMONO弁が絶妙なんですよ」

青木「同じ言葉でも登場人物によってアクセントやイントネーションが違うとおかしなことになっちゃうから、みんなでセリフを喋ってみて「山西さんのが一番心地いいね」という話になったので」

土田「書いた僕自身は名古屋出身なので名古屋弁ベースで書いてるんですよ。でもそれだと普通の名古屋弁になっちゃうので、劇団の兵庫出身の役者に読ませてみて、その真似をする形にしていたんですね。そしたら、ある作品を観た平田オリザさんに「あれは関ケ原のあたりの言葉だね」と言われて。名古屋の人間が書いた本を兵庫の人間が読んだら、関ケ原界隈に言葉も寄って来るのかな、と。だから山西さんが読むMONO弁は、もしかしたら岐阜辺りの言葉に近いニュアンスになるのかもしれないですね」


――今日は作品の生みの親がいらっしゃるので、どういうテーマでこの『相対的浮世絵』を書かれたのかうかがいたいです。

土田「きわめて個人的なテーマというか……当時は「みんな俺のことなんか大事に思ってない」とか「どうせ俺のことなんかみんな忘れていくんだ」みたいな、周囲に対して被害妄想に陥っていた時期だったので、それを吐き出したいという思いで書きましたね。この作品には事故があった日に裏切った人と裏切られた人が出てきますが、そのどちらにも言い分があるんだという話です」

石田「めちゃくちゃオブラートに包みましたね!」


――この作品に例えると土田さんが裏切られる側ということでよろしいでしょうか?

土田「オブラートを剥がしにかかってますね?(笑) 当時はどちらかというと、裏切られるという意識のほうが強かったですね」


――登場人物たちのセリフには当時の土田さんの思いもいろいろ投影されている、ということで……。石田さんや玉置さんは演者でもありつつ、ご自身でも脚本を書かれたり、プロデュース公演もされていますよね。作り手側の目線で見て、この作品のどういう点に面白さを感じますか?

石田「“この世の者ではない”存在を表現するときに、自分ならその人たちが見えへん設定にしたいと思うんですよね。そのほうが単純に、笑いも起こしやすいですし。そういう事情を取っ払って全員見えてる形にした、その思い切りのいい世界観におっ!と驚かされたし、好きやな~と思いました。死んでしまったはずの人に対して、ちゃんと向き合っている感じもしますし」

玉置「脚本の中に、この5人で埋められる遊びどころみたいなものはいっぱいあるんですけど、その遊び方を間違えたらすごく痛い目に遭うような作品なんだなって……日々稽古しながら思っていて。役者としてやり甲斐は大いにあるんですけど、その分大変なので頑張って向き合わなければと思っているのが現状です。土田さんに1つ聞きたかったんですけど、なんでこの作品を5人芝居にしたんですか?」

土田「劇団員が5人だったからですね。それも理由の1つとしてありつつ、登場人物が5人とか7人とか、奇数だと書きやすい。5人いれば物語の中での一通りの立場が書けるからじゃないですかね? ……こじつけですけど(笑)」

玉置「5人芝居って、他でもやる機会はありますけど難しいなと思っていて」

石田「ああ、なんかわかります」

玉置「キャストが7人くらいだと安心できるんですよ。5人だと、その5人それぞれが担う責任の大きさとか、埋めなきゃいけない空間も大きくて、演技の密度も濃くなるというか。今回はそこがハードルでもあり、めいっぱい楽しまなきゃいけないところだなとも思ってます」


――青木さんは前回の取材で「会話中心の作品で役者の演技でしか成立しないので、小手先の技が通用しない」とおっしゃっていたと思いますが、実際に稽古に入ってみた印象はいかがですか?

青木「ずっとそこに注力して作り上げていっている感じですね。この人数での演技だと、嘘つくとバレちゃうんですよ。勢いでは最後まで持っていけないので、役者勢は前の人のセリフや演技をしっかり受け止めて次の人へパスする。僕はそれをジャッジする役回りですね」


――石田さん演じる智朗の高校時代の同級生の関と、同じく高校時代の同級生で、事故で死んだはずの遠山の役どころについてもうかがいたいです。母校で教師を務める関はあっけらかんとしていて、かつ押しが強いタイプというか……。

石田「稽古やってて思うんですけど、僕は関みたいにメンタル強くないなって思っちゃう。セリフ言ってて耐えられないんですよ、いつも。だから最近はしんどすぎて感情ボコボコになってます(笑)。あんなこと、よう人に言われへん」

青木「石田さんは人とトラブったら、絶対謝っちゃう人だよね」

石田「そうなんですよ、強く言えないんです」


――NON STYLEの漫才を何度も拝見していたので、キャスティングを聞いたときにこの“強い”キャラクターを演じている様子が目に浮かぶようだったんですが。

石田「セリフを表面的に受け取るなら全然大丈夫なんですけど、ちゃんと芯の部分で捉えようと思ったら、こりゃ演じるのはなかなか大変だなと」

土田「見た感じ、関のキャラクターに合ってると思いましたけどね」

青木「セリフや物語をしっかり受け止めてくださっているからこそですよね」

石田「関は後半部分の遠山のあるセリフの辺りまでは、ずっとなんとか自分の立場をごまかそうとしているんですよね。でもそこからは逃げられなくなってくる。前半にどれだけおちゃらけた雰囲気を見せられるかで、後半の説得力が違ってくると思うんで、いまいろいろ試行錯誤してるところですね」

 

――関を追い込む(?)遠山についてはいかがですか?

玉置「遠山って飄々としている感じに見えるし、本音を出すまでに紆余曲折あるんですけども。ネガティブな感情って持たれる側も怖くて嫌でしょうけど、そういう感情を出す側としての怖さというのもあるんだなって、稽古しながら思っていて。迷いに迷ってその感情を表に出したとして、自分の苦しみを受け止めてもらえなかったら?とか、その感情が今も生きている智朗や関にとってピンとこないものだったら?という怖さを抱えているわけじゃないですか。遠山たちには今現れた“目的”があるわけで、それについて面と向かって伝えたときの智朗や関の反応を想像するのもすごく怖いんだろうと思うんですよ。さっき石田さんが言ったように、前半の空気感が柔らかければ柔らかいほど、後半の空気感が相反する鋭いものになっていったりすると思うので、そういう緩急を楽しみながら演じていけたらいいなと」


――途中にこの2人が対峙するシーンがあって、個人的にそこがすごく印象的でした。

玉置「さっきの話の続きみたいになっちゃいますけど、他人を責めることができる立場って、ある意味楽なんだなとこのシーンで思いましたね」

石田「関は「それを言っちゃあおしまいよ」を言っちゃう人だから。客観的には「いや、ルール内でやろうよ?」みたいに思っちゃいますね」

玉置「関はホントに空気を読まずに自分のスタンスを主張してくるから、「何言ってんの?」って言いたくもなりますよね。遠山だって自分の言ったことが100%正しいとは思っていないけれど、「そりゃないぜ」ってツッコみたくなるようなことを声高に主張するんですよ、関は(笑)」

青木「関のセリフって「絶対嘘だろ!」っていうポイントが、結構あるよね。すごくダメな人なんだけど、時々そこがにくめなくて大好きなの」


――関は物語が後半に進むほどダメな人となりがうかがえる流れになっていますが。

石田「最初からそういう部分をチラ見せしてはいますけど、後半で「ダメ人間、勝訴!」くらいのテンションできっちりとダメさ加減を見せてきますね(笑)」

土田「にくめないところもあるし、振れ幅が大きいキャラなんですよね」


――伊礼さんが演じる、もう1人のダメな人・智朗についてはいかがですか?

青木「伊礼くん、あんなにかっこいいのにざっくばらんで気取らない人なんですよ。エチュードをやっても、鼻くそほじりながら寝転がってたり“ダメな人の日常”からちゃんと作ってくるので、本番での仕上がり具合が楽しみです」

土田「それでもふとした瞬間に「やっぱイケメンやなあ」と思いますけどね」――山本さん演じる弟・達朗との相性はどうなんでしょう。

青木「2人はね、だんだん兄弟になってきてると思います」

石田「伊礼さんがお芝居のことをいろいろ教えてあげたりするから、亮太くんとほんまに兄弟みたいな感じですね」

玉置「だんだん似てきた。稽古場でゲームをやってても、2人で同じ失敗したりとかしますよね?」

土田「いい傾向だと思います。この兄弟のポイントとして、智朗が弟をあまりかわいがる感じは出てこないんですけど、達朗は兄貴大好きなんですよね」

青木「そういえば達朗のセリフで「兄貴、ずるう!」っていうのがあるんですけど、あれがね、どんどん自然な感じになってきているんですよ」

 

――そして山西さん演じる謎の男・野村の仕上がり具合はいかがですか?

土田「山西さんは最初から仕上がってますから」

石田「野村は面白くない話を何回もえんえんとしゃべるキャラクターという設定なんですけど、山西さんだと、話し始めがもう、オモロそうなんですよ。それでいっつも笑ってまうんですよね」

全員「(笑)」


――さてMONOでの初演、2010年にG2さん演出のキューブバージョンに続き今回が3度目の上演になりますが、2019年版ならではの魅力をどんな風に捉えていらっしゃいますか?

玉置「“異種格闘技戦”感な気がします」

土田「役者さんの出自がみんなバラバラですしね」

青木「「でもルールは全員同じでね」みたいな。一つのルールの中で違うルールの引き出しを持つ人たちが戦ったらこうなりました、というのが一番面白いところじゃないかな。ファンの方が普段は見られないような顔がこの作品で見られるというのがね」

土田「個人的には青木さんがずっと会話劇をやってこられていて本質をわかっていらっしゃるので、どういう形に仕上げていただけるのか楽しみだなあと」

石田「自分らではこれまでの公演とは比べることもできないですし、そのルールの中で一生懸命頑張るだけで」

土田「僕としてはお笑いを分かってらっしゃる石田さんが5人の中に入っているっていうのが、勝手に安心感を抱いているところでもあります」

石田「お笑いっぽい部分の見せ方ならいつでも聞いてきてくださいね、って小声で言ってます」

青木「僕がツッコミのノリで言ってほしいという箇所があると、石田さんが具体的にどうやればいいかを他のキャストに“翻訳”してくれたりするんですよ」

玉置「稽古の中でお笑いワークショップみたいになることがあって、本職の人はやっぱりすごいなって」

石田「お笑いの経験のない方にツッコミをやらせようとすると、セリフの言葉尻だけでやろうとするんですけど、本当は気づきというか、違和感を感じた瞬間にツッコめるかどうかが一番大事なんですよ。ツッコミのセリフとそのスピードを合わせられるのが芸人のスキルであって」

土田「チャップリンも同じこと言ってましたもんね。気づいたときにすぐ転ばないと面白く転べないんだって」

石田「まさかチャップリンと並べられるとは! 一気に肩身狭くなりました(笑)」


――最後に、この作品に興味を持っている方々へメッセージをお願いできればと

土田「今はみんなが弱っている時代というか……SNSの荒れ方を見ていても、みんなが誰かに嫉妬していたり、どこか自分に自信がなくてイライラしてる人が多いような気がするんですよ。そういう方々にこの作品を観てもらえれば、なんだかちょっと元気になれるんじゃないかな?という気がするんです。ある意味救いになるというか」

青木「稽古場でも話していたんですけど、この作品では生きてる人間がみんな辛そうなんですよね。死んだ人間はそうでもないのに。その辛そうだった人が最終的には楽な気持ちになれるお話なので、日ごろからいろいろ抱え込んでいる方々にはぜひ観て、気持ちを楽にしていただきたい。この登場人物たちくらい抱え込んでる人は、あんまりいないと思うんで(笑)」

石田「昔からの友達とかと観に来て欲しいですね、同窓会気分で来てもらってもいいと思うんですよ」

玉置「なんならわだかまりのある人同士で来てもらいますか?」

青木「で、最終的にすっきりして帰ってもらいたいよね(笑)」

 

取材・文/古知屋ジュン

 

◎プロフィール
土田英生
■ツチダ ヒデオ 1967年、愛知県出身。1989年に『B級プラクティス』(現MONO)を結成。1990年以降全作品の作・演出を担当する。認識のズレから生じる可笑しみや人の哀しさを、軽快な会話劇として見せることで評価を得ている。1999年第6回OMS戯曲賞大賞、2001年第56回芸術祭賞優秀賞を受賞。劇作と並行してテレビドラマ・映画脚本の執筆も多数。2017年には小説『プログラム』(河出書房新社)を上梓。また、初監督映画作品『それぞれ、たまゆら』が近日公開予定。


青木豪

■アオキ ゴウ 1967年、神奈川出身。1997年に『アフタースクール』で劇団グリングを立ち上げ。市井の人々の巧みな会話劇で話題を呼ぶ。2014年の解散後はプロデュース公演や他劇団へバラエティに富んだ作品を提供している。2017年には極付印度伝『マハーバーラタ戦記』で歌舞伎に新作を提供し、2018年春には劇団四季『恋におちたシェークスピア』の演出を担当。主な舞台作品に、音楽劇『マニアック』(2019年、脚本・作詞・演出)、『MOJO』(2017年、上演台本・演出)、『エジソン最後の発明』(2017年、脚本・演出)、『花より男子 The musical』(2016年、脚本・作詞)、『The River』(2015年、演出)、『ブルームーン』(2015年、脚本)、『音楽劇 星の王子さま』(2015~2016年、脚本・作詞・演出)、『鉈切り丸』(2013年、脚本)などがある。


石田明

■イシダ アキラ 1980年、大阪府出身。2000年に井上裕介とお笑いコンビ・NON STYLEを結成。2006年度『爆笑オンエアバトル』9代目チャンピオン、2008年の『M-1グランプリ』で王者に輝くなど、注目を集める。芸人としての活動の傍ら、2014年の『ダンガンロンパ THE STAGE』(キャストと演出を兼任)などさまざまな舞台作品でも役者・脚本家・演出家としてマルチに活躍中。2020年には20周年記念NON STYLE LIVE2020『あっというま』を予定している。


玉置玲央

■タマオキ レオ 1985年、東京都出身。劇団「柿喰う客」所属。約3年ぶりに出演した今年9月の劇団本公演『御披楽喜』での活躍も記憶に新しい。近年の主な出演作品に【舞台】『秘密の花園』(演出:福原充則)、『Take Me Out 2018』(演出:藤田俊太郎)、『夢の裂け目』(演出:栗山民也)、『みみばしる』(演出:松居大悟)、『スロウハイツの神様』(演出:成井豊)などがある。映像作品にも積極的に出演、【映画】『教誨師』【ドラマ】『サギデカ』(NHK)、『TWO WEEKS』(KTV)、『全裸監督』(Netflix)などがある。昨年公開された映画『教誨師』では第73回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞を受賞した。