矢崎広、生駒里奈 インタビュー|少年社中・東映プロデュース「モマの火星探検記」

左:生駒里奈 右:矢崎広

宇宙飛行士の毛利衛による児童文学を舞台化した「モマの火星探検記」。父との約束を胸に人類初の火星探検へと繰り出すモマと、宇宙で消息を絶った父へメッセージを送るためにロケットを飛ばそうとする少女ユーリの2つのストーリーが紡がれていくように交錯していく物語だ。2017年の上演ではモマを矢崎広、ユーリを生駒里奈が演じて好評を博した2人が、2020年1月にふたたび同じ役に挑むことになった。3年ぶりに再会するモマとユーリに、2人はどのような心持なのだろうか。


――まずは、再演を聞いたときにどんなお気持ちでしたか?

矢崎「感覚としては早い再演なのかなと思ったんですけど、嬉しかったですね。ありがたいことに前回好評で、いろいろなお客様の声があっての再演ですので、求められていることはありがたかったです。やはり、僕ら役者は演じる場所が無いと役者ではありませんから」

生駒「素直に嬉しかったですね。今はあれからいろいろ経験させてもらって、振り返ることができますけど、あの当時は無我夢中。でもすごく楽しかったので、やった~!という気持ちと同時に、またユーリをやるってどんな感じなんだろう?という感じです。再演も初めての経験なので、不安もありますし、ずっと考えていました。同じ役をまたやる、っていうのは挑戦ですね」


――ストーリーの魅力について、それぞれの考えをお聞かせください。

矢崎「物語としては、モマという青年とユーリという少女の、まったく違う軸のストーリーが始まります。火星を目指すモマとロケットを飛ばそうとするユーリの物語が、繋がっていないようで何か交錯していくところがこの作品のひとつの魅力だと思います。しかも、どちらも夢のあるザ・主人公といった感じの物語なんですよね。お話が進むにつれて交わっていて、最終的に行きついた2人の行く先にファンタジーな部分がありますね。それに加えて、この作品の中にはたくさんの言葉と、伝えたい想いが隠れているんです。人によって、どの言葉が刺さるかは違うと思うんですけど、そういうセリフがいろんなところに散りばめられているのが魅力です。誰かが、どこかの言葉に救われる、前を見ようと思える作品だと思います」

生駒「本当に、その通りなんです。この作品にはたくさんの言葉があって、私は「やりたいと思ったことをやればいいんだ」っていう言葉を特に、前回出演したときにいただいて。だから、その当時フツフツと湧き出てきたお芝居をやってみたいという気持ちを、やってみようと思わせてくれた。今の自分を作ってくれたきっかけでもあります。ユーリが後半で独白のように語る部分では、本当にこの世界はひとりぼっちじゃないんだな、と感じます。独りぼっちでさびしいって思いがちな世の中だけど、自分が誰から生まれて、誰とつながっていて…そういうことに感謝できるんです。今ここで私たちが演じていることも、それを観てくださっていることも、奇跡に近いことだけど必然だと思える。ちょっと恥ずかしいかもしれないけど、心の底からそう思える。そういう時間が流れるのが、この作品の素敵なところだと思います」


――本当は知っているけど、言葉にしていなかったり、見えていなかったものを素直に感じさせてくれる作品ですよね。

矢崎「そういうことって忘れがちなんですよね。現代って、孤独を感じやすかったり、嫌なことがあったら自分ばっかりとか、そうなりがちなんですけど。じゃあそんな時に誰が助けてくれて、誰に何があってこうなったのか、とか、必ず何かしらの繋がりってあるんです。それが自分にとってどう思うかは、自分の捉え方次第なんだと思うんですよね。ちょっと哲学的な方向になるかもしれないんですけど、それをわかりやすく物語にしてくれている話だと思います」――前回公演での印象に残っている思い出は?

生駒「私にとっては、すべてが初体験でした。稽古の段階から皆さんが凄すぎて…泣いた記憶があります。あんなふうにできないよ~って(笑)。今考えると、最初の私は未熟なところだらけだったと思います。でも、本番で1回だけ、舞台上で飛ばしたロケットが本当に見えたんです。そこまでたどり着けたので、自分としても乗り越えることができたのかな、って思っています」

矢崎「「モマの火星探検記」の初演も観ていたので、その想いも強くて。モマを演じていた森さんがとても素敵だったので、あの姿に自分がどれだけ近づけるかというのを考えていました。少年社中ではある種、当て書きのようなところもあったと思うので、自分に変換したときにどうやってモマになれるのかな?って悩んだ覚えがあります。モマははつらつとしていて、でもどこかに影があって…いろいろ試しましたね。でも結局、いろいろ試してみて、どれがいいだろうって悩んでいることがモマでした。どれもモマだったように思いますね。探す過程はとても辛かったですけど、必要だったんだと思います」

生駒「今、こうやって話を聞いて、あの時の稽古を思い出してみると…先輩たちってそういうふうにやっていたんだな、って今なら私にもわかるような気がします。私も少しはちゃんと進んでいるのかな、って今、思いました」


――キャラクターについてのお話も聞いていきたいと思います。モマやユーリはどんな人物だと感じていますか?

矢崎「宇宙飛行士を目指すにあたってふさわしい性格、にパッと見は見える。でも、どこかにずっと心にぽっかり穴があいていて、それを探し求めています。その疑問に宇宙でぶつかってしまった時に、一瞬へたりかけるんですけど、人が好きだし、夢が好きだし、宇宙が好きだから、そこに答えを探し求めている男だと思います。すごく魅力的で、うらやましいなと思うところもたくさんあります。へこたれてる姿も、なんかカッコいいヤツなんですよね。何もかもに全力な男なので、演じているとパワーを持っていかれます。すべてに全力で行かないとたどり着かないので…でもそれは2年経った今だから言えるかもしれません。あの時は、探し続けて、たどり着いた結果でしたから」

生駒「ユーリはとても明るくて、まっすぐ。でも不器用。夢に向かって、一度は折れたけど、結局自分を取り戻して、ロケットを飛ばすっていうところに自分で持っていける子です。強くはないんですけど、ちょっと強がりなところが自分に似ているな、なんて思ったりもします。明るいところはユーリに引っ張ってもらっていたな、って。今はユーリよりもずっと大人になってしまったので、今回ユーリに会った時にどんなふうに話しかけてくれるのか分からないけど、また仲良くなりたいですね。あの時はガムシャラだったけど、今度はきっとまた違ったアプローチになると思うので…自分の中にあるユーリ、新しく出てくるユーリがどんなものか未知数です」


――再演だからこそ、こうしたいなどのイメージはありますか?

生駒「やっていくうちに課題はどんどん出てくると思います。前回はとっても楽しくて、やりきったので。前回の私よりも、先輩たちを、おおっ!って思わせたいですね」

矢崎「モマって、演じるその時によって自分が何を大事に思っていて、何を感じているかがけっこうハッキリとでる役だと思うんです。今回の自分がいったいどこにたどり着くのかは、まだフワッとさせているというか…。今回の火星探検への旅で、自分は何を発見するのか、前の自分と2020年の自分でどう違うのか。なんとなくはあるんですけど、僕もこの2年間にいろいろ経験したし、既にもう、感じているものは違うんですよ。今から飛び込んでいくのが楽しみです」


――お互いの印象についてもお聞きしたいと思います。最初の頃は相手にどんなイメージを持っていましたか?

矢崎「生駒さんが稽古場で泣いていたのを思い出します。けど、何で泣いてるんだろう?って(笑)。泣くことないのになっていうか、初日でもうユーリは完成してたんです。その泣いている姿からもユーリが形成されていってましたね。あとアイドルとして観ていた生駒里奈という人は、本来こういう自分を許せない、自分に厳しいタイプの人間なんだな、と思って、好感を持ちましたね。逆に悩んでいる姿があったから、この作品は絶対にいけると思いました。カンパニー全体の士気につながったと思うので、そういう力のある子なんだな、って感じでしたね」

生駒「照れますね(笑)。宇宙飛行士チームは本読みの段階からすごく、台本を手放してもやっていて。一方の私は台本を覚えることすらも初めてで、いっぱいいっぱいだったので…そんなスゴイところを目の当たりにして、ちょっと怖気づいてしまって。でも、そういう姿を見せてもらえたから、本気で向き合っていこうと思いました。今でも覚えています、その時の感じは」


――自分を許さない人、というイメージについては生駒さんご自身ではいかがですか?

生駒「私ですか? そうかもしれないです(笑)。許さないというか、認めたくないというか。なんででしょうね。でも、不思議とそのほうが落ち着くんです。もっといけるんじゃないか、って思い続けているほうが、私には合っているんだと思います」――矢崎さんの最初の印象はいかがでしょう?

生駒「最初のころはお互いあまりしゃべらなかったですね。矢崎さんからも、あまり話しかけてきてくれなかったような…」

矢崎「すごいひどい人みたい(笑)。僕の良くないところですね。お芝居では別のチームだし、乃木坂46だし、僕なりに気を遣った結果なんです。あん時の俺、怖かった?」

生駒「…うん(笑)。怖い人っていうわけじゃないですけど、どう近づいたらいいかわからないというか」

矢崎「それはすごく感じていましたね」

生駒「最初は“借り猫”のような状態だったので(笑)。今はもう大丈夫ですけど。でも、あの時はお芝居の中で、どこかで繋がりを持たせた方がいいのかも、と思って稽古でもずっと矢崎さんを観ていました。今でもお会いするとちょっと緊張します。どこか役としての「やっと会えた」みたいな感じが残ってますね」

矢崎「物語としても、最終的に行きつくところがあるので、お互いにどこかその“最後の感覚”を取っておきたかったような気もします。お互いに全力だったし、それが出ちゃっていたのかな」

 

――今、公演に向けて楽しみにしていることは?

生駒「早く稽古がしたいです! 稽古している時間が好きで、早く苦しみたいんです。あと個人的には、宇宙飛行士チームの鎌苅健太さんの演技がすごく楽しみなんです。前回はミヨー役で、そのミヨーがすごく好きだったんですが、今回はホルスト役なんですよ。ホルストになるとどうなるのかな?って。モマとホルストのシーンが私、好きなので…もう楽しみです」

矢崎「勝手に、あ、年末年始は少年社中と一緒だ、って思って、それが楽しみです。それくらいかな(笑)」

生駒「私も、去年の「トゥーランドット」に引き続き今年も少年社中の皆さんと一緒で、嬉しくて。好きな人たち、尊敬できる先輩方と過ごせる年末年始は幸せですね」


――もう今年も残すところあとわずかですが、どのような1年でしたか?

生駒「2019年は…「トゥーランドット」、「PHANTOM WORDS」、「暁のヨナ」と舞台に出演させていただいて。それ以外にも、朗読劇「私の頭の中の消しゴム」と「逃げるは恥だが役に立つ」にも挑戦したり、殺陣をやって殺気っていうものを学んだり…楽しかったです(笑)。本当に楽しかった。殺陣をやって殺気っていうものを学んだり。いろいろな経験ができた1年でした。年末から年明けはモマで、最後まで安心していろんなことに挑戦できそうです」

矢崎「今年は特に、20代でやってきたことを使って30代をどうやっていくか、っていう現場が多くて。自分の引き出しを使って、自分がどう表現し変換していくか。ひとつひとつの現場に挑戦させていただいているつもりなんですけど、それに加えて、自分がこの現場でどういうことができるのか、いろいろ試させていただいた1年でした。それぞれの現場でそれを温かく迎え入れてくださったので、ひとつ自信になりましたね。今年1年が、来年、再来年の布石になっていけばいいな、と思える年でした。あと、毎年思うのは、自分は出会いに恵まれているんですね。素晴らしい先輩方、後輩にも出会えて、ありがたかったです。一緒に作りたい、目指していきたい、と思える人たちに出会って、夢がたくさん出来ました」

 

――来年、2020年はどのような年にしたいですか?

矢崎「やり遂げたいことは、たくさんあるんですけど(笑)。ひとつひとつのつながりを大事にしながら…慌てず、焦らず、着実に、が目標ですかね。って、本気の目標を言っちゃってますけど(笑)。今、楽しくはあるんですけど、自分のやってきたことをどう使えるかというのを試せているんで、でも、内面はちょっと焦ってはいるんですよね」

生駒「ありがたいことにいろいろなお仕事の機会を頂く中で、それぞれの難しさを感じながらも日々取り組んでいるんですけど…私はやっぱり舞台が好きなので、舞台という場所でいろいろなものを培っていきたいと思っています。ひとつひとつ向き合って臨んで、それをお客様にお出しすることで、幸せにしたいな、と思います」


――ちなみに、厳しい稽古の日々の中で、息抜きになるものはなんですか?

矢崎「僕はゲームです。日々、いろんなゲームで世界を救ってます。自分が一番だ!ってなる感じですね(笑)」

生駒「私はドラッグストアに入ることですね。詰め替えの商品とかが並んでいるのを見るのが好きなんです。あと、コスメとか」

矢崎「生駒ちゃん、なんかストックとかすごそうだもんね」

生駒「でも、減らしました! …以前は多かったんです。なんでこんなにあるの、っていうくらい(笑)。でも買っちゃうんですよね…。シャンプーとかも毎回、違うのに変えたりしたくて。だから、ドラッグストアが癒しなんです」


――そんな癒しを挟みつつ、稽古も頑張ってください。最後に楽しみにしている方にメッセージをお願いします。

生駒「前回をご覧いただいた方も、今回初めてご覧になる方も、この作品を観て明日に幸せを感じていただけたら嬉しく思います。全身全霊でお届けするので、劇場でお待ちしています!」

矢崎「またモマを演じられるということで、出演者一同、本当に喜んでおります。お客様と宇宙空間で出会えることは本当に楽しみで、皆さんがいないと宇宙空間には行けない気がしているので、お客様の力も借りつつ、自分もまだ見たことのないところに行きたいと思います。一緒に答えを探しに行ってくれたら嬉しく思います!」

 

インタビュー・文/宮崎新之
生駒里奈スタイリング/鬼塚香奈子
衣装協力/MIYAO(03-6804-3494)