気付けば、12月に観たミュージカルはほとんどが日本オリジナル作品だった。そして思えば、2019年は「西洋で流行っているらしいミュージカルとやらをちょいと真似してみましょうかね」感のない、「これが俺の/私のミュージカルだ!」感あふれる真のオリジナル作品が多かったような気がする。なんて流れで、今月は12月の振り返り、からの年間統括を。
●オリジナルが花盛りだった2019年12月
前号でも書いた通り、オリジナル作品は幕が開くまでどんなものか全く分からないため、まずは良さが保証されている作品で入門してミュージカルファンになってもらう、という目標を掲げる本サイトでの紹介はなかなかに難しい。そんな中、これならば大丈夫だろうと思ってピックアップした12月のオリジナル作品が、3度目の再演となる松尾スズキ作・演出の『キレイ』、東宝という日本のミュージカル最大手が製作する『ロカビリー☆ジャック』、そしてプレビュー公演で手応えのあった『(愛おしき)ボクの時代』本公演の3本だった。
『ロカビリー☆ジャック』は、やはりさすが東宝、そしてさすが1年に2本もの新作オリジナルを生み出した森雪之丞、と思わされる出来。ミュージカルに不慣れなクリエイターが陥りがちな、ミュージカルであるからには翻訳劇っぽく、ファンタジーっぽくしなきゃ!といった先入観から来る空回りとは無縁の――というか、むしろそれを逆手に取っているかのような、良い意味でのB級感が魅力的だった。それを成立させたキャスト陣、わけても昆夏美と平野綾の万能っぷりには大拍手。そして『(愛おしき)ボクの時代』も、プレビュー公演から期待した以上の進化を遂げており、こちらにも大拍手。さらには、不覚にも初演を観逃がしていたためここでは紹介しそびれてしまっていたのだが、小林香作・演出の『Indigo Tomato』もまた、拍手を送りたくなる良質なオリジナル作品だった。
一方、『キレイ』はちょっと、ミュージカル初心者にはハードルが高かったかもしれない。ミュージカルであるから云々という先入観とは初演(2000年!)から無縁だった天才・松尾が、その天賦の才に任せて作ったらブロードウェイも真っ青なシーンがいくつもあるミュージカルが出来てしまった!――という作品だと、前回までは思っていたのだが。今回は逆にというか一周回ってというかなんというか、ミュージカルとしての完成度を今になって高めようとしたためなのか、松尾らしさもミュージカルらしさも中途半端になっていたような印象があるのだ。とはいえもちろん、画期的な和製ミュージカルであることには変わりなく、再演の度に印象が異なることも含めて『キレイ』。次に再演された時にはどうなるのか、いっそ松尾以外の演出家でやってみても面白いのかもしれない、などと思わされた。
●発表!日本一ありがたくない「町田賞」
さて、12月の公演を駆け足で振り返ったところで、ここからは2019年の公演をさらに駆け足で振り返る。どうしたら1年という長い単位を最も駆け足で振り返れるかをつらつらと考えた結果、毎年心の中で勝手に決めていた「町田賞」を発表することにした。ミュージカルに特化した、完全なる独断と偏見による、もらったところで誰も嬉しくない賞である。作品賞、企画賞、俳優賞(2部門)、新人賞の全5部門制で、選出は各3つずつとする。
町田賞の発表は、いきなり本丸の作品賞から入る(どうでもいい)。これはあまり迷いなく、『キンキーブーツ』『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』『レ・ミゼラブル』の3本に。どれも再演だが、「やっぱり良かった(確認)」的な意味合いではなく、「今回も」あるいは「今回が」もしくは「今回こそ」素晴らしかった公演を選出したつもりだ。特に『キンキーブーツ』は、初演とほぼ同じキャストがそれぞれに役を深めチームワークを高めたことが功を奏し、もはや海外産であることを忘れてしまうほど完全なる「日本のキンキー」と化しており、初演も良かったがそれとは比べ物にならないほど尊かった。『シスター・アクト』『レ・ミゼラブル』については、すでに本コラムで取り上げ済なのでここでは省略。
『キンキーブーツ』
続いて、企画賞。これは例年にはなかった部門だが(もっとどうでもいい)、冒頭で述べた通り、2019年はオリジナル作品が充実していたので新たに設けることにした。そんな経緯なので、やはり『(愛おしき)ボクの時代』と『怪人と探偵』は外せない。どちらも完成度が高かったとは言えないかもしれないが、これからもさまざまなクリエイターに“自分の視点で”日本オリジナルミュージカルを生み出していってほしい、という願いを込めて。また、これは日本オリジナルではないのだがもう1作品、『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ1812』にも企画賞を。観客巻き込み型の演出が要であることから日本での上演は困難と思われてきた作品を、巻き込み型である点は踏襲しつつも日本人の性質に合うよう丁寧に再構築し、公演として成功させた功績は大きいと思う。
『怪人と探偵』『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ1812』
●俳優賞は4部門!(ますますどうでもいい)
俳優賞は、「この人のこの役賞」と「どの役でも輝いてた賞」の2部門に分けてみる。まず前者は、三浦春馬の『キンキーブーツ』ローラ役、花總まりの『エリザベート』シシィ役、そしてCrystal Kayの『ピピン』リーディングプレイヤー役に。春馬ローラは初演から十分すごかったが、今回に至ってはもう、この3年間ローラとして生きてきたに違いないと思わされるほど役と一体化していた。一方、花總シシィの当たり役っぷりは今に始まったことではないが、少女時代から壮年までを演じなければならないこの難役を、20年以上にわたって当たり役としているという事実が改めてすご過ぎる。舞台上の彼女は初演時も今も、少女のシーンでは少女にしか見えないし、壮年のシーンでは老女にしか見えず、なんだか3時間の中で物理的に歳を重ねている感じすらするのだった。Crystal Kayについては後述。
『エリザベート』
そして後者は、「どの役も」と言いつつすべてを観ているわけではないのだが、『グレート・コメット』でも『ピピン』でも『ビッグ・フィッシュ』でも確かな実力とともに大人の魅力を発揮しまくっていた霧矢大夢、定評ある『レ・ミゼラブル』エポニーヌ役をさらに手中に収めるとともに『ロカビリー☆ジャック』でコメディエンヌとしての才能も見せつけた昆夏美、『キンキーブーツ』で見せたコケティッシュさも『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』での抑えた強さも説得力があったソニンに。観客が女性中心のせいか、プリンス的な男性スターに注目が集まりがちな日本ミュージカル界だが、女優陣も百花繚乱だ。
最後に、新人賞。1人目として、『ピピン』であっけにとられるほど鮮烈なミュージカルデビューを飾ったCrystal Kayを選出することに、異議のある者はいないだろう。あれほどソウルフルな歌声を持ち、かつ芝居勘にも優れた女優はなかなかいるものではない。彼女のおかげで日本語版妄想が膨らむ作品が増えに増え、勝手に嬉しい悲鳴を上げている筆者である。2人目は、今回もさまざまな新キャストが登場した『レ・ミゼラブル』より、マダム・テナルディエ役の朴璐美に。同じ役を演じた俳優をおそらく100人以上観ているが、文句なしに新しかった。そして3人目は、何も2019年にデビューしたわけでもないのに選出するのは失礼な気もしつつ、ジャニーズJr.でありながらびっくりするほど自然に東宝ミュージカルに溶け込んでいた林翔太に。各人の今後ますますの活躍に期待したい。以上、日本一どうでもいい賞の発表にお付き合いいただきありがとうございました! 2020年も、素晴らしいミュージカルがたくさん上演されますように。
文/町田麻子