ローチケ演劇部presents はじめてのミュージカル 編集長コラム「はじめてのその先へ…」2021年1月号

はじめてのミュージカル


今月は毎年恒例の「町田ミュージカル賞」発表スペシャル! 正確には、その年に上演されたミュージカルの中から特に良かった作品・役者にライター町田麻子が心の中で毎年勝手に進呈していた賞を、昨年「はじめてのミュージカル」編集長に就任したことを機に本コラム内で発表することにした日本一ありがたくない賞の、しれっと「町田賞」から「町田ミュージカル賞」に名を改めた第2回である。ちなみに、第1回はコチラ

●町田ミュージカル賞2020作品賞は…

町田ミュージカル賞は、最優秀とノミネートに分けたりはせず、各部門3つずつ選出するスタイル。昨年は「企画賞」も合わせた5部門制としたが、本数の少なかった今年は「作品賞」「この人のこの役賞」「どの役でも輝いてた賞」「新人賞」の4部門とする。例年通り(?)本丸の作品賞から行くと、まずは『ライオンキング』に。暗黒の3か月を経て徐々に劇場に灯がともり始めたものの、ことミュージカルに関してはまだコンサート版に規模を縮小したりせざるを得ない公演が多かった7月、コロナ前とほぼ変わらぬ演出で再開された本作は飢えていたミュージカルファンの心を希望で満たし、その“ミュージカル界のキング”ぶりを改めて見せつけた。前人未踏の20年超ロングランはやはり、伊達じゃないのだ。

ミュージカルという総合芸術を尊ぶ本賞では、出演者の個人芸勝負になりがちなコンサートは基本的に対象外としているのだが、8月の帝国劇場で開催された『THE MUSICAL CONCERT at IMPERIAL THEATRE』(通称“帝劇コン”)だけは別。超名作ミュージカルの超名曲の数々が、多くは本編で超名演を見せたキャスト本人によって、超名場面の舞台写真とともに次々と披露された本コンサートの“読後感”はもう完全にミュージカル、というか超ミュージカルだった。大好きな作品を一気に何本も観たような読後感を味わえた本作のおかげで、暗黒の3か月を少しだけ取り戻せたような気すらしている。ありがとう。

そしてまだまだ大作ミュージカルは無理という気配が漂っていた9月、『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』が予定より2か月遅れで開幕。今後何十年にもわたって数年おきには上演されるだろう作品だが、主人公が変声期直前の少年であるという性質上、同じキャストでの再演はあり得ない。1年前からレッスンしていたという今年のビリーたちが観られて良かったし、何より本当に素晴らしいミュージカルなので、初演(2017年)から5年も6年も空くことなく観られて幸せだった。いつどんな状況で観ても号泣必至の感動作だが、バレエという“不要不急”の道を目指す少年ビリーが炭鉱の町の人々の希望の光となる物語が、このコロナ禍の中で上演されたことにも意義があったのではないだろうか。

●役者部門の3賞は…

まず「この人のこの役賞」は、『生きる』渡辺勘治役の鹿賀丈史、『ダディ・ロング・レッグズ』ジャーヴィス役の井上芳雄、『ビューティフル』ベビーシッター役のMARIA-Eに。主役、主役、アンサンブルというのは少々バランスが悪いかもしれないが、『ビューティフル』におけるアンサンブルの重要性は、一度でも観たことがあればおそらく誰しも認めるところ。本当は全員に進呈したいくらいなのだが、自分で決めた“各部門3つずつ”の原則を破りたくない筆者の謎の厳格さにより、特に好きなシーンである《ロコモーション》を初演に続いて大いに盛り上げたMARIA-Eとさせていただいた。鹿賀と井上のハマり役ぶりについては、もはや言うに及ばずなので潔く省略。ぜひとも長く演じ続けていただきたい。

「どの役でも輝いてた賞」は、“どの役でも”と言うほど多くの役を演じる機会がそもそも誰にも与えられなかった今年は難しい。難しいが、『ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド』と“帝劇コン”で福井晶一の繊細かつ力強い歌声に改めて開眼させられ、『ビリー・エリオット』の安蘭けいには「この人に演じられない役ってないのでは…」と思わされ、脇を固めた『シャボン玉とんだ 宇宙までとんだ』と主役を張った『Fly By Night』の両方で確かな存在感と実力を見せた内藤大希にも唸らされたので、この部門本来の主旨とはまあちょっと違うが今年はこの3名に。特に福井の《見果てぬ夢》は、なんかもう圧巻の域であった。

最後に、新人賞。韓国では知らぬ者のいない歌姫だが日本には初登場となった、『デスノート』のパク・ヘナの《愚かな愛》がそれはそれは素晴らしく、こんなにも自由に歌声に感情を乗せられたらどんなに気持ちいいだろうと憧れるレベルだった。『ホイッスル~』『RENT』の鈴木瑛美子は、こういう言い方は今コンプライアンス的によろしくないのかもしれないが、それでも言いたくなるくらい歌声も立ち居振る舞いもとにかく“日本人離れ”していて今後が楽しみ。そして今回はコンサート版でその歌声を聴かせるにとどまった『ジャージー・ボーイズ』の尾上右近もまた、今後のミュージカル界を席巻することを予感させる堂々たる“デビュー”だった。いつか必ず、歌って演じる右近トミーが観られますように!

●番外編:観たかったで賞

最後の最後に。2020年は、楽しみにしていたのに観られなかったミュージカルが数多くあった。開幕には至らなくても、ファンからこの時期に観たいと思われていたという意味で、これらも“2020年のミュージカル”として記録されて然るべきではないだろうか。そんな思いから「観たかったで賞」を新設しようとしたのが、こればっかりは3つに絞ることが適切とは思われなかったため、持ち前の謎の厳格さにより“番外編”として発表することにした。というわけで以下、予定されていた初日順に羅列。

『RENT』来日公演、『ウエスト・サイド・ストーリー Season3』、『モダン・ミリー』、『ジョセフ・アンド・アメージング・テクニカラー・ドリームコート』、『エリザベート』、『チェーザレ』、『フォーエヴァー・プラッド』、『ボーイ・フロム・オズ』、『ニュージーズ』、『ミス・サイゴン』、『ヘアスプレー』、『四月は君の嘘』、『天使にラブ・ソングを…』来日公演、『スクールオブロック』、『ピーターパン』、『雨に唄えば』来日公演、『るろうに剣心』。

これらがいつか必ず日の目を見ることを、そして「町田ミュージカル賞2021」にはこのような部門が設けられずに済むことを祈りつつ――。今年も日本一どうでもいい賞の発表にお付き合いいただき、ありがとうございました!

文/町田麻子