ハイバイ『ヒッキー・カンクーントルネード/ワレワレのモロモロ 東京編2』 岩井秀人 インタビュー

ハイバイ・岩井秀人が演出する“誰かの人生を演劇にする”2本立て


実体験をもとに、プロレスラーに憧れる引きこもり(ヒッキー)を描いた岩井秀人(ハイバイ)の処女作『ヒッキー・カンクーントルネード』と、出演者が体験談を芝居にする『ワレワレのモロモロ』。実話を作品にする面白さと、このタイミングで上演する狙いを岩井に聞いた。

岩井「15年前は“ひきこもり”という言葉は、特殊な人の特殊な状態でした。でも今は日常的に使われる言葉になっていますよね。だから、過去に上演した『ヒッキー・カンクーントルネード』を観た人も違う印象を受けると思います。これからもずっと再演し続けたい作品ですね。元々は僕自身の『プロレスラーになりたいのに引きこもっていた』状態が面白くて作品にして、それが受け入れられたことで自分自身も受け入れられた気持ちでした。けれども、再演を重ねていくうちに、だんだん自分の体験を皆に見てもらっている感覚が薄れてきた。今はもう自分の体験談を書くつもりも予定もなくて、いろんな人の人生に興味があります」


その様々な人生を芝居にしているのが『ワレワレのモロモロ 東京編2』だ。東京で上演するのは2度目なので“東京編2”とついている。

岩井「前回の“東京編”は3年前、荒川良々さん達に出ていただきました。今回は4~5本の短編を上演します。台本は書くけど出演はしないという人もいますが、体験の当事者が舞台上にいると思いながら観ると、完全なフィクションとは観る気持ちが違うのが面白さですね。居酒屋で『今朝どんな目に遭った』というような話を共有しているのと同じ感覚だと思います。話すのがうまい人のひどい目に遭った話を聞くと、ちょっと元気になったりしますが、それがもっとパワーアップしたもの。僕自身の体験をもとにした作品もそうですが、誰かの話を追体験することで、自分について考えるきっかけになるエピソードを選んでいるつもりです」


この2作品を上演するきっかけが、岩井がやっている『どもども』と『作家部』という企画だ。

岩井「5年ほど『どもども』という俳優の寄り合いをやっていて、良いメンバーが育ってきました。彼らをより多くの方に観ていただき、本人達にも新作ではなく安定した戯曲で力を試してほしいんです。というのも、世の中にはどんどん新しい戯曲が生まれているけど、ひとつの台本を何年もかけて上演し、いろんな人の目に触れることで、俳優が育ったり、演出が成長したりしていく。『ヒッキー・カンクーントルネード』はそれをずっとくぐり抜けてきた台本ではあるので、若い俳優さんがそれぞれの挑戦をするのに良いと思うんです。また、根本宗子さんや池田亮君がいる『作家部』という劇作家中心の寄り合いもやっていて、そのメンバーと『どもども』のメンバー数名にも書いてもらい、今の東京にいる人達の人生や家族の話を演劇にするのが『ワレワレのモロモロ』です。どちらの作品も、「いいな」と思える若手の俳優さんが出演することが面白みだし、見どころですね」


誰かの人生を舞台にする“私演劇”とも言われる岩井のスタイル。それぞれにどう取り組むのか。

岩井「僕はそもそも演劇を観ないし、演劇に興味がない人の気持ちもわかる。だから、普通に生きている人に届くものをやることに大きな意味を感じます。他人の体験談を外側から観ているうちに、自分の体験にも別の視点があるかもしれないとか、それぞれの人が何かを考えられるものを創りたいです」

 

インタビュー・文/河野桃子
Photo/植田真紗美

 

※構成/月刊ローチケ編集部 2月15日号より転載
※写真は本誌とは異なります

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【プロフィール】
岩井秀人
■イワイ ヒデト ’03年にハイバイを結成。’12年、NHKBSプレミアムドラマ『生むと生まれるそれからのこと』で第30回向田邦子賞を、’13年には『ある女』で第57回岸田國士戯曲を受賞した。