横浜流星が宮本武蔵、伊藤健太郎が佐々木小次郎を演じる舞台『巌流島』が2020年7月から9月にかけて全国8か所で上演される。
剣豪・宮本武蔵とライバル・佐々木小次郎による世紀の対決「巌流島の戦い」に焦点をあてた作品で、『魔界転生』『真田十勇士』などを手掛けたマキノノゾミの脚本、『ダンス・オブ・ヴァンパイア』『アニー』などを手掛けた山田和也の演出で、新解釈・新設定の“新アクション時代劇”として上演する。
約1年ぶり、3作目の舞台出演となる佐々木小次郎役・伊藤健太郎に話を聞いた。
――脚本などはまだこれからだそうですが、出演が決まっていかがですか?
「佐々木小次郎という誰もが知る人物を演じさせてもらえるということで、すごく嬉しいです。新しい『巌流島』で『これが小次郎だぞ!』というものを出せたらいいなと思っています」
――佐々木小次郎のイメージってありますか?
「小次郎って明確な史実がない人物で、だからこそいろんな捉え方ができるんですよね。フットワーク軽く演じさせてもらえそうだなと思っています。最終的に宮本武蔵に敗れることは決まっているのですが、その敗れ方も“負けの美学”のようなものがある気がするので、そこがカッコよく演じられたらとも思っています」
――新解釈・新設定というのも楽しみですね。
「はい。どんな内容になるのかはまだわかりませんが、皆さんの持ってる小次郎像をできるだけ裏切りたい気持ちもありつつ、筋の通った人物を演じられたらいいなと思っています」
――武蔵と小次郎の物語は、さまざまなメディアで表現されてきたものですが、なぜそんなにも愛されていると思いますか?
「こういうライバル関係ってみんな好きですよね。僕も好きです。同じくらい強いふたりが同じ時代にいて、最後にぶつかるっていう。それはただの殺し合いじゃない。気持ちのぶつかり合いというか、熱いものがあるので。そういう物語は、人の心に届くものなんだと思います」
――舞台では初めて殺陣もありますね。
「映像ではやったことあるのですが、舞台の殺陣は、当然カメラアングルもないですし、寄りも引きも全てお客様が決めるので頭のてっぺんからつま先まで、どこを観られても違和感のないようにしなくてはと思っています。すごく難しいことだと思いますが、やったことないことでもあるので、楽しみです」
――映像でやってどんなイメージがありますか?
「殺陣は好きです。でも殺し合いですからね、言ってしまえば。生半可な気持ちでやっちゃいけない。そのためには信頼関係も大事になってくると思います」
――その戦いの相手である宮本武蔵は、初共演の横浜流星さんが演じます。
「いい意味でライバルとして、どれだけ舞台上で戦っていけるかはすごく楽しみです。共演は初めてなのですが、お会いして、『今度一緒になるね』って話をしたりはしたんですよ」
――お会いされたときはこの作品についてお話しされましたか?
「いやそれが、共通の知り合いに、僕らが一緒にやるからって会わせたがる人がいて……まあ、田中圭くんなんですけど(笑)。それでお会いした感じなので、作品について具体的には話せてないですね」
――伊藤さんは、舞台は毎回全くテイストの違う作品に出演されていますが、敢えて選んでいるのですか?
「そういうわけではないです」
――毎回違うテイストのオファーが来るっていうのは役者として素敵なことですね。
「嬉しいですね。それは僕のひとつの目標といいますか。いろんな役を演じられるっていう。それに、そこがこの仕事の一番楽しい部分なのかなと思っています。その刺激がないと、僕の性格上、飽きちゃうと思いますし(笑)」
――舞台で毎日同じ芝居をすることには飽きないんですか?
「それはないです(笑)。本番が始まると毎回リセットされるというか。同じことをやっているけど、同じことではない感じなんです。あと、今回地方公演があるのも嬉しい。その土地土地で反応が違うので、より新たな気持ちでやれますから」
――今回はこれまでで一番大きな劇場になりますね。
「大きなところでやるのはすごく楽しみですよ。緊張しますけど。出ちゃえばいいんですけどね。出るまではドキドキすると思います。初日とか」
――緊張するのはちょっと意外です。
「ほんとですか。ブルブル震えたりはしないですけどね。でも、その緊張のおかげでいい芝居ができるのかなと思っていて。それがないと失敗したりするかもしれない。だから敢えて初日は、緊張している姿を一番観られたくない人に来てもらったりします(笑)」
――どんな方に観られたくないんですか(笑)。
「学校の先生とか(笑)。絶対、緊張するじゃないですか!」
――たしかにそうですね(笑)。そういう客席も含めてのライブ感も舞台の面白さのように思いますが、伊藤さんにとって映像で演じるのとは違うことはありますか?
「全然違いますね。舞台ってその空間にいる人全員でつくりあげてるものだと思っているので。稽古で99%つくるとしたら、残りの1%はお客様だと思っているんですよ。お客様が入ることでやっと完成する。だから毎公演、違う。そこは面白い部分です」
――ところで伊藤さんは、今の時点で今年は映画4本の公開が発表されていますし、現在は連続テレビ小説「スカーレット」(NHK)にも出演中ですし、すごくお忙しそうですけど、今回さらに舞台にも出演されて。お芝居、やらずにはいられないですか?
「あはは! 楽しいのはもちろんありますが、これしかやれることがないとも最近思うんです。もちろん好きなんですけどね。大変なこともあるし、『ああ!』って悩んだり、打ちのめされたり、パンク寸前になったりとかもするんですよ。でも、辞めたいと思ったことは一回もない。好きですね、なんだかんだ」
――喜びはどこにあるんですか?
「観てくださった方の反応だったりとかかな。あとは、でかいスクリーンに自分が映ってるのを観るといまだに嬉しいですし。うーん。なんか、僕が出るドラマや映画を観るために一日がんばった、とか言ってくださっているのを見ると、その方の一日の楽しみになれたのかなと思って、嬉しいです。単純に自分が好きなことをやってるんですけど、それでさらにそういうふうに思ってくださる方がいるっていうのは喜びです」
――そういうことって、最初から思っていましたか?
「いえ、最初の頃は、そういうふうに言ってもらっても、どこか信じていないというか…バチッとシャッター閉じてたところもあるんです。でもある日を境に、耳を傾けられるようになりました。それから、ファンの方々のためにやっている部分もあるなと思うようになりましたね」
――ある日を境って何かあったんですか?
「少し前にチャリティーで児童養護施設に行かせてもらったんですよ。そこでちびっ子たちがすごく喜んでくれて。あと職員さんとか周りにいるおじいちゃんおばあちゃんも喜んでくれた。普段はそういう反応って文字で見ることが多いのですが、やっぱり、目を見て、顔を見て、話をすると、伝わってくるものがありました。しかもこれ、“お邪魔している”っていう状況ですから。僕に会いに来てくださった方々というよりは、僕が伺ったときにそこにいた方々が、そこまで反応してくださった。僕なんかでそんなに喜んでくれるのがすごく嬉しかったんです。それがきっかけで変化したと思います」
――そういう変化を経た伊藤さんが挑む舞台がより楽しみになりました。ありがとうございました!
取材・文/中川實穗