いとおしきクズたちによるノンストップナンセンスコメディ
いい意味で、どこか懐かしい匂いがする劇団だ。熱と、笑いと、どうしようもない人々のどうしようもない人生と。スタイリッシュな劇団がメインストリームをいく中、劇団献身は独自の路線を突き進んでいる。
奥村「確かに泥臭い感じはありますね。オシャレじゃないし、カッコよくもないし、今の演劇のムーブメントを考えれば、全然主流じゃない(笑)。でもそれでいいと思っています。カッコよさに興味がないんですよね。汗を流しながら大きい声を出している人が舞台上にいるだけで面白いのが演劇の良さ。献身では、そのスタイルを徹底しています」
主宰の奥村徹也は現在28歳。早稲田大学で演劇を始め、一旦は就職するも、演劇への情熱が忘れられず25歳で劇団を旗揚げ。以降、自らが脚本・演出を手がけ、3秒に1度は笑いをぶちこむナンセンスコメディを世に送り出している。
奥村「僕は自分の頭の中だけで書いた脚本があまり好きではなくて。それだとどうしたって自分のキャパを超えるものって生まれにくい。集団でやる以上、みんなでワイワイやりながらつくった方が絶対面白くなると思う。だから稽古が始まるときに僕が用意するのは大枠のプロットだけ。あとはみんなでエチュード(即興芝居)をしながらつくっていきます」
稽古場で役者が出したアイデアが、別の誰かのアイデアを呼び、思いがけない笑いを生む。そんな場面を何度も見てきた。自分ひとりでは辿り着けない奇跡のような瞬間を信じて、奥村は旗揚げ以来、こうした劇作スタイルを貫いている。
奥村「強烈な個性を持った役者たちから繰り出されるポップなギャグが献身の強み。笑えるものが観たいという人にはオススメだと思います」
さらに笑いと同じく重視しているのがストーリー。観客の感想にも「笑った」という声と共に、物語や登場人物への共感と愛着の言葉が並ぶ。
奥村「たぶんそれは僕自身のどうしようもない部分を書いているから。僕は本当に弱くてだらしなくて、だから同じような人の気持ちがわかるというか。一生懸命になりたいけどなれない人を描くのが得意なんです。献身に出てくる登場人物はクズばっかりなんだけど、決して悪いやつじゃない。たぶん観た人もそこに共感してくれている気がします」
うまくいかない人生への柔らかな肯定。だからだろうか、劇団献身の公演はダメな人に優しい。
奥村「たぶん自分のことをダメだって落ち込んでいる人が見たら元気になれると思いますよ。舞台上には自分よりもっとダメな人間がいて、まあまあ笑いをとってる(笑)。そういうのを見て、自分の人生も最悪じゃないかもって思ってもらえたら」
昨年12月に上演した第10回公演で動員1000人を突破。旗揚げ当初からの目標を達成した劇団献身は、次のフェーズへと向かう。
奥村「小劇場って行ったことがない人からしたら怖いかもしれないですけど、全然そんなことない。あんな小さな空間でお客さんも一緒に物語をつくっていけるのは小劇場だけの楽しさ。ぜひ一度足を運んでみてほしいし、その入口が献身なら嬉しいです。誰が来ても気持ちよく楽しめるものをつくっているので、よかったら遊びに来てください」
インタビュー・文/横川良明
Photo/村上宗一郎
※構成/月刊ローチケ編集部 5月15日号より転載
※写真は本誌とは異なります
掲載誌面:月刊ローチケは毎月15日発行(無料)
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【プロフィール】
劇団献身
■’14年旗揚げ。’17年12月、第10回本公演『俺は大器晩成、~四十にして大輪を咲かせる予定~』にて動員1000名を突破。