新宿・紀伊国屋ホールが耐震補強工事と内装一新を終えてリニューアル。57年続く伝統を受け継ぎつつ、新たな幕あけを迎えた。節目となる公演第一弾は「新・熱海殺人事件」、続けて第二弾「改竄・熱海殺人事件」が上演される。
開幕を目前に控えた6月9日、両キャストらが勢ぞろいして舞台挨拶が行われ、一部シーンがメディア向けに披露された。舞台挨拶は、両作品で総合プロデューサーを務める岡村俊一の進行で行われた。
「熱海殺人事件」はつかこうへいの代表作のひとつで、紀伊國屋ホールで何度も再演を重ねた作品で、さまざまなバージョンが製作されている。改装前最後の公演「熱海殺人事件ラストレジェンド」で主演を務め、第一弾となる「新・熱海殺人事件」でも主演を務めることになった荒井敦史は「客席が千鳥になって見やすくなりましたね。楽屋の床もキレイになった」と、新旧劇場の違いをコメントしいた。
また、こけら落としの第一弾では熊田留吉刑事役、第二弾では木村伝兵衛部長刑事役と、立て続けに出演する多和田任益は「連続で演じさせてもらえることなんて二度とないんじゃないか。第一弾が終わって中三日で第二弾になるんですが、周りのメンバーはびっくりしていました。スタッフさんからも『大丈夫か?』と声をかけられたが、岡村さんが『大丈夫』と言ってくれているから、その言葉を信じています。僕自身、これを当たり役にしたいという気持ちもある。やり遂げて、伝説を残したいと思います!」と、ハードスケジュールを乗り切って見せると声高らかに宣言した。
各キャスト等のコメントは以下の通り
新・熱海殺人事件
《荒井敦史/木村伝兵衛部長刑事》
改装前最終公演に続いて、こけら落とし公演にも出させていただきます。歴史ある作品で木村伝兵衛という役をやらせていただけること、僕自身がやりたいと思っていた役をやらせていただけることはなかなかない。『熱海殺人事件』だけでも3回ほどやらせていただいていますが、悔いの無いように、精一杯演じたいと思います。オールドファンも納得させられるような、つかこうへいさんが作られた当時の匂いを残しながらも、若い世代の役者さんにも伝わって“熱海”をやってみたいな、と思える作品にしなければならない。そして何より、お客様に認めていただけるような“熱海”にしたいと思います!
《多和田任益/熊田留吉刑事》
僕は4年前にも、ここで熊田留吉を演じさせていただいています。あれから4年が経ち、こけら落とし公演というタイミングで出演できることを光栄に思います。4年前と同じ役ですが、気付けなかったこともたくさんあるので、メンバーも変わり、中江さんが演出されるということで、新たな発見がたくさんあるはず。そこを楽しみにしつつ、大暴れしたいと思います。あと、振付もやりましたので、ぜひそちらも楽しみにしてください。
《能條愛未/婦人警官水野朋子(Wキャスト)》
今回、Wキャストですが、本当にまったく違う感じになっていますので、楽しみにしていてください。私は初参加組なので、皆に負けないようにエネルギーを発揮できるように頑張りたいと思います!
《向井地美音(AKB48)/婦人警官水野朋子(Wキャスト)》
AKB48を飛び出して、舞台に出演させていただくのは今回が初めてになります。いきなりこんなに歴史ある、重みのある舞台なので大丈夫かな?と思ったりもしましたが、みなさんに支えられて今日を迎えられました。私が演じる水野朋子は……ロリキャラです。たくさんの方が演じてきた水野とは全く違う、新しいものになっていると思うので、ぜひご覧いただきたいです。
《三浦海里/犯人大山金太郎(Wキャスト)》
今回初めて参加させていただき、たくさん稽古をさせていただいて、ここまで来ることができました。とりあえず全力でぶつかって、終わった時に倒れ込むくらい体当たりします!よろしくお願いします!
《松村龍之介/犯人大山金太郎(Wキャスト)》
1月の改装前最終公演にも同じ役で出演させていただいて、今回はこけら落としということで、節目の作品に出演させていただけることを本当に嬉しく思います。前回もあっちゃん(荒井)と一緒に舞台に立たせてもらって、今回はお互いにさらにパワーアップして、より新しい発見や想い、楽しさを見つけて、新しい“熱海”をお届けできると思います。全部まとめて、楽しんでいただけると嬉しいです!
《中江功/演出》
演劇については客席で観ていた側。まさか自分が演出すると思っていなかったが、稽古も楽しかったし、すごく気持ちのいいメンバーなので、気持ちのいい現場でした。僕は味方良介をこの“熱海”で見つけてTVに引っ張って行ったりしたので、新しい役者を見られることも楽しみだったし、(稽古で)生で見れたのは楽しかったですね。始まったら、あとは役者に任せるしかない。すべてを託しました。初日が楽しみです。
改竄・熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン 復讐のアバンチュール
《多和田任益/木村伝兵衛部長刑事》
去年、『改竄~』をやって、“熱海”の中でも異端と呼ばれる作品をやらせていただいたんですが、コロナの影響で千秋楽が無くなってしまったりと、僕らはもちろんお客様も含めて悔しい思いをした作品です。ここでまた、同じメンバーで集まれて、こけら落とし第二弾ということで、続けてやらせていただけることが本当に嬉しいです。再演と聞いていたんですが、全然再演じゃないです!ほぼ新作と言ってもいいくらい、改竄を重ねてバージョンアップしています。楽しんでいただけたらと思います。
《菊池修司/速水健作刑事》
1年ぶりに、同じメンバー、スタッフでやらせていただける。こういうご時世の中、こんな素敵な環境の中で、この場所に戻って来られることを本当にありがたく思っております。“復讐のアバンチュール”というサブタイトルがついていますが、いろんな意味で復讐のアバンチュールになるよう、頑張ります。……あれ、うまく言えたと思ったんですけど(笑)。前に観ていた方も、初めての方も楽しんでいただけると思いますので、よろしくお願いいたします!
《兒玉遥/婦人警官水野朋子》
水野朋子は部長の愛人。でも、みなさんが想っているような愛人とはちょっと違ってフクザツなんです。でも、部長への想い、愛を楽しんで観ていただけたらと思います。再演になっていますが、新しく変更したところもたくさんあるので、新鮮な気持ちでたくさんの人に観ていただきたいです。
《鳥越裕貴/容疑者大山金太郎》
大山金太郎です!僕が役者としていろいろ経験させていただいたこと、人間としていろいろ学んだことを、すべてこの役に注いで、今僕にできる大山金太郎を見せたいなと思っております!ありがとうございます!
舞台挨拶後には、短時間ながら一部シーンが公開された。
最初に公開されたのは、『新・熱海殺人事件』で、木村伝兵衛と水野朋子のところに熊田留吉がやってくる場面。田舎の刑事である熊田を、東京警視庁の木村と水野が翻弄するのだが、いきなり疾風怒濤のセリフの応酬が続く。特にセリフの多い木村伝兵衛役の荒井敦史は、立て板に水を流すがごとく言葉を押し出し、舞台空間を一気に掌握した。そして、熊田留吉役の多和田任益は、セリフのテンポを崩すことなくツッコミを入れる形。その見事なやりとりに、確かな一体感を感じさせられた。そして、水野朋子を演じた能條愛未は、大人っぽくセクシー。Wキャストの向井地美音は本人の言葉通り“ロリキャラ”でキュートな印象だ。犯人大山金太郎として先に登場したのは、三浦海里。バラの花を手に客席から現れ、男気を感じるキャラクターに仕上げてきた。一方、松村龍之介はややオトボケなキャラクターの大山となっており、こちらの対比も面白いことになりそうだ。
続いて『改竄・熱海殺人事件』は、公開シーン冒頭でいきなり大山が歌いながら登場。そして、大山が木村伝兵衛のある秘密を暴露し、木村は追い詰められていく。そんな木村をサポートする速水健作と水野朋子。途中、殴り合いなどのバイオレンスな雰囲気を経て、何とか大山の取り調べに取り掛かるが……。木村伝兵衛を演じている多和田任益は、先ほどまで熊田留吉を演じていたとは思えないほどのキャラチェンジ。オネエ言葉も堂に入っていた。速水健作役の菊池修司も体当たりで熱い刑事を熱演。水野朋子役の兒玉遥は、途中で多和田とのデュエットを披露し、かわいらしい女性らしさを見せた。そして大山を演じる鳥越裕貴は、やんちゃで破天荒。そこがどこかチャーミングで、グッと目を惹く存在感だった。
また、『新・熱海殺人事件』はドラマ「世界は3でできている」でギャラクシー賞を受賞した中江功が、『改竄・熱海殺人事件』は劇団「柿食う客」の代表で外部演出や共同脚本など幅広い活躍を続けている中屋敷法仁が演出を務めており、若くフレッシュなキャストが演じることはもちろんだが、演劇界にとって新たな息吹を感じる演出家によって上演されることも、今回のこけら落としの大きな魅力ではないだろうか。大きな節目となる2作品の熱い息吹を、ぜひその目で確かめていただきたい。
文/宮崎新之