品川ヒロシ、猪野広樹 インタビュー|舞台「池袋ウエストゲートパーク」THE STAGE

直木賞作家・石田衣良の人気小説「池袋ウエストゲートパーク」。これまで、テレビドラマやアニメなどさまざまなメディアミックスを遂げてきたこの物語が、ついに舞台化される。猪野広樹と山崎大輝のW主演で、演出を手掛けるのは本作が舞台初演出となる品川ヒロシだ。今なおファンの多い本作の舞台化に、どのように挑んでいくのか。品川と猪野の2人に話を聞いた。

 

――「池袋ウエストゲートパーク(IWGP)」が舞台化されると聞いて、まずどう思われました?
品川 いや、やっぱ……ヤバいな、って(笑)。原作も読んでますし、テレビドラマを割とドンピシャで観ていたので。カリスマ的なドラマだったじゃないですか。もう、「池袋ウエストゲートパーク」っていうネームが強すぎて、やべーことやるな、っていうのが一番最初。で、それを誰かがやるくらいなら、自分がやりたい。チャレンジできるならね。

 

――品川さんは、初めての舞台演出となります。映画などの映像作品とは違う?
品川 全然違いますね。稽古に入って、最初の1週間はちょっとみんなにも迷惑かけちゃったかもしれない。普段は自分で脚本を書いているんですよ。脚本を書きながら、自分の中に落とし込んでいくので、読んだだけじゃ理解できない心情や部分があったんです。少し書き直したりした部分もあるんですが、それでもやっぱりまだ、入り込んでなかった。その戸惑いが最初の1週間にありましたね。自信を持って役者に伝えられなかった、というか。普段なら、キャストから「この時、こういう気持ちだと思うんですよ」って言われても、うるせぇ俺が書いてんだよ!って言えるんだけど(笑)。けど、みんなのお芝居を観ているうちに、だんだんと自分の方向性も見えてきて。そういう自信をつけるまでの咀嚼時間が少しかかりましたね。

 

――猪野さんは、舞台化の話を聞いた時どう思いました?
猪野 やりたくなかったです(笑)

品川 いや、気持ちメチャクチャわかる!

猪野 ですよね。多分、品川さんと一緒で、でも逆に自分が出ないIWGPの舞台キャストが発表されたりしたら、それはそれで気になっちゃう。

品川 仮にさ、俺も演出してなくて、猪野くんもマコト役じゃなかったとして、どっかで知り合いになって一緒に舞台化されたIWGPを観に行くとするじゃん。そしたら絶対めちゃくちゃ文句言ってるよ(笑)

猪野 絶対言うと思います(笑)。だから、やらせてもらえる機会があるならば、絶対やりたいと思いました。演出が品川さんだということも聞いて、あの品川さんですか!って。映画も観ていたんですよ。だから、勢いのある映画を撮られている品川さんなら、その勢いをそのまま舞台に持ってきてくださるはず、とすごく楽しみにしていました。品川さんだから引き受けさせていただいた、というのも大きいです。お名前を聞いて、すごく納得しましたから。

品川 すごい嬉しいね。

 

――IWGPは約20年も前の作品になりますが、猪野さんはどういう作品と捉えていますか?
猪野 そうですね……いろいろな要素が入っているので1カ所にまとめるのは難しいな、と思っていて。友情も入っていますけど、友情もひとつじゃなくていろいろな形が入っている。誰かが誰かを想うことが“愛”だと思っているので、そういう意味では、すごく愛のある作品だと思います。そして、エネルギッシュさと、棘と、若さ、怒り。そのすべてを表現できるのが、IWGPですね。

 

――まさに今、稽古が進められているところですが、手ごたえは?
猪野 ようやく汚くなってきたな、っていう感じです。ドブネズミがはびこるような街ににしたいな、と思っていたので、ようやくそれぞれの役者の棘が出てきたんじゃないかと思います。

品川 同感だね。自分自身も、ここ2~3日くらいでようやく自分がだせるようになってきた感じもあるので。IWGPって、ギャングとかヤクザなヤツって言ってますけど、結局のところ舞台の稽古場もそれに似ているんですよ。友情はありつつも、やっぱりライバル。年を取っている人は、若い子たちのバチバチを達観した目で見ているし、休憩の時とかの立ち居振る舞いとかも、そのまま人間関係が出てくる。まぁ、稽古場でケンカされちゃうと困るけど(笑)、内面にフツフツとあるライバル心とか、ちゃんとやれよ、って思っているようなこととかが、そのままぶつかればいいじゃん、って思ってるんですね。なんか猪野くん暑苦しいな……、とかね(笑)。それがそのままぶつかれるよう、そこを焚きつけるように意識していますね。稽古場で思っている感情が、そのまま作品にリンクしてくると、さらにツヤっぽいというか。ドコがいいとかが、分かんない方がイイと思うんですよ。セリフが~とか、音楽が~とかじゃなく、よくわかんないけどいいよね、っていうのがあれば一番いい。

 

――セリフや動きとかの細々とした良さじゃなく、なんかもう全部イイ!ってなっちゃう感じですね。
品川 例えば、アンサンブルの子たちが“メイン食っちゃえよ”ってなって、メインキャストの方も“クソッ、アンサンブルの奴らには、絶対食われねぇ”ってなってくるみたいなことだよね。そうなれば絶対に面白くなってくる。そもそも、僕って素人なんですよ。舞台に関してもそうだし、映像に関しても。だから細かい動きのこととかも、もちろん自分で考えて言うんですけど、そういうことよりも気持ちとか……もっと言うと、今後の人生それでいいの?みたいなところを焚き付けられたらな、と。

 

――猪野さんが大きくうなずいていますが、稽古場でそれをヒシヒシと感じる?
猪野 割と、日常的にそう思っているところがあるんですよ。

品川 めんどくさいですよね、やっぱ猪野くんって(笑)

猪野 (笑)。品川さんに言われたくないっすよ!この前、品川さんが稽古場で「自分の人生、自分が主役なんだよ」とおっしゃっていて。それって、舞台上でもそのほかでも、自分の人生をどう自分で納得させられるか、自分の存在意義をどう出せるか、ということですよね。表に出る職業なんだから、と、自分もそういうことを考えていた時期もあったんです。もっともっと、個々がそういう主張をしてくれたら、本当に、ぶつかり合える。だから、みんなもっと尖れ!って思ってます。僕はそういうぶつかり合いが好きだし、それができれば今までにない、刺々しい、むき出しのナイフみたいな作品ができるはず。むき出しのナイフみたいな演出家さんですし(笑)

品川 (笑)

猪野 品川さんは、特に稽古が厳しいとかはないですけど、シメるところはキッチリとシメる。楽しませてくれるところは、メチャクチャ楽しませてくれる。だから、個人的には今、メチャクチャ楽しいです。

 

――演出家として、何かを伝えるときに意識していることはありますか
品川 意識しているというか……僕としては、そのまんまです。みんな、いろいろ事情はあると思うんですよ。忙しいとか、寝れてないとか、コロナ禍でマスクして稽古しなきゃいけないとか。僕だって、いろいろな仕事を抱えてる。でも、お客さんには関係ないじゃないですか。僕は初めての舞台、他の子はもしかしたら100本とかやっているのかもしれない。だけど、僕にとっても、お客さんにとっても、この1本は“1本中の1本”であってほしい。これを、数ある仕事の1本ってされてしまうと、それはなんか違うなってなる。めんどくさい男なんで、そうなると「あ、オレのこと舐めてんだ」って思っちゃう。僕のこの1本への“命がけ度”は凄いと思っているし、なんなら俺の方が忙しいし、だったら今この場くらいは死ぬ気でやるくらいのことはやれよ!本気でやれよ!っていうのは――言葉にせずとも思いながらやっています

猪野 熱いですねー(笑)

品川 (笑)。あの頃のIWGPって、原作も面白いし、ドラマの中身もキャストもすごく面白かったんだけど、何が凄かったかって、みんな若かったんだよね。原作の石田衣良さんも若いし、ドラマ脚本の宮藤官九郎さんも若い、出ているキャストもみんな若くて、この作品で何かを逆転してやろうっていう熱みたいなものがあったんですよ。当時の話を聞くと、堤幸彦監督とクドカンさんが「ここをこうしたい」「いやそれはちょっと違う」ってやりあったりとか、窪塚洋介くんがセリフをガラッと変えちゃったりとかがあったそうなんです。監督も、脚本も、役者も、それぞれにドラマがあってIWGPに向かっていったんですよ。今回の舞台もそうだと思うんですよね。ギスギスしても、本番が良ければそれでいいじゃないですか。俺と役者がケンカになってもいいと思う。楽しくはやろうと思うけどね。“あの時ギスギスしてたけど、あの舞台良かったよね”ってなるのがゴール。猪野くんにも、途中ケンカしたっていいんだよ、って言ったしね。

 

――その食らいつく感じが、情熱として表に出てくる感じですね。
品川 なかなか無いですよね。ギスギスをよしとすることって(笑)。もちろん、帳尻合わせてうまく収めてくれるような大人な人だって必要。大地(洋輔)さんが、なんかちょっとミスったりしてくれると、あぁ助かった~って思うもん(笑)。現場に笑いが生まれて、ホッとさせてくれる人も必要だし、横山礼一郎役の久保田秀敏くんみたいに、大人なところで俯瞰で見ていてくれる人もね。そういう存在は、演出家サイドもホッとする。僕が熱くなりすぎたときに「休憩入れましょ」って言ってくれたりね。でも、そこを意識しすぎず、バンバンぶつかってもらいたいです。

 

――最後に、本作を楽しみにしている方に、見どころとメッセージをお願いします!
猪野 (見どころは)ケンカシーンですかね(笑)

品川 そう言っちゃうといろいろアレだから、エネルギーくらいで(笑)

猪野 (笑)。半分ドキュメンタリーくらいのところまで持っていきたいですね。それくらいリアリティがあって、それぞれの役者が上を目指してやっていく。そういう部分が見えてくれば“勝ち”だと思います。役に入るというか役に“乗って”いけたら、勝てるはず。

品川 僕、毎回マコトの長台詞でジーンとくるんですよね。多分、猪野くんがこの舞台で背負っているものを毎稽古、ぶつけてくれるんで。だから、毎回刺さるんですよ。猪野くんが本気でやるから、周りでそのセリフを言われた子たちにも刺さっている部分があると思う。僕らに刺さったものは、きっとお客さんにも刺さるはず。猪野くんをはじめ、みんながこの舞台に懸けているものがお客さんに刺されば、大成功だと思います。

 

――期待しています! 本日はありがとうございました