宅間孝行が作・演出を務めるタクフェスの4年ぶりとなる最新作『天国』が、2021年秋に上演決定。今回は、2011年の”あの日”を迎えようとしている宮城県石巻市の山田劇場を舞台に、映画や芝居、興行に奮闘する人々の愛すべき日常を描いていくという。主演を務めるのは、シリーズ初参戦となる原嘉孝。果たして彼は、この物語にどのように挑んでいくのだろうか。
――今回の役どころについて教えてください。
原「僕が演じる龍太郎はひょんなことから、石巻にある山田劇場で働くことになる男です。そしてそこで働くことが、人生になっていく。誰でもそういうところはあると思うんですが、心に傷を負っていて、周りの人の影響で成長していく人物です。家族の温かさや、友人の大切さを表現できたらと思いますね。」
――今回の役は、作・演出の宅間孝行さんが、原さんに会う前にイメージを膨らませて書いた当て書きだそうですが、ご自身としては自分に近いなど何か思うところはありますか?
原「そういえば当て書きなんですよね。忘れていました(笑)。どうなんでしょうか…。ちょっと空気が読めないところだったり、天然なところがあったりするんですけど、まっすぐで優しい役なので――僕にピッタリなんじゃないかと思います(笑)。でも正直、別モノとして考えていました。まだ稽古もこれからで、役を落とし込んではいないんですが、本当に島村龍太郎が10年前に石巻に居た、本当に龍太郎が居たんだという気持ちで役を受け止めていましたね。」
――宅間さんの印象は?
原「なんか全部見透かされているんだろうな、という気がします。余裕があるんですよね、いつも。まっすぐな目で、神様か超能力者みたいな感じがしました。ウソが効かないな、と。だから、正面から稽古でぶつかっていきたいと思います。エンタメに対する熱も感じたので、宅間さんがこの作品を、震災から10年たった今やる意味とか…そういうものを形にできたらな、と思っています。」
――実際に、宮城県石巻市に取材にも行かれたそうですね。どんなことが得られたと思いますか?
原「最初は、あまり実感が持てなくて…資料をたくさん見たり、被災地に行って高台から街を眺めたりして、少しずつ感じ取っていきました。めちゃくちゃ住宅街だったのに、何もないなとか、きれいにはなっているんですけど…時間がかかったんだな、とか。うまく言えませんが、作品の舞台になった場所に立てたことは、すごく意味のあることだったと思います。すべてを言葉にできるわけじゃないですけど、肌で感じたことを表現することはとても大切なことなので、行ってよかったです。台本のセリフを読んでなど、やることはいつもと変わらない。でも、街の人の温かさとか、感じたことは表現として必ず出てくるはず。それが自然と稽古の中で出していきたいですね。」
――震災を扱った作品、という部分についてはどう考えていらっしゃいますか。
原「やっぱり、こういう作品をやることってすごく難しい。やっていいものなのかとか、せっかく時間をとって観に来てくださったのに、何か嫌なことを思い出してしまったり、嫌な気持ちを抱えてしまうんじゃないかとか、そこは今でも悩んでいる部分です。でも、10年前のあの出来事は忘れちゃいけないことだし、すべての人がいつ当事者になるかわからない国で生きています。だから、あの出来事を背負って生きていかなきゃいけない。石巻を見学して思ったことは、胸を張って形にして、残して伝えていく。それは今回だけじゃなく、誰かが受け継いでいく――そういう作品になればいいですね。それが僕らが描くエンタメの形です。この作品にこのタイミングで出会えたことに、使命感が芽生えています。街並みは整ってきましたけど、気持ちの部分では前を向けていない人もたくさんいるだろうし、それを完全に癒すことなんてきっとできない。それでも、前を向いて生きていかなきゃいけないんです。まだ葛藤している人がいるんだよ、と気付いてもらったり、そういう人が前をむくきっかけになったり…そこまで大層なことはできないかもしれないけど、そんな作品になったらと思います。」
――今回は東北の方言でのお芝居になりますが、手ごたえは?
原「僕のセリフについては、方言指導の方が全部吹き替えてくださって、音声をいただいたんです。緊張しながら聞いてみたら、ぜんぜん訛っていなくて。なんだか、意外と訛りがない地域なんだそうです。あと、SNSとかが流行して、どんどん訛りが薄れていっているらしいんですね。お年寄りはけっこう訛っているそうなんですが、僕が演じるのは現代の男。だから、あんまり訛っていないのが、正解らしいです。方言での芝居、っていうのがイメージで先行してしまっているので、それだけわかっておいてほしいです(笑)。とはいえ、少しは訛りがありますし、お芝居をやってきて初めての作業。ちょっと2倍くらいは大変なのかな?とは思っています。繰り返し、繰り返し、やるしかないですね。」
――稽古で楽しみにしていることはありますか?
原「やっぱりコロナ禍で役者同士の話し合いの場が無くなっているんですよ。もう稽古場だけでしか話せない。その時間はじゅうぶんに充実させて、関係性を組みあげていって、役に深みを持たせたいです。その時間が、僕は好きなので。でも、もどかしいです…みんなでお酒や食事をしながら、あのシーンはああでもない、こうでもない、って話す時間が、作品に深みを持たせる時間だったんです。役だけじゃなく、カンパニー全体も仲良くなるし、芝居に遠慮が無くなる。その時間が持てないのは、正直苦しいです。…実は人見知りなんです。けど、今回はそれを隠してでも積極的に話し合いをしていきたいですね。あと、役と役の関係性をその当事者間だけじゃなく、全員がその関係性を把握しておいたほうがいいと思うんですよ、今回の場合は。舞台上から見えない部分――例えば、どんなトイレなのか、とかそういう細かいところも共有しておきたい。特に、そういう話し合いは、どんどんしていきたいですね。」
――人見知り、って少し意外な気がしました。克服のために、どんなことをしていますか?
原「意外でした? そうだな…。僕、筋トレをけっこうやっていて、いつもタンクトップなんですけど、それをすることで自分を鼓舞しているところがあります(笑)。自分に自信をつけているんだと思いますね。”人見知りじゃないぞ”って。」
――役者として、今後やってみたいことや描いているビジョンは?
原「舞台だけじゃなく、映像作品にもどんどん出演していきたいですね。ジャニーズだとわりとクリーンな役どころが多いんですけど、悪役にも挑戦していきたい。先輩だと、森田剛クンが「ヒメアノ~ル」で連続殺人鬼を演じられていましたが、すごくカッコよかった。僕もそういう役に挑戦してみたいです。」
――最後に、公演を楽しみにしている方にメッセージをお願いします!
原「震災で流されてしまった劇場のお話ですが、暗い気持ちで帰ってほしいわけではありません。笑えるところもたくさんあります。そういう部分を含めて、全員に前向きな気持ちで帰ってほしいです。僕自身、この作品に出合うまでは当事者意識があまりありませんでしたが、みなさんにもこの作品を観て自分のことのように考えてほしい。楽しいだけじゃないですが、本気でここで生きてきた家族や人の温かさを感じられるはずですので、そこを楽しみにしていただけたらと思います。」
インタビュー・文/宮崎新之