ピンク・リバティ、地縛霊の女を取り巻く人々の物語 新作公演『とりわけ眺めの悪い部屋』の稽古場レポートが到着

2021.10.27

ピンク・リバティの新作公演『とりわけ眺めの悪い部屋』が2021年11月10日より浅草九劇にて上演される。近年、映画監督としても名を広めている山西竜矢が脚本・演出をつとめる演劇ユニット。前回公演『下らざるをえない坂』がコロナ禍により中止となり、約二年半ぶりの待ちに待った公演だ。開幕を二週間後に控えた10月下旬の稽古場からレポートをお届けする。

稽古が始まると、早速シーンごとに役者の細かい立ち位置をつけていく山西。様々なパターンを試しながら、一番を見つけていく。まだ小道具やセットが十分ではない中で、想像しながら稽古を進めていくのはなかなか難しいが、進捗は順調のようだ。

今回の主人公は地縛霊の夏子(湯川ひな)である。現実世界では、幽霊という存在を見ることはできないが、それぞれの役者がその空間を感じ取りながら芝居をし、完成度を高めていく様子が伺えた。夏子という幽霊がどのように表現されているのか見ものだ。幽霊が恐怖対象として存在し、シリアスな物語なのかと思いきや、稽古場は山西や役者の笑い声で溢れている。夏子が一郎(長友郁真)に取り憑く瞬間や琴子(大西礼芳)が夏子を感じ取り探る瞬間などコミカルに描いている部分も多く、ピンク・リバティの特徴であるユーモアを交えながら、日常生活と奇妙な世界が混ざり合う情景が表れていると感じた。


今回、アパートの住人である一郎の周りに集まる人々を個性のある役者が演じる。楽しい空間だった一郎の部屋が、春夫(富川一人)と万美子(葉丸あすか)と雪(北村優衣)の3人のシーンになると、空気が一変。そこから、一郎は様々な出来事に巻き込まれていく。


作品の中で、何度か訪れる柴(稲川悟史)の登場シーン。柴が癖の強い台詞を言い放つたびに、稽古場には笑い声が響き渡り、いい空気感が垣間見えた。紗和(斎藤友香莉)と川村(古野陽大)、二人の関係も思わぬ展開へと進んでいき、目が離せない。作品の終盤の、一郎と琴子の関係にも注目だ。

この脚本はキャストが決定した後、山西が当て書きをしたという。この役者9人だからこその空気感が漂っており、彼らでないと成立しない物語なのだろうと感じた。今回、美術セットも普段のピンク・リバティの公演より具象的なものにするようで、期待が高まる。


稽古の終わりに、山西から「面白くなっている」という声が聞こえた。本番まであと二週間ほどあるが、作品の仕上がりが楽しみで仕方ない。劇場で生まれる『とりわけ眺めの悪い部屋』をぜひ覗きに行って欲しい。

公演は11月10日(水)から11月14日(日)まで浅草九劇にて。チケット好評発売中。

 

写真:中島花子