ミュージカル「刀剣乱舞」シリーズなど、2.5次元舞台を中心に活躍する伊藤栄之進が脚本・演出を務める舞台「中島鉄砲火薬店」。本作は日本の演劇人を育てるプロジェクト 新進演劇人育成公演として上演されるもので、元新撰組隊士の中島登が、箱館戦争が終結したあとに行きついた浜松での暮らしが描かれていく。初日を間近に控えた某日、真剣ながらも笑い声の絶えない稽古場の様子をお届けする。
見学した場面は、物語の中盤にかかるころ。浜松で道場を営む中島登(唐橋充)のもとに、甘利正太郎(田村心)らが訪ねてくる。正太郎は父・兵衛を斬った登への恨みを抱えている。
流れるようなセリフの応酬、ハイテンションやりとりがいきなり繰り広げられ、のっけから目を奪われる。あらすじから想像するよりも数倍コミカルで、熱量の高い芝居を目の当たりにし、一気に物語に引き込まれていくのを実感した。。
演出の伊藤は、取材が入ってからの芝居を見て「取材が入っているから緊張感があっていいね。いつもはもっとふざけ倒している(笑)」と、コメント。それを聞いた、キャストらの大きな笑い声が上がり「観客がいるとやっぱりアガります」という声が聞こえてきた。伊藤は「やっぱりみんな、俳優なんだな」と満足気だ。稽古場ならではの緊張感はありつつも、固い空気はほとんど感じられない。キャストらはそれぞれに、仕草、セリフ回しなど、稽古をやる度に、自由にいろいろと試しているように見えた。
その役者のチャレンジを、伊藤はひとつひとつ拾い上げ、細かく指摘。キャラクター同士の心理的な距離感や、心情描写が、ほんの小さなセリフ回しや仕草によって表現されていく。耳を塞ぐなどのちょっとした仕草が演劇的には別な意味をもってしまい、演者の意図とは違った伝わり方をしてしまう可能性を示唆するなど、勢いや感情任せだけではない表現へと繊細な作業で洗練させていた。伊藤の言葉にキャストらが真剣に聞き入る様子は、まさに稽古場とは学びの場だと思わされる。
物語は、主人公の中島登が何を想い、何を抱えて生き抜こうとしているのかを主軸となるが、登場人物それぞれの人間模様も実に見応えがあった。離れていた時間が長く、過去のすべてを明かしていないからこそ、登と登一郎の関係性はややいびつだ。親の仇として登を狙う正太郎も、復讐という行為に少なからず葛藤を抱えている。正太郎を手伝う鶴太郎(松本寛也)と亀吉(大見拓土)の兄弟は、貧しい生まれであるからこそ、金と倫理の間で選択を迫られる――。それぞれのキャラクターの信念や背景がくっきりとしており、非常に魅力的に映った。
そして、基本的には笑いがこぼれるようなコミカルな雰囲気で展開していくが、突如としてハッとするようなシリアスさが押し寄せてくる。このメリハリが非常に心地よい。稽古の日程は残り僅かだが、稽古場からは、まだまだ試行と挑戦くりかえしていこうという野心がみなぎっていた。このギラギラとした演劇への野心が、舞台上でどのように弾けるのか。大いに期待したい。
「中島鉄砲火薬店」は東京・新国立劇場小劇場にて、2022年1月20日(木)から27日(木)まで上演される。
文・宮崎新之