ミュージカル『The View Upstairs-君が見た、あの日-』平間壮一、小関裕太の言霊が宿る歌声と躍動感あふれる魅惑のダンスナンバーも初披露!稽古場レポート&写真解禁!!

撮影:飯山福子

出会い・別れ・苦悩…時代を超え、数奇な運命の2人の切ない愛を描く日本初上演のミュージカル

いよいよ、2022年2月1日(火)より東京・日本青年館ホール、2月24日(木)より大阪・森ノ宮ピロティーホールにてミュージカル『The View Upstairs-君が見た、あの日-』が上演される。
本作品は、ニューオーリンズに実在した「アップステアーズ・ラウンジ」という同性愛者クラブで1973年に実際に起きた米国史上に残る同性愛者に対する事件の一つ“アップステアーズ・ラウンジ放火事件”を題材に、ブロードウェイ新進気鋭の若手作家、マックス・ヴァーノンが作・作詞・作曲を手がけたミュージカル「The View Upstairs」。2017年にアメリカ、オフブロードウェイで初演、その後全米各地で上演。2018年にはオーストラリア、シドニーで初海外プロダクションが開幕、2019年にはロンドン版も上演され、そしてついに2022年日本初上演を迎える。
主人公で現代から突然1973年にタイムスリップしてしまう、若きデザイナーのウェス役に平間壮一。突如現れたウェスに興味を持ち、次第に惹かれていく若い男娼パトリック役に小関裕太。女性と結婚して子供もいる“クローゼット”のゲイ・バディを演じるのは、畠中 洋。フレディの母親でシングルマザーのイネズ役を演じるのは、JKim。昼は建設作業員、夜はラテン系ドラァグクイーンのオーロラとしてパフォーマンスをしているフレディ役には、阪本奨悟。受け入れられることに飢えた孤独な男娼でホームレスのデール役は、東山義久。経験豊富でゲイバーの皆のメンターのような存在の黒人男性ウィリー役には岡幸二郎が演じる。共演には関谷春子、大村俊介(SHUN)、大嶺 巧ら歌・ダンスの実力を兼ね備えた俳優達が結集、また演出は訳詞・翻訳の評価も高く、日英米で演出家としても活躍をひろげている英国在住の市川洋二郎が務める。まだ同性愛が法律違反であった時代に迷い込んだ青年を待ち受ける出会い、別れ、苦悩を魅惑的に描いた傑作。誰もが生きやすい世の中になるようにという思いを込めて、平間壮一がウェス役に挑む!

撮影:飯山福子

撮影:飯山福子

撮影:飯山福子

撮影:飯山福子

撮影:飯山福子

撮影:飯山福子

撮影:飯山福子

撮影:飯山福子

撮影:飯山福子

 

稽古場レポート

1月某日。今日は宣伝用楽曲映像撮影(「此処がきっとパラダイス」、「未来は最高!」、「こんな風な」)と通し稽古が行われる。感染対策には特に気を使い、消毒や換気、検温、アクリル板設置など万全な体制の稽古場。筆者も前日のPCR検査陰性をクリアして稽古場取材に臨んだ。しかし、対策は完璧でも稽古場にはものものしさはなく、和やかな雰囲気。稽古開始に備えてストレッチをする俳優たちは、マスク越しながらもリラックスした笑顔であろうことが伺える。

その和やかさは演出・翻訳・訳詞・振付の市川洋二郎によるところが大きいのかもしれない。イギリス・アメリカで演出家として活躍する市川はキャストと共にテーブルワークでのディスカッションやフィジカルなワークショップを重ね、作品についての理解を深めてきた。LGBTQコミュニティとしての結束が必要な作品で、キャストたちも稽古を通じて積極的に意見を交換しながら一体感を高めたのだ。

稽古場は本番同様の動きができるように、舞台美術もしっかり揃えられている。今回の日本版が本作初の非英語圏での上演となる。作・作詞・作曲のMax Vernonが市川と密に話し合って、アメリカの文化やLGBTQコミュニティにあまり馴染みがない日本の観客にも理解しやすいように内容をアップデートして、2022年版の『The View Upstairs』になるという。

楽曲映像撮影に続き、いよいよ通し稽古が始まった。冒頭はアップステアーズ・ラウンジの専属ピアニスト、バディ(畠中洋)の登場から。ステージ中央に配置されたピアノに愛おしそうに触れたのち弾き語りを始めると、1973年のニューオーリンズ、アップステアーズ・ラウンジに集う人々が姿を現す(「此処がきっとパラダイス」)。1973年当時はまだ同性愛が罪であった時代、はみ出し者たちはゲイバーなどの同性愛クラブに集まっていた。中でもアップステアーズ・ラウンジはあらゆる人種を受け入れる多様性のある場所。封印された過去から呼び覚まされた人々がビビッドに存在感を示す姿が実に印象的で、これから始まるミュージカルへの期待を高める。

現代を生きる若きファッションデザイナーのウェス(平間壮一)はニューオーリンズで廃墟と化した建物を購入するが、クスリでハイになった彼は「アップステアーズ・ラウンジ」にタイムスリップしてしまう。スマートフォンもインターネットもない70年代に生きる人たちと現代人のウェスとのちぐはぐなやり取りは笑いを誘う場面も。世間からはみ出した彼らのコミュニティにある絆の深さが、自意識過剰で不安を抱えるウェスの心を解かしていく……。70年代の彼らに向かってウェスが歌う「未来は最高!」は、ポジティブさとアイロニーが入り混じる。平間は繊細に役柄にアプローチして、平間ならではのカラーをキャラクターに加えていく。ウェスと恋に落ちるパトリック(小関裕太)。小関は複雑な過去を持つパトリックのピュアな輝きを表現。ときに反発し、ときに支え合いながら心を重ねる二人が歌う切なくも美しいデュエット「こんな風な」はあたたかい響きを備える。

この作品の大きな見どころは、アップステアーズ・ラウンジに集う一人一人のキャラクターが際立ち、イキイキとした存在感を放っているということだ。ラテン系ドラァグクイーンのフレディ(阪本奨悟)によるショーはキラキラした輝きに溢れている。阪本がチャーミングに歌い踊る姿は必見!また、経験豊富でコミュニティのメンター的存在であるウィリー(岡幸二郎)が見せる、一分の隙もない身のこなしとエレガントな佇まいは圧巻だ。ウィリーによる一人語りのシーンには稽古場中の視線が集中した。女性と結婚し子供もいる“クローゼット”のゲイであるバディ(畠中洋)が抱く複雑な心境やフレディの母でシングルマザーのイネズ(JKim)のあたたかく包み込む愛情など、それぞれのドラマや関係性が濃密に立ち上がる。異彩を放つのは、コミュニティの中で孤立するデール(東山義久)。デールが歌う「孤独の闇」は魂の叫びのよう。クールでスタイリッシュなパフォーマンスに定評がある東山が孤独なデール役で新境地を拓きそうだ。

登場人物たちは台詞や歌がない場面でもステージ上(=アップステアーズ・ラウンジの店内)にほとんど出ずっぱりなのも、注目点の一つ。他のキャラクターの歌や台詞にリアクションを取ったり、あるいはあえて無視したりするなど、アップステアーズ・ラウンジの「客」として実にリアリティがある。彼らの佇まいには、キャストたちの間に長い稽古期間を経て培ってきた本物の絆も反映しているのだろう。

日本初演の『The View Upstairs』。お客様はノリの良いパフォーマンスに手拍子で応えるのも、ウェスとパトリックの繊細なラブストーリーに心を揺らすのもいいだろう。人と物理的に距離を取らなければいけない今の時期だが、はみ出し者たちが「我が家」と呼ぶアップステアーズ・ラウンジでの精神的に密な繋がりが羨ましく感じられるかもしれない。場面が進むにつれ、アップステアーズ・ラウンジに集う彼らに共感し、いつの間にか自分もこのコミュニティの一員になったような気持ちを覚えるのではないだろうか。やがてアップステアーズ・ラウンジの秘密が明かされる「その時」が来るが……、結末はぜひ劇場で確かめてほしい。

 

取材・文/大原 薫