美術室にあった一枚の絵を見たことからそれまで興味のなかったアートの世界に飛び込んでいく――。
3月25日より天王洲 銀河劇場で上演される『銀河劇場プロデュース「ブルーピリオド」The Stage』は、美術大学入学を目指す高校生たちの奮闘を描く青春ドラマ。原作は『アフタヌーン』(講談社)で連載されている山口つばさによるマンガで、昨年秋にはアニメ化もされるなど多くのファンから支持されている。“静”のイメージがある美術の世界をいったいどんな方法で舞台化するのか?原作の肝である絵を描く行為をどう表現するのか?主人公・矢口八虎の悪友・恋ヶ窪役を演じる立花裕大に舞台の見どころを聞いた。
――『「ブルーピリオド」The Stage』の初日が迫ってきました。
立花 今、まさに稽古中でここからさらに詰めていくぞ!という段階です。主人公の矢口八虎を演じる(岡宮)来夢も、八虎と仲のいい鮎川龍二役を演じる笹森(裕貴)も以前からよく知っていて気心が知れた仲なので、『「ブルーピリオド」The Stage』への出演が決まったときから「楽しみだね」と言っていました。
――岡宮来夢さんも笹森裕貴さんも『ミュージカル「刀剣乱舞」 ~静かの海のパライソ~』などで共演されています。そこに大崎捺希さん、田鶴翔吾さんらが加わるわけですから、ただごとじゃない舞台になりそうです。
立花 彼らが真摯に役に向き合っている姿を見ているので刺激を受けています。
――『ブルーピリオド』はどんなお話なのでしょうか?
立花 原作はマンガです。美術になんの興味も持っていなかった高校2年生の矢口八虎が、とあることをきっかけに東京藝術大学への入学を目指す物語です。美術は勉強と違って努力すれば確実に点数が伸びるわけじゃない。思ったとおりにはいかない。そこで美術という不思議なものに八虎はどんどん惹かれていきます。
――原作を読まれての感想は?
立花 面白かったですね。なにより“美大を目指す”という視点が新しいと思いましたし、絵画の見方、描き方、構図について勉強になりました。原作は途中から展開が変わるのですが、今回の舞台では美大受験を中心に描かれます。
――芸術系の大学にまつわることって意外と知らないことが多いと思いました。
立花 美大に行くために、予備校があることもはじめて知りましたし、絵に関することは「へえ、こういう仕組みになっているのか」って八虎視点で学びました。“受験絵画”って言葉があるのも知らなかったので、勉強になりましたね。
――立花さんがいちばん共感したのはどこになりますか?
立花 八虎は勉強もできるし、仲間もいる。話を合わせたり、盛り上げることもできて器用だけど、その一方で本心では人に合わせてしまう自分に虚しさも感じている。ついつい人に合わせてしまうことって僕にもあることだなと。
――八虎は美大への進学を目指すことで、空虚な日常から抜け出すわけですが、目標ができることで世界が変わっていきます。
立花 絵を通じて、自分の周りの人間関係について考えたり、親と向き合ったりしていく。新たなことに挑戦するのは怖いし、行き詰まってしまうとスランプに陥ることもありますが、その部分がリアルに描かれていて、美大を目指す人たちだけじゃなく、誰しも感じたことがある部分に共感しました。
――立花さんが演じる恋ヶ窪は八虎を見守る悪友のひとりです。
立花 恋ヶ窪は素敵な男ですね。八虎にちゃんと寄り添ってあげるんですけど、彼もまた八虎に影響されて自分のやりたい道を選ぶので、ふたりは気持ちが通じ合っていて、いい関係を築いている。恋ヶ窪……恋ちゃんのようにまっすぐに立ち向かう男ってカッコいいんですよね。憧れもありつつ、模索しているところです。
――恋ヶ窪のビジュアルが強面(原作では眉毛がない!)だけに、立花さんの直前の舞台出演作である迷宮歌劇『美少年探偵団』(白髪ロン毛の美少年役)とのギャップが激しいです。
立花 そうですよね(笑)。ギャップはスゴい。でも、いろんな役を演じられるのは嬉しいです。眉を剃るのか?染めるのか?まだ最終的なビジュアルは相談中なので、本番を楽しみにしていてください。
――恋ヶ窪を演じるうえで意識されているところは?
立花 喜怒哀楽が見えにくいキャラクターなので、何もしないでいると舞台上にスンと立っているだけになりがちなので、立っているけど気持ちは熱いものを持っているぞという部分は意識しています。あと、八虎の悪友たちの名前が、純田と恋ヶ窪と歌島というんですが、頭文字をとると“純恋歌”になっているんですね。“純恋歌”としての関係の深さを出せるようにもっと深堀りしていこうと思っています。
――“純恋歌”たちと八虎の絡みは注目ですね。
立花 彼らは不良ですけど、人に迷惑をかけるタイプじゃなくて、ただ朝まで一緒にサッカーを見たり、夜遊びするくらいの悪ガキ。八虎を含めて、彼らが親友でいる関係性とか、四人でいる理由とかも感じられるように“純恋歌”の色を出していければいいなと思っています。舞台では、恋ちゃんが活躍するところもあるのでそこも注目していてください。
――『ブルーピリオド』の舞台化でいちばん気になるのは、絵を描くシーンです。いったいどのように舞台で表現するのでしょう?
立花 今、まさにそこを詰めているところです。マンガともアニメとも全然違っていて、これは“舞台”の『ブルーピリオド』だという作りになっています。八虎を中心に物語が動くんですけど、舞台転換や心象風景の表現など、舞台ならではの歌や振付で素敵な感じになっています。
――歌もあるんですね!
立花 演出は『美少年探偵団』でご一緒した三浦香さんなので想像はしていましたが今回もスゴいです。台本を読んだだけではわからない、香さんの頭のなかに構築されていたアイデアが稽古でどんどん固まってきて、「こういうことをやりたいんだ!面白いな!」という発見の連続です。
――どんな表現になるのか想像もつきません。
立花 絵を描いているときに考えている頭の中とか、そうとう面白いことをやっている気がします。今、来夢が熱く、熱く、芝居を作っていて、稽古場ではいい相乗効果が生まれています。
――主人公たちは美術の世界に飛び込む直前で、もがき苦しむわけですが、役者という世界で活躍されている立花さんからみてモチベーションを保つ秘訣はなんでしょうか?
立花 なんだろうな、僕は基本的にポジティブなんですが、常に作品を見たり、ワークショップに行ったりするのは楽しいですね。ワークショップではダメ出しを受けたり怒られたりするんですけど、周りを見てもそういうものだろうと。言われるともちろんショックを受けるんですけど、そのときはわからなくてもしばらく経って言われたことの意味がわかったりとか。そういった行動は諦めずにやっていて良かったと思います。
――『ブルーピリオド』はどんな方たちにおすすめですか?
立花 自分のやりたいことがあるけど、一歩を踏み出すことに迷っている人や、背中を押して欲しい人には刺激になると思います。そういう方たちにとって一歩外に出られるような作品になったとしたら本当に素敵なことだと思います。
――最後に『ローチケ演劇宣言!』ということで、LAWSONにまつわるエピソードなどはあったりしますか?
立花 LAWSONはですね、商品に「ロカボマーク」がついているので非常に助かるんです。僕は筋トレとか身体作りをするので、糖質量が前面に書いてあるのは凄く助かるんです。なので本当によく使わせて頂いています(笑)。
――わあ、ありがとうございます!公演を楽しみにしています。
取材・文/高畠正人