パルコ・プロデュース2018『チルドレン』高畑淳子・鶴見辰吾・若村麻由美 インタビュー

イギリス演劇界で期待の若手女流作家、ルーシー・カークウッドのストレートプレイ作品「チルドレン」が、栗山民也の演出により日本初上演される。本作は、巨大地震による大津波で原発事故が発生し、浸水で家を追われた夫婦のコテージに友人が訪ねてくるというストーリー。舞台は東イギリスだが日本での出来事に触発されて執筆されており、イギリスだけでなくブロードウェイでも上演されている話題作だ。高畑淳子、鶴見辰吾、若村麻由美という、日本演劇界を代表する実力派俳優たちは、この傑作をどのように演じていくのか。初めての本読みを直後に控え、意気込む3人の対談をお届けする。

 

――かなり大きなテーマの作品になるかと思いますが、現時点での印象をお聞かせください。

高畑「これから読み合わせをさせていただくのですが、本番が秋なのにこんなに早くやっていただけるのは初めて。量が量なので…(笑)、言葉を直したりいろいろな作業が今後もあると思いますが、今日で感覚をつかむのが楽しみです。中年の杜撰な会話というか、劇中には堅苦しくないフラットな場面もあるんですよ。それも楽しみのひとつなので、いろんな部分をみせられるようにできたら」

若村「本当に面白い本だと思います。すごく多面的で、多層になっているのですね。私たちが稽古をすればするほど、深い層の部分が出てくると思いますし、1度観ても面白いのですが、2度3度観ると“このセリフはこんな別の意味も含んでいたんだ”と感じる部分が見つかると思います。」

鶴見「いろんなテーマがふんだんに入っている作品でして、そこを堅苦しくなく、演劇を観る面白さと同時に考えていただけたらなと。福島のことを考えての台本だと思います。あのことを世界がどう受け止めたのか、逆輸入のような形で我々が演じることになる。そのことによって、もっと視野を広く…エネルギーの問題や、人生をどう人間らしく生きていくかとか、教育だったりとか、いろいろなことが入っているんですが、それを自分のことに置き換えて考えながらお客さんに帰っていただけたらと思いますね」

高畑「昔、井上ひさしさんが『むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく…』とおっしゃっていましたが、それに似ている感覚がありますね。原発の話ってなると身構えちゃうけど、そうじゃなくて、日常会話の中で酸いも辛いも、オイタもしてきた60代の人々が向き合っていくのがたまらないんですよね。若村さんなんてお若いのに60代の役ですし、私も67歳って書いてあったけどまだ63だわ!って思ったけど(笑)。そういう世代の人が、誤魔化して誤魔化して…そこに行くんかい、っていうダイナミックさは、やっぱりイギリスは演劇が好きな国なんだな、と思いました」

若村「普通の会話の中でも、メタファーがいっぱい入っているのですよね。そこが面白い。冒頭、私が登場したときのお客さんの反応がどうなるのかが、一番楽しみ。セリフで言ってくださるまでは、客席も“あれ、大丈夫なの?”ってなっていると思うので…(笑)」

高畑「やっぱり物理学者って変わっているのかしらね」

若村「役者も相当変わっているとは思いますよ(笑)。やっぱり専門分野にグッといく人たちは、ちょっと個性的な人たちが多いですよね。でも物理学者の言っていることが難しいとかではなく、責任を感じている人たちが残された命をどう使うのか。人生の後半に入ったときに感じること…、若いときにはこんなことを考えるなんて思いもよらなかったという感覚ですよね」

鶴見「“肉体なんて借りものだ”っていうセリフもあって、僕が演じるロビンがどこかで死にたがっていた、というのが衝撃的でしたね。死にたいと思う人はそんなにいないと思うんですけど、死のタイミングを自分で決められない恐怖があるんですよね。なぜ死を怖がるのかというと、選べないからなんですよね。未来の子供たちに向かって、いろいろ分かったうえで向かっていくという気持ちがロビンの演じ甲斐のあるところだな、と」

若村「3.11を経験して、命と向き合った。今日を大事に生きなきゃ、という気持ちをみんな抱いたと思うのです。大きなそう失感の中、それでも生きていかなきゃいけない。ヘイゼルのセリフに『成長せざるものは生きるべからず』とあるのですけど、それにもう、オオッっとなってしまって。現代が、抱えている問題がここに詰め込まれているので。“お前のことを言っているんだよ”と言われているような感覚にもなります。きっと面白い舞台になるはず」

――演出の栗山民也さんの印象はいかがですか?

鶴見「栗山さんはこういう問題をすごく大事に考えていらっしゃる方。俳優の友達にこの作品のことを話したら“栗山さんらしい話だね”ってみんな言いますね(笑)」

若村「おそらく、栗山さんの頭の中ではこの作品の世界がすごく明快に見えてらっしゃると思います。というか、栗山さんの演出は、いつも明快なのです。求めているものもはっきりしているし、わかりやすい。だからこそ、ダメ出しがたくさんあって、稽古の時間よりダメ出しの時間の方が長いのです(笑)。でも稽古の返しをなさらない。不器用な私はいつも困っちゃうんですよ。それがすごく大変ですね(笑)」

高畑「そういうのは、人に聞いてみるとよくわかるのよ。自分の芝居って自分じゃ見えてないじゃないですか。見えてないことをダメ出しされるとよくわからない。でも第三者に聞くとよくわかるの。演出家さんから直接自分に言われてるときは、3割くらいしかわからない(笑)。でも、栗山さんが誰かに言っていることはものすごくよくわかるんです。またそのダメ出しが面白い! 自分のことはさておき、それを聞いてるのはすごく楽しいんですけどね(笑)」

若村「でも今回、3人しかいないですから(笑)。私が一番怖いのは、稽古の時間が短いこと。どうしよう!」

高畑「自主稽古しよう! 栗山さんは4時間くらいしか稽古つけてくれないもの」

若村「その4時間のうち3時間ダメ出し、ってこともあり得ますからね(笑)」

高畑「稽古場、押さえてもらいましょ! これだけの量を覚えたら、今後のセリフ覚えも良くなるはず。以前、伊東四朗さんが『円周率を覚えたらセリフの覚えが良くなった』って言ってたもの。私も円周率の本を買ったんだけど、一度もやってないけど(笑)。脳みそが鍛えられる作品だし、今後の演劇人生が変わると思うわ」

若村「私たちは全員、栗山さんと一緒にお仕事させて頂いたことがありますし、それぞれ共演もしているのです」

鶴見「でも3人一緒に共演は初めて、っていうね。そういう意味でお互いの初めての部分…こういうの出ちゃったんだというのを見つけたいですね」

高畑「今回は演出が栗山さんということで、なんていうか本当にお上手な方なので。ちゃんと見てくださる方が居るというのが安心。私たちは大いに試して、探して、何をチャレンジしてもいいというのは心強いですね。探し甲斐のある作品ですから。今すべてが見えないというのが、私にとってはとても魅力的なんです」

――今回の舞台に臨むうえで、大切にしたいことはなんでしょうか。

鶴見「僕はこの3人が青春時代を過ごして、同じ舞台に立っている…ともに居た感じが、単純に僕らがキャスティングで集められた、という感じじゃなく醸し出せたらと思いますね。その準備という意味では、プロモーション映像の撮影をロケでさせていただいて、とてもいい撮影になったんですよ」

高畑「夫婦の匂いとか、夫婦じゃないけど何かがあった2人の匂いとか、同僚の感じとか…。でも、そういうのを恐れずに探せる3人だと思う。探し好きな感じがした(笑)。わからないからやらないんじゃなくて、わからないからやってみたいという意識がみんなある。稽古場で探すのは何も恥ずかしいことじゃないし、探したがっているのを私は感じますね」

鶴見「違った言い方をすると、3人だから起こる化学変化。そういうのができるといいな。原作者は30代前半だそうで、その若さで60過ぎの人たちの感覚を描いてるなんてね。すごいね」

若村「ここ3人は三角関係なのに、男性が居なくなると女性2人での共通認識があったりするのです。大きなテーマのほかに男と女というものもしっかり描かれていて、まさに人間ドラマ。そして3人だからこそ、誰かが外れたときにすぐにパワーバランスが変わっていく。そこも面白いです」

――稽古もこれからではありますが、最終的にどんな作品に仕上げたいですか?

高畑「妙齢な人たちの日常の話と思っていたら、とんでもないところに連れていかれる。具体的に超えなきゃいけないハードルがまず高いんですよ。セリフも膨大ですし、ヨガをやるシーンがあるんですけど、私、体が固くて。人生最後の高いハードルと思って頑張ります。人生最後の山。この後は私、楽をさせていただきますから(笑)」

鶴見「観る人によっては、恋愛ドラマかもしれないし、科学の話かもしれない。そういうバリエーションの効く話になればいいな。お若い方が、かつてこの芝居を観た、ということが人生の中でひとつの指針になるような…そういう芝居になったら最高ですね。芝居って、演劇経験によってその人の考え方や捉え方が変わったりする、大きな経験のひとつですから」

若村「観た後に、この話を誰かにしたくてたまらなくなるようなお話だと思いますし、友達や恋人や大切な人と、いっぱいしゃべってほしいです。そして、その日だけで終わらなくて、余韻を引きずりながら暮らしていく感覚になる。そういう作品になればと思いますね」

 

――本日はありがとうございました。

 

取材・文/宮崎新之
写真/ローソンチケット