岸惠子 スペシャルトークショー「いまを生きる」合同取材会レポート

2022年8月12日(金)に神奈川県立音楽堂、8月30日(火)に新宿文化センター大ホールにて、岸惠子 スペシャルトークショー「いまを生きる」を開催する岸惠子が、合同取材会に参加しました。

女優デビューしてから70年以上を経た今もなお、作家やジャーナリストとして活躍し、エッセイストとしても高い評価を受ける岸惠子が、自身が体験した驚きと笑いが満載のエピソードの数々を交えて、いま最も大切にしたいことや変わらずに伝え続けていきたいことを語る「いまを生きる」。予定していた2020年の公演は、新型コロナウィルスの影響を受けて中止に。そこから約2年を経て、90歳を迎える8月に、満を持しての開催となります。

合同取材会への出席のために、今年2月以来の外出をしたという岸。長い海外生活の経験を持ち、日本という国を愛している岸ならではの視点で、新型コロナウィルスや、ロシアによるウクライナ侵攻問題、いまの日本への思いをたっぷりと語りました。

今回のトークショーの内容について、「私が映画界で活躍していた頃と今では、時代はガラリと変わったと思うんですね。コロナウィルスという変異株をたくさん生んでいる疫病と、プーチンさんの夢であるらしいロシア帝国を作るための無謀な戦い。それから、日本という特殊な国、日本人は知識もあるし、報道もちゃんと敷いているし、世界事情がわかっていて、その分析力もある。でもそこで終わってしまうんですよね。やっぱり海に囲まれた安全地帯というのがあって、まだ鎖国しているのではないかと思うぐらい、外を見ない。見て感覚ではわかっても、行動に出ない。そんなようなことを話したいと思っています」と、コメント。開催を楽しみにしている方へのメッセージを求められると、「そういうの苦手なの」と微笑みながら、「私、何かしたいんですよね。ウクライナ人ってすごく強いと思って、国に対する愛と信仰で、あそこまで戦えるとは。それもすごいと思うし、コメディアンだったというゼレンスキー大統領を、最初は小馬鹿にしていたかもしれないけれど、あの人素晴らしいじゃないですか。けれど、私はロシア人もよく知っているんですね。『ゾルゲ氏よ、あなたは誰?』(=『スパイ・ゾルゲ 真珠湾前夜』)という映画で、当時書記長だったフルシチョフさんに招かれて、夫と共に彼の専用機で旧ソビエトの各地を回ったんです。その時に見たスラブ民族の優しさと、明るさ、ユーモア、そして、なんていうんだろう……。素朴な人の良さを持つ彼らが、何が何だか分からないまま戦いに駆り出されて死んでいくのは、ものすごく虚しいと思う。あと、ウクライナやベラルーシ、バルト三国に行ったときに見た黄金色の麦やひまわりが実っている大穀倉地帯は、ただの旅人でしかない私には、平穏そのものに見えたんです。それが、いまの状態になっている。一生の半分以上をヨーロッパのど真ん中に暮らしていましたから、国境というものは動くものなんですよね。ポーランドなんて、二回も地図から国がなくなっている。そういうところに住んでいた私にしてみると、日本の人達は、幸せで、いい人たちで、なにもしないように思えるんです」と、日本を愛する岸だからこその愛情たっぷりの提言も。

「最後の舞台になると思うんです」という8月のトークショーのギャラは、ウクライナの難民の方に寄付したいと思っているとのこと。
岸惠子 スペシャルトークショー「いまを生きる」のチケット発売の詳細は下記の公演情報欄よりご確認ください。

 

●岸惠子 プロフィール
女優・作家。横浜市出身。1951年公開の「我が家は楽し」で映画デビュー。「女の園」、「君の名は」三部作が大ヒットし、「亡命記」で東南アジア映画祭最優秀女優主演賞を受賞した。
24歳で結婚のため渡仏し、仏語・仏文化の専門校「アリアンス・フランセーズ」卒業後、ソルボンヌ大學にも進学している。その後、「おとうと」(ブルーリボン主演女優賞、毎日映画コンクール女優主演賞受賞)「黒い10人の女」「約束」「細雪」「かあちゃん」(日本アカデミー賞最優秀主演女優賞受賞)など、多数の映画に出演している。
「細雪」撮影の合間に書いた初めてのエッセイ『巴里の空はあかね雲』(文芸大賞エッセイ賞受賞)を皮切りに、NHK衛星放送初代キャスターでイスラエルのシャミール首相インタビューなどの体験から『ベラルーシの林檎』を執筆(日本エッセイストクラブ賞受賞)。その後も数々のエッセイを出版している。また、小説『風が見ていた』『わりなき恋』『愛のかたち』を発表し、作家としても活躍している。近著はエッセイ集『孤独という道づれ』。さらに2019年に日本経済新聞に連載された『私の履歴書』は多くの読者の感動を呼んだ。2004年旭日小綬章、2011年にはフランス共和国政府より芸術文化勲章コマンドールを受章している。2021年、『岸惠子 自伝』を上梓、話題となった。