アカデミー賞作品賞など、計8部門を受賞したダニー・ボイル監督の映画「スラムドッグ$ミリオネア」。その原作となる小説「Q&A」が世界で初めて舞台化される。主人公となるスラム街の孤児・ラムを演じるのは屋良朝幸。そのほか村井良大、唯月ふうか、大塚千弘、川平慈英が出演、演出は瀬戸山美咲が手掛ける。群舞やパルクールなどを取り入れたこの音楽劇に、屋良はどのように挑むのか。話を聞いた。
――今回の舞台化の話を聞いて、どんなお気持ちになりましたか
映画がすごく人気でしたし、自分自身も観ていたので、舞台化されると聞いたときは、どういう風になるのか想像つかなかったですね。音楽劇になるというのは聞きましたが、インド映画のイメージでボリウッドというか、ミュージカルともちょっと違うスタイルがあるじゃないですか。だから、もしかしたらすごくハマるのかも?という期待感もありました。
実は一時期、ボリウッドにすごくハマっていた時期があるんですよ。都内のあるインド料理屋さんに一時期すごく通っていて、そのお店の人に「インド映画が面白いよ」って教えてもらったんですね。映画版では最後だけですけど、今回は音楽劇ですからね。そういうところもあるのかな、と楽しみにしています。
――ボリウッドの魅力ってどういうところでしょうか?
まず、主演の俳優の方のガタイがむちゃくちゃ良いんですよね。日本人の僕からしたら、もしかしたら年下の方なのかもしれないけど、すごく年齢が上に思えるんですよね。そういう方がめちゃくちゃキレキレに踊るんです。ちょっとブッ飛んでるというか、ダンスのところだけすごくショーアップしていて、それが本当に面白いですね。音楽も面白くて、詳しくはわからないんですけど、本当に動きたくなるような音楽。キャッチーなんですよ。言葉とかもわからないけれど、普通に楽しめちゃいます。
――物語の魅力を、どのようなところに感じていますか?
僕はインドにいったことがないですし、すごく調べたりしたわけじゃないんですけど、インドという国の情勢ですとか…あれがリアルなんだとすれば、すごく悲惨なこと。その中で主役の男の子が、生きるためにいろいろな知恵を得ていって、ああいう結果になっていったんですよね。小説版を読んだときに、コインで運命を決めるところとか、ちょっとファンタジーのような要素も自分は感じたんです。もちろん、そこにある伝えたいメッセージは同じなんだと思うんですけど、よりエンタメ性も感じられました。なので、あの国の情勢や今、子供たちの現実をしっかり伝えつつ、そこをどうエンタメで見せていくか、というところが魅力になってくるんじゃないかと思っているので、しっかり考えていきたいですね。
――物語から見えてくる現代の問題を、どうエンタメの中に昇華していくか、というのが課題になりそうですね。
階級のせいで入れないレストランがあるとか、スラムのことや階級制度などは、日本人にはわかりにくい部分があります。少しずつ、調べていこうと思います。
それにつながっていくかどうかはわからないんですけど、コロナ禍になって、仕事とかもストップした時にいろいろなことを考えるきっかけがあったんです。僕は海が好きだから、海の環境汚染について調べたり、自分が使っているスマホをつくるのにもレアメタルが必要なんだ、とかを知ったり…。そのレアメタルを採掘するのは、学校にいけない子どもたちだ、とか、スラムの子どもたちがゴミを拾って生きていることとか。それはインドの話という訳ではなかったですし、そういう問題に対して何ができるんだろう、って漠然と考えていた中で、今回のお話をいただけたので、何かつながる部分があるのかな、と感じました。
――主人公・ラムを演じるにあたり、どのように役作りしていきたいと考えていますか
自分の人生を変えられないか、というところからスタートしていて、自分が生きていかなきゃいけない環境のこと、お金のこと、友達との夢のこと、そういういろいろなことを考える上で、たくさんの知識をつけていかなきゃいけないってものすごく考えていた人物なんじゃないかと思います。10歳とか、それくらいの時から「なぜこれは、こうなったのか」ということにすごく興味を持っていて、それはセリフとかを読んでてすごく感じました。気になるものは知らないままにしたくない。その興味の持ち方はすごく面白いなと思います。映画とは役名も違うし、大まかな設定は同じだと思うんですけど、結構違う感じなんじゃないかな。
――屋良さんが出演されるということは、ダンスはもちろんあると思っていますが、今回はパルクールにも挑戦されるそうですね。
僕が出るからにはダンスが無いということは無いと思っていたんですけど(笑)、パルクールは意外でしたね。演出の瀬戸山美咲さんがパルクールを入れたいっておっしゃっていたそうで、最初にいただいたときの資料にさりげなく”パルクール”って書いてありました(笑)
でもすごく興味があるジャンルではあって、動画サイトなどでもパルクールのパフォーマンスを見れたりするんですよ。それをこの舞台でどう取り入れるのかは、まだちょっと想像がつかないですけど。舞台にパルクールを取り入れてることって、まだそんなに多くないと思うんですよね。舞台という限られた空間で、それによってセットもまた考えなきゃいけないと思うので、どうなるのか楽しみです。
たまたまなんですけど、僕の知り合いでパルクールの研究をしている人がいるんですよ。ちょっと前に知り合ったばかりで、そのタイミングで今回のお話も決まったので、すごく奇跡だな、って思っています。瀬戸山さんにも紹介して、一緒にやらせてもらうことになったので、もう運命だな、って。
――それはすごいですね。実際にパルクールの練習とかは始められているんですか?
もう本当に基礎の基礎だけですけど、ちょこちょこ始めています。やっぱり、ダンスとは全然違いますね。僕自身、あれだけ踊っているから全然余裕だろう、なんて思っていたんですけど、練習の次の日は歩けないくらいでした(笑)。そこから4日間くらい筋肉痛で、ダンスとは全然違うって思いましたね。
でも、最初からすごく楽しかったんですよ。小さいころ、サッカーとか野球とかの球技には実はあんまり興味がなくて、バスケ部だったのもモテるから、っていう理由からだったんです(笑)。1番好きだったのは、器械体操とかの自分の体ひとつでやるもので、アスレチックとかも大好きでした。今思うと危ないんですけど、ちょっと高いところに登って飛び降りたりしていましたね。パルクールはその感覚を思い出して、すごくワクワクするんです。
この間は壁をよじ登る練習をしたんですけど、ただ登るだけじゃなくて、そこに見せ方も乗ってくるんですよ。高く飛ぶことよりも、着地で止まる練習が一番難しい。勢いを殺すんです。それに、自分がどれくらいの距離を飛べるかってわからないですよね。今、取材をしている部屋の天井までなら登れるし、普通に見たら絶対に飛べなさそうな距離も、飛べるんですよ。自分の限界ってここなんだ、というのを1個ずつ自分で理解していくんです。そこが面白いですし、すごく引き出してもらっている感じですね。その場所を目で見ると、どういうテクニックを使って、どういうルートで行くのかが見えてくる。それをいかに楽にやるか、っていうのがポイントで、頑張らないでやるらしいんですよ。それを、こういう足の動きだったらもっと高く見えるとか、見せ方込みでやるんですね。そこが面白さというか、醍醐味だと思います。
――屋良さんはジャニーズの作品でも活躍され、外部のミュージカルや舞台ににもたくさん出演されています。その両方を知っているからこそわかるジャニーズの強さや、外部作品に出て気づいたことなどはありますか?
ジャニーズであることは、強みでもあり、弱みでもありますね。強みでいえば、完全に対応能力。僕がジュニアの時に、少年隊さんのバックについたり、堂本光一くんの後ろで踊ったり、コンサートなども含めてとにかく時間がない中で作っていたので、臨機応変とか、その場の対応能力でやれてしまう強さはあると思います。
忘れられないのは、普通にコンサートを見に行くだけのつもりでドームに行って、45分前くらいに挨拶しにいったら「YOU、出ちゃってよ」ってジャニーさんに言われたこと。もう客入れもしているからステージも見られずに、図面だけ見せられて、ココとココとココだから、って指示されて、30分ちょっとで振付から覚えるんです。もう、ムチャクチャだな、って思うし、見に来たはずなのに出番までずっと練習して、それでステージに出て…出たらもう、とりあえずはやらないといけない。これはジャニーズでしか経験できないことだと思います。
でも、それが弱点になっているときもあるんです。舞台に出ていても、急にセリフが増えるとか、急にお芝居が変わるとかがあって、理解する間もなくやらなきゃいけないから、自分で腑に落ちていない。でも、それを対応能力でやり切ってしまうんですね。
以前、ミュージカル『SONG WRITERS』という作品に出演させていただいたとき、岸谷五朗さんに「今は理解できていないけど、とりあえずやれちゃうよね。でも、その”とりあえずやれちゃう”のを、やめない?」って言われたんですよ。その頃は、外部の作品に出させていただくようになって間もない時だったので、指摘していただいたときに「そうだよな」ってすごく納得しました。「芝居が止まってもいいから、1回ディスカッションしよう」って言われて、浅いところで演じてしまうのが弱点だ、と自分ですごく感じたんです。その時、一緒にやっていた中川晃教くんは真逆で、自分が納得して、理解してから演じるんですよね。そのどちらがいいとかじゃなく、対応能力が強みでもあり、弱みでもある。それを知れてすごく勉強になりましたし、もっと深く考えて芝居をしなきゃ、とお芝居に対する取り組みも変わりました。
――シアター・クリエのステージには何度も立たれていますが、屋良さんにとってどんな劇場ですか?
めちゃくちゃ好きです。お客さんの距離感がスすごく良くて、パフォーマンスしやすい距離感なんですよね。お芝居のすごく細やかな演技も届けられる空間だと思っています。外部の初作品もクリエから始まっていて、ほぼ毎年、出させていただいているので、個人的にはホームみたいに思っているんですよ。ちょっとホッとします。
中でも好きなのはシャワー室で、シャワー人間なので、本番前も本番後もシャワー。そこで発声したり、セリフを反復したりしているので、ほかのキャストさんはめちゃくちゃうるさいって思っているかも(笑)
――そんな屋良さんにとっての”ホーム”での音楽劇、楽しみにしています!
映画は本当に面白い作品だったし、ご覧になった方もたくさんいらっしゃると思います。それで興味を持ってくださった方もたくさんいらっしゃると思いますし、それはひとつ間違いない部分だと思うんですけど、そのうえで音楽劇というところで、歌の要素やダンス、パルクールと新しいエンターテインメントが生まれるような期待がこの作品にはあります。パルクールって何?っていう人も中にはいらっしゃると思いますし、そういうエンタメ性も含めて、楽しみにしていただきたいと思います。ストーリーのパワーはご存じの通りですが、それを上回るものをお見せします!
取材・文:宮崎新之