これまで新時代のダンスの広場として開催されてきた『DANCE×Scrum!!!』が、この夏はフェスとして開催! 過去最大となる全20組のアーティストが3つのプログラムで自由に舞い踊り、ダンスの未来をパフォーマーとオーディエンスとともに描いていく。果たして、彼らが描くダンスの今と未来とはどのようなものなのだろうか。本イベントのディレクターでBaobab主宰の北尾亘と、ステージプログラムに出演するKEMURIのYOHUENOとHagriの2人に話を聞いた。
――まず、『DANCE×Scrum!!!』は、どのようなイベントなんでしょうか。
北尾「2016年に初開催して、今回で4回目になります。もともと、若手アーティストにとってコンテンポラリーダンス作品を発表する場所がまだまだ少ないと感じていて、DANCE×Scrum!!!がアーティスト同士や、アーティストとお客様がスクラムを組むように出会える場所になればという願いを込めてスタートしました。劇場を踊りで埋め尽くす、という試みが当初から現在も続いています。ステージプログラムだけでなく、ホワイエプログラムやアフターパーティが、お客さん同士やアーティスト同士が繋がれる場所になっていて、興奮が伝播していくような感覚がありましたね。3つの「!!!」は、ステージプログラム、ホワイエプログラム、アフターパーティを示しているんですよ」
photo by Manaho Kaneko
――想像以上のスクラム感が生まれたんですね。KEMURIのお2人はイベントの印象をどのようにお持ちですか?
YOH「僕は今回初めて参加させていただくので、どういう空気感で進んでいくのかが楽しみ。ホワイエプログラムって、あうるすぽっとのカーペットのエリアで行われるんですよね? あの場所でパフォーマンスをしているところって見たことがないので、すごく楽しみ。いつもと違う風景になるんだろうなと想像しています」
Hagri「私はストリートダンス育ちなので、踊り終わった後に、いい音楽を聴きながらディスカッションするような時間がめちゃくちゃ大好き。そこからいろんなダンサーの中身を知って、一緒に踊ろうとか、いろんな話のシェアとか、そういう感覚があるのかな?と思っていて、すごく感激しています」
――今年ならではの特徴はどのようなところになりますか?
北尾「前回が2020年12月の開催で、残念ながらアフターパーティは見送らなければならない状況でした。そこで、オンラインプログラムが新たな「!」として加わったんです。今回はさらに、映像作品のも行いました。こちらも楽しんでいただけるポイントになるんじゃないかと思います。やはりこういうフェスティバルやイベントって、一時的で一過性のものになりがちなので、開催までの間にミーティングを重ねたりしているのは、やはり継続性が生まれる企画であってほしいという願いもあるんです。オンラインプログラムもまた、一過性のものにならないようにしたいと考えています。映像媒体の中でダンスの可能性を捉えなおしたアーティストがいたとしたら、その人の感覚と作品に出会いたいですし、そこが今回の目玉の一つになるんじゃないかと思っています」
photo by bozzoBaobab
――KEMURIのお2人はステージプログラムでは、熊谷拓明さん、松田尚子さんとご一緒にパフォーマンスされるそうですね。
YOH「僕らKEMURIのチームが呼ばれた静岡県のダンススタジオ発表会があって、そこに熊さんと尚さんのお2人もゲストで呼ばれていたのが、もともとの僕らの出会いなんです。コロナ禍の前で、4人が同じ楽屋だったんですけど、自分たちの出番以外はずっと楽屋でしゃべっていて、帰りの新幹線では席を向かい合わせにして乾杯するくらいになっちゃって(笑)。もちろん、それ以前からお2人のことは知っていたんですが、そういう関係性になれると思っていなかったので、嬉しかったですね。数年後、僕らにコットンクラブで踊らせていただくというお話が来た時に、もしコラボするなら?となったときに浮かんだのが熊さんと尚さんでした。お互いのいい部分を引き出すということ、できるだけ等身大でいることが今回のテーマになっているんじゃないかと思います。もともと1時間ちょっとやっていた作品なんですが、それを20分くらいに収めて、ギュッとしたダンスをお届けしようと思っています」
Hagri「私はお2人に会ったころ、どうしても舞台上で声を発することに抵抗があったんです。あくまで私個人の感想なんですけど、言葉じゃなくて体で伝えるんだ、訴えるんだ!みたいな踊りをしていたので「声を出せ」と言われたときに、私には無理だ…と思ってしまって、まったく整理がついていなかった。頑なで、頑固な悩みでした。でも、お2人が舞台上で普通に歌ったり、対話したり、ごく自然にお話しているのを見て、YOHの隣で大号泣してしまいました。感動したんです。それで、楽屋に戻って4人になったときに「なぜ、こんな舞台ができるんですか!?」って、相談しました。踊りで関わるというより、内面の関わりが大きかったですね。そこからコットンクラブで、4人で踊ることになったときに、すごく目上の方で大尊敬している方ですが、私たちは等身大でいいと思わせてくれました。コンタクト(体を寄せ合って動く)のとき、熊さんと尚さんが体で導いてくれるんです。やっぱりこちらも硬くなる部分があるんですけど、そんなときに身も心も全部ゆだねていいと言ってくださって。そこから失敗してもいい場所として、何でも聞くし、何でもさらけ出せるようになりました」
北尾「実はYOHさんとHagriさんは今回がはじめましてなんですよ。こうやってお話できる機会もほぼ初めてです。3月に開催された4人の公演はキャッチしていて、Baobabのメンバーにも紹介していました。僕はちょうどそのころ地方にいて伺えなかったんですが、他のメンバーが観に行ったところ、本当に素晴らしかったと聞いていたんですね。それに、熊谷さんとは10年ぐらいのつながりもあって、本当に包容力のある方。パフォーマーとしても、作り手としても素晴らしい方で、昨年12月に熊谷さんのカンパニーにお呼ばれしたり、ずっと受け入れてくださっているような印象です。尚さんは本当にスーパーウーマンです。あのようなフィジカルとポテンシャルがありながらの人懐っこさ、キャリアのある方なのにどうしてこういう人間でいられるんだろうかと学ぶことが多い方です。この4人ならば本当に素敵なことを上演してくれるのではないかとオファーしました」
――北尾さんが演出・振付されるステージはどのようなものになっていますか?
北尾「今回はDANCE×Scrum!!!の第1回目に上演をした作品をリニューアルします。Baobabは「Re:born projrct」という過去作品に再び光を当て、生み直す企画をしておりまして、リクリエーションをもう一段階深めた形で行い、上演しようと思っています。出演キャストも一新しまして、今回は8名で臨みます。4人はカンパニーメンバーで、4人はトライアルメンバーです。活動も10年を超え、自分の年齢も相まって世代が循環していくのも感じています。でも、転換は嫌ですね。自分もまだまだやれると思っていますし、世代が変わるのではなく、入り混じっていくことを創作の中では意識しています。振付も相当フィジカルを酷使しますし、6年たっても錆びないですね。かなりこだわりをもって作ったムーブが多かったので、そこは引き継いでいます。当時の僕たちや出演キャストよりも若い方が踊って下さっていて、僕も他人が作ったもののように踊ってみるんですけど、ものすごく難解で難しくて、やりがいを感じていますね。主題の裏テーマのような部分に、肉体同士の衝突とか、集団が熱狂していくメカニズムのようなものがあるんですけど、時代背景を現代でとらえると6年前とは一変している部分もあります。そこを説明的に扱うわけではないんですが、心で実感していることは表現に出るはずだと思うので、ある種の行き場のなさのような、切なさのようなものが立ち上がればいいな、と思いながら、懸命に身を投じています」
photo by Kenji Kagawa
――ちなみに、KEMURIのお2人は北尾さんについてどのような印象をお持ちですか?
YOH「以前パフォーマンスを拝見したときに、踊りそのものだけでなく、舞台美術や演出も含めてものすごく素敵だったんですよ。どのようにしてこの舞台を作り上げているんだろう、という気持ちはありました。額縁がいくつも舞台上にあって、お互いが額縁を乗り越えたり、周りを回ったりする中でだんだんグチャグチャになっていくんですが…その表裏一体感、バランス、タイミングが本当に絶妙でした」
Hagri「私は数年前から「Baobabの北尾さん」としてお名前も何度もうわさで耳にしていたんです。ダンサーは技術者だし、追求することに長けていて、どんどん自分の世界ができて自分だけのテリトリーでやってしまうようなところがあります。それはすごくカッコいいことなんですけど、そこに行きづらいのが私の性格で。北尾さんはそういうところをわかってくださっているんじゃないかと思うんですよね。そういう方がいると心強い。私はそこに入りたいわけじゃない、ただ知りたいし、見たいんです。その見たいという想いをジャンルを問わず繋げてくれる。それは希望になると思うし、うれしいですね」
北尾「光栄な言葉ばかりで恐縮です。作品については抽象性とエンタメ性のようなところは作りながら考えている部分で、まずは見て楽しんでいただけるということ、そこに自分の内題しているものを表現に乗せていくことのバランスをいつも模索しているので、YOHさんの印象に残っていたことがすごくうれしいですね」
――今回のイベントは、ダンスシーンの今と未来をつなぐようなものになるのではないかと思います。ダンスシーンの少し先の未来をどのように描いていらっしゃいますか?
北尾「僕は舞台芸術の世界に30年くらい身を置いていますが、ダンスに限らず、演劇なども含めてコロナ禍は大打撃です。お客さんがまた戻ってくれるのだろうか、また立ち上がれるかと不安に思った時期もありましたが、意外と早く立ち上がることができると思えたので、そこは鼓舞できていると感じています。そういう意味で、未来はけっこう明るいんじゃないか。気付けばSNSも含め、いろいろな媒体からダンスについて波及されている時代だと思っています。だから、実は今がチャンスなんじゃないかな。ダンスの中でもスポットの狭いコンテンポラリーというジャンル――コンテンポラリーと活動自体を決めつけたいわけではないんですが、そこにどのような価値があるのかを、もっともっとプレゼンテーションしていきたいですね。すごくフレッシュな方々とご一緒できる機会も増えてきたので、できることからどんどん波及していきたいです」
YOH「確かに、立ち直りは早かったような気もします。オンラインレッスンをスタートさせるときも、1~2か月でスタジオが動いてくれましたし、そういう面では選択肢が広がった。TikTokなどを通して、若い世代にも上の世代にもダンスが身近なものになってきているという実感は僕たちの中でもそれぞれに上がっています。でも、母数が多くなった分、淘汰されていく部分もある。その中で目立つ、自分の個を確立するには競争率が上がると思います。そこを、何か勝ち取って得るとかじゃなく、お互いをリスペクトしながら、混ざり合うように良くなっていくんじゃないかな。そうやって、ダンスというものの価値をどんどん上げていくことも大切だと、まじめに考えています」
Hagri「本当はコロナ禍の寸前にニューヨークに行く計画をしていて、やっとお金を貯めて、行こう!ってなっていたんです。本当にあとは飛行機のチケットを取るだけ、というタイミングでコロナ禍になって。レッスンも本番もたくさんなくなって、ニューヨーク資金は生活費になりました。お金も、生活もキツクて、踊れない。それは私だけではなかったですが…。でも、やっぱり踊りをやめなかった。それが一番大事にしていることで、みんな音楽が好きだし、踊りが好きだし、カルチャーも人も全部、今まで生きてきて自分が踊ってきた証のようなものを捨てていなかった。そういう人たちが動くから、今がある。コロナ禍になる前は、私は本番中毒みたいなところがあって、本番がリアルな現実で、私生活が非現実的のような感覚だったんです。でも今は、踊りを大事にしたいから私生活も大事にしたい。そこからやっと、私もダンスシーンに何か還元できるんじゃないかと考えられるようになりました。私みたいな人もいるから、みんな必ずプラスに向かって動くし、みんなダンスが好きだから。だから、私の未来、私たちの未来は明るくなっていくと思っています」
――最後に、ご自身がダンスをする上で大切にしていること、自分にとってのダンスがどのようなものかをお聞かせください。
YOH「すごく簡単に言うなら、つながりとか流動性というものと、あとは嘘をつかないこと。例えば舞台上に立ったときに、その場の空気を伝えられるダンサーの方って、いるじゃないですか。ただ立っているだけで、なぜかすごい圧を感じるような。目に見えないけど、空気そのものの色とか重さとか変わるような。一方で、共演者や一緒に踊っている人と、自分自身とのつながりで、それが滞ることなく流れ続けていくという部分があるんですね。僕の概念的な感じの話になりますけど、それが1本つながっていくという感じがあるんです。踊っているときに、僕自身それを感じられるとすごくうれしい。体の流れが途切れないことももちろんですし、自分と誰かが踊っていて、それがずっと続いていくということも気持ちいい。そのつながりが途切れるさせる部分を作ったりとか、それを楽しんだりすることも、もちろんやるんだけど、その中にはずっとその場の空気というものがある。その流動性がすごく好きで大切です。あとは僕は、演じるような機会を頂くことも多いんですけど、ノンバーバルだけどストーリーをつなげるような、役柄のその中には絶対に僕がいて、演技をして、別の役柄になるにしても、媒体は自分、基盤は自分。だけどその人を演じなければ、自分のそういう部分に気づかなかった。いろんな対話を自分自身の中でもやることが、ダンスの面白いところですよね。そういう手続きを常にしていきながら、自分のいろんな知らない部分、他の人の知らない部分を引き出していけたらいいかなと思います」
Hagri「私は子どもの時、すごく疑問の多い子でした。なんで大人はこうするんだろう、なんでこの人はああするんだろう…そのフラストレーションが溜まった時に、踊りだしたんですよね、たぶん。固まってしまいたくなくて、発散できたときに自分の中で答え合わせができた。本格的にやるようになってくると、ダンスで悲しみをあらわす、とかあるじゃないですか。そういうときも何でこの人は悲しくないのに悲しいことをやるんだろうみたいなことを思っていたんですけど、段々とその人自身が際立つ踊りをしたりして――演技とか、女優さんとかも、みんな意思をもってやっているんですよね。みんな流されてやっているわけではなくて、自分があって演技をしたり、自分があってそのままさらけ出したり、まずは自分があることでやっている。そういう意味で、生徒さんにも嘘をつかなくていいとか、何を感じて踊っているのかをいろいろ聞いたりしています。そうすることが、いろんな疑問に対する自分なりの解決にもなっていって。一時期は、自分から訴えなくなったし、自分から伝えようと踊らなくなったこともありました。でも、答えは結局、私はダンスを好きだった。踊ることが自分だったんですよね」
北尾「いやー、一番悩むところですね。でも、常に変化しています。そのときの自分の感覚とか、価値観とか、体で体感することによるんですね。それでも、僕の中で1つ変わっていないこと、僕の中でも芯が通っていることは、少し複雑な、摩訶不思議なダンスの世界に出会わせてくれた師匠から頂いた学びです。「魅せるダンスはたくさんあふれているけど、どこから見られても耐え得る肉体、身体を獲得してください」、「そのときの、あなたの感覚を信じなさい」。ミュージカルに触れて15年ぐらい、ジャズダンス、クラシックバレエ、ストリートダンスをやっていた自分の価値観を一変させてくれた学びが、今につながっていると思います。本人の意思はどこにあるんだということが表現に内包される。それが大切にするべきことだと学んだ気がして、だから自分は変わっていいんだなと教えてもらいました。いかに裸になれるかということなんです。僕の踊る上での大事な要素かなと思います。衝動とか、そういった欲求を信じる。もともと歌の方が褒められていたり、お芝居の方が褒められていたりした人間が「あなたダンスいいわね」と言われて、俳優を目指して大学に入学していたのに、卒業するときにはなぜか、ダンスカンパニーを旗揚げしようと思っていたんですから。それが今13、14年続いてきているので、これはブレない部分かなと思います」
――ダンス漬けのイベントですから、ダンスの楽しさや面白さはもちろん、本質的な部分にも触れられる機会になるかもしれませんね。楽しみにしています。本日はありがとうございました!