舞台『7本指のピアニスト~泥棒とのエピソード~』│演出家・成井豊(演劇集団キャラメルボックス)×主演・松本利夫(EXILE)スペシャル対談!

写真提供:舞台「7本指のピアニスト」製作委員会

演劇集団キャラメルボックスの劇作家・演出家の成井豊、俳優として多彩なキャラクターを演じてきたEXILEの松本利夫が初タッグを組む!
皆さんは “7本指のピアニスト”西川悟平をご存知だろうか。ニューヨークでピアニストとして活躍していた2001年、難病ジストニアによって両手の演奏機能を完全に失い、5名の医者に不治の病と言われるが、リハビリにより少しずつ右手と左手の指2本の機能を快復させ、現在7本指で演奏活動をしている。その彼が実際に経験したNYのアパートで泥棒に入られた出来事を舞台化するのだ。パラリンピック閉会式の演奏を覚えている方も多いだろう。成井が西川の自叙伝「7本指のピアニスト 僕が奇跡を起こせた方法」をベースに戯曲を書き上げ、松本が西川を演じる舞台に注目したい。

――成井さんが西川さんの半生を舞台化しようとお考えになったきっかけから教えていただけますか?

写真提供:舞台「7本指のピアニスト」製作委員会

成井 私、音楽が苦手というか。ビートルズが大好きで、若いころはサザンオールスターズとかRCサクセションとか聞いていたんですけど、もう20年近くほとんど音楽は聴かなくなったんですよ、ましてやクラシックはほとんど興味がなかったんです。だから西川さんのことも存じ上げていませんでした。そんな私に西川さんがコンサートでいつもお話をされている泥棒の話、これを舞台化したいという話をいただきまして。コンサートを録音して書き起こしたものが送られてきて読ませていただいたんですが、これがすごく面白かったんです。ただそれは、西川さんのアパートに押し入ってきた二人の泥棒と一晩話をしたというだけなので、2時間にはならなかった。それで西川さんの自叙伝を読んでみたら、それがまた面白くて、泥棒に自分の半生を語る、今と過去を入れ子にすれば成立すると思いついたんです。

――成井さんの中で、惹かれた部分はどんなところでしたか?

成井 全部の指が動かなくなって、医者からもほかの仕事を探しなさいと言われたのに、あきらめなかったことですね。ちゃんと復帰できるまで数年かかっているんですよ。その復帰も5本指で、その後に7本の指が快復したけれど、まだ3本の指は動かないわけです。その苦難を乗り越えてプロのピアニストとして世界的に活躍している、そこですかね。あきらめずに自分で乗り越えていくところに惹かれました。

――松本さんは西川さんのお宅で一緒に演奏したり、焼き鳥を食べに行かれたとか。西川さんの役を演じるわけですが、ご本人とお会いした印象を教えていただけますか?

松本 僕も悟平さんのことは存じ上げなかったので、難病を持っているということで内向的な方じゃないか、世界的に活躍されている方だから気難しいかもと心配だったんです。何か失礼なことがあってはいけないですから。でも、もうしょっぱなの会った瞬間からマシンガントークが始まりました。

成井 西川さん、ものすごく多弁ですもんね。

松本 僕的には圧倒されたと同時に、こんなにフランクに接してくださるんだということで意気投合したんです。そのまま連絡先を聞いて、食事にも行きました。最初からすごく楽しかったですね。

成井 トークと弾いているときが別人なんですよ。西川さんのコンサートを最前列に拝見したんですけど、圧倒的な迫力でした。すごいですね、ピアノのって! すごい大きな音が出るんですよ!! 新鮮だったし、感動したし、ものすごい衝撃をいただきました。演奏しているときの西川さんはすごく尖ったイメージなんです。でもしゃべり始めると急に丸くなってしまう。二重人格なの?というくらい(笑)。普段はやたらと腰が低いのに、ピアノを弾くときは攻めの姿勢を感じますね。

松本 僕は初めてお会いしたのがお酒の席だったから、もう普段のおしゃべりの5倍以上だったんです。その後にお宅にお邪魔して一緒にピアノを弾かせていただいたんです、「きらきら星」とかですけど(笑)。でもピアノの前に座るとキャラクターが変わるんです。

――舞台では、西川さんの子どものころから40代までを演じられるんですよね

松本 そうなんです。でも過去のシーンと現代のシーンが入り交じった空間になっているので、あまり年齢差をつけ過ぎちゃうと何かおかしなことになってしまう。15歳でも大人の部分もありますし、逆に40歳になっても意外と子どもだったりもする。そういう意味ではそんなに変わらなくてもいいし、できるだけナチュラルにやらせてもらおうと考えています。15歳のときは仕草が子どもらしいなとか、40代のときは話し方が大人っぽいなとか、そのくらいの変化でつくっていこうと思います。

成井 原作が自叙伝なわけですから、どうしても子どもの場面が出てきます。私も松本さんのおっしゃったことと同感で、40代の西川の回想劇だから、その回想の中で登場する西川がことさら15歳になりきろうとしなくてもいいんです。泥棒の二人と話しながらという構造なので、泥棒に向かっては40代、回想の中で先生たちと話すときは15歳という切り替えはあるんですけどね。それが白と黒ぐらい違っては同一人物に見えなくなってしまいます。もう稽古を見ていると松本さん、すごく自然に見えますよ。

――西川さんは非常に前向きで明るいキャラクターということですが、でも、どん底から立ち直るまでの苦しみは相当なものだったんじゃないかと思いますよね

成井 そうですよね。でも原作の自叙伝も明るいんですよ。自殺未遂したことも書かれているんですけど、もうすごくあっさりしていて。落ち込んで苦しいところを切々と描くというよりも、それさえも面白く語りたいというのが西川さん。それがまた私の趣味にも合ってるんですよね。つらいときでもただ泣いているだけじゃなく、そこでも笑いを取ろうとするところが好きです。舞台ではそうした過去も原作通りに描きますが、悲壮な曲をかけてお客様を泣かせに走るとかはしないです。ただ演じる側の松本さんは、その痛み、苦しみを抱えて演じなければいけないだろうとは思います。

松本 僕は悟平さんはものすごい闇を持っている方だいう気がします。僕自身ベーチェット病を持っていて、グループで活動していた20代終わりから30代くらいまでが、すごくつらかったんです。その経験があるからわかる部分があって。指が動かなくてうまくできないことは、日常のことじゃないですか。生きていくのに当たり前なんですよ。それよりもなぜ俺がとか、他人のせいにしてしまう自分がいたりすることの方が精神的な苦痛、悩みになるんです。そのつらさに勝つために、悲観的にならないようにメンタルを保っていく。僕は手首を切ることはしなかったけれど、悟平さんの自叙伝を読んだときに、その闇を感じたんです。でもそこまで行って跳ね返ってきたからこそ、今はポジティブになれていると思う。やれることはやるしかない、これが自分の日常だし、人生だから、という開き直りがどこかにあるんじゃないかな。

――そうやって乗り越えたわけですもんね

写真提供:舞台「7本指のピアニスト」製作委員会

松本 そうですね。でも面白いのは、悟平さんは行動力があるのに、ビビりでもあるんですよ。僕に電話番号を聞いてきたときに、「いいですか? いいですか? 嫌だったらいいんです。本当に大丈夫です。嫌だったらいいんですけど、教えていただけたらうれしいです」って。どっち?みたいな(笑)。別に構わないですよとお伝えした途端に「いつスケジュール空いてます? いつ空いてます? いや無理しないでいいですから」みたいな(笑)。でも、この感じが悟平さんの魅力なんです。僕はそのビビリ症がうらやましくて。やっぱり頂点に上がっていく人ってめちゃくちゃビビりなんですよ。危機管理能力があって、ちゃんと自分を締めていく。悟平さんにもそれが見える。昔は好きだから8時間、10時間もピアノを弾いても苦ではなかったと思うんです。努力を努力とも思わずやれていたと思います。でも今はちゃんとご自分の体力や心模様をしっかり見つめているはずです。

――この舞台では作曲家の千住明さんの音楽も使用されます。それもまたすごいですね

成井 悟平さんがアルバムをつくる際に7本指で弾ける曲を千住さんにお願いしたそうなんです。今回、千住さんとのつながりがあって、アルバムから2曲、舞台で使わせていただきます。オープニングに1曲、もう1曲は悪いことが起きるたびに流れる予定です。結構かけかかります。

――松本さんがピアノを演奏するシーンもあるんですか?

松本 あります。でも悟平さんのような高いレベルの演奏はどんなに練習しても無理ですから、そこはお客様の想像力で見ていただければと思います。

成井 劇中で演奏する曲を西川さんに弾いていただいて、横と上から手が見えるように撮影して送ってもらったんですよ。その演奏の前後に「ここはこういう感じで」というトークが付いていて、そのトークと弾いているときが別人なんですよ。普段はやたらと腰が低くくて、多弁な人なのに、攻めの姿勢を感じますね。すごくカッコいいですよ。

松本 悟平さんにとってピアノは最大の武器なんですね。弾くときにはやっぱりスイッチが入って、これが僕のすべてだからみたいなオーラを出してくるんですよ。その輝きはやっぱずば抜けてます。せっかく演じさせていただけるのですから、悟平さんの輝きを表現できるように頑張りたいと思います。