M&Oplays プロデュース『クランク・イン!』が10月7日(金)に東京・本多劇場にて開幕し、その後、静岡、大阪、愛知にて上演される。本作は、人間の内部で無意識に動く感情を説明的なせりふを排し、物語の核を隠しながらもリアルに生々しく描き出すことに定評のある岩松了の新作。
物語は、2020年に上演された作品で、ある映画監督の妻と、その監督の愛人であった女優が、時を経て共感とも友情ともとれる感情を抱いていく様を描いた『そして春になった』を下敷きに、今作では、映画製作の現場で繰り広げる、ある新人女優の死をめぐる映画監督と女優たちの愛憎と葛藤を、悲喜劇として描くという。
出演の眞島秀和と吉高由里子の取材会の模様をお届けする。
すごく苦労するだろうけど、それが財産になっていけば(眞島)
――本作に出演が決まっての率直なお気持ちをお聞かせください
眞島 役者として共演する機会も多かったので、俳優・岩松さんはよく知っているのですが、演出家・岩松さんと遂に仕事ができるんだなという気持ちです。そこに楽しみがありますし、「岩松さんの演出は厳しいよ」といろんな役者から聞いていたので、ちょっと緊張もしています。役者同士として現場でお会いする岩松さんはすごく楽しい方なので、今回どのくらいギャップがあるのかなっていうところも楽しみですね。
吉高 私はなんだか本当にやるのか、まだふわふわしています。本当に始まるのかな?ってまだ全然実感のない感じです(笑)。
眞島 すごくわかる、それ。
吉高 そうですよね?(笑)
――おふたりとも岩松さんの演出を受けるのは初めてですが、舞台作品をご覧になられているそうですね。そこで感じる魅力をお聞かせください
眞島 ざっくりとした印象ですが、人間の本性というか、人間の汚い部分を描いているという印象があります。あと、台詞がすごく計算されている。観ていて「どういうふうにつくっていらっしゃるのかな」と思ったこともあります。
吉高 岩松さんは「言葉の人」だと思っています。そのひとつのフレーズでどれだけ風呂敷を広げられるんだ!っていうくらい、想像もつかない物語が進んでいく。あと、ちょっといじわるなんだと思います(笑)。ひとつの言葉の揚げ足をどれだけ取れるかっていうような、考えられないようないじわるさを持っている方なんじゃないかと思います(笑)。
――今回の脚本はまだ一部だけが渡されているそうですが、どのような印象でしたか?
眞島 いただいたのは本当にさわりの部分だけなんですけど、会話が面白いので、やっぱり会話劇になっていくんだろうなという感触はあります。今は続きが楽しみです。
吉高 私の役はまだほとんど出てこなかったので、どんな感じになるかわからなかったのですが、眞島さんが演じる監督が最低なんじゃないかっていう予感があります(笑)。そうなったら面白いなと想像して読みました。
――眞島さんは映画監督、吉高さんは女優の役で、映画監督も身近な存在だと思いますし、吉高さんはご自身も女優でいらっしゃいます。そういう役柄を演じるってどういうことになりますか?
眞島 職業柄、いろんな映画監督を知っているので、「あの人のこういう部分」とか「あの人のあの言い方」とかを自分の中から引っ張ってくることになるんだと思います。そこは楽しみですね。
吉高 芝居の中で、芝居をする人の芝居をするっていうこんがらがりそうな役ではありますが、勝ち気な女優でなければいいなというのはあります。
――勝ち気じゃないほうがいいですか?
吉高 はい、気が強い役って体力を使うので。
――先ほど眞島さんは岩松さんの作品の印象で「人間の汚い部分を描いている」とおっしゃっていましたが、そういう作品で役を演じる醍醐味ってどんなことですか?
眞島 醍醐味は、「すごく苦労するだろうな」っていうところです。きっとそれが自分の中で、良く言えば「財産」になっていけばいいなって。僕らの仕事ってその繰り返しですから。
吉高 岩松さんは、いろんな「人間」を見てきた方なんだと思います。表面的なことじゃなくて内面的なことで、ギャップだったり、裏表だったりを考えながら、人の話や行動を見ている方なのかなと思っていて。じゃあ自分は、その岩松さんにどんなふうに見られるかなとか、どういう言葉をかけられるかなとか、どんなふうに挑発されるかな、と。それは怖いけど、喜怒哀楽の感情や後ろめたさを経験する機会になるのかなと感じています。
舞台は緊張するし、嬉しいこともあるし、寂しいこともある(吉高)
――吉高さんは3度目の舞台出演となりますが、今回なぜ出演を決められたのでしょうか?
吉高 マネージャーさんの方針もあると思います(笑)。舞台は毎日稽古をするので、そういう「台詞と向き合う時間」をじっくり持たせたいと思ってくれているのかなと。言葉を掘り返す作業の勉強を、と私も思っています。
――吉高さんにとって舞台に立つってどんなことですか?
吉高 緊張しますし、嬉しいこともあるし、寂しいこともあったなと思います。あとは、つっかかったり失敗したときに自分を立て直すメンタルの強化の場でもあるなと思います。
――嬉しいことや寂しいことってどんなことでしたか?
吉高 嬉しいことは、観てくださる方の高揚や感情が重いくらい伝わってくることです。それにチケットを取るのも大変だと思いますし、予定の都合をつけて観に来てくださっているんだなと思うと、すごく嬉しかったです。寝ている方とか見つけちゃうとやっぱ寂しくなります(笑)。でもそれもある種の訓練だと思いました。
――眞島さんにとって舞台に立つというのはどんなことですか?
眞島 役者をやるうえで、一番純度の高い仕事だと思っています。ライブでお客様にお芝居を観てもらう、すごくシンプルな空間なので。そういう意味ではとても大事ですし、ある意味修行の場だなって。お客さんの目線に怯まぬ状態になるには、稽古期間も大事ですし、やっぱり自分のメンタルが鍛えられる部分もありますから。
――これまで出演した舞台ではどんなことが得られたと思われますか?
眞島 僕もそんなに舞台経験があるほうではないですが、毎回毎回「これ、できるのかな?」と思うところからスタートして、稽古場でどんどん熟成されて、幕が開けて、そうすると観た人に「また変化してる」って言っていただけるようなこともあって、「もしかしてこういうことだったのかな?」と思い始めた時に千秋楽を迎えるっていう、その繰り返しです。
――お互いの俳優としての印象は?
吉高 実は今が初めましてなんですよ。
眞島 共演もしてないしね。
――では、お互いにこんな話ができたらいいなということはありますか?
眞島 これ、いまだに信じていないんですけど、出演者の中に男性が僕しかいないんですよ。
吉高 (笑)
眞島 なので吉高さんに限らずですが、いろんな場面で助けていただきたいなって気持ちがあります。
吉高 ぜひ。私は食べ物の話が好きなので、おいしいお店の話とか。
眞島 (笑)。わかりました。
――では最後に、今回の舞台の稽古で期待していることや楽しみにしていることを聞かせてください
眞島 役者さんが揃って、稽古が「よーいドン」で始まっていくというのは面白い作業ですから。僕自身、舞台を観に行ったときに、「これ、稽古が始まったときはどういう感じだったんだろう」と気になったりするんですね。だから、自分が出演する舞台でそれを味わうことができるのは楽しみです。
吉高 私は舞台の、みんなで同じ方向を向いて取り組む作業が素敵だなと思っています。初対面の方と仲良くなると、お芝居の距離感が変わったりするのもいいなって。今はまだどうなるかもわからないし、カタチも見えないものが、(稽古によって)どんどんカタチになって尖っていくことが楽しみです。自分の役を理解していく過程も楽しみにしています。
インタビュー・文/中川實穂