田中俊介×堀夏喜「ホームレッスン」インタビュー

【左】田中俊介 【右】堀夏喜

劇作家の谷碧仁(劇団時間制作)が書き下ろし、シライケイタ(劇団温泉ドラゴン)が演出する舞台「ホームレッスン」が、9月24日から上演される。今、注目の二人の初タッグで贈る本作は、“100の家訓”を持つ奇妙な家族の物語。三上家の長女・花蓮(武田玲奈)との「できちゃった結婚」を機に100の家訓のある三上家で生活することになる伊藤大夢を演じる田中俊介と、花蓮の弟・朔太郎を演じる 堀夏喜(FANTASTICS from EXILE TRIBE)に本作に懸ける想いを聞いた。

 

――三上家を舞台にした会話劇ですが、本作のお話を聞いた時の心境を教えてください。

田中 めちゃくちゃセリフ量が多いなという衝撃はありました(笑)。僕にとっては大きなチャレンジで、大変だろうけどやりがいのある作品だと純粋に思えたので、台本を読んで即答しました。こうしたお話をいただけて嬉しかったです。

 

――堀さんは、こうした演劇作品に出演するのは初めてだと聞いていますが、この作品を初めての場に選んだ理由はどこにあったんですか?

 グループ活動とは離れて、堀夏喜としてお芝居の仕事を少しずつやらせていただく中で、もっと力をつけて俳優として自信を持てるようになりたいと思っていたタイミングでもありましたし、台本を読ませていただいて内容的にはすごく難しいなとは思いましたが、この作品に挑戦することがこれからの自分のスキルアップと経験値につながると思ったので、ぜひやらせていただきたいと思いました。

 

――(取材当時)すでに稽古は始まっているということですが、稽古場の様子はいかがですか?

田中 順調だと思います。まだ細かなところは詰められていませんが、全体像はだいぶ見えてきました。ここからどうブラッシュアップして、深みのあるものにしていけるかという段階なので、これからが楽しみです。

 僕はこうした舞台が初めてということもあり、稽古も新鮮で、毎日勉強させていただいています。やっぱり皆さんのお芝居を生で見ることで、たくさんのことを学べていると感じています。

 

――稽古場では、どなたがムードメーカーになっているんですか?

田中 僕は特にムードメーカーという存在はいないと思います。演出のシライさん含め、キャストの皆さん全員が与えられた役目を全うする職人気質を持った方々という印象です。でも時折、たわいもない会話をして笑い合ったり、なんて言うんでしょう、この空気感、バランスが僕は本当に好きだなと思います。

 僕は田中さんだと思います。皆さんでワーッと盛り上がるということではないですが、フワッと笑いが起きて、楽しい空気が流れる。そんな稽古場だと思います。

田中 すごく居心地がいい現場です。

 

――家族の空気はできています?

田中 キャストが5人しかいないこともあって、より一致団結していると思います。僕は、これほどキャストが少ない作品は初めてなんですよ。なので、この5人で会場を埋め尽くすエネルギーを出さないといけないんだというプレッシャーもありましたが、今はこの5人ならいけると思っています。

 世代もバラバラですし、初めての方ばかりでしたが、僕は最初から自然と「家族」だと思って接することができました。武田玲奈さんとは同い年なのですが、最初から姉という空気を出してくださったので、もうすでに姉だと思っています。

 

――では、最初に脚本を読んだ時は、本作のどんなところに魅力を感じましたか?

田中 読み始めたら手が止まらなくて、一気に読み進めてしまったほど興味深い物語でした。僕も「愛って何だろう」と考えることはありますが、改めてこの作品の脚本を読み、愛情というのは不確かなものなんだなと感じました。今作で描かれている三上家には、僕が思い浮かべる家族愛とはどこか違うものがあり、なんだか可笑しくもあり、痛々しい愛がそこにはありました。でも読み進めると、そこには確かな温もりがあるんです。そのあやふやさが純粋に読み物として面白く、絶対に出演したいと思いました。

 物語の冒頭から「100の家訓がある」という家族が登場しているので、現実離れした作品だと感じてもおかしくないと思うのに、どこかリアリティに溢れているというのが、僕がこの作品に引き込まれたポイントでした。もともと、こうした暗いお話の作品に出演したいと思っていたので、台本を読んで魅了されましたし、やってみたいと思いました。

 

――今、お稽古をしていて、どのようなところに難しさを感じていますか?

田中 僕が演じる大夢は、前半と後半では両極端な一面を見せる人物です。なので、その移り変わりを表現するのが難しいと感じています。まるで別人のように見えるほど、多面性のある人物なのですが、芯の部分はぶらすことなく表現したいと思っています。

 僕は難しいところだらけなので…まだ感覚がつかめていないというのが正直なところです。朔太郎という役柄の役割をきちんと担えるようにしなければいけないと考えながら演じるのも難しいですし、単純に舞台の上でお芝居をするということ自体も難しいですし…。今は、ここから本番までの期間で、どれだけ自分の納得いくものができるかが、課題です。

 

――田中さんは今、大夢をどのようなキャラクターだと捉えていますか?

田中 幼少期に辛い経験をしていることから、「家族」に対する執着や憧れがあります。三上家の一員になりましたが、「何かがおかしいぞ」と気づきます。ですが、自分は「社会適合のプロ」だと自負していることから、その家族にも柔軟に対応していこうとしています。

 

――大夢にとって、「家族」はどんなものだと考えていたと思いますか?

田中 そもそも彼の抱く家族像はフワッとしていて、これとは定まっていないけれども、とにかく暖かい、幸せを感じられる空間なんだろうと思います。

 

――堀さんから見た朔太郎はどのような人物ですか?

 朔太郎は18歳の少年ですが、若いからこその意志の強さや反発心がにじみ出ている人物だと思います。この作品の登場人物の中でも一番若い存在ですし、若さというのがポイントなのかなと思いました。

 

――そんな朔太郎に三上家はどう映っていると思いますか?

 三上家しか知らないで育ってきましたが、きっと何かのきっかけで(三上家が)普通じゃないことに気づいて、大きな衝撃を受けたんだと思います。それ(普通じゃないこと)を一度知ってしまったら普通になりたいという思いが生まれ、周りと同じような家族でいようと強く思っているんだと、僕は考えています。

 

――それぞれの役柄を演じる上では、どこを核としたいですか?

田中 大夢の根本にあるのは、花蓮のことが大好きで、家族を愛して、家族を守りたいという思いだと思います。その思いで行動している。なので、そこはブレずに持って演じたいと思います。そこがなくなると、行動心理がよく分からない人物になってしまうので。

 僕は、何を言われても、何をしても揺るがない意志の強さが大事だと思います。その強さは、台本から感じ取ったものなので、そこはしっかり落とし込んで演じられたらと思います。

 

――では、今、このタイミングで本作を上演することについては、お二人はどう考えていますか?

田中 すごくタイムリーな内容ですよね。こんな巡り合わせがあるのかと思いました。社会問題になっているような出来事を、まさしく描いているので。今、世間でも議論になっていますが、僕は、決して信仰は悪ではないと思います。誰もがそこにすがりつきたくなることもあるでしょうし、その気持ちはすごくわかります。ただ、超えてはいけない境目が分からなくなってしまうこと、分からなくしてしまうことが問題なわけで。この作品では、三上家を「なんだこの家族は」と、引いた目で見る方が多いと思います。でも、見ていると、そこには理由があったんだと気付かされ、だんだんと理解できてくると思います。ギリギリのところで”家族”を繋ぎ止めている三上家の行く末を見ていただき、何かを持って帰っていただければ嬉しいですし、そうなれるよう頑張ります。

 顔合わせの時に、脚本を書かれた谷さんが、「この作品は、今、感じている世の中の極端すぎる物の捉え方への疑問を描いている」ということをおっしゃっていて、その言葉にすごく感動したのを思い出しました。極端なストーリーですが、それを僕たちが客観的に演じることで、何かを感じ取ってもらえたらいいなと思います。

 

――ところで、三上家の「100の家訓」にちなんで、お二人の家の「家訓」を教えてください!

田中 …なんだろう、全然思い当たらないです。それが当たり前だと思って育ってきたから気づいていないだけなのかもしれません。もちろん、小学生の頃は「夜は9時には寝なさい」みたいな約束事はありましたが、それも家訓と言えば家訓なのでしょうか?

 僕も、特別にこれという家訓はありませんが…小学生の頃から色々な習い事をしていて、そこでお菓子を食べることがあったのですが、その時に周りにいる子たちにも分けてあげるようにと言われていたのを思い出しました。僕は兄弟がいないので、何かを食べる時も一人で全部食べるのが当たり前だったので、分けることを教えたかったのかなと思います。

 

――では、先ほど田中さんが「愛って何だろうと考えることがある」とおっしゃっていましたが、「愛」ってお二人にとってはどんなものですか?

田中 難しい質問ですね(笑)。…色々と求めないことかな。例えば恋人に対しても、何かしたことに見返りを求めるようになると、それは違うと思うんです。自分がしたいからしている。愛情を注ぎたいから、注いでいるだけでいい。そう思えたら、それが愛なんじゃないでしょうか? …いや、もう分かりません(笑)。これはいくら考えても、迷宮入りしてます。

 僕は、原動力になるものだと思います。愛を感じた時に、何かアクションを起こそうとしたりもしますから。僕が所属している事務所「LDH」にも「Love」という文字が入っているくらいなので、愛は大事だということはすごく感じています(笑)。

 

――最後に、公演を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。

田中 今作は、今の世の中とリンクする部分も多く、今こそ観てもらいたい作品です。このタイミングで、この舞台に出演させていただけることに感謝して、僕が出せる100パーセントの力を出して、この世界を表現したいと思っていますので、ぜひ、一風変わった家族の行く末を見守っていただけたらと思います。

 ひとつの家族を描いたお話ですが、観てくださる方によって感じ方が変わる作品だと思っています。ですので、ぜひたくさんの方に観ていただいて、さまざまな見方をしていただけたらと思います。個人的には、たくさんの挑戦をしている舞台なので、その姿も見ていただけたら嬉しいです。

 

取材・文:嶋田真己