彩の国シェイクスピア・シリーズ『ジョン王』|吉田鋼太郎 インタビュー

今後50年は上演されない(?)“異質”なシェイクスピア劇

シェイクスピア全作品の上演を目指した彩の国シェイクスピア・シリーズが『ジョン王』にてその幕を下ろす。混沌の世界で戦争に振り回される人間たちを描く本作で演出を担うのは、蜷川幸雄よりシリーズ2代目芸術監督の任を引き継いだ吉田鋼太郎だ。

「2020年に上演を予定していた時とは演出のプランも変えざるを得ないと思っています。コロナや戦争で世の中の状況も大きく変化しましたから」

こう語る吉田は、かつて『ジョン王』に俳優として出演した経験もある。

「僕が演じたのは、今回、小栗(旬)くんがやる私生児・フィリップ。その時もカンパニーの皆で“これ、本当に面白いのかな?”と探り探りやりました(笑)。この私生児が王という存在を客観的な視点で見つめ、様々な思惑のもと、本質的なことをぶつけていくところに作品の肝がある気もします。本の文字だけ読んでいたら秀逸な作品というわけでもないんですよ(笑)。だから俳優たちと一緒に発見を重ねながら、最高に面白い舞台にしていこうと思ってます」

吉田は演出に加え、東京公演でフランス王、それ以降の公演ではジョン王役として出演も果たす。

「これはとにかく大変!フランス王もかなり喋るし、ジョン王のセリフはとにかく膨大ですから。僕が思うジョン王はとても不運な人。英雄と謳われた兄が戦争で国のお金を使い果たした後、不利な立場で即位して多くの領土を失い“欠地王”とも蔑まれるんです。本来ならば作品のタイトルロールを担うような男ではないのですが、僕はその不完全でダメな姿に強い魅力を感じます。そんなジョン王と私生児が友情のような形で絆を結ぶ展開にもテンションが上がります」

生命力とユーモアにあふれ、世の中をシニカルに見つめる若者“私生児”を主演として演じるのは小栗旬。吉田とは久しぶりの共演となる。

「小栗くんはシェイクスピア・シリーズに登場するのが16年ぶりということもあって、今はかなり緊張しているみたいです(笑)。じつはこれまで舞台上で彼とはあまり絡んだことがないので、演出家としてだけでなく、共演者としても非常に楽しみです。小栗くんは憑依型というより、つねに冷静な視点を持って役を演じる俳優ですが、今回は私生児が作品の中で次第にそうなっていくように、彼自身が髪を振り乱し、汗でぐちゃぐちゃになる姿も近くで見つめていきたい。稽古場で最初の一声を発してからの小栗旬がどんな風に成長した姿を見せ、暴れてくれるのか期待しかありません」

東京公演でジョン王役を担うのはミュージカルの舞台でも活躍する吉原光夫だ。新たな力へ期待を寄せる。

「体も大きいし、静かなたたずまいの中に得も言われぬ迫力がある俳優さん。このカンパニーに新しい人が入ってくれることで、“蜷川組”常連チームとの間に良い化学反応が生まれるんじゃないかな」

吉田が20年に渡ってかかわってきた本シリーズもこの作品で区切りとなる。

「寂しいというより、次は何をやろうか、何ができるかというワクワクした気持ちの方が強いです。『ジョン王』はシェイクスピア作品の中でもある意味異質。今回の上演の後、20年…いや、50年は上演されないと僕は思っていますので(笑)、ぜひ劇場で観ていただきたいです」

まもなく壮大な歴史劇の幕が上がる――。

インタビュー&文/上村由紀子
Photo/篠塚ようこ

※構成/月刊ローチケ編集部 12月15日号より転載
※写真は誌面と異なります

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【プロフィール】
吉田鋼太郎
■ヨシダ コウタロウ
俳優としてテレビドラマや映画の話題作にも数多く出演するほか、舞台やCM、声優など、幅広く活躍する。