7/7(土) 東京・紀伊國屋ホールにて、『新・幕末純情伝』FAKE NEWSが開幕した。
この物語は、幕末の京都を舞台に、新撰組の沖田総司は実は女だったという、ユニークな着想から生み出された、つかこうへいの代表作の一つ。
1989年に上演されて以来、幾度となく上演され続けている本作で、紅一点、沖田総司の十代目を引き継ぐのは、今春AKB48グループを卒業したばかりのNGT48元キャプテン北原里英。その沖田総司の相手役、坂本龍馬を、今年の『熱海殺人事件』で実力を見せつけた味方良介が演じる。その他、小松準弥、田中凉星、増子敦貴、松村龍之介、細貝圭ら実力のある若手俳優陣が名を連ね、演出にはフジテレビ制作部ゼネラルディレクター・河毛俊作があたり、全く新しい観点からつか作品に挑んでいる。
開幕直前に、公開ゲネプロと囲み取材が行われ、北原里英、味方良介、小松準弥、田中涼星、増子敦貴、松村龍之介、細貝圭と演出・河毛俊作が登壇し、意気込みを語った。
北原が「約1ヶ月、クーラーや空調も効かない暑い中、汗だくになりながら稽古をしてきたので、その想いを全部公演にぶつけていけたらなと思います」と熱い口調で口火を切ると、味方も「1ヶ月間、濃密な時間を過ごしてきた中で、ここにいるメンバーはもちろん、楽屋で待機しているメンバーのことが大好きになったので、この“好き”というパワーを使っていいものができたらなと思います」と言葉を重ねた。
続く桂小五郎を演じる田中は、「1ヶ月稽古でやってきたことと、かいた汗を信じて千秋楽まで頑張っていきたいと思います」、さらに岡田以蔵役の松村も「この夏の暑さに負けないくらい熱い気持ちで精一杯やらせていただけたらなと思います」と熱く語った。
土方歳三を演じる小松が、「とにかく総司を愛し、百姓出身の“武士魂”見せつけてやりたいと思います!」と勢いよくコメントすると、味方に「目バキバキじゃないかよ…どうしたんだよ(笑)。稽古場で観たことない姿…」とツッコまれ、会場は笑いに包まれた。
ひとしきり盛り上がった後で、味方に振られ「やりにくいな(笑)」と、挨拶を始めたのは新撰組隊士・二宮役の増子。「最年少ですが、新撰組の二宮らしく最後まで突っ走りたいです。熱い稽古をやってきたので、それを本番でガツンと全力でやりたいと思います」と意気込みを見せた。
勝海舟を演じる細貝は、「『新・幕末純情伝』への出演は、今回で4回目ですが、河毛さんが難解な部分をうまくかみくだいてくださったので、初めてつか作品を観る方にも楽しんでいただけるような作品になっているので、いろんな方に観ていただきたいなと思います」と4回目の出演ならではの落ち着きで語った。
一方、演出の河毛は「僕が稽古場でやってきたことは、小屋入りしてからやってきたこと以上のことを見せるための基礎。本番はこれからですから、稽古場で見ることができなかったものを見せてもらえるのではないかというのを一番楽しみにしています」と期待を寄せた。
つかこうへい作品への出演について、北原は「つかさんにはもう一生会うことはできないですが、作品を通してどこかでつながれているような気がしています。生誕70周年という記念の年に沖田総司をやらせていただけるというのはすごく幸せなことだなと思います」と語り、味方は「初めてつかさんの作品に出演したのが、2年前の『新・幕末純情伝』でしたが、それから『熱海殺人事件』を経て、またこうして『新・幕末純情伝』に坂本龍馬として出演できることになりました。つかさんの想いやつかさんを支えてきた人たちが紡いできたことを、今度は僕らの世代がきちんと伝えていって、この先10年、20年と僕らの力でまた続いていけるように頑張っていかなければいけないなと思っております」と展望を述べた。
さらに、ラブシーンについて、「1ヶ月やってきているので、自分たちではよくわからなくなっていますが、観た方がいろんな意味で驚いてくれたら嬉しいですし、そこが見せ場の一つになってくれたらさらに嬉しいです」と力強く述べた北原。男性陣に対して緊張しなかったかと投げかけられると、増子は「多少します(笑)稽古でずっとやってきたので、緊張というよりは気持ちを込めてハグします」と素直に回答。味方は「緊張はしますが、それが大事なことで、緊張があることによって作品がキュッとしまる瞬間もあるので必要なことだなと思います」とコメントした。
また、初日の7/7(土)が七夕ということにちなみ北原が願いごとを披露。「今回の『新・幕末純情伝』を1人でも多くの方に観てもらい、そして最後まで誰1人ケガすることなく走り抜けられたらいいなと思います」と回答したが、あまりに面白味のない回答に自分で納得がいかず「待ってください!もう1回!」と懇願。別の回答を考える間を繋ぐため、味方が「代わりに圭くんが面白いことを言います」と無茶ぶり。細貝は「ガ、ガンバルヨ~!」とカタコトで見事に切り返し、笑いを誘うひと幕も。
さらに間を繋ぐため指名された田中は、「満点の星空のようにたくさんの人に来ていただけたらなと思います。七夕だから星にかけました。名前も涼“星”だし…」と自信を持って答えたものの、役者陣からは疑問の声が続出。
そしてついに考え抜いた北原が「沖田総司と坂本龍馬みたいに命をかけた素敵な恋愛ができますように!」と笑顔で願いを述べると、共演者の「よっ!」という掛け声とともに拍手が沸き起こった。
最後に味方から「この作品を通して演劇というものの素晴らしさと暖かさ、愛を感じてもらいたいです。演劇に触れる文化はなかなかないと思いますが、観に来ていただいたら絶対損はさせません!自分の人生もきっと変わると思うので、ぜひ劇場に足を運んで、感じて下さい」、北原からは「舞台は映画とかドラマみたいに残ったりするものではなく、“生もの”だと思うので、少しでも興味を持ったら観に来てほしいなと思います。自信を持ってお届けするので、騙されたと思って観に来ていただけたら嬉しいなと思います。平成最後の夏は『新・幕末純情伝』で熱く盛り上がっていきたいと思いますので、よろしくお願いします!」と熱いメッセージが贈られ、会見を締め括った。
公開ゲネプロでは、冒頭からつか芝居の真骨頂ともいうべき早いセリフ回しで紡がれる言葉の数々が勢いよく観客に降り注ぐ。その言葉が持つ熱量に圧倒され、観客は一気に作品の世界観へと誘われる。
沖田総司は新撰組きっての剣客。しかし、“強さ”が描かれる一方で、北原の表情や仕草の端々から“女”であることが強く感じられる。それゆえ、1人の女を囲む男達の複雑に絡み合う関係性がより一層色濃く表れている。
2年前の『新・幕末純情伝』と2度の『熱海殺人事件』を経て、演出の河毛からもパンフレットで「つか作品をやるために生まれて来たような人」と言われるほど、つか芝居が身に沁みついた味方からは、実年齢からはかけ離れた圧倒的な安定感を感じる。その重厚感のある声とどっしりと構えた姿勢で、この座組をがっちりと牽引していた。
土方歳三と聞くと、“鬼の副長”と言われるほど、怖さや強さを中心に描かれることが多いが、小松が演じる土方は実に人間身に溢れ、自分の感情が揺れ動く様は我々に親近感を与える。
186cmの長身である桂小五郎を演じる田中は、舞台上で大きな存在感を放つ。例年話題となっている沖田との濃密なシーンも前回よりもパワーアップ。ぜひ瞬きせずに見ていただきたい。這い上がってきた桂が権力に翻弄される一方で、時折見せる人間らしさとの対比も見どころだ。
増子は、新撰組隊士・二宮の純粋さを18歳という若さで巧みに表現。どこまでもまっすぐな二宮の熱い想いに胸が締め付けられる。
岡田以蔵を演じた松村は、鋭く、力強い殺陣を幾度となく披露。勝海舟との迫力満点の殺陣シーンは思わず呼吸を忘れるほどの緊張感だ。
これまで4度『新・幕末純情伝』に出演してきた細貝は、今回初めて勝海舟役に挑んだ。これまでの経験から培われた、その堂々たる振る舞いは圧巻であり、勝海舟が登場すると舞台の空気が一瞬にして引き締まる。
さらに、今回もう一人注目すべきは、『北の国から』やトレンディードラマのプロデューサーとして活躍し、御年71歳にして俳優デビューを果たした“よっちゃん”こと山田良明。エキセントリックなゲイという癖の強い岩倉具視を山田がどのように演じるのか、ぜひその目で確かめていただきたい。
また、この作品は言葉で畳みかける芝居が故に堅固しい印象もあるかもしれないが、決してそればかりではない。ドラマティックな展開の中にもコメディ要素があり、クスッと笑える場面もある。それゆえ難しいお芝居なのでは…と臆する必要は全くない。
様々な規制により表現が難しくなってきている昨今。オブラートに包まれた形で世に出るため、本意とは異なる形で伝わってしまう言葉もある。その中でつかこうへいの言葉は実にストレートである。だからこそ、1つ1つの言葉が胸に響く。
今作は幕末の話だが、人々のやりとりは私たちの日常にも通ずるものがある。サブタイトルの“FAKE NEWS”からも、この作品は、誰が正しいのか、何が正しいのか、自分自身のこれからの生き方や考え方を見直すきっかけになるのではないだろうか。
昨年は大政奉還150周年、今年は平成最後の年であり、つかこうへい生誕70周年でもある節目の年に、出演者全員が汗を流しながら全力で挑む熱い芝居を、ぜひ劇場で、五感をフルに使って体感していただきたい。言葉にならないほどの熱いメッセージを彼らから受け取ることだろう。
『新・幕末純情伝』FAKE NEWSは、7/30(月)まで東京・紀伊國屋ホールにて上演される。
取材・文・撮影/ローソンチケット