「熱海殺人事件」 CROSS OVER 45 味方良介 インタビュー

とにかく、僕を観ていれば大丈夫
ちゃんと「熱海殺人事件」をお見せしますから

つかこうへいの代表作のひとつ「熱海殺人事件」。紀伊国屋ホールを拠点に春の名物として公演を重ねて来た本作が、2018年に45周年を迎える。今回のテーマはクロスオーバー。「熱海殺人事件 CROSS OVER 45」として上演され、主演の木村伝兵衛部長刑事を前回に引き続き味方良介が演じることになった。昨年、史上最年少の木村伝兵衛部長刑事を見事に演じ上げ「~NEW GENERATION」として鮮烈な印象を残した味方。“クロスオーバー”には、どのように挑むのだろうか。

――前作の「~NEW GENERATION」に引き続き、「~CROSS OVER 45」でも木村伝兵衛部長刑事を演じることになりました。決まった時のお気持ちは?

味方「もうガッツポーズでしたね。昨年、出演した時に自分の中で消化できなかった部分もあったんです。嬉しさもありましたが、悔しさもありましたから。それをまたリベンジできるということが、かなり気持ちとしては大きかったですね。千秋楽になって「こうだったのか!」と掴めた部分もあったので。もう一回挑戦できる、また新しく上書きして、もっと大きな自分を作れるんじゃないか、と今は感じています。」

――リベンジ、という言葉が出てくるくらいのお気持ちがあったんですね。昨年、本番の中で得たものはどのようなことでしたか?

味方「言葉にするのは難しいんですが…頭で考えなくてもすべてがハマっていくようなゾーンに入っていけたんですね。「あれ?こんなふうに心が動くんだ」と思った部分が大きかったんです。プレッシャーもかなりありました。でも、コトの重大さに気付いたのは、終わってからでした(笑)」

――終わってからですか?後になって実感がわいてきたような?

味方「稽古をやっているときも、本番が始まってからも「結構大変なことやってるな?」とは思っていたんです。演じることが決まってからは、がむしゃらにやるしかないですからね。けど、終わってから、いろいろな方からの反響があったり、お手紙をいただいたりして…。そこではじめて、よくそのプレッシャーを感じずに演じ切ることができたな、と思ったんです。後からだんだん効いてくるような感じがありましたね。」

――どのような感想が多かったですか?

味方「観に来てくれた仲間内の奴らからは「凄いものが観られた」「なんだかスゲーものを観た!」という言葉がもらえたんです。すべてを理解できている訳じゃないけれど、凄さを感じた、と。それは自分の中でも大きな財産になりましたね。」

――前作は、新世代というコンセプトでした。今振り返ってみてどのような公演だったと思いますか?

味方「僕ら4人の若さ、というのはやはり一番大きな要素だったと思います。技術とか話術では、長年やってきた方には勝てない部分があるかもしれない。でも、若さっていう武器、パワーやエネルギーを発するものとしては…汗の量もそうかもしれないですけど(笑)、そういう若さからくる力強さは感じられましたね。それは自分で映像を観ても、若いな、と思いましたから。その力は、小手先じゃできない、自分たちの内に秘めたエネルギーのぶつかり合い、勝負ができたと思っています。」

――そして、今回はテーマがクロスオーバーになります。現時点で、何か手ごたえは?

味方「僕が稽古に入ってからはまだ、3~4日なんですが…石田明さんが熊田留吉刑事役というだけでも、もうこれは異種格闘技戦(笑)。石田さんとは「新幕末純情伝」で共演させていただいて、石田さんも前回の「熱海~」を観に来てくださっていたんです。で、石田さんが出るって聞いて、しかも俺の部下の役!?と思って。おかしいですよね(笑)。でも、それがまた良さを出すんじゃないかな、と石田さんとも話をしました。石田さんのパワーは横で観ていて感じていたし強いものがある。木崎ゆりあさん、敦貴くん、匠海くんと若い新たな3人と一緒にまた新たな「熱海~」を作っていく。僕は前回もやっていますから、ゼロにするわけじゃないけど、新たに「CROSS OVER」を作っていかないと、と思っています。やっぱり、潰し合いですからね(笑)」

――潰し合い、勝負、とバトル感がある言葉を選んでいらっしゃいますが、協力し合う、というよりも、戦うようなイメージなんでしょうか?

味方「誰が勝つかわからない勝負ですからね。ひとりひとり自覚をもって、この捜査室でどう2時間きっちりできるか、という勝負。それが見えたときに…稽古場で作り上げて、誰かが勝ち取った時に「CROSS OVER」として、いいものができたと言えるんじゃないかと思っています。」

――演者同士の真っ向勝負なんですね。

味方「どんな球を投げてくるかわからないメンバーばかりですから。石田さんだけじゃなく、初対面の3人も。「え、そんな感じで来る?」って(笑)。だから余計に、前回やったから、という慣れはダメだなと感じています。ちゃんと向き合っていかないと、この戦いには勝てない。」

――勝ちに行くためには、慣れてなんかいられないというワケですね。今回、超えるべきハードルはどのようなことだと考えていらっしゃいますか?

味方「45周年という節目でもありますから、このメンバーにやらせて良かったと思ってもらえるところまでもっていかなければならない。いろんな人の45年間の気持ちがあって、もちろん演出の岡村(俊一)さんの気持ちもあって。その託された部分をこの5人で作っていくのは、とても高いハードルだと思います。45周年なのにコレかよ、と言われてしまっては負け、去年もやっていたのにコレかよ、と言われてしまったら僕の負けですから。余裕かまさずに、しっかり見つめあって、がむしゃらにやっていかないと、このハードルは超えられない気がしています。」

――やはり、この作品はつかこうへいさんのの意思を引き継ぐ演目としての意味も大きいと思います。その部分についてはどのように感じていらっしゃいますか?

味方「この本、この言葉を貰った時点で、責任をもたなきゃいけないと思っています。去年も、台本を読んで覚えて、演じていく作業をしたんですが、今年になってまた改めて台本を読んだときに、こんなにずっと苦しいことを言っていたんだなと感じたんです。つかさんの言葉って、全部が全部、ムチャクチャなことを言っているようで、ずっと心の奥底でひっかかってかき乱されているような、そんな言葉ばかりなんです。それを…大切に、という言葉じゃちょっとチープかも知れないですけど、つかさんの言葉を出せる側の人間として、どこまでできるのか。本当に、読み返してみて、こんなに序盤から泣けてくる?って思うんですよ(笑)。もちろん、個人的な想いもあるからですけど。でもこの言葉が45年紡がれていて、今でもカッコいい。そうやって残っている、つかさんの言葉の凄さは感じています。何年経っても、カッコいいものはカッコいいんですよ。」

――演出の岡村俊一さんについてはどのような印象ですか?
味方「岡村さんって「惜しい」とか「良くなってきた」みたいなことをよくおっしゃるんです。普通の人じゃ分からないことかもしれないけど、でも明らかに良くなっているときに、決定的なワードはすぐ投げつけて来ないんです。でも、人を動かせるようなパワーがあるんですよね。そこはすごいなと思いますね。もちろん、いろいろなことを提示してくれるし、それでもうまくいかないときは、実際にシーンを作ってみて、演者が「ああこっちなんだ」って感覚で掴めるようにしてくれる。そういう部分は、岡村さんがこの作品を愛しているからこそだし、エネルギーを感じますね。」

――味方さんからみて、木村伝兵衛部長刑事はどのような男でしょうか。
味方「すべて、言葉のひとつひとつが魅力的なんですよ。圧倒的に自分の美学を持っている。こうでなければならない、こうであるべきだ、と。でも、それは自分でつかみ取らなきゃいけないんだぞ、分かるか?分からなければ時間をかけて説明してやろう、遠回りで。という感じですね。男としての美学がある。めんどくさいですけどね(笑)。本当にすごくめんどくさいのは確か。でもそこが魅力なんですよ。こんな男、実際にいたら嫌いになっちゃうのに、なぜかそっちに引っ張られてしまうよう。そんな、不思議な男ですね。僕は好きなんですけど。」

――彼を演じるために、常に意識していることはありますか?
味方「いつも堂々としていることですね。絶対に引かない。だから、みんながこっちを見ていたならば、僕自身がどんなに疲れていようともどんどん来い、といつも思っています。絶対、俺は引かないぞ、と。やっぱり、これだけの膨大な量で長い期間の舞台になるとどこかでバテしまう部分もあると思うんです。でもそうじゃなくて、ラストに向かってどんどん上がっていくぞ!という気持ちでいますね。」

――うかがっているだけで、かなり気力が必要な役のような気がします。気力を保つために、なにか実践されていることは?
味方「あんまり無いかも(笑)。喉に気を使ったりはするんですけど…お酒を飲むくらいですかね。やっぱり、稽古をしていく中で、自然にセリフが出てくるところまでもっていくから、本番になってから気力を保つために何かをするってことは基本的にないですね。稽古でやってきているはずだから。稽古、いっぱいするんですもん(笑)。あとは、本番での発見ですから。」

――本番の中でもいろいろな発見があるとおっしゃっていましたが、本番が始まって感覚が変わるようなことがあるんでしょうか?
味方「孤独になりますね。もちろん、たくさんの人に観ていただいているんですけど、ずっと独りだという感覚があります。それは、本番に入ってなお、感じるところですね。オープニングから、ずっと独りでいるんだな、というのは日に日に増していきました。でも、孤独だからこそ、婦人警官の水野に対しても、犯人の大山に対しても、熊田刑事に対しても、誰よりも愛を持っているんですよね。」

――最後に、今年の「熱海~」を楽しみにしていらっしゃるみなさんにメッセージをお願いします。
味方「前回ご覧いただいた方、45年間観てくださっている方、いろいろな方がいらっしゃると思います。そんな中で、これだけ面白くて、バラバラな(笑)メンツが揃ったことも無いと思うんですよね。それに、「熱海~」への愛も皆さんがそれぞれ持っていると思いますし、そこもクロスさせながらご覧いただきたいですね。そうすれば、この作品が45年も続く意味があるんだ、こいつらじゃなきゃできなかったなと思ってもらえるはず。とにかく、僕のことを観てもらえていらば大丈夫。ちゃんと、「熱海殺人事件」をお見せしますので!」

インタビュー・文/宮崎新之

【プロフィール】
味方良介
■ミカタ リョウスケ 1992年10月25日生まれ、東京都出身。2011年にミュージカルコンサート「恋するブロードウェイ♪」にてデビュー、翌年より「ミュージカル・テニスの王子様」を筆頭とし、「グランドホテル」「新幕末純情伝」などの話題作に出演するなど、俳優として精力的に活動を続けている。『ミュージカル「黒執事」-Tango on the Campania -』出演中。