荒井敦史、新内眞衣(乃木坂46)インタビュー「熱海殺人事件 ラストレジェンド~旋律のダブルスタンバイ~」

「熱海殺人事件 ラストレジェンド~旋律のダブルスタンバイ~」

1964年の開場以来、日本演劇の聖地として愛され続けている紀伊國屋ホールが、2021年に改装工事が行われることになった。その改装前の最後の作品となる「熱海殺人事件 ラストレジェンド~旋律のダブルスタンバイ~」が2021年1月14日より上演される。

紀伊國屋ホールの中でも最も上演回数が多い「熱海殺人事件」だが、今回はすべての役がダブルキャスト。味方良介、荒井敦史、愛原実花、新内眞衣、石田明、細貝圭、池岡亮介、松村龍之介という、個性的な面々が名を連ねる。今回は、荒井敦史と新内眞衣の2人に「熱海」に懸ける想いを聞いた。


――来年1月の「熱海殺人事件」に出演することが決まって、まずはどんなお気持ちでしたか

荒井 素直に嬉しかったですね。やっぱり、前回「改竄・熱海殺人事件」に出演させていただいた時に、新型コロナウイルスの影響をしっかり受けてしまいまして…。何とか、プロデューサーはじめ、たくさんのスタッフの方が奔走して15公演中11公演を上演することができましたが、途中で中止になってしまったことにやはり悔しい思いもありました。“見えない敵”なので、諦めきれると言えばそうなんですけど、あまりにも不完全燃焼だったので。それに、演出の岡村俊一さんには10代の時に初めて会って、「熱海殺人事件」に出会ってからはこの作品に憧れの気持ちもありました。なので、やっとこの作品に関われるんだ、と素直に嬉しい気持ちになりました。

新内 めちゃくちゃ恐怖でした。舞台自体が3年ぶりで、私以外のキャストの方は既に「熱海殺人事件」を経験されている方ばかり。その中に入っていかなければいけなくて、いろいろ考えてしまって。この間、乃木坂46の卒業メンバーの桜井玲香と話をしていたんですけど「絶対、初日から台本外してると思うから。その中で、自分がどう振る舞うかを読んでいかないといけないと思うけど、頑張って」なんて言われちゃって、もうどうしよう……っていう気持ちだったんです。でも決まった時は、こういうお話をいただけること自体はとても嬉しいことだし、ファンの皆さんやいろいろな方に新しい一面を見せられると思ったので、楽しみでもあります。乃木坂46のメンバーも「つかこうへいさんの舞台やるんだ!」「頑張って!」と言ってくれているので、稽古で心が折れないように頑張ります!


――「熱海殺人事件」は歴史ある作品ですが、どのようなイメージを持っていましたか

新内 もう、本当に俳優一本でやられてる方々が出演する舞台、っていうイメージですね。アイドルをやりながらそこに入っていけるのか不安もあります。
今日、荒井さんとも初めてお会いしたんですけど、普段の声から芯があって、ヤバい!って身が引き締まりました。でも、アイドルだからこそ、違う色が出せるかもしれないので、頑張りたいですね。ちゃんとしなきゃ、って思います。

荒井 いやいや、慢性鼻炎ですよ(笑)。でも、僕もガチガチの俳優さんがやるっていうイメージはありました。歴代のキャストも名だたる名優ばかりで、年齢が近いところの俳優も、ちょっと他とは違う個性のある人ばかり。ある程度、出来上がっている人じゃないとできないと思うんです。あと、岡村さんが育てている人をガッと集めて「お前ら、やれ!」ってやってるみたいな(笑)。つか作品であり岡村組、って感じですね。岡村さんはプロデューサーでもあるので、岡村さんのプロデュースで作品の価値のようなものが上がっているイメージです。だから、岡村さん演出であれば、誰が出ても絶対に損はしない。押し上げてくれるから。そう思っています。


――今回のはすべての役がダブルキャストとなっています。共演の方々についてはどういう印象ですか

新内 本当に会ったことの無い方ばかりで、私の役のダブルキャストになっている愛原実花さんにも撮影の時にすれ違っただけなんです。でも、いらっしゃるだけで現場が華やかでしたし、そんな方とご一緒できるのってとても嬉しいこと。私とは違う世界で生きてこられた方なので、たくさん吸収しようと思っています。本当にどのキャストの方も先輩なので、先輩方に小学校1年生くらいの私を高校生くらいまでには引き上げていただきたいな。学びたいです。

荒井 稽古に行ってみたら分かると思うけど、小学校1年生みたいなのがワーワー言っている感じだよ? 岡村先生に(笑)

新内 そうだとしたら、安心です(笑)。コミュニケーションは積極的にしていきたいですね

荒井 僕は何作か一緒にやっている人もいれば、初めての方もいますけど、なんだかんだでみなさん岡村さんの色に染まっていくんですよ。僕、実は勝手に岡村組の稽古場を見に行ってたりしていて、ただ見学に行ってるだけなのにたまに代役をやっていたりするんですけど(笑)。その時に思うのは、あんまり初めての方が入っても不思議な雰囲気になることって無いんですよね。だから、あんまり気負わずにご一緒できるんじゃないかな、と思っています。


――今回は、誰がどの役をやるのかわからず、何人出るのかも分からない「バトルロイヤル公演」や、飛び入りキャストの可能性もある「チャレンジ公演」などもあるそうですね。

荒井 それは岡村さんの悪ふざけです(笑)。想像でしかないけど、本当に、観に来た俳優とかを舞台上に上げちゃうみたいな感じかもしれないし。本当に状況によっては、新内さんが伝兵衛をやるかもしれないし、僕が水野をやるかもしれないし。それって作品として成り立つのかなと心配には思いますね(笑)。

新内 私は、まだ事の重大さに気付いていないです(笑)。でも、荒井さんみたいな経験豊富な俳優さんが戸惑っているくらいなので、とんでもないイベントなんだろうな、と……。事の重大さに今、気付きました。

荒井 つかさんの作品で、終演後によく「予告編」を岡村さんが作ってきてやるんですけど。例えば、上演したのは「熱海殺人事件」だけど、つかさんの他の作品のセリフを連続でいろんな人が入れ替わりでやっていくみたいな感じなんですよ。歴代でやってきた人が貧血で倒れそうになるような地獄のセリフとかがあるんですけど(笑)、それをちょびっとやるとか。しかもそれが、前日に配られるんです。で、当日の朝に早めに入って、場当たりをやるんですけど、それまでにセリフを入れておかないといけない。始まっちゃったらもう、逃げられない(笑)。それの、もっとヤバいバージョンですね、きっと。底力です。

新内 できるのかな……頑張ります。

荒井 偉そうに言ってるけど、俺もできないからね(笑)。俺も頑張ります!


――荒井さんは木村伝兵衛部長刑事、新内さんは婦人警官水野朋子を演じられます。それぞれどのようなキャラクターだと思っていらっしゃいますか。

荒井 僕も熱海はたくさん観させてもらっていて、「改竄・熱海殺人事件」で実際に伝兵衛を演じさせてもらったんですが…あんまりわかんなかったですね(笑)。伝兵衛はこういう人間だから、とあまり作り込まずにやっていたんです。その場、その場で、結局何が言いたいのか、誰に向かって話しているのかだけを考えていました。だから、伝兵衛がどういう人間か、言葉で説明できないというか。必死だったんですよね。一生懸命やるしかできないんですよ。今回こそは、伝兵衛がどういう人間か語れるようになりたいですね。

新内 私は、かわいらしい女性なのかな、と思っています。役柄的にも私の年齢がちょうどいいみたいなんですよ。お嫁に行くのか、婦人警官を続けていくのかを悩んでいて、本当は部長に引き留めてほしいけど素直になれない。そういう経験をしている人ってたくさんいると思うし、等身大の自分で向かっていきたいですね。似ているところってどこだろう?って考えてみたんですけど、やっぱり素直になれないところかな、と思ったので、そういういじらしさをうまく表現できたらいいな。私、結構なんでも平気なフリをしちゃうんですよ。グループで居ると、何か起こった時に、私以外の子を気にして自分の気持ちを押し殺したりすることもあるんです。うまく消化もできるんで、すぐ忘れますけど(笑)


――なぜ水野役に抜擢されたと自分では思いますか?

新内 どうだろう? 結構、普段からふざけるタイプなので、そこかな? 水野さんも結構、茶々を入れるタイプじゃないですか。私もそいう、おふざけタイプだからだと思います(笑)


――今回は紀伊國屋ホールで改装前に上演される最後の作品となっています。歴史あるホールの節目の作品となることには何か思いはありますか

荒井 光栄以外の何物でもないですね。いわゆるこけら落とし公演とか、あるじゃないですか。言わば、それと同じようなこと。紀伊國屋ホールで改装前に最後にやった作品って何だろう、って何十年か後に調べる人が居たら、名前が残っているわけです。いろんな人の血や汗、涙がしみ込んだ劇場に、僕らが最後に上書き保存して去る。先輩方が「俺らはあの劇場でやってきたんだよ」って言ったとしても、「最後を締めたのは俺らなんで」って言える(笑)。そこだけは強気で、自信を持ってやりたいですね。

新内 舞台経験豊富な乃木坂46のメンバーが「紀伊國屋ホールに立ちたかった」って言ってたんですよ。そういう場所に立たせてもらえるんだから、やっぱり責任と覚悟は必要だな、と思っています。いろんな人が踏んできた舞台だからこそ、そこに自分が立てることに、ちょっとだけ自分をほめてあげたいです。ちゃんと自分をほめられるような作品に仕上げたいですね。


――本作を生んだつかこうへいさんについてはどのようなイメージをお持ちですか

新内 テレビとか聞いたお話のイメージしかないんですけど……すごく怖い方なんですよね? とても有名な方ですし、みなさんからの期待値も高いと思うんです。つかさんの作品というだけでも、ハードルが一番高いところから始めなきゃいけない。それを超えなきゃいけないので、死ぬ気でやらないとな、と思っています。

荒井 もちろん僕もつかさんにお会いしたことは無いですし、僕に近い人だと馬場徹さんが最後の愛弟子と言われているんですけど、そういう人たちから間接的につかさんのイズムのようなものを感じながらやってきました。つかさんのところでお芝居をしていた人たちから、いっぱいいろんな武勇伝を聞くんですけど、厳しさの中に絶対に愛があった人なんだろうな、って思いますね。出来なきゃ外される、みたいなこともあったと思うんですけど、その中に愛があって、人を育てるということをちゃんとやっていた人なんだろうな。ちゃんとしたサバイバル感もありつつ、教えてくれるところは教えてくれる。役者って、輪になっちゃいけないところもあって、やっぱりライバルなんです。でも輪にならなきゃいけない瞬間もあったりして。その塩梅がちょうどいい方だったんだと思います。


――そんなつかさんの意思を引き継ぐ、演出の岡村俊一さんの印象もお聞かせください

荒井 もう、岡村さんに言われたら「はい」としか言えない(笑)。僕はそれくらい、信頼があります。ちょっと羨ましいな、って思うんですよね。役者だけをやっている人じゃなくて、アイドルの方、アーティストの方、いろんな方がいますけど、岡村さんの作品に出たら絶対に失敗しないですから。ちゃんとそこまで上げてくれるんです。……俺も上げてほしい(笑)。だから僕、ずっと岡村さんに「熱海に出してください」しつこく言っていたんですよ。やっと、なんです。

新内 私は演技経験も少ないうえ、すごく久しぶりの舞台でほぼ更地の状態からなので(笑)。だから、今の荒井さんのお話を聞いて安心した部分もあるんですけど、これからどれだけしごかれるんだろうな、という怖さも出て来ました(笑)。でも、必死に食らいついていきます!


――気合十分、といった感じですね。最後に、公演に向けた意気込みをお聞かせください。

新内 結構怖がりで、セリフが飛んじゃうんじゃないかとか、うまくタイミングがいかないんじゃないかとか、いろいろ考えてしまっているんです。けど、せっかく3年ぶりにこういうお話を頂いたし、今私ができる全部を出し切るつもりなので、ぜひ観に来ていただけたら嬉しいです。20代最後の年になるので、この作品を終えたら、一皮剥けていたらいいな。

荒井 本当に、精一杯頑張りたいと思っています。2020年は、いろいろなことがあって世の中もおかしくなってしまいましたが、その分エネルギーを溜めたと思っているので、新年1発目はいい意味でエネルギーを出せるように。ガス欠することなく、突っ走れたらと思います。実は、「改竄~」の時、緞帳が上がった瞬間も足が震えていましたからね(笑)。初めて舞台上で緊張して震えました。自分でハードルを上げちゃったところもあるんですけど、今回はさらにそのハードルを上げているんで。プレッシャーに押しつぶされること無く、何よりも、舞台上で僕たちが楽しむことが一番だと思うので、仲間を信頼して死ぬ気で頑張ります!

取材・文/宮崎新之