太宰治が戯曲形式の小説として残した作品を、五戸真理枝が戯曲化した『新ハムレット～太宰治、シェイクスピアを乗っとる！？～』が６月に上演される。本作は、シェイクスピアの四大悲劇の一つに数えられる『ハムレット』を太宰治が語り直した戯曲形式の小説を、五戸真理枝が戯曲化したもの。主演のハムレットを木村達成が演じ、日本人も共感できる“新しい”ハムレットを作り上げる。ハムレットを慕うオフヰリアを演じる島崎遥香と、ハムレットの学友ホレーショー役の加藤諒に本作に懸ける思いを聞いた。

――シェイクスピアの『ハムレット』という作品にはどんな印象をお持ちでしたか？　また、今回の太宰版を読んで、どんな感想を持ちましたか？

島崎　『ハムレット』というと、悲劇的な復讐劇で、恐ろしく強烈な作品というイメージがあったのですが、太宰治さんが書いた『新ハムレット』は、ユーモアに溢れていて、どこにでもいそうな家族の問題が描かれていると思えるほど読みやすくて、初心者の方にも楽しんでいただける作品になるのではないかと思いました。

加藤　シェイクスピアの『ハムレット』よりも、言い回しも分かりやすいので、難しいのかなと不安になっている方にも観やすい作品になると思います。僕は静岡に住んでいた高校時代、東京までワークショップを受けに来ていたのですが、その時に『ハムレット』を使ってお芝居のディレクションを受けたことがありました。当時はすごく難しい作品だという印象がありましたが、太宰版はより人間味を感じるように思います。

――それぞれが演じる役柄について教えてください。今は、どんなところを意識して演じたいと考えていますか？

島崎　稽古が始まらないと分からないところはありますが、オフヰリアはまだ若いんですよ。なので、幼さを出していきたいと思っています。それから、父親のポローニヤスのセリフの中で“父の教え”を説くシーンがすごく好きなので、ポローニヤスとのシーンは楽しいだろうなと思います。

加藤　ポローニヤスは（池田）成志さんだもんね。この作品は、そうした親子愛だけでなく、色々な愛が描かれているよね。

島崎　家族愛もあるし、友情もあるし…。オフヰリアは、王妃を慕っていると言っていますが、そこにも尊敬以上の気持ちがあるように感じるので、そうしたところもきちんと読み解いていかないといけないなと思います。

加藤　そうした多様性のある愛情の匂いがあるよね。

島崎　そう。だから、今の時代にあっているのかなと思います。

加藤　噂話がこじれていくというのもSNSに通じるものを感じて、現代にもあっていると思うので、そういうところまで表現したいですね。

島崎　何十年も前に作られた話なのに、今、生きている私たちも同じ悩みを持つというのは、ある意味、勇気付けられるところがありますよね。答えが出ない悩みってどんな時代もあるんだなと。昔から、そしてきっと未来の人たちも、同じことに悩んで苦しみ続けるんだと思ったら、今の自分がちっぽけに思えて、明るく生きようと思えました。

――加藤さんは、ホレーショーについては、どんな人物だと考えていますか？

加藤　ハムレットの良き親友で、ピュアでストレートにものを言える人だと思います。ハムレットに変わらずにものが言えるのは、やはり親友だからで、彼の心の支えになっているからなのかなと。ホレーショーは、ハムレットのことが大好きですが、僕もたっちゃん（ハムレットを演じる木村達成）とは以前に共演していて大好きなので、そこは共通点です。そうした僕たちの関係性も作品に投影できたらいいなと思います。

――ところで、お二人は、これまで共演経験はあるのですか？

加藤　今回で共演は５作目です。

島崎　バラエティもたくさん一緒に出てるよね。

加藤　出ました！　僕が最初にこの作品のお話をいただいたときには、まだぱるさん（島崎）とたっちゃんの名前が入っていなかったので、成志さんや平田（満）さん、松下由樹さんといった方々の名前を見て、自分大丈夫かなってドキドキで緊張していたのですが、ぱるさんとたっちゃんが出演すると聞いて、「心の拠りどころになる！」と思いました。

島崎　嬉しい！　私も（加藤さんが出演すると知って）大丈夫って思いました。

――島崎さんは、主演の木村さんとは初共演ですよね？

島崎　そうです。ビジュアル撮影の時に少しだけご一緒しましたが、とても明るい方だなと感じました。

――お二人は、映像作品でも活躍されていますが、舞台でのお芝居についてはどうとらえていますか？

島崎　舞台という意味では、アイドルの時からずっとステージに立って踊っていたので、それが芝居に変わると考えたら気持ちは楽になるのですが…（笑）。でも、そうは思えなくて…一生懸命、自分にそう言い聞かせているところです（笑）。稽古が始まらないと何とも言えないですが、自分にとっては新たな挑戦になるので、とてもいい機会をいただけたと思っています。

加藤　僕は昔から、舞台に立ててこそ本当の俳優だと思っていた人間なので、すごく神聖なものだと考えています。特に、シェイクスピアの作品は、役者としてはやってみたい演目。僕は、2020年に（シルヴィウ）プルカレーテさんが演出した『真夏の夜の夢』に出演させていただいたのですが、その時も絶対に出たいという思いでオーディションを受けて出演できました。今回も、特別な思いがありますし、参加させていただけて本当に光栄に思っています。

――今作に出演することで、どんな挑戦が待っていると思いますか？

島崎　私は、これまで舞台にほとんど出演したことがないので、どんな挑戦なのかも分からないくらいで…。未知だからこそ、飛び込んでしまおうと勢いで挑んだ方が良いのかなと今は思っています。

加藤　僕は、長台詞が苦手なんですよ。今回は、長台詞のオンパレードなので、そこは乗り越えなきゃなと。

島崎　もしも、舞台でセリフが飛んじゃったらどうするの？

加藤　みんなで支え合うしかないよね。以前に出演した舞台『パタリロ』でセリフが飛んじゃったことがあって、その時は作風もあったけど、「もう一度言ってもいい？」ってみんなに聞いて、最初からやったことがあるよ（笑）。

島崎　でも、この作品はそんな雰囲気じゃなさそうだから、どうしたらいいんだろう。

加藤　だから、相手のセリフも覚えておいた方がいいと僕は思ってる。そうしたら、セリフも聞き取りながら演じられるから。長台詞をきちんと聴かせる役者さんはすてきだと思うので、それは今回の自分の課題であり、何か掴めたらいいなと思っています。

――島崎さんの今作での目標は？

島崎　オフヰリアは、強かさも持っていて、嘘を言っているのか本当のことを言っているのか分からないように見える瞬間があるんです。それでいて、時には人の心を突くような言葉も言う。そのポイントを今回は、自分でつかんでいけたらいいなと思っています。

――加藤さんが稽古場でいつもしていることや、稽古場での過ごし方など、舞台にあまり慣れていない島崎さんにアドバイスをするとしたら、どんなアドバイスを送りますか？

加藤　これはもちろん、世の中の状況にもよると思いますが、みんなでご飯を食べに行くとカンパニーの絆が深まると僕は思います。舞台の醍醐味はそうやって絆を深めることにあると思うので、状況が許すならば、ご飯を食べに行ったり、飲みに行ったりできたらいいなと思います。あとは、僕は稽古が始まって１週間くらいは、家から稽古場まで歩くようにしています。歩きながらセリフを覚えたり、稽古場であったことをおさらいして、家に帰ったらお芝居のことは考えない。そうするとリフレッシュできるので、家には持ち帰らないようにしてます。

島崎　私は、逆に、ドラマの撮影の時とかは、一回、家に帰らないとできない人なんです。家に帰って、鉛筆と消しゴム持って整理しないとできない人。

加藤　そうなんだ！　僕は家にいるとリラックスしちゃう。最近は、ゲームを買っちゃったから、ゲームしちゃう（笑）。

島崎　でも、そういう切り替えは大事ですよね。

加藤　そう。だから、難解な台本と向き合う時も、喫茶店に行って台本作りをしてますね。

島崎　台本作りって何ですか？

加藤　読めない漢字を調べたり、意味がわからない言葉を事前に調べたり。あとは、台本を読んでこの解釈であっているのかなと疑問に思うところを書き出しておいて、演出家さんに相談する時のための準備をしておくという感じです。今回は、その準備にも時間がかかるんじゃないかなと思っています。でも、稽古が始まったらもっとフル回転だと思うので始まる前にやっておきたいと思っています。

島崎　お話を聞いていて、今、やっとイメージ湧いてきました。皆さんに教えていただきながら、一生懸命、稽古に挑んでいきたいと思います！

取材・文：嶋田真己