a new musical『ヴァグラント』│新藤晴一×平間壮一×廣野凌大 インタビュー

ポルノグラフィティのギタリスト新藤晴一が初めて手掛けたオリジナルミュージカル、a new musical『ヴァグラント』が8月に東京・明治座、9月に大阪・新歌舞伎座にて上演される。吉凶があった場所に出向き、歌や踊りを披露する“マレビト”と呼ばれる芸能の民のひとり・佐之助が、好奇心から禁忌を破り“ヒト”と交流する中で、多くの人々を巻き込んだ騒動が展開していくというこの物語。主人公の佐之助を、平間壮一と廣野凌大の2人がWキャストで演じる。2人はどのように作品に挑むのか、そして新藤はなぜミュージカルを手掛けることになったのか、話を聞いた。

――今回、新藤さんは初めてミュージカルをプロデュースされることになりました。なぜミュージカルを作ってみようと思われたんでしょうか?

新藤 ずっとエンターテインメントの世界で生きてきて、音楽はもちろん好きだったので、ミュージカルも好きだったんです。自分の中では、そこにあまり区別はなかったんですけど、それでもミュージカルを作れるとは思っていませんでした。でも、考えてみたら曲も作れるし、歌詞も書ける。物語も…まぁ簡単ではないですけど、作れる環境があって。なら、作ってやろうというのがきっかけです。森雪之丞さんにそれをお話したときに「一幕だけ書いてみて、それを誰かに見せてみれば?」とアドバイスをいただいて、書いたものを見せていったら、あとはもう、どんどんと周りの人が前に推し進めていってくれたような印象ですね。それでも、簡単ではなかったですけど。でも、そこはバンドも一緒ですよね。聴くのは好きだったけど、自分がデビューできるとは思っていなかったし。小説も、歌詞を書けるなら小説も書けるかな、と思って書き始めて、大変だったけど書くことができたから。

――いろいろなエンターテインメントがある中で、ミュージカルに関してはどのような印象をお持ちですか?

新藤 ミュージカルは、2時間とか2時間半とか、本当に違う世界に連れて行ってくれるというイメージがすごく強いんです。エンターテインメントとして、いろいろなものを垣根なく好きだと感じているんですが、ストレートプレイよりもミュージカルを特別に感じているのは、そういうところだと思います。小説と音楽、ミュージカル。この3つが、自分の中ではエンターテインメントの中でも少し特別ですね。

――主人公・佐之助を演じられるお2人は、本作に参加されるにあたってどんなお気持ちでいらっしゃいますか?

平間 僕にとって晴一さんは事務所の先輩。自分はもともと役者を目指して事務所に入ったわけじゃなくて、最初は音楽班にいました。そこでダンスだけをやっていて、なんかいい人がいたらユニットとかデビューを目指そう、っていう時にポルノグラフィティさんのライブを見に行かせていただいたんです。ステージ上にいた大先輩と、今は一緒に仕事ができるんだと思うと、本当に嬉しいです。これまで舞台を何度かやらせていただいているので、先輩の力を借りるだけではなく、自分も培ってきたもので返していきたいですね。そして、同じ事務所だからとかではなく1人の役者として見てもらえるように頑張りたいと思います。

廣野 実は僕も、もともとは音楽をやりたくて、この世界に入ってきました。今もラップとか作詞作曲は続けています。そういう自分からすると本当にレジェンドなんですよ、ポルノグラフィティさんって。だから、最初にお話を頂いたときは間違えてオファーが来たんじゃないかと思いました(笑)。それに、今年3月に舞台『鋼の錬金術師』で主演を務めさせていただいたんですが、アニメ「鋼の錬金術師」の主題歌と言えば、ポルノグラフィティさんの「メリッサ」じゃないですか。そういう意味で、今年はそういう縁があるのかなと感じています。この船に乗ったからには、若手ではありますけども舐められないように、というか…プロとして評価してもらえるように。船に乗せていただいて、主演座長という役割を頂いたからには、男を通したいと思います!

新藤 ビジュアル撮影の時にね、僕は裏方として入っていたんですけど、廣野くんが入ってきたときに「佐之助が来た」っていう感じがしたんだよね。主役が来たぞ、っていう。舐められねぇぞ、っていう感じなのか、これから名を上げていくぞ、っていう感じなのか…こう、圧が凄くてね。ちょっとヘラヘラしていた自分を奮い立たせてくれて、こうやってグイグイと行かなきゃな、みたいな気持ちをすごく感じさせてもらったんだよね。平間くんはね、僕も芝居を見に行ったことがあるし、実績があるんでね。こっちもやっぱり佐之助だって思ったんですけど、これまで背負ってきているものもあるから、そういう勢いと野心みたいな「やってやるぞ」っていう気持ちを感じました。これまではエキセントリックな役とかミステリアスな役も多かったりで、平間くん自身がそういうキャラなのか、役の上で作っているのかまではわからないけど…そういう平間くんが佐之助をやったらどうなるのか、すごく興味深いですね。

――佐之助という役どころについては、現時点ではどのようにとらえていらっしゃいますか?

平間 自分としては自覚はないんですけど…僕のことを良く知ってくださっている方からすると、すごく佐之助っぽいらしいんですよ。スンとしているときもあれば、いきなり爆発したかのように楽しくなったり、怒りに駆られたり。自分でも感情のコントロールが難しい瞬間ってあるので、そういう部分や、日々思うことなんかがしっかり佐之助とリンクしていくといいなって思っています。でも、そういう部分は廣野くんからも出会ったときに感じたんですよね。

廣野 確かに同じようなところはあるかも。なんか、ろうそくみたいに揺れ動いているような感じというか。そういう揺らぎって、見ていられなくなる人も多い中で、芸能っていう世界に入ってしまうと、そこが見ていられるようになるんですよね。パンク精神みたいなところは、やっぱり自分でも感じます。さっきルーツの話がありましたけど、最初は役者じゃなくダンサーとして…っていう話を聞いて、そういうところも似ていると思いました。俺も役者をやるつもりはなかったけど、役者の仕事に携わらせてもらってそこに属したときに、役者を目指していたやつにも負けたくない。それが責任感というか、表舞台に立つ人へのリスペクトなんですけど、その“負けらんない”っていう気持ちを感じましたね。絶対に2人とも違う佐之助になるはずだと思うけど、ダブルキャストとして2人で佐之助という役を作っていけたらと思います。

平間 面白いですよね。晴一さんは1人のキャラクターとして書いているはずなのに、2人が演じたら、2人の佐之助が生まれるって。

新藤 佐之助は人という社会の中で“人とは何か”を探す人。それがダブルキャストっていうことで、2人の振れ幅が全然違うものになると思うんだよね。そこに加えて、トキ子(小南満佑子、山口乃々華)もWキャストで、2×2の物語ができると思うと、また別の見栄えになる。僕は佐之助というキャラクターを作っているときから知っているわけで、だからすごく興味深いよね。

――新藤さんとしては、佐之助はどのような人物として描いたんでしょうか?

新藤 佐之助はもともと、もっとイノセントなキャラクターだったんですよ。もうちょっと無口で、人の行動を上から見ているような感じだったんですけど、話を詰めていく段階でもっと行動的に怒っていくような感じに変化していったんです。そうやってキャラクターが変化していって、キャスティングまで決まった時に、何かすごく納得感があったんですよね。きっと2人とも、どんなキャラクターも演じられるし、オールマイティだと思うんだけど…こっちの佐之助か、というか。生まれたばかりの佐之助を見ているような感覚です。

――佐之助という同じ役を演じられる2人は、お互いの印象はいかがでしたか?

平間 出会った瞬間から普通の役者さんとは違うな、って思いました。同世代の役者の中だと、とにかく“役になれればいい”と思っていて、本人ですら他の人がやっても変わらないって思ってしまっているように感じることがあって。他にやりたいことはあったけれど、芝居にも魅力を感じていて、ある種そこを逃げ道みたいにしていたりとか。でもそう捉えるんじゃなくて、こっちにも命をかけているんだぞっていう根っこが足りない感じがするんですよ。でも廣野くんからはそういうのを一切感じなかったんです。それは、初めましての時からそう思いました。

廣野 なんていうかチヤホヤされていることを受け入れてしまうのは、嫌ですよね(笑)。自分の中で1つ芯になるものをもっておかないと、足元をすくわれた時に誰も助けてくれない気がするんです。それに生き方としてカッコ悪いですし。やっぱ、先祖に恥じないように生きたいとは思っています。

平間 SNSを見ていても、尊敬できる子だって思いました。ハチャメチャなところがあるとしても、それが俺だ、って自己表現していることが、自分の役者として足りていなかったような気持ちにもなって。そこを表現してくれていると思いましたね。

廣野 そんな風に見てくださって、めちゃくちゃ嬉しいです。やっぱり熱量があるかどうかって、わかるじゃないですか。そこは平間さんはイケイケだ!と思って。ロックを感じますよ。晴一さんもそうだから、やっぱり楽曲も楽しい。それはミュージカルの楽曲とかでも、熱量があるかどうかって歌う側が感じるところだと思うんです。しかも日本語の美しい詩で、難しい言葉を使っていても情景が思い浮かぶってものすごいことだと思うんですよね。だから、早くやりたいし、早く稽古に入らないかなって思っています。

――ミュージカルの楽曲については、どのようにつくりあげていったんでしょうか?

新藤 最初は、どの場面とかも意識せずに5曲くらい書きました。俺が聴きたいミュージカル楽曲ってこういうもの、っていうのを書いたんですけど、そしたら「もっと晴一さんっぽい曲も聴きたいです」って言われたんですよ。要するに自分の憧れだけでやっていてもダメで、もちろん最初の曲の中に僕がすごい気に入っている曲もあるんだけど、もっと俺の血が通った曲のほうがいいんだろうな、っていうことだよね。そういう意味では、何かを意識するというよりも、自分が作る曲、っていうのを素直に出していったところはありますね。だから、今回使わなかった曲はポルノでやろうかな、とか。逆にポルノで使わなかった曲をこっそりこっちで使ってるとかもあるし、そのあたりはボーダーレス。もちろん、すべて今回のミュージカルのために用意した曲だし、ミュージカルのメンバーに歌ってもらった方が良かったとも感じています。

――制作の中で大変だったところや楽しかったところは?

新藤 脚本・演出の板垣恭一さんとのキャッチボールの中で変化していったこともたくさんありますね。曲に対して、板垣さんはこういう雰囲気の歌詞を書いてほしい、みたいな話があったときも、その世界観に合わせて歌詞を書いていくとキャラクターの性格にも変化が出てきたりとか。曲に合わせて歌詞を書いたら、佐之助はきっとこういうことを言わないんじゃないか、と思ったところも、板垣さんは面白がってくれて佐之助というキャラクターも変化しました。そうやって、板垣さんとのセッションで出来上がっていった部分はありますね。すごく面白い作業でした。

――最後に、今回のプロジェクトの中で一番ワクワクしていることを聞かせてください

平間 佐之助の役としての設定を見たときに、その設定がすごく自分たちにぴったりだよ、って言ってもらえて。なんか、自分が日々思っていることを舞台上で表現できるかもしれない、って思えて、そこはすごくワクワクしましたね。今までは、役になりにいくというより、役に寄せていく作り方が多かったんですけど、佐之助は今の自分をうまく乗せられるんじゃないかと思っています。

廣野 キャストを見た瞬間に、もうワクワクしましたよ。こんなスゴイ人たちと一緒にやれるわけだし、みなさんからいろんなものを盗もうと思っています。なんていうか、幼稚園のお遊戯会とか、路上のミュージシャンとか、拙くてもなんか見れてしまうのって、やっぱり今そこで等身大に生きているからなんですよ。その感じを、ちゃんと取り入れたいなっていう気持ちはずっとある。その瞬間を生きている佐之助にしていきたいですね。

新藤 俺はね、もうずっとワクワクしてる。今もワクワクしているから、どの瞬間かってピックアップできない。大変だけど、ミュージカルを作ることってこんなにも面白いんだって感じているし、こんなに面白いことをさせてもらえるのは、本当にありがたいことだと思っています。これは、プレイヤー側じゃなくて、クリエイター側をしっかりとやらせてもらえているから、これだけの面白さを感じられるんだと思いますね。本当にミュージカルってなんでもアリなんですよ。歌もそうだけど、30分お芝居にしてもいいし、踊りも入ってくるし。エンターテインメントのフルスペックですよね。歌がメインの場合だと、ダンスが邪魔になってしまうとか、歌以外の要素が邪魔になってしまうことがあるんですよ。でも、ミュージカルだと全部がメインになるんです。…昔、事務所の人に、今頑張ってたらそのうち好きなことができる、みたいなことを言われたことがあったんですよ。あれ、嘘じゃなかったなぁって思いますね。

廣野 少しわかる気がします。正直、役者をやれって言われてから1~2年は辛かったんです。でも、今はやれてよかったと思っています。エンタメに関わる人たちって、一癖も二癖もあるんですけど、あくまで人を喜ばせたいという人たちがたくさんいて、そういう人たちを僕は今、いとおしくてたまらないんです。僕も、その一部として、新しい風を吹かせられたらと思います。

平間 役者の先輩で、事務所に岸谷五朗さんがいるんですけど、五朗さんから「表現力を伸ばしたいなら、ダンスだけをやっていても、ダンスはうまくならないぞ。歌はダンスと関係ないって思うかもしれないけど繋がっているし、芝居をやれば全部が繋がっている」って言っていただいたことがあって。それの全部が詰まっているのがミュージカルですよね。自分のやりたかったことじゃなくても、捉え方とかが変わって、無駄なことなんてないんだと教えてくれたのがミュージカルでした。そのミュージカルの世界に晴一さんが踏み込んでくれた。やっぱり、やってきたことに無駄なんてないんだな、って思います。

――公演を楽しみにしています! 本日はありがとうございました!

取材・文/宮崎新之