©️Jun Wajda
ブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』が2023年7月5日(水)より東京・渋谷の東急シアターオーブにて開幕。先駆けてプレスコールが行われ、「Tonight」「America」「Cool」の3曲が披露された。
「ウエスト・サイド・ストーリー」は1957年にブロードウェイで初演、その後1961年には映画化され、世界中の人々を魅了した。2021年にはスティーブン・スピルバーグ監督によって2度目の映画化を果たし、大きな話題を呼んだ。レナード・バーンスタインによる名曲の数々とジェローム・ロビンスによるダイナミックなオリジナル振付は観客の心を惹きつけてやまず、移民による人種抗争や貧富の格差などの社会問題に切り込みつつも、シェイクスピアの悲劇「ロミオとジュリエット」に着想を得た燃え上がるような恋に落ちる2人のロマンスが描かれており、時代を超えて人々を魅了する物語となっている。今回の来日公演は、スピルバーグ監督による映画の大ヒットを受けて誕生した新プロダクションで、演出をロニー・プライス、振付をフリオ・モンヘが手掛ける。
最初に披露されたのは、恋に落ちたトニーとマリアがバルコニーで逢瀬を楽しみながら歌う「Tonight」。トニーを演じるジェイソン・ウェブスターは伸びやかなハイトーンを響かせ、マリアへのあふれる想いをメロディに乗せる。マリア役のメラニー・シエラは美しいソプラノで軽やかに歌いあげ、高まる恋心を愛らしくも力強く表現していた。狭いバルコニーで何度も交錯する視線や徐々に近づいていく2人の距離感は、まさに恋に落ちた若者ならではの甘く愛おしい時間。バルコニーを降りて帰ろうとするトニーを何度も呼び止めるマリア…この時間を名残惜しむような、そして未来を予感させる寂しさも感じられるような2人のやりとりには、きっと誰もが胸をときめかせてしまうのではないだろうか。
続いて披露された「America」は、プエルトリコから移住してきた女性たちが、自由の国アメリカでの暮らしこそが最高だと言い放つ、パワフルなナンバー。故郷プエルトリコにいつか帰りたいと話すマリアの兄に対し、アメリカでの暮らしの華やかさを女性らが男性らをからかうように歌い踊り、蛍光色を思わせるオレンジやピンクの衣装が女性らの力強さをより引き立てる。ただ彼女らは自由を謳歌しているようで、壁の広告などは白人向けのものばかりで移民の自分たちは相手にもされておらず、移民の厳しさも匂わせる。このパワフルさはそんなアメリカの不平等な厳しさをはじき返しているからこそという、社会風刺を効かせた場面となっている。
最後のナンバー「Cool」は、リーダーを殺されて怒りに震える若者たちをクールダウンさせるように忠告する場面。緊張感のある不穏なメロディは、まさに怒りが臨界点に達し暴走するギリギリのところといった印象で、指をはじきながら大きくダイナミックに、そして時折声を上げながらの群舞からは、冷静になろうとしながらも、彼らの抑えきれない興奮が伝わってくるようだ。
映画のリメイクにより、何度も繰り返し楽しんでいる人はもちろん、物語を知らなかった世代にもこの作品の色褪せない魅力が広がっているが、生オーケストラの音楽や、役者の歌声、その息遣い、舞踏の躍動感を体感できるのは、やはり劇場空間ならでは。ミュージカルの金字塔と呼ばれる所以を、ぜひ劇場で感じてほしい。
プレスコール後、トニー役のウェブスターとマリア役のシエラがコメント取材に応じた。トニーは「渋谷のど真ん中にある劇場なので、どこを歩いていても刺激的。何に出くわすのか、いつも楽しみに歩いています」と、日本の滞在を楽しんでいる様子。シエラは「日本に来るのは夢だったので、来ることができて本当に嬉しい。『ウエスト・サイド・ストーリー』の大きな広告も渋谷の交差点にあって、すごく嬉しかったです」と、笑顔をみせた。
作品について話がおよぶと、トニーは「オリジナルのストーリーラインをキープしながらも、映画のカラフルな新演出も反映されていると思います。それぞれの人の苦悩が、ダンスやセリフできちんと表現されているところが素敵ですね」とコメント。シエラは「私自身もプエルトリコにルーツがあるので、2つの文化がぶつかりながらもやがて理解し合う部分には感動を覚えますね」と語った。
ブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』は2023年7月23日(日)まで東京・東急シアターオーブ、7月31日(月)から8月2日(水)まで群馬・高崎芸術劇場、8月5日(土)・6日(日)に大阪・オリックス劇場にて上演される。
取材・文:宮崎新之