「3年後にまた会おう」の誓いを実現してテアトロコントに初登場! 劇団「ありよりのあり」

2月のテアトロコントに出演する劇団「ありよりのあり」。大学の同級生である女性3人によって結成され、旗揚げ公演から高い評判を獲得。2019年には東京学生演劇祭の観客賞を受賞。2020年に配信で作品を発表して以来沈黙していた彼女たちは昨年夏、3年ぶりの舞台「見えない花火」を上演した。日常の些細なやりとりの中に漂うユーモアとちいさな喜びを描くこの劇団について、メンバーの誉、長谷川きなり、九条みゆに話を聞いた。

1本も書かないうちに作演に指名されて

──まずは「ありよりのあり」の結成の経緯から教えてください。
長谷川 3人とも同じ明治大学演劇研究部というサークルに所属していたんですけど、私とみゆさんが大学2年生の春だったっけ?
九条 うん、春。
長谷川 学食のカレーを食べながら、一緒になんかやりたいね、と話して。周りの先輩方が劇団を作っている姿にあこがれて、「劇団作っちゃう?」ということで始めたんです。
九条 女子高生っぽい名前がいいなと思って二人で相談して、劇団名も「ありよりのあり」に決めて。
長谷川 私は制作と出演、みゆさんは出演専門だったので、脚本と演出を誰にお願いしようかなと思ったとき、当時サークルで頭角を現していた誉さんが浮かんで。

──頭角を現す?
長谷川 やることなすこと面白いし、一発ギャグも強いし。
九条 私は誉さんが役者をやっている姿を見て「こんな演技をする人がいるんだ」と衝撃を受けていたんですよ。中学高校と演劇をやっていたけど、そこで出会ったのとはぜんぜん違うリアルさがあって。自然なだけじゃなくて、惹きつけられた。だから「この人とだったら面白いことが絶対できる」と。
長谷川 サークルの時に見せてくれたショートコントもすごくて、この人はなにか溜め込んでいるものがあるんだろうなと思って。お願いしてみたら即答でOKをくれました。
 まだ役者しかやっていなかったのに、作演出として声をかけてくれて驚きました。でも物語を考えるのはずっと好きだったので、チャレンジしてみようと。
長谷川 その年の12月に学内で第一回公演をやったら、初日に見た人が「面白いぞ」といろんな人に広めてくれて、30〜40人入ればいっぱいのスペースですけど、千秋楽は立ち見まで出て。終わった後にみんなが褒めてくれたんです。

劇団ありよりのあり旗揚げ(仮)公演『ガールフレンド(笑)』(2018年12月14日(金)~12月16日(日)明治大学和泉校舎第二学生会館地下アトリエ)

──どんな話だったんですか?
 女子高生5人がカラオケルームで1人の誕生日をサプライズでお祝いするんですが、日付を間違えているという話です。前半はコント仕立てで、後半は恋愛的な嫉妬なんかが入り交じる感じの。で、最後はみんながケンカしている中で歌が流れるという。

──私が2019年に東京学生演劇祭で観た『ちょっと男子ーぃ!』は何作目ですか?
九条 2作目です。3年生のときですね。

──あれが2作目! すごく面白かったです。あのときも歌がありましたよね。
 歌が大好きなんです(笑)。

劇団ありよりのあり第2回公演『ちょっと男子ーぃ!』(2019年9月6日(金)~9月9日(月)王子小劇場)

笑える部分+なにか刺さるものを

──「ありよりのあり」を立ち上げたとき、作風としてなにか決めたことはありますか?
長谷川 女の子ならではのかわいさ、毒々しさを際立てた劇団にしたいねという話はしました。
 最初になんとなくその話は聞いて参考にしつつ、基本的には自由に作らせてもらっています。

──3年生で2作目をやって、その後は?
長谷川 4年生で卒業公演をやろうとしていたんですが、コロナ禍に突入してしまって叶わなくなったので、配信で1本だけやりました。

──私は「ありよりのあり」を観て、笑えるポイント含めお三方の演技が自然で、その上でグッとくるポイントがあるのがすごく好きだなと思っています。誉さんは作品を書くとき、どんなことを意識しますか?
 笑える部分は入れつつ、それだけじゃない、今生きていて悩んでいるお客さんになにか刺さるものが見え隠れしていたらいいなと思います。
長谷川 誉さんの作品はすごく親しみやすいと思うんです。私が前職で勤めていた一般企業の上司や同僚の方々も「見えない花火」をすごく楽しんでくれて。だから初めてお芝居を見る人や演劇になじみのない人も見やすいんじゃないかなって。
九条 役者として台本を読んだときに、必ず共感できる点があるんですよ。観てくださる人もきっと、笑いの中で「こういうことあるなぁ」と感じられるはずで、そこがいいなと思っています。

──せっかくなので、お三方がこれまで影響を受けた人や作品を教えてください。
 コントですね。中学生のときにラーメンズが大好きで。そこが根付いていると思います。演劇だと、最近観た範宙遊泳の「バナナの花は食べられる」の作劇に衝撃を受けました。
長谷川 私は三谷幸喜さんの作品が好きです。見ていて時間を忘れてしまう。それと最近コンプソンズさんの舞台を観てすごく面白くて、劇団として継続的に活動することの強さも感じました。
九条 私はTEAM NACSさんの、それぞれのキャラクターを自覚して演じているところやお互いの信頼関係が好きです。演劇をやり始めた頃に東京03さんを見て、演劇的だし、 話の流れがきれいで感動しました。あと今回ご一緒するザ・ギースさんが、単独ライブにずっと行っているくらい好きで。もう今回のことは夢かと思ってます(笑)。

劇団ありよりのあり第3回公演『箱の中身はなんじゃろな?』(2021年3月13日(土)~3月14日(日)オンライン配信)

結局、書かずにはいられなかった

──昨年、配信から3年ぶりの公演「見えない花火」を上演されましたよね? 卒業時点で、その先の活動についてはどうしようと思っていましたか?
 卒業するときに、「3年後にもう一回どうするか話をしよう」と言っていて。それぞれ別の仕事をしているので、しばらくはいっぱいいっぱいだったんですけど、ちょうど3年後となる去年のタイミングで、ちょっと余裕が出てきて、公演ができるんじゃないかって。

──「10年後にお互い恋人がいなかったら結婚しよう」みたいな約束を。
 はい(笑)。
九条 実は、解散を……これ言って大丈夫かな?
 大丈夫じゃない?
九条 「ありよりのあり」自体、旗揚げ公演を解散公演にすると決めて始めたんですよ。
長谷川 そうだった!
九条 忘れてたでしょ。
長谷川 忘れてた。
九条 旗揚げ時点で面白い作品ができる確信があって、その1本だけやって終わる予定だったんです。でも本当に予想以上に見てくださった方が「よかった」と言ってくださって、それがきっかけで2作目として東京学生演劇祭に出て、賞をいただいて。私の中ではもっと続けたい気持ちがあったんですけど、2人はどうかわからなくて……。

──九条さんはかなり前向きだったけれど、ひとまずそれぞれの道を歩み始めたわけですね。みなさん、3年間会わなかったんですか?
 たまーに会って、ご飯を食べたりはしてました。でもほとんど仕事の話とか。
長谷川 恋バナとか(笑)。

──3年の間、みなさんは「ありよりのあり」に対してどういう気持ちで過ごしていましたか?
長谷川 私はコロナで卒業公演が配信になっちゃったことで不完全燃焼な気持ちがあって、ずっとやりたいと思っていました。それぞれの都合があるから叶わないかもしれないけど、でもやろうとなればすぐできるだろうと。
 私は2人には申し訳ないんですが、仕事が忙しくて、やりがいもあって、「もう厳しいかな」と何度も思っていました。 でも職場の人が「絶対に外に世界を持っておいたほうがいいよ、仕事にも生きるし、大変な時に潰れずに済む」と言ってくれて。仕事を始めて3年経って余裕も出てきたことで「『ありよりのあり』の繋がりはなくしちゃいけない」と思うようになりました。
九条 私は「ありよりのあり」がホームみたいな感覚で、今やっている映像の仕事も外に出る感覚なんですよ。何より、これだけの作品を書ける誉さんが、このままずっと書かずにいられるのかなと。
 結局、書かずにはいられなかったです(笑)。

劇団ありよりのあり第4回公演『見えない花火』(2023年8月19日(土)~8月20日(日)阿佐ヶ谷アートスペース・プロット)

「テアトロコント」で新しい挑戦を

──3年ぶりの舞台はどうでしたか?
 久々に演技をしてみて、恥ずかしさを乗り越えるまでが大変でした(笑)。
長谷川 私も「セリフ覚えられるかな?」と不安でしたけど、二人の顔を見たらすごく安心して。楽屋でもYouTuberごっことかしていて、その大学時代と変わらない時間が楽しくてリラックスできました。
九条 本当に昨日までずっと一緒にやってたくらいの感覚で。私は卒業後も演技の道に進んで、役者としてやっていたんですけど、2人とのやりとりはもう「こう来たらこう返してくれる」というのがわかっていてすごくやりやすかったし、特別な安心感がありました。

──この先はどうしようと?
長谷川 正直、この先は今もはっきりしていなくて。今回「テアトロコント」にお声がけいただいたことがひとつ考えるきっかけになるのかなと思っています。
九条 3年ぶりの公演や今回の「テアトロコント」で2人も前向きだとわかったので、これからのことを少しずつ話し始めています。私は「ありよりのあり」をずっと続けていけたらと思っているので。
 私も、この劇団だけで食べていけるようになるのは、一番の夢ではありますね。
長谷川 私は今、演劇の制作の仕事をしていて、プロデューサーを目指しているんです。この道に進ませてくれたきっかけは「ありよりのあり」なので、私がプロデューサーとしてこの劇団を大きくすることを目指していきたいなと思っています。作品の内容についても、始まりは「女の子芝居」という縛りをつけていましたけど、今後はいろいろな視点から、観てくれる人のツボを刺激するような作品を届けたいなと思っています。
 そんな中で「テアトロコント」の作品についても、自分の中ではタブーだと思ってやっていなかったことをやってみたいなと。題材としても、これまでは放課後とか、カラオケボックスとか、身近で具体的なものでしたけど、今回はちょっと身近じゃないものにして、初めての2人芝居にチャレンジしようと思っています。

──5作目の新たな挑戦、楽しみにしています!

取材・文/釣木文恵