妻役の花總まりがなんと61ミリにまで縮む!
夫役の谷原章介との関係はその影響でどう変わるのか?
謎だらけの『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』、いよいよ開幕!
この奇妙かつインパクト大なタイトルから、「一体、どんな舞台に?」と気になっていた方も多いのではと思われる『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』。“舞台化不可能”と言われていた、カナダの作家アンドリュー・カウフマンによる同名小説を原作に、G2が脚本を書き下ろし、演出を手がけ、このたび世界初の舞台化に挑戦!
4月1日(月)に東京・日本青年館ホールにて、いよいよ初日が開幕し、観客の目前にその全貌が明らかとなった。ここでは、幕が上がる直前に行われた初日会見と公開ゲネプロの模様を併せてご紹介する。
まずは、カラフルな舞台衣裳をまとった主演の花總まり、谷原章介が登壇した初日会見は、それぞれの意気込みコメントからスタート。
花總「ステイシー役の花總まりです。昨日、一昨日と舞台稽古をみっちりやりまして、今日初めての通し稽古です。今は、初日の前にこの“通し”という山を越えなければ!という緊張感でドキドキしております」
谷原「実は僕、今回は役名がなくて、“僕”という役なんですけれども。登場する中で唯一、この銀行強盗事件の当事者ではないという役であり、なおかつこの舞台はこの“僕”がステイシーから聞いていることを脳内再生しているという面もあるので、やりがいがあると同時に、どう取り組んだらいいか迷いながら5週間かけて稽古してきました。ストレート・プレイで5週間というのはなかなか長いほうですが、あっという間に過ぎた気がします。花總さんとは一緒にお芝居をしているとはいえ直接的なセリフのやりとりは少ないのですが、夫婦としてはいい形が作れているかなと思っています。また、ステイシーが劇中で旋律を美しい声で奏でてくれる場面があり、そこが大好きです!」
そんな谷原の言葉に対し「そんな、ハードルを上げないでください!」と、すかさずツッコむ花總に「いやいや、本当に素敵なのでよろしくお願いします!」と優しく微笑む谷原。すっかり夫婦役として、息もピッタリ合っている様子だ。
続いての質問は、G2の演出を受けての手応えに関して。
花總「私はG2さんの演出作品に出させていただくのは今作が2度目になります。前回の舞台も本当に不可思議な作品だったので、私のG2さんのイメージは“不可思議を手がけたらナンバーワンの演出家”です(笑)。この作品もまさに“舞台化不可能”と言われていた作品ですので、G2さんがどう舞台で描いていくのかは正直なところ最初は不安もあったのですが、それを見事に、しかもちょっとユーモアを交えながら演出してくださっていまして。すごく分かりやすく、皆さまにお届けしやすい形になっているので、さすがG2さんだな!と思っております」
谷原「先程、“僕”の脳内再生と言いましたけれども、要はこの作品ってG2さんの脳内再生の舞台でもあるんですよね。G2さんの舞台はすごく余白が多い舞台なので、観客がそこに提示されたものからどれだけイメージを膨らませるかというところが、僕は肝だと思うんです。つまり、とても深いところまで想像ができる舞台になっていますし、役者だけでなくいろいろな分野のスタッフたちが一緒になってひとつの舞台を作り上げていますので、そこもぜひみなさんにお楽しみいただければと思います」
また“お気に入りのシーン”について聞かれると、花總は「夫婦2人で買い物に行くシーン」とのこと。
花總「最初にG2さんのコンセプトを聞いた時は、本当に?と思ったんですが、とても面白い場面になっていると思います。なかなかない光景になりそうなので、ぜひ目に焼き付けていただきたいですね」
一方、谷原は自身が出演していない場面をセレクト。
谷原「(強盗による被害者のひとりである)サムという登場人物が水中で浮遊することになるシーンがありまして、その背後で中山祐一朗さんが寝転びながらサムの名を叫んでいる姿が僕は大好きで(笑)。やっぱり祐一朗さん、最高だな!と思いながら毎回眺めています」
そして最後に、上演を楽しみにしてくださっているお客様へのメッセージとして、
花總「いよいよ本日、初日を迎えます。誰もが舞台化は無理なんじゃない?と思っていた作品でしたが、今日、現実に舞台でみなさまにこの物語をお届けすることができます。キャストだけでなくスタッフたちも総動員で、誰ひとり休む間もなく上演中ずっとこの舞台を作るために一生懸命動いておりますので、この作品の持つ力、そして我々カンパニーが持つエネルギーを大勢の方にお届けしたいと思っております。みなさま、ぜひとも楽しみにいらしてください」
谷原「この作品は役者が演じるお芝居はもちろんのことですが、同時にダンス、映像、音楽、さらに場面転換にも注目していただきたいです。僕自身、本当は舞台に立っていないで、客席から観てみたいなと思うくらいですので、ぜひみなさまに劇場まで観に来ていただきたい!今回の物語の中では、不思議な世界で登場する事件はあくまでメタファーであって、登場してくる13人のケースの中では、救われる人もいれば救われない人もいます。G2さんは、この舞台はダークでシリアスなストーリーに見えるかもしれないけど実はコメディなんだよ、とおっしゃっていました。お芝居の中で、この人はこう考えを変えられたからうまくいったんだ、みたいなことが見えたとしたら、ご自身の生活の中でヒントにしていただけたら嬉しいです。人生自体、やっぱりどこかコメディだったりするんじゃないかなと思う面もあるんですよね。ですから、生きていればいろいろなことがありますけれど、全部笑い飛ばせるきっかけにしてもらえる舞台になったらいいなと思っています!」
と、会見を締めくくった。
続いて行われた本番さながらのゲネプロでは、幕開きの舞台装置は一見シンプルながら、背景となる壁が自在に動いて場面ごとに違う空間を作り出したり、その壁にはその場で谷原らが持つライブカメラによるものを含めた映像が映し出されたりすることで、突如起きる銀行強盗、その奇妙な強盗と被害者とのやりとりといった、たくさんの情報が驚くほどスムーズに観客に伝わっていく。そんなオープニングに代表されるスタイリッシュかつ多彩な演出は、まさに手練れのG2ならではの特長でもある。
役者はダンスの振付のような揃った動きで、場面転換中も常に表現にいとまがなく、もちろんこれはストレート・プレイであるのだがある種コンテンポラリー・ダンス的な面白さを味わえるステージにもなっていた。
物語はある日、銀行に居合わせた13人が全身真っ赤な服や帽子の強盗に「今、持っている物の中で最も思い入れのある物を差し出せ」と脅されるところから始まる。各自が思い出の品を渡すと強盗は「あなた達の魂の51%はいただいた。これから奇妙な出来事が起きるが、自ら魂を回復させない限りは命を落とすことになるだろう」と宣言し、消えてしまう。すると、やがて13人の被害者達の身に次々と信じられないことが起きていく。その中でステイシーは、自分が少しずつ縮み始めていることに気づき、夫にそのことを訴えるのだったが……。
花總まりは悩める妻(その悩みは身長が縮むことについて、というよりは夫婦の日常的な部分から発生することが原因のようにも見える)を可憐に、そして悲しげに、谷原章介はそんな妻を心配しているようでいて結局は何も気遣っていない様子の夫を淡々と、そしてリアリティを持ちつつ(その上“狂言回し”の役回りを務めながらも)、好演。また終盤、花總が披露する愁いのある歌声は美しく壮大で、この物語のファンタジー度をさらに高めてもくれていた。
身体能力の高さも垣間見せる強盗役の平埜生成、ライオンに追われる際の身のこなしの綺麗さも際立っていた入山法子、“一族の歴史に潰される”というとんでもない目に遭いながらも圧倒的な説得力を発揮していた栗原英雄、さらに中山祐一朗と吉本菜穂子は入れ代わり立ち代わりさまざまなキャラクターを多数演じ分けるなど、芸達者な演者たちはそれぞれに見事な演技術で物語をカラフルに膨らませる。
加えて、高さのあるセット、巨大な階段や椅子等、ダイナミックな大道具、装置も駆使して構築するファンタジーな世界観も観ていて楽しい。13人13様のケースで登場する奇妙な事件や出来事、たとえば母親が98人に分裂したり、足首に彫ったタトゥーのライオンが実体化して追いかけて来たり、夫が突然雪だるまに変わってしまったり……。これらは、どこからどこまでが本当に起こったことなのか、あるいはすべてがステイシーの脳内世界の話なのか……?
“家族”や“愛情”が鍵になっているようにも思えるが、とはいえ考えても簡単に答えは見つからないため、観る側としては自分の想像力を試される作品とも言えそうだ。
これまでの人生と重ねられる部分も探しつつ、どこまでも自由に想像の翼を羽ばたかせながら、この稀有な作品世界を味わってみてほしい。
取材・文/田中里津子
ゲネプロ写真
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