デキメン列伝【第16回(終)】小野田龍之介

“デキる”のみをものさしに、今後の舞台界を担っていくであろう、注目株の若手俳優をピックアップ。彼らが「デキメン(=デキる男 優)」である理由、そして、隠れた本音をロング・インタビューで探る!最終回を飾るのは小野田龍之介さんです!

【第16回】小野田龍之介 RYUNOSUKE ONODA

大人に負けたくない、
子供扱いされたくないという気持ちが強い子供でした


Writer’s view

まだ年半ばにして、2017年のマイベスト1は不動であろう舞台を観てしまいました。そのミュージカル『パレード』において、若者代表といえるポジションで抜群の存在感を発揮しているのが小野田龍之介さんです。「25歳になりました」という昨年のツイッターでのつぶやきを目にしたとき、「え、じゃあ20代前半だったの!?」と驚いたものでしたが(笑)、テクニックやその雰囲気は若手の域を超え、どの舞台でも頼れる存在。そんな彼の“いろんな顔”を紐解いてきました。

取材・文/武田吏都

 

――やはり、現在公演中のミュージカル『パレード』のお話から伺いたいです。もうご覧になった方には伝わると思うのですが……いやぁ、凄まじい作品ですね。演じていていかがですか?

小野田 そうですね、とりあえず命からがら毎日頑張ってやっている感じです。もちろんやる側としてヘビーじゃない作品なんてないんですけど、特に『パレード』は実在のお話なので。しかも“冤罪”という、ダークという言葉でも片付けられない、もやもやっとしたものが残る実話なので、相当苦しくはなります。まあ、僕が演じるフランキーという役の立場からすれば目的を果たして終われるところはあるんですけど、3時間近く人を恨み続けているというのは……キツいですね(苦笑)。

 

――小野田さんは今回非常に重要なポジションを担っています。ホームページの人物相関図には殺されるメアリー(莉奈)の“友人”としか書かれていなかったので、実際の役割の大きさに正直驚きました。

小野田 この作品は明るいイメージのタイトルからしてそうなんですけど、あの相関図もちょっとトラップなんですよ(笑)。僕自身もはじめは典型的な若者ポジションというか、一幕最初の方の♪映画に行くとこさ(M3『映画に行こう』)って歌っている感じの、ああいう楽しい雰囲気だけをやる役だと思っていたんです。レオ(石丸幹二)とルシール(堀内敬子)夫妻という作品の軸に実は非常に濃く関わる、ひとつのキーパーソンというのは全く想像していませんでした。

ミュージカル「パレード」(2017年)
※6/15(木) 愛知県芸術劇場 大ホールで公演あり

――かつ、最初に一人だけ舞台上に現われて1曲目の大ナンバー(M1『ふるさとの赤い丘』)を歌うのも小野田さんです。そこはフランキーではなく、南北戦争に従軍する“若い兵士”という別の人物としてですが。この物語の口火を切る役回りというのは、感覚的にどうですか?

小野田 イヤです(笑)。とにかく緊張しますし、憂鬱でしかないです。もちろんこういう大人の皆さんが多いカンパニーの中で、ああいうポジションを担わせていただくことは非常に光栄なことだと思っていますが……。最初に登場して歌うことは別の作品でも経験があるし、物語と直接つながっているような歌だったらまだもう少し楽だったと思うんですけど、『ふるさとの~』はあのシーンだけのドラマとして成立させなければならないので、やっぱり独特な緊張感があるんですよね。稽古場でもそうだったんですけど、すごく張り詰めた状況の中、毎回木の後ろで一度憂鬱な気持ちになりながらスタンバイしていて、直前で「ヨシ!」と役のスイッチに入っていく。共演者のどなたかが「龍之介ぐらい心臓が強くないとあんなのは歌えないね」なんて言っていたんですけど、やってるこっちはもう!(笑) 難しい歌なので、そこに対する緊張もありますし。

 

――素朴な疑問なのですが……小野田さんって緊張するんですか?

小野田 するんですよ! でも、緊張しない人って思われるんですよね。

 

――はい、余裕すら感じます(笑)。

小野田 それもすごい言われるんですけど、本人的には常にいっぱいいっぱいで。『パレード』本番初日の幕が開く前、皆さんが袖にスタンバイしているとき、「龍之介、緊張してるかな?」って話になったんですって。そしたらどなたかが一言、「いや、してないでしょう」と。それで、その会話が終わったっていう(笑)。でもそんなこと全くなくて、呼吸が荒くなったり、手が震えたり。出る数分前がピークですね。出てしまえば、役としているので平気なんですけど。

 

――『パレード』は1998年にブロードウェイで誕生し、トニー賞の最優秀作詞作曲賞、最優秀脚本賞を獲得したミュージカルですが、前からご存知でしたか?

小野田 海外版のCDを持っていて、「カッコいいなあ~」と思いながら音楽は聴いていたんですけど、内容は一切知りませんでした。主役の人が泣いているし、暗い作品であることは間違いないだろうと思っていたけど、でも最後は明るい感じで終わるし、CDだけではどんな物語か全然わからなくて。オファーをいただいて、同時に内容を知りました。第一印象は「暗ッ!」(笑)。こんなセンセーショナルな話だとは、まるで想像がつきませんでしたね。

 

――フランキーは17歳という設定だとか。

小野田 13歳のメアリーからすると、ちょっとお兄ちゃんです。物語としてはやっぱり大人たちの政治的な思惑や差別というところが中心になってくるので、僕ら子供の居方はすごく難しいですね。あと僕は今25歳で、17歳のフランキーとそこまで年齢は変わらないんですが、どうも普通の25歳よりオジサンに見えるらしいので(笑)、最初は大変でした。普通にお芝居しちゃうと、大人たちと同じ空気感になってしまう。なので大人たちのピリッとした空気の中、フランキーはKYな感じ――オーバーに怒っていたりとか、そういうところで色の違いを作っていきました。

ミュージカル「パレード」(2017年)

――フランキーはメアリーに好意があったという解釈でいいんでしょうか?

小野田 あると思いますよ。もちろん何もない、単純な友達でしょうけど。でも子供のときの“友達”って、本当に大事ですよね。友達が悪口を言われていたりするだけでムカーッときたり。そんな感じで、子供だからこそ一気にブチ切れちゃったっていうのがフランキーなのかなと思います。たぶん途中から、メアリーのためというよりは、怒りの方が強かったんだろうなって。だから彼は疑うことなく、犯人はレオだとずっと思い続けて……。

ミュージカル「パレード」(2017年)

――フランキーは周りの大人たちとは違い、レオが有罪だと信じている?

小野田 だと思います。ここは演出の森(新太郎)さんとも最初に話しました。フランキーは全く疑うことはなく、というか、彼を犯人だと思うことでメアリーの死を浄化し、また自分の気持ちも落ち着かせている。自分に置き換えていろいろ紐解いていったとき、“疑う”って感情は子供のときあんまりなかったなと思ったんですよね。「あいつがやったんだ」と思ったら、もうそいつをどうにかしてやろうとしか思わない。特にああいう、ガーッとなっちゃう子供ですし。

 

――そこが怖いんですよね。

小野田 フランキー個人の怖さが社会の怖さにもつながるのかなって。大人たちの思想や思考に影響されて、子供たちがガーッとのめりこんでいく。現代の、宗教が絡む争いにしてもそうで、唱えていることは“世界平和”とか実はどれも一緒だったりするのに、相手を叩こうとする大人の思想に引っ張られて、子供たちが「あの人たちは悪い人だ」と攻撃し始めたり。自爆テロの実行犯なんかも若い人が多いですよね。純粋だからこそ洗脳されやすい。そんな狂気みたいなものがフランキーの中に作れたらと思いました。だからこそ、ものすごくキツいんですけど。大人たちはわかっていながらレオを冤罪に追い込んでいくけど、フランキーだけは本当に恨み続けているので。

 

――演出は、新劇の方でこれがミュージカル初演出となる森新太郎さん(演劇集団円所属)。対してキャストは“ザ・ミュージカル”と言えそうな方々が揃っていて。

小野田 それもわりと濃い人たち(笑)、ですよね。

 

――そのマッチングの妙が見事だったのですが、演出を受ける側としてカルチャーショックというか、演出的にいつものミュージカルとは全く違うと感じるようなところはありましたか?

小野田 稽古場で驚いたことは毎日たくさんありました。例えば森さんは「そんな歌い方はできないとか、そんな風に歌ったらノドが潰れますっていうことがあったら、すぐ言ってください」とおっしゃるんですね。つまりあくまでドラマとして作って、最初に歌を気にすることはない。音楽だけで紡いでいこうとする人とは明らかに違いました。ただ役者からしたら、「音程は外していい」と言われても崩しまくるわけにはいかないので、森さんから要求されている(感情の)ヒステリックな部分と歌としてのテクニック的な部分を上手く混ぜていかなきゃならない。そこはミュージカルをやってきた者としての技量や考えで作っていくしかなかったので、すごく難しかったですね。
今回の『パレード』の見え方はやっぱり、森さんの演出あってのものだと思います。これがミュージカルをたくさん手掛けていて、言ってしまえば音楽に操られやすい演出家なら、同じ作品でもまた違う作り方、見え方だったはず。森さんはミュージカルの演出は初めてですけど、ミュージカルが好きな方なんだなっていうのは、話していて感じたんです。きっと、勘違いじゃなければ(笑)。

 

――ミュージカルでは1曲ごとに拍手が起こることも珍しくないですが、私が観た回の『パレード』ではそれぞれ一幕と二幕の終わり、2回だけしか拍手が起こりませんでした。のめり込まざるを得ず、拍手する隙を与えられないんですよね。もともとの作品の作りもありますが、そこも森さんの演出による部分が大きかったのだろうと。ストレートプレイの手法で作られた結果というか。

小野田 拍手がほぼ起こらないのは、初日からそうでした。一幕の頭、みんなでM1をワーッと歌った後はわりと拍手が起こるときもあるんです。一幕の最後もあったりなかったり。内容的に「していいのかな?」みたいな感じですもんね。で、二幕の最後は、芝居が終わって暗転になってもしばらくシーンとしているんですよ。そして明かりがつくと、ワーッと拍手をいただく。「ドキュメンタリーを見せられている気分だ」とおっしゃるお客様が多いんですけど、「これ終わったんだよな? 終わりなんだろうけど……どうなんだ?」という戸惑いみたいなものがあるんじゃないかと。お客さんが一緒にドキドキしてくれているのを感じるのは、やっていて面白いです。

 

――「拍手が起こらないようなミュージカルにしたい」という発言は、よく作り手や演者の側から聞こえてきます。いい悪いではなく、1曲1曲をショー化せずに物語の中で音楽を処理したい、という意図だと解釈しているんですが。でも“拍手したい願望”もどこかあるはずの観客側の事情も含むと難しいのかなと思っていたんですが、演出次第で可能なんだなと。あらゆる意味で、画期的なミュージカルでした。

小野田 ほんと、画期的です。『パレード』ってどうしても曲がいいし、裁判の歌とか結構ショーアップされているものも多いので、拍手に持っていくよう作ることは十分できると思うんですよ。でもそうしなかったのは、今回の『パレード』においては絶対正解だったなと思いますね。

ミュージカル「パレード」(2017年)

――グンとさかのぼって、小野田さんが現在の“超実力派”へと至った道のりを探りたいです。ミュージカルは“歌、ダンス、芝居”の三位一体と言えど、ミュージカル俳優の多くは歌かダンスのどちらかに得手が偏りがちな傾向にあるような。その点、小野田さんはどちらも一流というのがまた特徴だと感じるのですが、入りはダンスの方だとか。

小野田 母がダンサーで、父は全然違う仕事をしていますが、もともとは母のダンスの生徒でした。そういう環境だったので家族みんなエンターテインメントが好きだったし、自然と身近にあったんですよね。最初はディズニーランドのダンサーになりたくてダンスのレッスンをしていたんですけど、中川久美さんというブロードウェイの舞台にも出演している振付家の方にミュージカルに誘われて。歌うことも好きだったし、出てみたらすごく楽しかったんです。8歳のときでした。

 

――それまで歌も訓練していたんですか?

小野田 全く。移動の車の中やカラオケで歌っていたぐらいで。でもヘタではなかったです。カワイイ声だったし(笑)。ミュージカルに出てみて、体だけじゃなく言葉で何かを発して表現するのは楽しいなと思いました。だから「これをやろう」と思って、そこからずっとミュージカルですね。

 

―― 一生の仕事にしていこうという決意が、そのとき既に?

小野田 そうですね。そしてありがたいことに、お仕事にもずっと恵まれ。子役からやっていると、声変わりとか学業でブランクがあったりってことが多いんですけど、僕はそれもなくて。というのは、目立ちたいとか「あの役をやるんだ!」ってガツガツしているタイプではなくて、なんかのらりくらりな子役だったんです(笑)。楽しそうな仕事があったらやろう、みたいな。今もそうなんですけど、仕事ってご縁だなと常に思っているので、その年齢に合ったいいお仕事をいただいてきたという感じですね。

 

――ちなみに子供の頃、学校ではどんな存在だったんですか?

小野田 目立っていた方だとは思います。ヤンチャで、よく先生にも怒られていましたし。ええまあ、いろいろご迷惑をお掛けしました(苦笑)。

 

――勉強は好きでした?

小野田 (即答で)キライです! お勉強はデキないんで、学業は完全に捨てていました(笑)。そこも黙っているとデキそうって言われるんですけど、全然ガッカリな感じ(笑)。ただ昔からこの仕事をやっていて記憶力は良いので、歴史とかは得意でした。でも音楽の授業なんかはすごく恥ずかしかったし。

 

――え、それこそちょっと歌ったらヒーローなのでは?

小野田 「さすが!」って感じで扱われるのが逆にイヤで。たぶん、仕事な部分を見られるのが恥ずかしかったんですよね。だから地元の友達とは仕事の話とかせずに、バカな話ばっかりしているし。

――なるほど。その場その場で、いろんな顔を持っているんですね。舞台上だけの印象だと、何でも悠々とこなす、しっかり者の優等生というイメージでした。

小野田 「余裕だよね」みたいなことは昔から言われていて、確かに緊張とかを悟られちゃいけないっていう気持ちはありました。大人に負けたくないっていうのが、子供の頃から強かったんですよね。例えば『アニー』みたいな子供中心の作品の子役じゃなくて、大人の中に子供一人というような現場が多かったので、子供扱いされたくなかったんです。緊張していたとしても絶対見せたくないし、そこからひとつ離れて余裕な感じでいられるようにしていたから、それが習慣づいて今でもそう見えるのかもしれない。
ただ中学生のとき、仕事での顔と学校での顔が自分でもわからなくなってきちゃって。思春期の悩みなんでしょうが、辛かったですね。やっぱりどこか大人の中で気を遣って生きていた部分があって、「なんでイイ子でいるんだろう?」と、ふと思って。イイ子っていうか、ちゃんとしなきゃいけないって自分に言い聞かせているところがすごくあったんです。仕事に関して、相当責任を感じていたのかな。もちろん、“責任”というのは今もそうなんですけど。で、高校生のときに、もっとリラックスして仕事しようって、なんか思ったんです。共演者に「もっと言いたいことを言えばいいのに」と言われて。それまで、「しんどい」みたいなことも一切言わず、ダンスのレッスン中に倒れたりしていたんですよ。小学校の夏休みに、週5週6でダンスのレッスンを詰め込んだりもしていて。

 

――他に誘惑がたくさんありそうな子供の頃に、なぜそんなに頑張れたんですか?

小野田 負けたくないっていうのがあって、やっていないと不安だったから。そしてやっぱり完全に、好きだからです。その当時、例えば『レ・ミゼラブル』のガブローシュ、『ライオンキング』のヤングシンバ、『エリザベート』の(少年)ルドルフ、などの子役の登竜門的な役をやりたいとか思ったことがなくて、具体的な何かを目標にしていたわけでもなかったですし。

 

――確かに、どれも通ってきていないのは意外ですね。

小野田 まず自信がありませんでした。周りには海宝直人くんとか、子役の先輩で上手い人がいたので、自分とは違う世界だと思っていて。「僕はダンスしかやってなくて、歌なんてフザケて歌っているだけだし、無理無理!」って。でも周りにはオーディションを勧められていて、実際は1回だけ『ライオンキング』のヤングシンバを受けました。僕の中でたまたま「もしかしたらイケるかな?」っていうきっかけがあったから。本選にも呼んでいただいて、自分でも歌は悪くなかったと思うんですが(笑)、身長制限もオーバーしていたし、時期が適していなくてダメでした。今思えば、他の役も(オーディションを)受けていればよかったなと思うけど、でも基本、自信がないんです。

 

――そこも意外な感じがします。現在の実力は、その気持ちをカバーすべく重ねてきた努力の賜物ということでしょうか?

小野田 努力……そうですね、研究はしてきました。

――小野田さんと言えば、若手屈指のミュージカルオタクだと思うのですが(笑)、ブロードウェイ、ロンドン、ウィーン、韓国……世界のミュージカルの中でどれが一番好みですか?

小野田 僕はウィーン・ミュージカルですね。だから若いときは『モーツァルト!』や『エリザベート』とかの方が、ブロードウェイのものより好きでした。ショーの作り方や、言語かな。ドイツ語の歌の響きとか、好きなんです。作品のテーマとしては暗いものが多いんですけど、その中で音楽は多彩なジャンルにあふれていて、ただ明るいだけという作品よりそういう方が好きですね。
あと、19歳のときに「シルヴェスター・リーヴァイ国際ミュージカル歌唱コンクール」というのに出させていただいて、そのときの思いが強いのかもしれない。そのためにハンガリーに1週間ちょっと滞在してヨーロッパの言語をずっと聴いていたので、馴染んできちゃって。それからはそっちの方の作品の映像や音楽にたくさん触れるようになりました。

 

――いま話題に出たコンクールで「リーヴァイ特別賞」というのを受賞されたことは、大きな自信に繋がったのでは? 10代で世界的に評価されて、表現が良くないかもしれませんが、多少天狗な状態になってもおかしくないと思うのですが。

小野田 いやぁ、全然。歌うことは、仕事として真摯に考えているんですけど、「楽しいねー」って感覚の方が強いんですよ。もちろんすごく祝福していただいてうれしかったんですけど、それよりもハンガリーの大きな劇場で歌えたり、『エリザベート』のエリザベート役で有名なマヤ(・ハクフォート)みたいな俳優とずっと一緒にいられたことの方が大きかった。最高でした。僕の中ではそういう思い出です。

――大きな作品が続いた昨年のことも少し聞かせてください。まず劇団四季『ウェストサイド物語』でトニー役を、『三銃士』でもダルタニアン役として主演を務め、そして『ミス・サイゴン』ではクリスを演じました。

小野田 去年スゴかったですね。ちょっと本気出しちゃいました(笑)。なんて冗談ですが、すごくありがたい年になりました。同時に、やっと大人の階段を上れてきたのかなというのを実感した1年でもあって。やっぱり若いときからやっていると、周りの方にはまだ10代のイメージが残っているので、普通の俳優よりも大人の役をやらせていただくまでに時間がかかるということがあったり。「まだ若いでしょう~」みたいに言われがちというか。だからやっと、トニーやクリスといった、若者だけれど大人の役を担わせてもらえるようになってきたんだなって、とてもうれしかったです。

 

――まず『ウェストサイド物語』ですが、劇団四季の作品ということで、環境自体が大きく変わりますよね?

小野田 団体行動であったりとか、まず朝の訓練から始まるとか、僕は劇団というものに所属したことがなかったですし、やっぱり独特な環境でしたね。劇団四季に関わることが決まってから、すごくいろんなことを考えたんです。やっぱりご覧になるお客様は劇団四季のファンの方が多いだろうと。特に今回の『ウェスト~』は新演出で注目もされていたし。となれば、やるからにはお芝居や発声の仕方など一度、劇団四季を全て熟知しなければいけないなと思いました。劇団四季に外部の俳優が出演するように最近なってきて、外部の俳優がどう受け入れられるかという正念場だなと思ったので。ここで自己流のパフォーマンスしかしなかったら、劇団のお客様に「やっぱり外部の俳優は劇団四季を乱す」とか思われちゃうだろうし、それがすごくイヤだったんです。

劇団四季「ウェストサイド物語」(2016年)

――郷に入りては郷に従え、という。

小野田 そして、そこをしっかりやっておかないと、逆に自分のパフォーマンスができないと思ったんですよ。だから何ヶ月も前から稽古場に行って、劇団四季の呼吸法や母音法をトレーニングして。その状況が整ってから、『ウェストサイド物語』の稽古に参加させていただきました。やっぱりメソッドやセオリーは、外部とは全然違います。もちろんどちらがいい悪いではなく、これまで求められていたものとは違うものを求められることもたくさんあったので、すごく苦しかったり難しかったりした分、いま役立つことはたくさんありますね。例えば森さんは今回、言葉に関するダメ出しが全体的に多かったんですが、言葉を大事にする劇団四季を経験させていただいたことは、非常に大きかったです。そして『パレード』では石丸さんや堀内さんはじめ劇団四季出身の方々と共演させていただいていますが、ほかの俳優さんたちとやっぱりどこか違いますね。精神的な部分もそうだし、特に言葉の部分にそれを感じます。

 

――そして『ミス・サイゴン』のクリス。小野田さんにはどちらかというと華奢なイメージがあったんですが、GIのクリスを演じてからは体がたくましくなって、イメージが変わりましたね。

小野田 相当ゴッツくしましたから! おととしまではものすごく細かったんですけど、去年1年で大きくしました。で、今も戻らないんです(笑)。

「ミス・サイゴン」(2016年)  写真提供/東宝演劇部

――『ミス・サイゴン』は個人的にも非常に好きな作品なのですが、小野田さんが演じてみて感じた魅力をお聞きしたいです。

小野田 僕は初めて聴いたミュージカルCDが『ミス・サイゴン』のロンドン版だったんです。この作品は観たり聴いたりしすぎていて、やるものじゃなく観るものだという感覚も強くて。決まって「ヤッター!」というよりは、「しっかり務めねばならんぞ」というプレッシャーの方が大きかったですね。
『ミス・サイゴン』には、常に極限状態の人物しか出てこない。“究極の愛”というのがテーマとして打ち出されていますが、描かれているのは人間の根源で、そこを惜しみなく表現しているところが魅力だと思います。という意味では、常に極限状態の今回のフランキーにも、クリスで得たエッセンスを加えられたんじゃないかと。いろいろつながっていますね。
『ミス・サイゴン』との出会いは、大きな宝です。もともと好きな作品ではあったけど、ここまで自分の宝物になるとは思わなかった。やってみて改めて、ものすごく魅力がある作品でした。個人的にうれしかったのは、僕のクリスを観て「クリス像が変わった」とか「新たなクリスの生き方が見られた」という感想をたくさんの方にいただいたこと。歴史の積み上がった作品の中でそれはいいのか悪いのかわからないですけど、新たな感覚をお客様に感じていただくことができたのはうれしかったし、「やってよかったんだな」というのが僕の中で非常にありました。

 

――では最後に。これもお聞きしてみたかったのですが、小野田さんほどの若さと実力があれば、これまで海外進出を考えたことはなかったのでしょうか?

小野田 せっかく日本人に生まれたので。それとこれもハンガリーでの経験ですが、日本語ってすごくきれいなんだってことを実感したんです。海外モノをやるときにあまりカッコよく聴こえなかったり、いろんなトラップがあるのも事実だと思うんですけど、そういうところも工夫して、「日本で翻訳モノをやってもカッコいいね」って言われるようなことができる俳優でいたい。自分は日本の先輩たちのパフォーマンスを観ながらここまで育ててもらったし、そういうところを崩さぬように。それでいていろんなものの良さを織り交ぜて、よりクオリティを上げた日本の演劇を作っていきたいと勝手ながら、またエラそうに(笑)思ってはいるんですけど。

 

――『パレード』はそういう先輩方と、若者代表として共演している作品でもありますよね。

小野田 子供のときから客席で観ていた方ばかりで、それだけでテンションが上がります(笑)。ちょっとおこがましいですけど、同じ出演者としてお芝居の話をすることができるのも光栄で、身が引き締まる思いです。『パレード』がこの先もしも再演されたとしても、この役はきっと僕ではないでしょう。そしてこういう役こそ、いろんな若い俳優がチャレンジした方がいい。この役をやりたいと思ってもらうためには、僕があのナンバーをしっかりと歌って、きちんと役を務め上げなければ。今後の若い俳優に託すために、またいずれ年齢が上がって僕が今の先輩方のポジションとなっていくためにも、今をしっかり務めたいと思っています。

7月、ミュージカル座「ひめゆり」に滝軍曹役で再登場!
(写真は2015年公演より)

8~9月、「マリアと緑のプリンセス」に新進気鋭の演出家・ビリー役で再登場!
(写真は2015年公演より) 写真提供/ステージドア

 

デキメン‘s view

Q.「イケメン」というフレーズに感じることは?
キラキラしてて、笑顔がすごい素敵な人のイメージ。僕はイケメンじゃありません。“テニミュ”に出たことでその重い十字架を背負った部分はあるかもしれませんが(笑)、全くイケメンではありません!

Q.「デキメン」が思う「デキメン」
デキる俳優って、甘さと鋭さを兼ね備えている人だと思うんですけど、パフォーマンスを観ていてそう感じるのは、ものすごい大先輩ですが、鹿賀(丈史)さんですね。
同世代は……小野田しかいない(笑)。デキメンでいたいです。

Q.「いい俳優」とは?
ひとつ前で言ってしまったけど、甘さと鋭さを兼ね備えた人。あとはプライベートを充実させている人じゃないかな。何か別の好きなものでプライベートを充実させることができる人はリラックスして、いろんなイマジネーションが働くんじゃないかって。それが仕事に直結すると僕は思います。僕もオンオフはわりと切り替えるタイプで、オフのときはお酒を飲んだりディズニーランドに行ったり、映画を観たり舞台の映像を観たり。これからもそう心がけていきたいですね。

 

 マネージャーから見た「小野田龍之介」

小野田とは、担当している別の俳優と同じ作品に出演していた縁で出会いました。(当時)フリーというのを知って声を掛け、2年ほど前から弊社所属です。惚れ込んだのはやはり歌ですが、礼儀もしっかりしていて明るく爽やかな青年という印象でしたね。担当になってからの一番の印象は“貫禄”でしょうか。若者らしいキャピキャピしたところもあるんですが、仕事に対しての責任感の強さはすごいものがあります。周りから「龍ちゃんならできるよね、当たり前だよね」みたいに言われることが多く、歌稽古でも初日からある程度歌えているので、最初は聴いただけでわかるのかなと思っていたんですが、やっぱりそれまでに一人でどこかにこもって歌いこんで、というのを繰り返しやっているようです。そういう努力を見せることも言うことも全くないんですが。
彼の歌は我々も自信を持ってお届けできますし、本人もそれを生業として考えていると思います。確固たる居場所を築くためには、やはり今後の活動もミュージカルが中心になるかと。ただミュージカル以外でもいただける機会があれば、ストレートプレイや映像などいろいろ露出はしていきたいですね。ベテランの貫禄がありますが(笑)、まだ25歳なので、これからが本当に楽しみだと思っています。

(株式会社アービング 岩崎マネージャー)

Profile
小野田龍之介 おのだ・りゅうのすけ
1991年7月12日生まれ、神奈川県出身。B型。幼少期からダンスを始め、8歳でミュージカルに出演。以降、ミュージカル俳優として活躍。若手屈指の歌唱力を誇り、19歳のときに出演した「シルヴェスター・リーヴァイ国際ミュージカル歌唱コンクール」で、リーヴァイ特別賞を受賞した。
【主な出演作】舞台/「ミス・サイゴン」(2016年)、「三銃士」(2016年)、劇団四季「ウェストサイド物語」(2016年)、「マリアと緑のプリンセス」(2015年)、ミュージカル座「ひめゆり」(2015年)、「TITANIC」(2015年)、「アリス・イン・ワンダーランド」(2014年)、ミュージカル座「カムイレラ」(2014年)、ミュージカル座「アイランド~かつてこの島で~」(2014・15年)、「ザ・ビューティフル・ゲーム」(2014年)、「フットルース」(2013年)、「ディートリッヒ」(2012年)、「CLUB SEVEN」シリーズ(2012・13年)、「パルレ~洗濯~vol.2」(2012年)、「合唱ブラボー!」(2012年)、ニコニコミュージカル「カンタレラ2012~裏切りの毒薬~」(2012年)、「恋するブロードウェイ♪」シリーズ(2011・14年)、「ドラキュラ」(2011年)、「オオカミ王ロボ~シートン動物記より~」(2011・13年)、「モーツァルト!」(2011年)、マリア・マグダレーナ来日公演「マグダラなマリア」~マリアさんの夢は夜とかに開く!魔愚堕裸屋、ついに開店~(2010年)、「Side Show」(2010・11年)、ミュージカル「テニスの王子様」シリーズ(2009・10年)柳生比呂士役、「最遊記歌劇伝」シリーズ(2008・09・15年)、「ルドルフ~ザ・ラスト・キス~」(2008年)、「葉っぱのフレディ~いのちの旅~」(2004・05・07・11年)
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