『障子の国のティンカーベル』 毬谷友子 インタビュー


『障子の国のティンカーベル』、
野田秀樹が25歳の正月に3日で書き上げた幻の一人芝居。
2014年に上演され好評を博し、追加公演も決定した本作に
再び挑む毬谷友子さんにお話を伺いました。

 

――2014年公演のきっかけは、毬谷さんが「上演したい」とおっしゃったからだと聞きました。

毬谷「10年くらい前に、この作品が上演され、「そういえば、野田さん、一人芝居を書いていたんだ。台本を読んでみたい」と思い、読ませてもらったんです。NODA・MAPになってからの野田さんの作品は、社会的問題を取り上げている作品が多いのですが、この『障子の国のティンカーベル』は、野田さんが書きたいことを自由に書いていて、野田さんの原点である“言葉遊び”や、おもちゃ箱をひっくり返したような楽しさがあり、自分で演じてみたいなと思ったのがきっかけでした。野田さんに「上演したい」と伝えたところ、「いいよ」と言ってくださったのですが、その「いいよ」から実現までほぼ10年もかかってしまいました。「いいよ」と言われた時に上演できていたら、その後10年は上演できたと思いますが、10年経って、10歳年齢を重ねて、昨年の稽古に入る時には「最後までできるかな…」という不安がありました。90ページもある台本を覚えることができるのか?とか。この作品って話がポンポン飛ぶんです。急に何の脈絡もない言葉が出てくるので、台詞を覚えて上演できるのかという不安のままスタートしていました。」

 

――この戯曲に出会い、上演したいと思われてから、いざ上演するとなった時はいかがでした?

毬谷「重圧がすごくありました。だって私が言いだしっぺだから(笑)。肉体的にもハードな作品で、膝にテーピングをして、なんだか地上から5センチ浮いているようなふわふわしている感覚で演じていました。どんなに辛くても途中で無理だなんて言えないんです!言いだしっぺだから(笑)。自分が上演したいと言って、たくさんの人が共感してくれて、椎名林檎さんも喜んで楽曲を提供してくれました。必死になってもがいている自分に、みんなが協力してくれたという感じでした。だから実際に上演した時は「こぎつけた…」という思いが強かったです。実際、『障子の国のティンカーベル』が上演できて嬉しい!と実感したのは、今回の再演のチラシを見た時なんです。前回は本当に実感する余裕もなくて…。今回のチラシに前回公演の舞台写真が掲載されているのですが、それで初めて知りました。私、こんな顔して演じていたんだって(笑)」

 

――そんな大変な思いを今年もされるわけですね。

毬谷「そうなんです(笑)。前回公演の千秋楽が終わった後に、この作品をやるのが大変だというのを一番理解してくれている野田さんから「今はとてもそんな気持ちになれないと思うけど、またぜひ再演してください」というメールをいただきました。今回、初演から時間を空けずに再演することができてありがたいと思っています。実は、もう一つこの作品を上演したいと思った大きな理由があるんです。この『障子の国のティンカーベル』はものすごく面白い戯曲なのですが、いざ読んでみると「とても上演できそうもないな」という印象があります。若き25歳の演劇青年・野田秀樹がお正月に、それこそ書きなぐったようにしてできた戯曲なので、論理より、想いが先行している部分もたくさんあります。野田さんに、鋭い突っ込み入れたりしましたけど。(笑)本当に面白い戯曲だと思います。この戯曲が、いつのまにか上演されなくなっては、いけないと思って。私自身、野田さんに“毬谷友子”という存在を『贋作・桜の森の満開の下』の夜長姫という役でつくってもらったという思いもあります。それで、恩返しではないですが、この野田さんの戯曲を舞台作品として上演することで「自分もやりたい!」と言ってくれる若い世代が出てくると信じているので、そのためにも上演したいという気持ちがあります。」

 

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撮影:引地信彦(Nobuhiko Hikichi)

 

――前回演じてみて、反省点みたいなものはありましたか?

毬谷「私の場合、これまでの他の作品でも再演の方がよかったりします。どんな演目も、初演は無我夢中で試行錯誤していて、役に入り込んでいるので、客観的に自分を見る余裕がないんです。それこそ鏡を見る余裕もないくらい。(笑)去年上演し終わった時に、“もし再演するなら、あと3分短い方がいいな”とか、お客様から教えてもらえた、重要なポイントも、たくさんあって。でも、再演するなんて思っていなかったから全然メモをとっておらず、残念でした。稽古をしながら思い出すとは思うんですが。一人芝居は、文字通り一人でお客さんをひきつけなければいけない。90分間お客さんを一人でひきつけるなんて並大抵のことではなくて、お客さんが役に対して一度興味を失ってしまうと、それこそ拷問のようなものだと思います(笑)。如何にお客さんに興味を持ってもらえるか、登場人物を愛してもらえるかが大事。それを念頭に今回も挑もうと思っています。

戯曲を読んだ段階では、野田さんには珍しい恋の物語でかわいらしいストーリーだと思っていました。でも稽古をしながら、自分で演じたり、野田さんとのディスカッションをしたりしながら、実はもっと大事なテーマがあることに気付きました。若い頃って皆悩んでいるのだと思います。どうやって自分の夢を持てばいいのかとか、自分の夢をいつまで追い続けていいのかとか、安定のために自分の夢をあきらめなくちゃいけないのか、とか。この作品を書かれた時の野田さんも「演劇を続ければいいじゃない」と言ってくれていたお母さまを失い、自分が夢に対してどういう風に向き合えばいいのか、きっと悩んでいて、本当はそういうことが書きたかったんじゃないのかなって。実は、最後の方に少しそれを匂わせるような台詞がでてきたりするんです。そこがこの作品の大事なテーマだと思っています。そういうところを再演ではよりわかりやすく伝えられるようにしたいなと思います。前回の良かった点は、よりブラッシュアップして、あっという間の90分にしたいと思っています。」

 

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撮影:引地信彦(Nobuhiko Hikichi)

 

――この作品を残したいというのは、その大事なテーマも大きな要因なんですね。

毬谷「そうですね。10年前だったら、そこから10年間は上演できたかもしれませんが、私は今年を最後にしようと思っています。ただ、この作品が上演され続けることは誰よりも願っています。例えば、今回観に来た役者さんがやりたいとおっしゃるなら喜んで手助けしたいし、いつか演出としてかかわる時があれば挑戦したいとも思います。でも、役者・毬谷友子が『障子の国のティンカーベル』を演じるのはこれが最後。だから本当に再演できて良かったと思っています。」

 

――タイミング的にもギリギリの再演なんですね。

毬谷「去年の時点でもギリギリでしたが、あっという間にチケットがなくなってしまって、観たくても観られないお客様がいらっしゃったり、野田さんからも再演してほしいとメールをいただいたり、自分の中でもまだ諦めてはいけないという思いもあったので、最後に集大成をお見せしたいと思っています。観ようかどうか迷っている人がいるなら本当に観ていただきたいと思います。この作品の本当の面白さを知っておいて欲しい。そして役者を志している人にもぜひ観ていただきたいです。この作品、男性の役者さんでもできる作品だと思います。海外の役者さんにもやって欲しい。一人芝居を20年以上ずっと続けてきていますが、その経験全てを投入して作っているので、ぜひいろいろな方に観て欲しいなと思います。

 

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撮影:引地信彦(Nobuhiko Hikichi)

 

――最後にメッセージをお願いします。

毬谷「“夢の遊眠社世代”の人からすると、涙が出てしまう世界観があり、“NODA・MAP世代”の人からすると、野田さんがこんな戯曲を書いていたのかという驚きや新鮮さがあると思います。これからどうやって自分の人生を決めていこうか悩んでいる若い世代にとっては、同じように悩んでいた25歳の演劇青年・野田秀樹の生きるメッセージをもらえると思います。私、毬谷友子がこの作品を演じるのは今回が最後となります。是非、劇場までお越しください。」

 

――ありがとうございました。

 

 毬谷さんのこの作品への想い、特にこの作品を残していきたいという想いが強く伝わってきました。最後に、「毬谷さん、この作品、誰にやってもらいたいですか?」と聞いたら「中村兄弟。勘九郎さんと七之助さん!絶対面白いと思う!」と。確かに観たいかもしれない。

 追加公演のチケットは6月13日(土)発売です!この毬谷さんの想いを見届けにいきましょう!

 

 

取材・文/ローチケ演劇部(白)

 

【公演情報】
障子の国のティンカーベル
日程・会場:
2015/7/12[日]~20[月] 東京芸術劇場 シアターウエスト

★6/13[土]10:00より追加公演チケット発売開始!