『猟銃』 中谷美紀 インタビュー

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3人の女の愛憎を演じ分ける
井上靖原作の傑作舞台に再び挑む

 

 中谷美紀が初めて舞台に挑戦し、数々の演劇賞に輝いた伝説の舞台「猟銃」。文豪・井上 靖の恋愛小説をカナダ人演出家のフランソワ・ジラールが美しくも悲しい芸術に仕上げた今作が、5年の歳月を経て再演の時を迎える。

中谷「初舞台ではもちろん、そのときできる限りの力で演じたつもりでしたが、いま振り返ってみると、膨大なセリフと舞台に立ちつづけることで毎日精一杯でした。この5年でいくつかの舞台を経験し、様々な役者さんとご一緒するなかで多くのことを学ばせていただき、『猟銃』の完成度をもっと高めたいと思うようになりました。再演では日本語ひとつひとつの言葉に込められた思いを、もっとリアルにイメージして丁寧に演じたい」

 

 中谷がこの作品の台本を読んだのは、初演からさらに5年ほど前のこと。フランソワからオファーを受けたが、未経験だった「舞台」への挑戦を決心するのに時間が必要だった。しかし、実際に初舞台を踏んでみると「人生にとっての大きな収穫だった」と言い切れるほど大切な作品になったという。

中谷「舞台に上がる人間は、身体能力に優れていて、声楽やダンスの技術を身につけていなければならないと思い込んでいたんです。でもこの作品と出会って、〝限界〟は自らの心が定めているものなのだと気づかされました。限界を自分自身で作り出して、躊躇していたんですね」

 

 舞台上には、妻のみどり、愛人の彩子(さいこ)、愛人の娘・薔子(しょうこ)の3役を演じる中谷と、フィジカルアクターのロドリーグ・プロトーの2人だけ。ひとりの男の13年間にわたる不倫の恋が、3人の女性からの手紙によって明らかになる。

中谷「3人はまったく違う性質の女性ですが、それぞれが悲しさを背負っています。どの人物も私自身とは異なるし、同時にどの人物も自分のなかにいるような気がして。みどりは、一見〝ふしだらな有閑マダム〟に見えますが、実はとても悲しい仮面夫婦生活を長年続けており、心の空虚さを抱えて生きている人。愛人の彩子は3人のなかでいちばん悲しい人かもしれないですね。彼女の行動には共感しにくいかもしれないけど、実はどんな女性も同じように危うい部分を抱えている気がします。薔子は若さゆえの潔癖さが特徴。周囲のすべてに理想を掲げ、自分自身さえ清いものだと信じている時期ってありますよね。それゆえに、母と叔父との秘密の関係が許せないという苦しみが胸に迫ります」

 

 中谷は舞台に立ったまま、衣装を変えることで3人の女性を見事に演じ分ける。その姿は美しく、時に妖艶で、はかなくもあり――そのまなざしによって、次第に女性のなかにある「愛」と「憎」が浮き彫りになっていく。

中谷「人を愛するためには、まず自分自身を愛せなければなりません。自らを愛し、愛されている実感がなければ、相手に何かをしてあげることはできないと思うんです。この作品では、女として愛されたいと願う女性の美しさも醜さも恐ろしさも、すべてが描かれています。美しいセットと一緒に『猟銃』の世界を堪能していただけたらいいですね」

 

インタビュー・文/まつざきみわこ
撮影/伊藤彰紀(aosora)
構成/月刊ローソンチケット編集部 11月15日号より転載

ヘアメイク/下田英里 スタイリスト/岡部美穂

 

【プロフィール】

中谷美紀

■ナカタニ ミキ ’76年、東京都出身。確かな演技力と透明感のあるたたずまいで、映画やテレビドラマに数多く出演。初舞台の「猟銃」では、第46回紀伊國屋演劇賞個人賞。第19回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞した。

 

<公演概要>

PARCO PRODUCTION 「猟銃」

◆スタッフ
原作/井上靖 翻案/セルジュ・ラモット 日本語台本監修/鴨下信一
演出/フランソワ・ジラール 美術/フランソワ・セガン 衣裳/ルネ・アプリル
照明/デイヴィッド・フィン 音響/アレクサンダー・マクスウィーン
企画製作/株式会社パルコ USINEC

◆キャスト
中谷美紀 ロドリーグ・プロトー

◆公演日程
2016年4月2日(土)~4月24日(日) 東京・パルコ劇場
地方公演:2016年5月(予定)

☆プレリク抽選先行(東京公演):12/16(水)12:00~21(月)23:59

★詳しいチケット情報は下記のボタンにて!