舞台『イヌの日』 尾上寛之&松居大悟&玉置玲央 インタビュー

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2016年夏、松居大悟が次世代の演劇界を担う俳優陣と共に
阿佐ヶ谷スパイダースの名作『イヌの日』を甦らせる!

 

 「『イヌの日』は16年前に起こった新潟での少女監禁事件に着想を得て(長塚)圭史さんが書いた作品なんですけど、僕らが上演にこぎつけた今年も同様に世間があっと驚くような(千葉での)監禁事件が起きて…。ちょうど登場人物たちと同じアラサーになった僕らが『イヌの日』を作るということにも、運命めいたものを感じます。今やるべくしてやる感じ」と語るのは、演出&出演の松居大悟。

 小学校時代の同級生たちを15年もの間、防空壕に監禁する――というショッキングな設定が話題を呼んだ、長塚率いる阿佐ヶ谷スパイダース(以下阿佐スパ)の「イヌの日」。2000年に初演、2006年に再演されたその問題作を、劇団ゴジゲン主宰であり、「アフロ田中」(2012年)、「ワンダフルワールドエンド」(2015年)、「私たちのハァハァ」(2015年)などの映画やクリープハイプの一連のMVを手がけた気鋭の映像作家でもある松居がリメイクする。出演は、数々の松居作品に出演している実力派の尾上寛之、劇団・柿喰う客の看板俳優としておなじみの玉置玲央、女優・モデルとして高い人気を誇る青柳文子ら。同世代であり気心の知れた仲でもある松居、尾上、玉置の3人に、この作品について語ってもらった。

――16年前に上演された舞台を、なぜ今年リメイクすることにされたのかがまず気になるところなんですが…。

松居 福岡にいた高校生のときに観た阿佐スパの「ポルノ」(2002年)が衝撃的で。いろんな舞台を観てきたけど、阿佐スパほど殴り飛ばされるような体験はなかったんです。上京してからも「少女とガソリン」(2007年)だとかいろんな作品を観て「やっぱりスゴい!」と思ったんで、いつか阿佐スパの作品を演りたい、そしてやるなら、あらすじだけで衝撃を受けた「イヌの日」だって決めてました。初演はキャストの誰も観てないんじゃないかと思います、僕も観てないですし。でも伝えたいテーマがすごいわかるっていうか…“純粋すぎてちょっと間違っている”“でもこの人たちを否定はしたくない”だとか。運命めいたものを感じるって言いましたけど、他人の戯曲をやるのが4年ぶりくらいなんですよ。演劇がわからなくなって、距離を置きたくてここ近年はずっと映像をやってきたので、演劇で再スタートを切るのがこれっていうのも、僕にとってはすごく意味が強くて。だからこそ、1人では作りたくないなと思って、このメンツに声をかけたんです。

 

――キャストの方々はみんな、世代の近い方で固めたんですよね。

松居 同世代の人と作りたいっていうのは決めてて、最初にこの2人(尾上、玉置)に声をかけました。自分が信頼してる人たち、好きな人たちと一緒に、このテーマに向かって作っていくっていうのが楽しい作業になれば、きっと生まれる作品もいいものになるだろうなって思ったので。

 

――松居さんは尾上さん、玉置さんを“信頼できる、好きな人たち”と表現しましたが、逆にお二人から見た松居さんはどんな演出家ですか?

尾上 大悟は大人なんだけど、子供。子供なんだけど、大人っていうか。背伸びしすぎてなくて、でも成長してないわけじゃなく、子供の部分を残してて。だから今回この「イヌの日」をやりたいんだって聞かされたときに“ああ、大悟はこういうの絶対好きだろうな”って思ったんですよ。僕と同い年なのですが、同年代の中にはあんまりない感覚を持っているような気がするので。そこが魅力だと思います。

玉置 僕は実はまだ一緒に作品を作ったことがないんですよ、舞台も映像も。大悟の作品を観せてもらったりすると、キラキラしてるんですよね。彼自身もそうですし、作る作品が気取ってなくて、いろんなものがむき出しで、それがキラキラしてる。ゴジゲンの芝居なんかを観せてもらうと、俳優として「うわ、こんな芝居、自分もやりたい!」って思うんですよ。なんていうか、ときめくんですよね。それって結構、すごいことじゃないですか? …こんだけ言っときゃ、稽古で優しくしてもらえるよね?

 

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――(笑)。今回はそんな相思相愛な方々とのタッグになるわけですが。原作は初演と再演で少しストーリーや登場人物が違っていて、それをさらに2016年版の「イヌの日」としてリメイクする形になるそうですね。

松居 一応ルールがあって、圭史さんからは「松居の中でセリフを作らないでほしい」って言われているんです。なので初演の物語をベースに、再演の入れたいセリフや今回やりたい事などを圭史さんに提案して、今回のザ・スズナリver.の台本を作ってもらっているところです。ゴジゲンではみんなで雑談しながら一から作品を作っていくんですけど、これはガッチリとした脚本があって、それにどう立ち向かっていくかっていう作り方なんですよね。

尾上 「イヌの日」って、一筋縄ではいかない、とても難しいストーリーなんですよ。だから大悟はもちろん、参加する人全員が一ヶ月間本気で悩んでぶつかっていって、きっと落ち込んだりもするんじゃないかと思います。全員で難しいものにあたっていって、その壁を乗り越えたいです。

松居 だからこのメンバーにお願いしたっていうのもあるんです。上手いけどあんまり知らない役者さんにお願いして、俺の作ったイメージに合わせてキャストを誘導していくっていうのも方法もあったかもしれない。けど、そういうのは全然やりたくなくて。この「イヌの日」という強大なテーマに向かって、自分が先頭に立つというよりも、みんなが並列にああでもない、こうでもないって言い合いながらぶつかっていく感じにしたかったんです。あと、作りながら自分がちょっと弱音なんかも吐けるメンバーにしたっていうのもありますね。今回のメンバーになら「俺も正直わかんないとこがあるけど、きっとステキな景色が見えるはずだから頑張ろうよ」って言える。

 

――なるほど。今年は現実に千葉での監禁事件もありましたし、よりストーリーがリアルというか重く感じるんですが。

松居 それは出来事としてありましたけど、そこにとらわれてはないんですよ。ただ、台本を読み直していて気付いたんですけど、古くないんですよね。15年前に閉じ込めた同級生たちに「外は地獄なんだぞ。大気汚染で、ガスマスクしないともう歩けないんだよ」みたいな嘘をつくシーンがあるんですけど、今の時代ってある意味それが嘘とは言い切れない部分があるじゃないですか。初演のときとは作品の持つニュアンスが違ってるから、今やる意味がすごくあると思う。

玉置 3.11があったからとかじゃなくて、まったく関係ないとこからやろうと思ったんなら、それは運命だよね、もう。

 

――ストーリーに出てくる外の世界の表現が、映画の「マッドマックス 怒りのデス・ロード」的でもあるんですよね。

松居 「マッドマックス」も去年騒がれましたからね。あと僕らがちょうど30を越した今年に上演が決まったっていうことにも、意味を感じてます。最初にこの作品をやりたいって思った5年くらい前より、僕らが年齢的にも登場人物たちに追いついてきてるんですよ。

尾上 再演された10年前だと圭史さんも30くらいだから、その辺りもぴったり一緒だったりするんですよね。

 

――作品と少し話が離れますが、松居さんがMVや映画を手がけていたり、みなさんそれぞれ映像と舞台を股にかけて活躍されてるじゃないですか。その中で、舞台ってどういう場なんですか? 作品に向かうときの意識みたいなものも違うんでしょうか。

尾上 舞台は稽古ができるから周囲といろいろ話し合って臨めるけど、映像だと瞬発力が必要で、その場その場で求められていることを瞬時に察知してやっていくので、考え方の違いはあるかもしれないですね。どちらも気合いを入れるのは確かです。

松居 僕は、うーん…なんだか自分でもよくわからなくて(笑)。でも演劇は元々ベースとしてやっていることなので、やると自分の足場を確認できるというか。

玉置 前にゴジゲンを“自分の居場所を確認するための場所”だって言ってたよね。劇団って確かにそういうものなのかも、地に足が着く感じ、ホーム感というか。

松居 実家みたいなね。ここがあるから、俺はどこにでも出ていけるみたいな。映像のときに技術スタッフと打ち合わせして、芝居をつけて、撮って、それを人に見せる段階へ進めていくっていうプロセスは、舞台とあまり変わらないんですよ、物理的な作業はちょっと違うけど。舞台と映像でやろうとしてるテーマは別に変わってないけど、出し方が違うって感じですね。

玉置 僕は仕事の8割9割が舞台ですけど、ひろくん(尾上)と考え方は同じですね。映像の仕事は物理的な瞬発力が求められるけど、やってることは、少ない時間の中でだけど目の前の人とのやり取りであり、果ては撮ってる監督さんの期待や要望に応えることだし、そのさらに果てはそれをテレビの前の視聴者の方に届けることだし。映像と舞台では届ける先が視聴者の方なのか目の前にいるお客様なのかっていう違いはもちろんあるんですけど、僕個人としてやってることはあんまり変わらない。

尾上 映像っていったら、「真田丸」(NHK総合ほか)に出てるでしょ。

玉置 あれはね、超楽しかった~! 僕が織田信長の息子の信忠を演じてるんですけど、部下役の段田(安則)さんを従えて、敵軍役の温水(洋一)さんの首を切るっていうシーンがあったんですよ。“柿喰う客が夢の遊眠社を従え大人計画の首を切る”って、もうカオスだよね(笑)。

松居 演劇界の地図がぐしゃぐしゃになってる…。

 

――映像での下克上的な(笑)。さて、上演はまだ先ですが、みなさんで作る新しい「イヌの日」はどんなものになりそうでしょう?

尾上 上演時期が8月の、まさにDOG DAYS( =The Dog Star<天狼星>が太陽とともに出没する盛夏)になるんですけど。

松居 僕はとにかく、来る人をめちゃめちゃワクワクさせたいんですよ。僕が阿佐スパの作品に初めて触れたときみたいに、劇場に入った瞬間からワクワクして、ヤバいヤバいと思いながらも目が離せなくて、終わったあともテンション上がったまんまみたいな…すごい今、大学生みたいなこと言ってますけど。

玉置 いや、それ大事よ。

尾上 むしろ芝居作るのに、一番大事なことだと思う。

松居 シュッとしたものを作りたくないんですよ。アンダーグラウンド感のあるスズナリに入る、その入口の匂いからワクワクさせたくて…あそこの古めかしい階段を上がれば、サッカーで言ったらもうパスをもらってる状態なんで。この作品で、そのパスをシュートにつなげられたらと思います。

 

取材・文/古知屋ジュン

写真/関 信行

 

【プロフィール】

尾上寛之(写真左)
1985年7月16日生まれ。大阪府出身。『殺風景』、『ジャンヌ・ダルク』、『TOKYOHEAD~トウキョウヘッド~』、『残酷歌劇 ライチ☆光クラブ』などの舞台の他、NHK大河ドラマ『花燃ゆ』、テレ朝『イチから住』などに出演。出演映画『殿、利息でござる!』が公開中。

松居大悟(写真中)
1985年11月2日生まれ。福岡県出身。06年に劇団「ゴジゲン」を結成。全作品の作・演出を手掛ける。12年、『アフロ田中』で映画監督デビュー。15年、『ワンダフルワールドエンド』でベルリン国際映画祭出品。ミュージシャンのPVも手がける。16年冬、監督作『アズミ・ハルコは行方不明』が公開予定。

玉置玲央(写真右)
1985年3月22日生まれ。東京都出身。劇団「柿喰う客」の中心メンバーとして活躍。『赤鬼』、『SEMINAR-セミナー-』、『真田十勇士』、『飛龍伝』、『夢の劇 -ドリーム・プレイ-』など多数の舞台に出演する他、NHK連続テレビ小説『花子とアン』、WOWOW『ヒトリシズカ』、NHK大河ドラマ『真田丸』に出演するなど、活動の幅を広げている。

 

【公演情報】

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舞台『イヌの日』

日程:2016年8月10日(水)~8月21日(日)
会場:ザ・スズナリ(下北沢)

作:長塚圭史
演出:松居大悟

出演:尾上寛之、玉置玲央、青柳文子、大窪人衛、目次立樹、川村紗也、菊池明明、松居大悟、本折最強さとし、村上航

チケット一般発売:6月25日(土)

主催・企画製作:ゴーチ・ブラザーズ
公演に関する問い合わせ:ゴーチ・ブラザーズ TEL.03-6809-7125(平日10:00~18:00)

★詳しいチケット情報は下記ボタンにて!