従来の朗読劇のイメージを覆す舞台作りで、注目を集める藤沢文翁原作・脚本・演出の音楽朗読劇「VOICARION(ヴォイサリオン)」が、8月27日(土)から9月5日(月)まで日比谷シアタークリエで上演される。藤沢が書き下ろした新作2作の連続上演となる今回、声優・演劇界の超豪華キャストが結集!その中で「藤沢朗読劇」に初挑戦するのが、宝塚歌劇団元男役トップスターの水夏希だ。藤沢と水に本作にかける思いを聞いた。
豪華なセットと衣裳×生の音楽。
心をわし掴みにされる朗読劇最新作!
これが初タッグとなる2人。お互いに「一緒に仕事をするのが念願だった」と語る。
水 「私は初めて文翁さんの朗読劇『HYPNAGOGIA(ヒプナゴギア)』(2013)を観た時、「なんだこの世界は!」とものすごい衝撃を受けたんです。衣裳もセットも想像していた朗読劇のクオリティーを遥かに超えていて、もうテンションが上がりましたよね(笑)。物語がまた素晴らしくて泣かされて。さらに生演奏の音楽が絡み合って生まれる世界に、心をわし掴みにされたと同時に「自分もあの世界に入りたい!」と思いました。今回、憧れの文翁さんの作品に出演させていただけて本当にうれしいです」
藤沢 「僕も水さんの舞台は拝見していて、いつかご一緒したいと思っていました。だから念願が叶いましたよね。水さんがセットと衣裳のことをおっしゃいましたが、たとえばミュージカルだと衣裳が重すぎたら動けないとか、いろいろ規制がかかってしまうんですね。でも朗読劇なら見栄えだけに集中して作ることができる。それは朗読劇のメリットなので活かしたいと思うんです。今回は『レ・ミゼラブル』を手掛けている東宝舞台の衣裳部さんが、普段なかなかできないこともやれる!と張り切って下さっていて。水さんに何を着せようか?とかね(笑)」
水 「うれしいですね!演じるのは、メイドなんですけれど(笑)」
水が出演する『女王がいた客室』の舞台となるのは、20世紀初頭のパリのホテルだ。実はこのホテルの従業員たちは、ロマノフ王朝の生き残りの貴族でもあり……。
水 「私が演じるエレオノーラは売れない女優でもあって、今までやったことのない役だなあと」
藤沢 「宝塚のトップスターだった水さんとは、真逆ですよね。4人の登場人物の中で、エレオノーラだけが貴族ではない人で、いわば “未来を明るく照らすキャラクター”なんです。水さんは本質的に力強さがあると僕は思っていて。こうして隣で話していても、水さんの声からもそう感じますよね。だから何か相談したくなるような、水さんに“大丈夫!”って言ってもらえたら、“そうか!”と思える気がします(笑)」
水 「そうですか(笑)」
藤沢 「ええ、そういう声の魅力をお持ちの水さんに、ぜひエレオノーラを演じてもらいたかったんです」
水 「光栄です。実は私、宝塚時代は声から役作りしていたんです。この役は低くて太いほうがいいなと思ってみたりとか。役と声って密接ですよね」
藤沢 「そう思いますね」
ちなみに『女王がいた客室』の物語は、藤沢自身の体験がもとになっているという。
藤沢 「僕は学生時代をヨーロッパで過ごしまして、すると学友に貴族の子どもが普通にいたんですよ。没落貴族の末裔もいて、親しくなるにつれて彼らの中に消し去れない貴族的なものがあると気づいた。それがかっこ良くもあり、逆に今の時代に合わなくて生きにくいだろうなと感じた時に、これを書いたら面白そうだなと」
水 「私は台本を読んで、かつて貴族だった登場人物にものすごく共感しました。宝塚という夢の世界で生きていた自分と、現実にSuicaで電車に乗る自分にどこか重なるような……貴族とは違いますが、宝塚歌劇団にいた過去は消し去れないし、消したくない自分もいるので。その中で納得する生き方をしたいと思っているんですけれど。まずは、この朗読劇を楽しみたいです。共演者の方たちは、皆さん初めましてなんですよ」
藤沢 「山路和弘さんはアル・パチーノ、平田広明さんはジョニー・デップ(の吹き替え)ですし、竹下景子さんは「クイズダービー」の有名なクイズの女王ですから!」
水 「こんなふうに、文翁さんは時折ユーモアを入れてくるんですよね(笑)」
藤沢 「(笑)『女王がいた客室』は日替わりで演じる組が変わりますが、水さんの組は山路さんと平田さんは新劇出身で、竹下さんと4人、舞台役者さんのチームなんです」
水 「なるほど。皆さん素晴らしいキャリアをお持ちなので、プレッシャーは大きいですが、台本や役との向き合い方などいろいろ学びたいです」
あらためて、それぞれが思う朗読劇の魅力とは?
水 「私自身、藤沢朗読劇を拝見した時に、セットと音楽と声だけで映像が浮かびました。そんなふうに自由に想像を広げられるのが楽しいですよね」
藤沢 「僕が朗読劇を作る上で大切にしているのも、お客様に“行間”を想像していただくことなんです。その人が想像したものは誰にも奪えないからこそ、それを持って帰っていただきたいなと。セットや衣裳にこだわるのはそのためで、逆に不必要なものは削ぐ。ミロのヴィーナス像は、腕が欠けていますよね? だから見る人の頭の中で想像が膨らむ。美術用語で“トルソー”と言うんですが、僕は朗読劇も“トルソー”だと思うんです」
水 「すごく興味深いお話です。今回、その世界に初めて飛び込むので、ファンの方には新たな一面を見ていただきたいですし、この作品を通して、こんな女優がいたんだと自分のことを知ってもらえたらいいなと。踊ったり歌ったりしないので、両手を縛られた感じですが、だからこそ新たな自分を発見できる気がします」
藤沢 「楽しみにしています。僕は朗読劇も一つのパフォーミングアーツとしてとらえています。今でこそ、藤沢朗読劇と呼んでいただいて、自分のスタイルを知って観に来て下さる方が多いですが、最初は“朗読劇って読むだけでつまらないんでしょ?”とよく言われましたよね。でもそんなイメージでもいいので、まずは観に来て下さい、と」
水 「私のように、心をわし掴みにされるのは間違いないですから!」
藤沢 「本当に一度観てもらえれば、朗読劇の印象が変わるので。今回は、こんな豪華な顔ぶれ見たことない!というキャストが揃っているのも見どころだと思います。ぜひ生で体感していただきたいですね」
インタビュー・文/宇田夏苗
【公演情報】
クリエ プレミア音楽朗読劇『VOICARION』
日程:2016/8/27(土)~9/5(月)
会場:東京・シアタークリエ
★詳しいチケット情報は下記ボタンにて!